お嬢様の許可を取って外出する。向かう先は太陽の畑と呼ばれる花妖怪が住む土地だ。
地底の方も確認したいが、不可侵条約を破ってまで見る事はできない。
彼にはおそらく見破られているだろう。出かける際に、念能力の懐中時計を渡された。
5年間も彼を抑え込んでいた妖怪だ。失礼ながら、実力はお嬢様以上なのだろう。
それでも一眼見てみたいと思った。彼が母親と言った人物に。
着いてみれば、一面黄色い絨毯だった。紅魔館が紅一色に対して、こちらは黄色一色だ。
中へ進んでいく。どこを見ても向日葵が生茂っている。奥に一軒の家がある。そこへ歩いていると。中から人、いや妖怪が出てきた。
チェック柄の服に赤い日傘を指す女性。放つプレッシャーは八雲紫を彷彿とさせる。背中に冷汗が流れるのを感じた。
それでも確認したかった。シャーキャはああ言っていたが、相手側がどう考えてもいるかわからないのだ。霊夢なんてその典型例だ。彼女のあの執着心は警戒に値する。
だけどそれ以上に、彼が好評する女が気になって仕方なかった。これはきっと嫉妬心だ。10年ぶりにみた彼はとてもかっこよかった。旅人姿の彼の出立ちは、強者の貫禄があった。実際とても強い事は美鈴との手合わせを見ていたからわかる。本気の美鈴を小手先でのした時は驚いた。彼には注意したが、あの風貌なら武人や己の力に自信のある者が寄ってきてしまうだろう。だから早々に執事服を着せる事にした。実際、美鈴も彼を見て戦いを申し込んでいる。間違っても他の女が彼の強さに惚れ込んでしまうと困る。
「人間がまた懲りずにやってきたの?」
「貴女が風見幽香ですか.......」
態度は尊大。まあ予想通りだ。大妖怪で謙虚な者など稀だろう。
「随分と落ち着いた人間ね。ただ迷い込んだ訳ではないわね?.....ここに明確な目的があって忍び込んだ。そうでしょう?」
「ええ、今日は貴女に話を聞きたくてやって参りました。」
「人間に話すことなんて私にはないわ。」
そう言って、日傘を此方に向けてくる。
このまま戦闘になれば話どころではなくなるので、先にこちらから名乗る事にする。
「私は十六夜咲夜と申します。」
名乗れば、風見幽香はピタリと動きを止めて此方を観察してきた。
「お前があの十六夜咲夜か.........なら、着いて来て。」
プレッシャーがピタリとなくなる。どうやら即戦闘にはならないようだ。私は目の前の妖怪について行き、家の中に入る。
中は特に広い訳でも狭い訳でもない。よくある一軒家。紅魔館の様な豪邸ではない。
椅子に勧められて座る。
「お茶は紅茶がいいかしら?あの子も紅茶が好きだったからね。」
一応は歓迎されたようだ。
「ええ、お願いします。」
「あの子ほど上手に出来ないから期待はしないでね。」
何だか緊張してきた。最初に来た時は、風見幽香なる人物がどんな者なのか、確認するために来たけど、今は私が品定されているような感じがする。
「ふふ、そんなに睨まないで。別に彼を取ろうなんて思ってないわよ。」
「.............」
「それにしても、貴女が彼の一番のお気に入りね.............。成程、いい信頼関係だわ。」
紅茶が出される。
「で、何から知りたいかしら?もちろんあの子の事よね?」
「彼の事を.........貴女はどう思ってるのですか?」
「うふふ。そんなに心配しなくてもいいって言ってるのに信頼ないわねぇ。..........そうねぇ。今となっては親子って言うにが1番かしら。」
奇しくもシャーキャと同じ回答だった。
「彼を........どうにかしたいとかは無いのですか?」
「ふふ、口籠もっちゃって。意外とウブなのかしら。.........そんな事は考えてないわ。最初から今の彼と出会ってたら、どう思ったかはわからないけどね。初めは殺し合う仲だったから。その後は私の寂しさを慰めてくれた恩人かしら。」
「そうですか。」
「あからさまにホッとした表情をするなんて、随分わかりやすいわね。そんなにあれが好きなの?」
「そ、それは.......」
顔に熱がこもる。咄嗟に返事しようにも上手く言葉が浮かばない。
「ふふふ、そんな顔をさせるなんてあの子も罪作りな男ね。でも、貴女もわかってるでしょう?彼は実際、かなり優良物件だと言う事。あまり足踏みばかりしてたら、他の誰かに取られるかもしれないわね。例えば地底の女達とか。」
そうだ。彼の話を聞いて思ったのが、出会って世話になった人物がどれもこれも女ばっかりなのだ。その事に何も感じない訳も無く、今こうして出向いてしまってる訳だ。
「まあ、それは貴女の問題だからいいけど。........それより、あまり彼の足跡を嗅ぎ回る行為はやめた方がいいわよ。」
先程までのニコニコ顔から、真剣な表情になる風見幽香。
空気感が変わり、私も背筋を伸ばす。
「それは地底との不可侵条約と彼が八雲紫に露見する事ですか?」
「わかってるじゃない。
そうだろうか。私はお嬢様が手も足も出ずに、半殺しにされたのを知っている。
あれの逆鱗に触れようものなら、幻想郷では破滅しかないと思ってる。霊夢よりも八雲紫の方が余程、危険だと思う。いや、霊夢の「夢想天生」も凶悪だ。あれは弾幕ごっこだから時間制限があったが、実際の戦闘では霊夢の霊力が尽きるまで使えるだろう。そうなると、シャーキャの攻撃は通らずに一方的に攻撃されるだろう。霊夢の攻撃が彼のオーラの鎧を貫通できるかはわからないが、彼が不利な事に変わりないだろう。
「心配するなら、尚の事やめておいた方がいいわよ。」
「ええ、そうします。」
霊夢にも話を聞こうと考えたが、この状態では悪手にしかならないだろう。風見幽香について知れただけでも良しとしよう。
ただ、思った以上に彼の周りには危険が潜んでる事がわかった。彼はそれに気が付いているのだろうか?もしもの時は私が命を賭して護ろう。10年前、あのルーマニアの地で私を助けてくれたように、今度は私が彼に恩返しをするのだ。
それからは特に殺伐とした内容も無く、彼が5年間ここでどう過ごしていたか聞けた。初対面での剣呑な雰囲気も無く、最後には笑顔で見送られた。
母親。
彼がそう言った意味がなんとなくわかった気がした。