鋼の心   作:モン太

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説教

音速で飛行し、10分で冥界に着いた。

 

決定的だ。ここに入った瞬間、とても殺意の篭もった(濃い)オーラを感じる。

 

急がなければ!

 

階段に足をかけた瞬間

 

記憶の懐中時計(リバースタイマー)が解除された事を感知した。

 

「ーーーーーーーー!!」

 

戦慄が走り、頭が真っ白になる。

 

強制的な記憶の懐中時計(リバースタイマー)解除(使用)は咲夜が死んで蘇生された事を意味する。

 

だが、逡巡は一瞬。すぐに磁力の弾丸(リニアバレット)で駆ける。

 

ショックを受けてる場合じゃない。一度蘇生されたって事は今は生きてる!

 

だが、ここで立ち止まっていてはまた死んでしまう!

 

咲夜!無事で居てくれ!

 

一瞬で咲夜の元に辿り着く。

 

彼女の至近距離で黒死蝶の弾幕が迫っていた。

 

何とか間に合った!

 

「円」で感じるこの弾幕。とても禍々しいオーラを纏っている。触れるのは危険。

 

即座に磁力の反発を利用して弾幕を逸らす。

 

そして、咲夜の無事を確認して内心安堵する。

 

彼女の腹に服に穴が空いていた。その周りが赤くなっている。そして胸元も真っ赤に染まっている。

 

弾幕が彼女を貫通して血を吐いて絶命したか。それに…………

 

彼女身体からオーラが噴き出していた。

 

精孔が開いている。原因は記憶の懐中時計(リバースタイマー)か。彼女には何度も使っていた。精孔が開いてしまうのもおかしくはない。

 

だが、状況は良くない。まずはあの桜を黙らせる。

 

そして即座に桜を黙らせた。

 

そのまま咲夜に近付き、首に手刀を当てて気絶させた。

 

あのままオーラを出していれば、疲労困憊になる。最悪死にかねない。

 

何とか「纏」を覚えさせないといけないが、この環境では無理だ。

 

俺は意識を失った咲夜を抱える。

 

すぐに紅魔館へ連れ帰らなければ。

 

「お、おい。シャーキャ」

 

立ち去ろうとすれば、上空から降りてきた魔理沙に声をかけられる。

 

「悪い、今は時間がない。後にしてくれないか?」

 

「で、でもよ」

 

「今、俺は気が立ってるんだ。お前でも殺すぞ。」

 

「…………….」

 

「練」で威嚇すれば魔理沙は震えて黙った。

 

俺はすぐに磁力の弾丸(リニアバレット)で離脱した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

10分で紅魔館に着いた。美鈴が何か言っていたが、聞いていなかった。

 

すぐに彼女を部屋のベッドに寝かせる。

 

「ふう………」

 

そこで初めて俺の左手が震えていた事に気がつく。

 

「チッ」

 

右手で押さえつける。

 

自覚してはいるが、かなり動揺しているな。

 

震えを抑え込み、右手を目元に当てる。

 

一度冷静になるべきだ。

 

お嬢様への報告もしなければならない。結果を一番に知りたがっているだろう。だが咲夜はまだ命の危機に瀕していると言ってもいい。それにパチュリー様に礼も言わないと……..クソッ、考えがまとまらない。

 

コンコン

 

「ーー!」

 

ノック音で我に返る。

 

扉を開ける。小悪魔がいた。

 

「パチュリー様か?」

 

彼女には途中で抜け出した謝罪をしないといけない。

 

「いいえ、レミリア様です。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「失礼します。」

 

お嬢様の部屋に入る。

 

お嬢様は椅子に腰掛けてはおらず、窓から月を眺めていた。

 

此方に振り向いてくる

 

「結果はどうだった………て、貴方の顔を見れば良くない事だけはわかるわね。」

 

「………………」

 

「別に報告はいいわ。さっき小悪魔を通してパチェから映像を見せて貰ったわ。…………貴方達の働きには大いに満足してるわ。特に異変の最期を全て掻っ攫って行った貴方も、魔理沙の見せ場を奪った咲夜にもね。」

 

情報を知ってるなら、今更何が目的で呼び出したのか?

 

「不思議そうね。ただ貴方と話したかっただけよ。」

 

「そうですか。それなら先にパチュリー様に挨拶してからで構いませんか?」

 

「ふふ、必死ね。本当はそれも後回しでいいでしょう?1秒でも咲夜から目を離したくないという心配もわかるわ。今は小悪魔が側にいる。咲夜が目覚めれば連絡があるわ。」

 

「わかりました。」

 

「こうして事務的じゃない話をするのは初めてね。まあ、私が意図的にそうしてたのだけど。貴方は私の事、本当は嫌いでしょう?」

 

「何故そう思うのです?」

 

「私の目から見て、貴方は自分の思うように自由に生きていたいって考えだと思うの。旅人だったのものね。幻想郷に来てからも自発的か外的要因かの違いはあれど、本質は変わらないわ。そんな貴方を縛り付けている私。それが自分よりも弱いやつに従わされている。貴方にとってこれ程の屈辱はないでしょうね。」

 

「別にお嬢様は弱くはありませんよ。最強の吸血鬼でしょう。」

 

「無理に持ち上げなくてもいいわよ。パチェの映像で見たわ、今の貴方の力。最近大人しかったから良くわからなかったけど、霊夢、魔理沙、咲夜、それから異変を起こした主犯の従者と4人で囲んでも防戦一方だった西行妖にたった3分程度で半殺しにした。間違いなく、今の私が貴方に挑んでも手も足も出ないだろう。………..そんな貴方が従者に甘んじているのは、咲夜がいるからね。」

