鋼の心   作:モン太

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覚醒

彼から渡されたマフラーを巻く。色は蒼色だ。普段私が身につけている色と同じだ。偶然か意図的か。後者なら嬉しいな。

 

そんな事を考えながら、上空を飛ぶ。大穴が見えた。

 

今回、お嬢様の代役として任された。失敗は許されない。確実に異変を解決しなくてはいけない。

 

それにこんなところで失敗していては、シャーキャにも認めてもらえない。半年前に八雲紫について、彼に話した。あの時の彼の顔は10年前のルーマニアでの闘争を思い出させる顔だった。きっとまた1人で私を護ろうとする。半ば無理矢理彼を頷かせて、同伴する様に言ったが。きっと、彼は私の力を認めてくれていない。だから、この異変で力を認めさせなければならない。安心して背中を任せてもらえるようになる為に。

 

中に入ると魔理沙が二刀流の剣士と戦っていた。

 

一眼見て強いと思った。遠距離は弾幕、近距離は斬撃。隙が無い。魔理沙の弾幕も切り裂かれて通じない。機動力も剣士の足が速い為にアドバンテージを活かせていない。

 

「交代よ、魔理沙。先に行きなさい。」

 

「咲夜!へっ、まあ見とけよ。これから目にモノを見せてやるからよ!」

 

「強がりはいいから。貴方は主犯をお願い。」

 

魔理沙ならこう言えば、譲るだろう。

 

「そうか、ボスの方が面白そうだもんな!」

 

そう言うと魔理沙は箒に乗って飛ぼうとする。

 

彼女を見ていると、昔のシャーキャを見ている気分になる。

 

最近よく紅魔館にやってくる彼女が、彼と仲良さげに話しているのを見ると、胸に何かが痞える気分になる。魔理沙は妹様とパチュリー様が目当てで来ているのは理解しているが、それでも頭ではなく心が拒否感を覚えるのだ。

 

それは彼と魔理沙が本質的なところで似ているからだろう。

 

つまるところ嫉妬だ。わかっている。これは私が一方的に感じてるコンプレックス。それに今は仕事中だ。私情は抜きで全うしよう。

 

箒に乗って飛ぶ魔理沙を剣士が弾幕を放って、阻止しようとする。

 

それを投げナイフで全て迎撃する。

 

「くそっ!また刺客が幽々子様の所に!……..お前は確実に斬ってやる!」

 

「貴女にできるかしらね。半人前さん。」

 

「デカイ口を叩けるのも今のうちだ!」

 

ナイフを投擲。敵も弾幕で応戦。

 

気を取られている隙に走って接近。

 

今回、こいつを能力もスペルカードも無しで倒す。

 

相手に失礼なのは承知。だけど、シャーキャが見据えているものはこれとは比べ物にならない相手。こんな奴相手に能力やスペルを使っている様じゃダメだ。

 

相手は二刀流。得物は剣。取り回しは此方が有利。なら手数で押し切る。

 

横凪に一閃。相手は屈んで避ける。

 

今度は敵が横凪に一閃。両手のナイフで受ける。

 

だが重さで押される。

 

「グッ!」

 

力で勝負してもやはり勝てそうに無い。武器の重さの違いもあるし、剣を片手で振れる腕力もある。

 

「もう一本ある事を忘れてないか!」

 

もう一本剣が振り抜かれる。

 

飛んで回避する。追撃で弾幕が飛んでくる。最小限、自分に当たる物だけを投げナイフで対応する。

 

再び接近する。

 

「血迷ったか!接近戦ではどちらが長があるかわからないのか!」

 

寧ろ逆だ。弾幕戦では千日手。スペルカードを使わないなら寧ろ不利。自身が課した縛りなら寧ろ接近戦で斬り合いで活路を見出さなければならない。

 

右側から横薙。屈んで回避し、左手の剣で刺突がくる。両手のナイフをクロスしてガード。歯を食いしばって衝撃を殺す。左側から斜めに下す軌道で剣が振られる。

 

剣が到達する前にガラ空きの右脇腹に左足で蹴りを叩き込む。

 

「ガハッ!」

 

そう。何も両手しかないわけではない。ナイフと言う取り回しの良さを活かせばいい。

 

「どちらに長があるって?」

 

敵は口から流れる血を拭う。

 

「魂魄妖夢だ。名前は?」

 

「十六夜咲夜よ、立ちなさい。どちらが上か立場をわからせてあげる。」

 

今度は相手が接近する。

 

随分と簡単に挑発に乗ったわね。

 

彼女の側にいた半霊が彼女を象る。

 

妹様の分身みたいなものかしら。手数で負けてるなら、それを上回ればいいと考えた訳ね。合理的だわ。

 

でもね、貴女。太刀筋は鋭いけど、実戦経験が無いわね。

 

「うおおおおおお!」

 

「……………..」

 

攻撃は苛烈さを増す。防戦一方になるが、決定打を妖夢は入れる事ができない。

 

ナイフを弾かれるが、慌てる事なくもう一本取り出す。

 

勝ちを確信した妖夢が同様する。

 

