妹様の地下幽閉が解除された。
紅霧異変から1ヶ月後。俺の提案で妹様も博麗の巫女と弾幕ごっこができる環境を作れないか、パチュリー様に相談していた。
最近はお嬢様は博麗霊夢の事を大層気に入ったようで、連日博麗神社に入り浸ってるらしい。俺は基本的に妹様の相手をしてるので、そこのところは担当の咲夜が大変な目に合ってるそうだ。
で、パチュリー様のアイデアは、お嬢様が神社にいる時に魔法で夕立を降らせる事だそうだ。吸血鬼は流水に弱いらしく、お嬢様を博麗神社に閉じ込めておけるそうだ。それなら普段から、妹様が癇癪起こした時に手伝って欲しいものである。
吸血鬼にいつまでも居座られるのも、困るだろう博麗霊夢が紅魔館にやってきて、妹様と対面。弾幕ごっこをする運びとなった。
結果的に大成功である。妹様も幻想郷に受け入れられた。それだけなく、一緒にやってきた霧雨魔理沙が妹様の狂気を祓ったのだ。
これで俺が妹様の癇癪に付き合う事は無くなった。今では妹様と霧雨魔理沙がよく遊んでいる光景を目にする。
俺も魔理沙と顔を合わせた。挨拶代わりとして、弾幕ごっこしたがスペルカードが無い俺は単なる咲夜の下位互換でしか無く。呆気なくやられた。
『歯応えが全く無かったやつだぜ。』とは霧雨魔理沙の感想である。
まあ、弾幕ごっこじゃあ、俺は妖精以下だからな。
『よくそんなんで、フランの執事ができるな。普通なら死んでるぜ。相当運がいいんだな。』
『十六夜って名前だから、てっきりあのメイドみたいに時を止めれるのかと思ってたぜ。』
舐められまくってるが、一応妹様の執事だという事で認識された。
博麗霊夢とはまだ顔を合わせた事がない。俺が避けてるからだ。いつまでもこんな事をしている訳にはいかないが、念能力の露見は避けたいところだ。
それに対する周りの反応は色々だ。興味ない者。何故霊夢を避けるのか不思議がる者。好きにすればいいという者。
真相は語りにくい部分なので、今はこれで誤魔化すしかない。
そんな訳で妹様の狂気は無くなった。今は手加減を勉強中だ。俺は全身をオーラで防御しているので、そのオーラ量をコントロールして、妹様の力の制御を行なってる。
「魔理沙ー!弾幕ごっこしよう!!」
「いいぜ!今日も私が勝つぜ!」
図書館の上空で妹様と魔理沙が弾幕を打ち合っている。
それを見つめて頭を抱えるパチュリー様。魔法で本棚を護っているが、煩くて仕方ないのだろう。
「今度、フランは人里に出かけるのよね?」
現実逃避なのか、俺に声をかけてくるパチュリー様。
「ええ、だいぶ力をセーブできるようになりましたからね。今度、美鈴と一緒に出かけるようですね。妹様は大はしゃぎですよ。」
「貴方は着いていかないの?」
「はい、その間に妹様の部屋の掃除がありますからね。」
「そう。人間の貴方が一緒にいてくれた方が、人里でのトラブル時に対応しやすいと思うのだけど。」
「それはそうですが、上司がなかなか外出を許可してくれないんですよ。」
「..........成程ね。ホント焦ったいわね。」
そんな事を話していたら、俺の頭上に本が降ってきた。キャッチする。
かなり分厚いな。
デカイ魔導書だ。でも、これだけの質量が通常の人間に当たったら最悪死にかねない。
適当にパラパラめくる。
「あっ、」
パチュリー様が声を上げるが、既に遅く。白紙のページから魔法陣が浮かび上がる。
こんなの前にもあったな。
昔を懐かしみつつ、俺はオーラを当てて魔法陣をかき消した。いちいちモンスターの相手なんて面倒臭い事はしない。
光の粒子が舞う。
小悪魔が犯人だな。相変わらず、暇人な事で。
「ねぇ、貴方。暫く見ない内に更に規格外になったわね。」
パチュリー様が呆れ返っていた。
「よお!今回も私の勝ちだぜ!」
弾幕ごっこが終わったようだ。2人が降りてくる。
「違うよ!引き分けだもん!」
妹様が俺に駆け寄ってくる。
「ねぇ!シャーキャ!見ててくれた?」
「はい。とても美しい弾幕でしたよ。」
「えへへ、ありがとう。」
抱きついてきた妹様を抱っこする。
「お前どんな体してんだよ。フランに抱きつかれて、顔色一つ変えないなんて。」
