鋼の心   作:モン太

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本当の想い

一旦自室に帰り、血で汚れた服を着替える。お嬢様の傷は瞬時に塞がっていた。流石の回復力。お嬢様の服は今妖精メイドが着替えさせている。

 

一旦パチュリー様のところにも顔を出さないといけないな。小悪魔が咲夜を見ているなら、すぐに連絡がパチュリー様のところに行く筈だ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ちょっと!咲夜は大丈夫なの!?」

 

大図書館に来るとパチュリー様が焦った声をかけてきた。

 

それだけで事情を察した。

 

お嬢様は未来視で咲夜の無事を知っているが、パチュリー様視点では俺が咲夜を気絶させたせいで、遠見の魔法の映像が消えた訳だ。

 

「今は眠っています。小悪魔が見てくれています。」

 

「それで、こあが帰って来ないのね。」

 

俺はパチュリー様に勧められて椅子に座る。

 

「遠見の魔法ありがとうございました。お陰で危機に気付けました。また、勝手に抜け出して申し訳ありませんでした。」

 

「もういいわよ。…….途中は本当に焦ったけど。…………それよりも聞きたい事があるの。」

 

「………どうぞ。」

 

「さっき、貴方が現れる前に一度映像が途切れたの。黒死蝶が被弾した瞬間よ。………あれはまさか………」

 

「ええ、その読みで合ってますよ。死んでます。」

 

「やっぱり………。でも、そのあとに映像が戻ったって事は生き返ったって事よね。」

 

「そうです。察し通りです。」

 

俺はナイフを取り出して机に置く。

 

「シャーキャ……?」

 

「パチュリー様なら、すでに俺の能力の一端を考察されているでしょう。故に詮索したいお気持ちは理解できます。ですが、それ故に等価交換の条件も自然とそういう()事になる事を理解してください。」

 

俺は「練」でオーラを飛ばして忠告する。

 

そう、この蘇生すら可能な記憶の懐中時計(リバースタイマー)はメリットもデメリットも知られる訳にはいかない。文字通りの生命線。

 

その蘇生能力を聞き出すという事は、等価交換の法則に当て嵌めると聞き出す者の命が必要になる。

 

「わ、わかったから、その物騒な物とオーラを引っ込めて。」

 

「失礼しました。」

 

俺はナイフを仕舞う。

 

それとほぼ同時に小悪魔から連絡が来た。

 

「シャーキャ。咲夜が起きたそうよ。」

 

「わかりました。様子を見てきます。」

 

「あまり、気を張りすぎないようにね。お互い、相手の事になると無理をし過ぎるのは良くないわよ。」

 

「わかりました。」

 

「はあ〜。」

 

パチュリー様の溜息を聞きながら、俺は大図書館をあとにした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

コンコン

 

「はーい!」

 

中から小悪魔の声が聞こえた後に扉が開く。

 

「あ、おかえりなさい。咲夜さんが起きましたよ。」

 

「ああ、パチュリー様から聞いた。看病ありがとう。」

 

「はうあっ!………も、もう一度言って貰っていいですか?」

 

「ふざけてる場合じゃないんだ。もういいよ。」

 

「もうちょっと相手してくださいよー」

 

小悪魔を外に出して、俺は中に入る。

 

中では咲夜がベッドから体を起こしていた。

 

「体調はどうだ?」

 

「特にこれと言って悪い所は無いわ。………ただ、どうして気を失ってしまったのかわからないけど。」

 

「それは、俺が咄嗟にお前の首に衝撃を与えて気絶させたからだ。すまなかった。」

 

「そうなのね。」

 

「………怒らないのか?」

 

「どうして怒る必要があるの?貴方が私の事を想ってやってくれた事なんでしょう?」

 

「………まあ、異変の事とか西行妖とか色々聞きたい事はあるだろうけど、これからまずやらないといけない事がある。」

 

「……もしかして、このオーラの事?」

 

「ああ。やっぱり気がつくよな。今のお前は精孔が開いている状態だ。つまり念能力に目覚めたって訳だ。」

 

「……そう。シャーキャと同じなのね。」

 

「何を嬉しそうにしてるんだ。そんな呑気な話じゃ無いぞ。」

 

そう言うとすぐに咲夜は表情を引き締めた。

 

「昔に言ったが、オーラは生命エネルギー。わかると思うが、今咲夜の身体から湧き出るように出ているそれは無限じゃ無い。つまりそのまま出し続ければ、全身疲労で立てなくなるし、最悪は命を落とす事になる。」

 

特にパニックになる訳でも無く俺の話を聞いている。大した精神力だ。

 

「それで?何とかする方法があるんでしょう?」

 

「ああ、今この場で『纏』という技術をマスターしてもらう。」

 

「纏?」

 

「『纏』とはオーラを自身の周囲に留める技術。これにより肉体は頑強になり、若さを保つと言われている。」

 

「それでこのオーラの流出を止めるのね。」

 

「その通り。じゃあ始めるぞ。……眼を閉じて、体の力を抜く。自身の肉体を自然に任せるかの如く、オーラに身を委ねる。それは次第に自身の血流のように全身を巡る静かな流れとなる。……人それぞれオーラが流れる感覚は異なるが、『纏』は基本的に自然体で身体の力を抜くという点は同じだ。」

 

そう説明している間にも咲夜のオーラは安定していた。

 

「見事だ。……眼を開けてみろ。」

 

「……これが『纏』」

 

「そうだ。これでひとまずオーラ切れの心配は無くなったな。」

 