戦闘経験の差が如実に現れていた。

 

予想外の出来事に簡単に同様する。せっかく2体1の状況でもそれを活かしきれていない。

 

私が常に本体に張り付きつつ、分身と本体の間に自身を配置しているからである。

 

挟み撃ちの状況。恰好の好機。なのに分身は踏み込みが浅い。

 

わかってるのだ。もし太刀筋を誤れば、分身の攻撃で本体が負傷する事を。

 

その恐怖に太刀筋が鈍る。

 

「六道剣『一念無量劫』!!!」

 

痺れを切らした妖夢がスペルカードを発動した。

 

妖夢を囲む様に斬撃が走り、放射状に弾幕が放たれる。

 

やはりスペルカードは美しい。だけど、私も負けてあげるつもりはない。

 

あえて更に懐に入る。それは剣の間合いでは対応できない間合い。

 

至近距離の眉間を狙った投げナイフなどを混ぜて、精神を削っていく。

 

そして、妖夢が大振りの斬撃を放つ前に首筋にナイフを当てた。

 

「まだやる?」

 

「……….私の負けだ。」

 

スペックだけなら、私をも倒せる程の逸材。だけど、戦闘経験の差により私は勝利を掴めた。

 

いや、感想は後でいくらでもできる。今は異変解決を急ごう。

 

私はすぐに飛んで先を急ぐ。そして階段の上には大きな屋敷。奥には大きな桜。八分咲きといったところか。

 

あの桜は何か不気味なものを感じる。10年前にピエロ姿の念能力者と似たような不吉なものを感じる。直感でわかった。異変はこの桜の所為だと。

 

上空では異変の主犯が霊夢と魔理沙を相手取っていた。

 

ここまでくれば異変解決まで目前だ。それを物語るかのように、両者の弾幕は苛烈さを極めている。霊夢の御札が幽々子に殺到すれば、それを相殺すべく蝶型弾幕が華麗に羽ばたき霊力弾を掻き消していく。

 

「あー、遅かったか!」

 

妖夢が後を追ってきた。2体1の状況に顔を顰めている。だが、その目はすでに弾幕勝負に惹かれている。かく言う私もその美しさに言葉を失っていた。

 

「……やっぱり、博麗の巫女は強いな。だけど、幽々子様が最後は勝つ!絶対に勝つ!」

 

妖夢が主人に向かって大声で応援している。

 

ゾクッ、

 

突如、悪寒が走る。

 

この感覚を知っている。私がよく知っている少年が放つ威圧感。だけど、少年のものよりも遥かに邪悪で死の気配を漂わせるそれは、例の桜の木から感じた。

 

「妖夢、あのさk」

 

だが、次の瞬間。桜の木が触手のように伸び、異変の主犯を絡め取る。同時に黒死蝶の弾幕が無差別に四方八方と放たれる。

 

「ーー!!」

 

霊夢も魔理沙も目を見開く。全員が慌てて回避行動をする。

 

「なんなんだぜ!?これは!?」

 

「私が知ってる訳ないでしょう!?」

 

私も忌避しながら、ナイフを投げるが黒死蝶に当たると砕けてしまう。どうやらあの黒死蝶そのものが妹様と同じような能力がある。つまり防御できない。躱すしかない。

 

「なら!これならどう!?『夢想封印』!!!」

 

霊夢が桜本体に弾幕を放つ。

 

だが、桜の枝が密集して弾幕を防御する。

 

「本当にふざけた桜ね!」

 

「どうするんだよ!これはもうスペカのレベルを超えてるだろ!?」

 

「五月蝿いわね!なんとかするから黙ってなさい!」

 

だがこの状況で大人しくできない者が1人いる。

 

「幽々子様あああああぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

主人を捕らえれた妖夢が叫びながら、桜に突っ込む。

 

無謀だ。あれに向かって走っていくなんて、被弾した瞬間に絶命してしまう弾幕の雨なのだ。だが、それで止まらない事はお嬢様の僕である私にはわかる。

 

だから、彼女が気が付いていない死角から弾幕に私だけは気がつけた。

 

時間を止めて走る。すぐに妖夢に追いつく。彼女の服の襟を掴む。そして時間を動かす。

 

「退きなさい!!」

 

「!!」

 

怒鳴りながら後ろ引っ張って、弾幕を躱させる。

 

だが、その一連の動作は私自身が弾幕を回避できなる事と引き換えの自殺行為だった。

 

視界の端で黒死蝶が見えた。次の瞬間、黒死蝶に体を貫かれた。

 

口と腹から血が噴き出す。そのまま全身の力が抜ける。

 

喰らったからわかる。これは物理的攻撃よりも概念的な攻撃。被弾した者に死を与える能力だ。

 

だが、すぐに意識が薄れる。どうする事もできない。

 

「咲夜!!」

 

霊夢と魔理沙の叫び声が聞こえる。

 

後ろには目を見開いた妖夢が尻餅を付いている。

 

瞼が重い。

 

「ごめなさい、シャーキャ。」

 

私は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚める。

 

「え?」

 

私は立ち上がる。後ろ見れば妖夢が驚いた表情で見ていた。

 