 

「………………」

 

「そんなに睨まないでくれないかしら。じゃあ、話題を変えようか。『運命を操る程度の能力』について。」

 

「直接聞くのは初めてですね。その無敵で凶悪そうな能力名は前から気になってました。」

 

「名前程、万能では無いわよ。あやふやな未来視と少しの未来改変よ。」

 

「どの程度の事が可能なのですか?」

 

「未来改変は見えた未来に対して、不都合があった場合。それを変えようと全力で抗って、3割程度の改変ができれば上々と言った程度ね。3割っていうのは達成率でもあるし、成功率でもあるわ。無論確立だから完璧な改変もできた事もあるし、大失敗もあるわ。失敗の方が遥かに多いわ。だから、3割と初めから割り切っているの。」

 

「なるほど、そうすれば落胆も少なくて済む訳ですね。」

 

「未来視は特に日時があやふやだわ。見えた未来が1秒後なのか100年後のことなのか、見えた未来の状況から推察するしかない。」

 

「でも、それでも先を知っているアドバンテージは大きいと思いますが。」

 

「そうでも無いわ。抗いようが無い未来も見えるわ。そんな絶望が見える事もあるわ。……ただ、それでも霧雨魔理沙がフランの狂気を祓ってくれる事を見た。だから、幻想郷(ここ)に来た。」

 

「しかし、それでは俺が紅魔館に呼ばれた理由が良くわかりませんが。」

 

「身も蓋もない言い方をするなら、魔理沙が狂気を祓ってはくれるけど、間に合わない事も見えた。それを何とかする為の繋ぎ。貴方は魔理沙がくるまでの『時間稼ぎ』よ。」

 

「心当たりがありますね。お嬢様が異変を起こした後に博麗神社に行っている間。妹様に再会した際の妹様はかなり()()でしたね。」

 

「きっとあの瞬間を凌ぐ為の回答が貴方なのよ。」

 

「ならば、俺は不要という事ですね。」

 

「そうね。貴方の役目は終わったわ。でもそれは私の能力が導き出した回答だけど、私個人としては前にも言ったわ。勝手に執事を辞めるなんて許さないと。」

 

「つまり解雇する気は無いと。」

 

「貴方も辞める気は無いだろう。まあ、そんな訳で能力で貴方が帰ってくる事も知ってたわ。勿論、今も私が落ち着いられるのは咲夜が助かる事も()()()()からよ。」

 

「なら安心ですね。」

 

「表情は全くそんな事思ってないって言ってるわよ。全く私の言葉を全然信じてくれないところは似てるわね。咲夜にもね、シャーキャは帰ってくるって言っても信じてくれなかったわ。」

 

「お嬢様はもう少し、威厳が必要かと思いますね。」

 

「舐めた口利いてるんじゃないわよ。………でも、意外だったわ。本当に戻ってくるとは私も半信半疑だったからね。何せ10年よ。妖怪の私にとって1ヶ月留守にした程度にしか感じないけど、人間にとっては10年の時間は誰かを忘れるには十分よ。」

 

「確かに太陽の畑から出た時には俺の事なんて忘れているだろうと思ってましたね。」

 

「昔ね、咲夜に説教した事があるの。貴方と咲夜が喧嘩して、仲直りさせる為に2人で出かけさせた時のことだわ。」

 

あの時か。今思えば、あの頃から俺は自分の考えを少しずつ変えたように思う。

 

強いか弱いか。それしか価値の判断の基準がなく、敵の命を絶つ事に拘っていた考え方から。

 

「貴方達はよく明け透けな物言いで喧嘩してるけど、本当に肝心な事は口に出して言わない。相手が全て察してくれるなんて幻想だと叱った事があるわ。」

 

それは俺にも言えた事だと言いたいのだろう。実際その通りだと思う。

 

「アレは………咲夜はお前の事を好いているぞ。お前が横に居たから、自己評価が低く、本人は気が付いていないが。」

 

「………………」

 

「そして頭がよく回るお前はそれに気付いていながら、見て見ぬふりをしている。………貴方達は昔から大人びていたわね。距離感を測るのが上手いけど、どちらも踏み込まない。物心がついた頃から大人だった貴方達は、お互いが臆病で相手を傷付けない距離感を取る事に長けてる。…………でもそんな事は唯の言い訳よ。」

 

そう言うとお嬢様は俺に近付き眼を覗き込んでくる。

 

「お前はただ恐れているだけ。咲夜と決定的な関係になれば、お前は咲夜の命に責任を持たなければならない。咲夜だけじゃない。お前自身の命に重みができてしまう。今までは好き勝手に自分の命を秤にかけてきたけど、それができなくなる。攻めてばかりだったお前の人生は、否応にも守りの人生になる。 ……………昔この部屋でフランの事を教えた時のお前の顔は、私の事を心底嘲笑っていたけれど、今のお前を10年前のお前が見ればどう思うのかしら?」

 

ドスッ

 

「!!」

 

「ガハッ」

 

俺の手刀がお嬢様の小さな体の胸を貫いた。

 

無意識だった。咄嗟にに引き抜こうとすればお嬢様に腕を掴まれた。

 

口から血を吐きながらも顔には嘲笑の笑みが浮かんでいた。

 

「ククク、全て図星かしら。でもそれが貴方の答えでしょう?」

 

お嬢様の嘲笑の笑みが、優しい目付きに変わる。

 

「でもそれも言い訳よ。ねぇ、シャーキャ。お前は男だろう?なら先に腹を見せて(リードして)あげなさいよ。………腰抜けにあげる程、咲夜は安くないわよ。」

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