「鍛えてるからな。」
まあ、本当は「纏」で守ってるだけだ。一切の防御無しでは結構痛い。肉体も鍛えてたつもりだけど、まだまだか。でも、かなり手加減は上達したように思う。
「そうだ。今度、妹様が美鈴と人里に行くんだが、魔理沙も一緒に着いて行ってくれないか?」
「もちろんいいぜ!フラン、私が案内するから任せろよ!」
「魔理沙も来てくれるの!ありがとう!」
本当に仲が良い2人だな。これで人間の魔理沙が同伴する条件は揃ったな。
チラリとパチュリー様を見れば、ジト目で睨まれた。どうやら雑すぎたらしい。
でも妹様も喜んでるので、許して欲しい。
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妹様は最近では、お嬢様の部屋で食事を取るようになった。
お嬢様も妹とのコミュニケーションが増えて嬉しいようだ。
姉といえば、パルスィは元気にしてるだろうか。
俺が彼女と別れてから5年。今もさとり達と仲良くしてくれてるといいのだが。
また迫害されてないか心配だ。
現状では俺が地底に行く事はかなわない。妖怪の山の中に地底との穴がある上に、見張りも多い。「絶」で気配を絶ってはいれても、距離が遠すぎる。日帰りは無理だ。長旅になる。だから、元気にしてる事を祈るしかないな。
「ねえ、お姉様。今日は魔理沙と弾幕ごっこで遊んだの!」
「ほう、魔理沙は強かったか?」
「うん!でも私が勝ったよ!」
話を捏造する妹様。まあ別に構わないか。
「そうか、流石は私の妹だな!」
「えへへ、ありがとう。今度、人里に行く時に魔理沙もついてくれるんだ!」
「そうか、くれぐれも暴れるんじゃないぞ。」
「わかってる!」
お嬢様の後ろに控えてる咲夜と目が合った。
アイコンタクトで俺にメッセージを伝えてくる。
『後で話があるから部屋に来て』
上司からの命令。此方も視線で了解の意思を示す。
さて、なんの話だろうか。
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当主と妹の食事が終わった後、俺は咲夜の部屋に来ていた。
「意外だと思ったわ。」
「何がだ?」
「貴方も人里に行ってみたいと言うのかと思ってたから。」
実は一度こっそり行ってる。お嬢様が博麗神社に遊びに行ってる間に俺も外出したのだ。
かなり古い街並みだった。ヨーロッパではなく、東洋の街並みだった。
本当はゆっくり見たかったが、人里は八雲紫が注視している可能性があるのですぐに去った。
一応、目星として稗田阿求なる人物に会いたいとは考えているが、難しそうだ。あそこには妖怪などの記録が残されている「幻想郷縁起」と言う資料がある。
その資料を見れば、八雲紫だけでなくその他の有力者や実力者を調べる事ができるだろう。
だがそんな人物を八雲紫がマークしていない訳がない。
「妹様の部屋を片付けしないといけないからな。」
「嘘ね。それだけじゃないでしょう?昔の貴方なら絶対に着いて行ってたわ。」
「根拠は?」
「本当は貴方、八雲紫の目に留まる事を避けてるわね。霊夢にも頑なに会おうとしない。」
「別に今じゃなくても、いつでも会えるだろ。」
「幻想郷の守護者なんて、ビッグネームを貴方がスルーするとは思えないけど。......まあ、貴方が言い訳を重ねようとも、幽香さんから話を聞いたから知ってるんだけど。」
「おい、知ってたんなら、カマをかけるような事する必要ないだろ。」
「そうね。でも、貴方が何を考えているか大体わかったわ。だから、八雲紫について話そうと思ったの。」
幽香の名前を出したから、いつかはバレると思ったがすぐに確認したか。外出時に懐中時計を渡していて正解だったな。初対面の人間には厳しい幽香が咲夜を攻撃する可能性があったからな。
この1ヶ月の間での
「八雲紫に見つかり、戦闘にでもなれば、紅魔館が人質に取られる可能性が高い。それを危惧した貴方は、私達に黙って、また去ろうと考えている。........と言うのが、私の推理だけど合ってるかしら?.....ついでに言うと、最近大人しくしている事で、紅魔館での貴方の動きを注視する者も減らそうとも考えているって事かしら。」