上空では変わらず、霊夢と魔理沙が黒死蝶を避けながら、桜に向かって弾幕を放っていた。

 

意識を失ってから、時間は殆ど経ってない。精々数秒といったところか。

 

「大丈夫なの?」

 

妖夢が聞いてくる。

 

わからない。だけど、お腹に空いた穴は塞がっている。

 

立ち上がった私に気が付いたのか、再び黒死蝶が飛んでくる。

 

「わからないけど、今はなんとかしましょう。貴女の主人も助けないといけないでしょう?」

 

「ごめんなさい、私のせいで…」

 

「それは後でいいわよ。いくわよ。」

 

「咲夜無事なの!?」

 

「ええ、心配かけたわね。」

 

霊夢達も気がつき、声をかけてくれる。

 

先程と同じように黒死蝶を捌く。妖夢も頭が冷えた為、無謀な突貫はしない。

 

妖怪桜と格闘しながら、私は違和感を感じていた。

 

とても身体の調子がいいのだ。

 

身体が軽い。投げるナイフのキレもいい。能力の行使時間も伸びてる。

 

何より私の体から湯気のように立ち上る白い光。

 

「これって………」

 

昔にパチュリー様のメガネで見た、シャーキャのオーラと同じ物だったはず。

 

自身の身体から出るオーラに気を取られている間に黒死蝶が殺到していた。

 

「くっ!」

 

ナイフを構える。

 

今の私のナイフなら、黒死蝶を相殺出来るかもしれない。

 

ナイフを投げようとした時、目の前にシャーキャが現れた。

 

「危ない!!」

 

思わず叫ぶ。彼の目と鼻の先に死の弾幕が迫っていた。

 

だが、彼は黒死蝶には目もくれずに私の全身と赤い腹に視線が向かっていた。

 

聖なる盾(アブソリュートインターセプト)

 

次の瞬間、黒死蝶が彼を中心に四方に飛び散った。

 

彼が桜の木に身体を向ける。彼の全身から凄まじい量のオーラが噴き出す。

 

凄い。これが一流の念能力者のオーラ。そして……………凄まじい怒気。表情が見えないけど、彼が怒ってる事は何となくわかる。

 

オーラに反応したのか、桜から放たれる黒死蝶の弾幕密度が濃くなる。それはまるで機関銃のようだ。

 

「樹木風情が調子に乗るなよ。」

 

弾幕を増やしても、全て弾かれる。

 

気が付けば、黒死蝶に青いオーラが彼の体にも青いオーラ。私や霊夢達にも青いオーラが付いていていた。

 

色付きのオーラは初めて見る。どういう効果があるんだろう。

 

「お返しだ。」

 

妖怪桜に赤いオーラが纏われて、弾かれて空中に漂っていた全ての黒死蝶が殺到する。妖怪桜は枝を無数に伸ばして、全身を包んで防御した。

 

しかし、ただの弾幕ならいざしらず、それは死を与える黒死蝶。防いだ枝が先端からボロボロと崩れていく。

 

だが、死が全身に広がる前に自ら枝を切り落とす。

 

「へえ、器用な事するじゃねぇか。でもな、足元がお留守だぜ。」

 

彼がナイフを10本投げる。そのナイフは私の目には、ギリギリ視認できるかどうかというレベルの速度を持っていた。一瞬で到達したナイフは、これまた信じられない破壊力で、女性に絡み付いていた枝を悉く破壊した。

 

「覚えたての『纏』で俺のオーラを防げる訳ねーだろ。」

 

彼が右手を翳す。囚われていた女性にも赤いオーラが纏われ、一瞬で彼の腕の中に収まっていた。

 

妖怪桜が枝を伸ばして、もう一度女性を取り戻そうとする。

 

彼のオーラが左手に集まるのがわかった。そして、そのまま伸びてきた枝に叩きつける。それだけで、太い枝が粉々に砕け散った。

 

「ちょっとは大人しくしろよ。」

 

妖怪桜の地面に青いオーラが広がり、妖怪桜自身に纏わり付いている赤いオーラの二つが光り輝く。

 

ミシミシミシ、ベキベキベキ。

 

すると、樹木全体に強力な負荷がかかったかのように悲鳴をあげる。

 

そのまま過重力をかけられたように枝が垂れ下がり、花びらが剥がされていく。

 

終幕(パレード)

 

やがて、全ての花弁が落ち、薄気味悪く輝いていた光も落ち着き沈黙した。

 

「「「「……………………」」」」

 

誰もが言葉を失っていた。

 

コツコツと静まり返った場をシャーキャが歩く。

 

彼は妖夢の所に行くと、腕に抱えてた異変の主犯を地面に寝かす。彼女は妖怪桜に捕らえられた時から意識を失っていた。

 

「アンタの主人だろ?後はよろしく。」

 

「……………ッは、はい!」

 

我に返った妖夢が主犯の女性に駆け寄る。

 

今度は私の所にやってきた。

 

「………シャーキャ。」

 

「許せ。」

 

短くそう言った瞬間、私の意識が途切れた。

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