「.....................」
「沈黙は肯定ととるわよ。」
「お前、実はさとり妖怪とかじゃないだろうな?」
「残念ながら人間だわ。」
こいつとは10年前に2ヶ月程度、再会して1ヶ月の付き合いでしかないんだぞ。なんでここまで行動が読まれるんだよ。パルスィや幽香の方が過ごした時間は遥かに長いってのに。
「はいはい、降参。わかったから、八雲紫について教えてくれよ。」
「そうね。.......人物像は胡散臭いわね。」
いきなり、ぶっ込んできたな。相手にするのが面倒臭いぞ。
「頭もよく働くわ。戦略を練ると言う観点で見れば、パチュリー様よりも遥かに上よ。」
パチュリー様とは戦った事は無いが、一筋縄ではいかない事は知っている。それ以上となると本当に厄介だな。
「能力は『境界を操る程度の能力』よ。」
ふむ。どんな能力だろうか。
「『境界』と名のつくものならなんでも操れるわ。空間の境界を操り、裂け目を作って、別の空間に繋げる亜空間の妖術『スキマ』が代表的な技ね。」
あの空間移動するやつか。
「物理的だけじゃなくて、概念的な境界も操れるから、昼と夜を逆転させたりもできる。お嬢様はこれでやられたわ。」
とんでもないチート野郎だな。誰が勝てるんだそんな奴。
「今のを聞いてわかると思うけど、対策も防御法も一切存在しない、神に匹敵する力よ。」
聞けば聞くほど、勝ち目が無いように感じるんだが。尚更咲夜達を巻き込む訳にはいかないな。
「問題はそれだけじゃないわ。」
「まだあるのか?」
正直勘弁してほしい。
「八雲紫が使役している式神よ。」
「ようは手下だな。」
「そうよ。名前は八雲藍。九尾の妖狐よ。」
「九尾の狐ってあの伝説のやつか。」
「そう。最強の妖獣。つまり、吸血鬼であるお嬢様と種族的に同等よ。でもお嬢様と違って、成熟しきってる。つまり、能力はお嬢様よりも上だわ。頭脳はパチュリー様並ね。」
頭が痛い。お嬢様よりも強く、パチュリー様並の頭脳。そんな妖怪を使役するのは、パチュリー様以上の頭脳に、神にも匹敵する力を持つ妖怪。
それが俺の仮想敵。非常にまずい。
そして何よりまずいのが、咲夜からこの情報を聞いた事だ。それは咲夜が八雲紫の実態を把握し、俺の行動も読んでしまっている。つまり、そこから導き出される咲夜の行動は.......
「貴方が1人で戦うのなら、私も連れて行って。」
.........1番、俺にとって良くない提案が出る事だ。
だが、ここで俺がゴネても咲夜は引かないだろう。喧嘩をしている場合ではないのだ。
かといって、そんな奴と戦うのに、咲夜を連れて行く訳にはいかない。
「駄目だ。それを聞いたら尚更、その最強と戦ってみたい。誰にも邪魔はさせない。」
俺は口角を上げて宣言する。
「そんな見え見えの嘘には引っかからないわ。昔の貴方ならそう言ったと思うわ。でも、私は知ってる。10年前、命懸けで私を護ってくれた事を。また、貴方は同じ事をやろうとしている。だったら、あの時の恩返しをさせて。」
強い目で此方を見つめてくる。
これ絶対に引かないよな。
俺は少しだけオーラを呼ばして忠告する
「それでも駄目だ。俺1人で戦いたい。」
睨みつければ、オーラに当てられた咲夜はガクガクと震え出す。それでも目に涙を溜めながら睨み返してくる。
「............絶対に嫌。」
「あーもう、わかったよ。」
オーラを引っ込める。
結局俺が折れた。
クソッ。これなら幽香のところを離れて先に八雲紫と落とし所を見つけた上で帰ってくるべきだったな。
あの時は、紅魔館で異変が起こっていたから、心配して駆けつけてしまったが、今思えば迂闊だった。まさか八雲紫がここまでヤバイとは想定以上だ。
「もちろん、事が起こった時はお嬢様とパチュリー様にもご助力願うつもりだから安心して。」
最高戦力ではある。だがそれでも話を聞いた限り、希望的観測で五分五分の戦いだ。
とりあえず、それを聞いた上で八雲紫対策を練るか。結局、相手の強さにビビってたって仕方ない。生き残る為に頭を働かせるしかないのだから。