そう、ひとまずの心配事はなくなった。

 

そう思うと途端に体の力が抜ける。

 

ストンと咲夜のベッドに腰掛ける。

 

「シャーキャ?」

 

「…………よかった。死ななくて。」

 

ほっとしたからか、また体が震え出した。

 

「どうやら俺は、どうしようもなく身勝手な人間らしい。」

 

「……………………」

 

「散々お前が心配して、護ってくれようとした手を払い除けておきながら、お前が死ぬ事が酷く怖いらしい。」

 

「お前に死なれると、まるで独りぼっちになった気分になる。散々、好き勝手に10年も放浪していた癖に。お前がこんな気持ちだったって事が今更になってわかった気になっている。………それでも、こんな事を言う資格は無いけど、それでも君には死んで欲しくない。他の何に代えても失いたくないんだ。君を護らせて欲しい。」

 

涙が溢れてくる。こんな事、16年間生きてきて初めての事だ。

 

心の中でいつも自分は人で無しだと思っていた。いつも自分だけが楽しむ事を考えて、他者を蹂躙する事に躊躇いがない。そんな人でなし。

 

そんな俺でも涙が出る事に驚いた。

 

それはきっと彼女が俺に心というものを教えてくれたからか。

 

すると背中から暖かい感触に包まれた。

 

「大丈夫、私はここにいるわ。今回もあの懐中時計に救われたんでしょ?」

 

「それも一回だけだ。俺が来た時には、また死にかけてた。」

 

「でも大丈夫だったわ。」

 

「何でそんな軽く言い切れるんだよ。」

 

「貴方が護ってくれるからよ。」

 

「…………」

 

「逆に聞くけど、どうして貴方はそんな想いをしてまで紅魔館に帰ってきたの?10年の月日が流れて、今更帰って来なくても皆仕方ないと思うわよ。それでも、貴方が涙を流してもここに帰ってきたのは何で?」

 

「それは……」

 

それは何度も聞かれた言葉。お嬢様にもパチュリー様にも聞かれた事だ。そして咲夜にも何度か聞かれた事がある。

 

その度に助けるのは当たり前だとか、何となくとかで適当に返してた。

 

でも本当はわかってた事。

 

もう逃げられない。

 

すでに咲夜の精孔は開いてしまった。俺もあの異変のど真ん中で暴れた。確実に八雲紫の目に留まっただろう。おそらく念能力も感知されただろう。俺だけじゃなく、咲夜も標的になっている可能性がある。

 

眼を逸らして後回しにはもうできない。覚悟を決めないといけないのだ。

 

そうだ腹を括ろう。

 

「お前が居たから、俺は帰ろうと思った。時間の問題じゃ無いんだ。仮に20年、30年経ったって帰れるなら帰ろうとしたと思う。だって、俺はお前を、君を愛してるから。」

 

言ってしまった。もう後戻りできない。先の見えない未来に足を踏み込んでしまった。俺の分析なんか軽く超えてくるような展開がこの先待っている。それに巻き込んで仕舞う台詞を俺は吐いてしまった。

 

自然と涙は止まっていた。

 

「ごめん。お前の前ではカッコ良く居たかったのに。こんな無様な姿を見せて申し訳ない。」

 

「私は別に無様だとは思わないわ。今まで強い貴方しか見せてくれなかったけど、泣き顔を見せてくれるくらいには、私にも預けてくれる様になったって事だしね。………それにしても、愛してるなのね。そこは普通、好きから始まるんじゃないの?」

 

「さあ、俺は恋ってのがよくわからないんだ。一目惚れって訳でも無いし。何かきっかけがあった訳でも無い。だけど、気が付いたら俺の中で優先順位が一番に来てたんだ。」

 

「そうなのね。私は11年前に命懸けで救ってくれた時から、心に決めてたのよ。」

 

「ハハッ、何だそりゃ。その時って言ったら、お前がまだ7歳だろ?人生を決めるには早すぎるぞ。」

 

「ふふ、でもそれは貴方も同じでしょう?」

 

「否定できないな。」

 

「ねぇ、シャーキャ。」

 

呼ばれて振り返る。

 

目と鼻の先に彼女の泣き笑いの顔があった。

 

「何だ。お前も泣いてたのかよ。」

 

思わず笑ってしまう。

 

「うるさいわね。お互い様でしょう。…………でも、ありがとう。私も貴方を愛してる。」

 

そうして、お互いの顔をくっつけた。

 

唇に柔らかい感触を感じる。5秒程で顔が離れた。

 

「何だか、キスって塩辛いのね。」

 

「それは涙の味だろ。」

 

「……あら、ムードの無い事を言うのね。」

 

「お前から振ってきたんだろ。」

 

「ふん、カッコつけても顔が赤いわよ。」

 

「それもお互い様だろ。」

 

久しぶりにお互い軽口を言い合ったが、悪い気分じゃ無い。お互い軽くテンパってるんだろう。昔のようなやり取りが、お互いの余裕の無さを表していた。

 

「ねぇ、私達。恋と愛の順番が逆になったかもしれないけど、今からでも恋していきましょう。」

 

「恋って、やるぞって息巻いてするものなのか?」

 

「なんでもいいのよ。」

 

「何か今日のお前、馬鹿っぽいぞ。」

 

「そう言う貴方も久しぶりに生意気な口調ね。もう一回、どちらが年上かわからせてあげましょうか?」

 

結局、途中までのムードも何処へやら。昔のように口喧嘩しながら、チェスで戦いボコボコにされた。

 

それでも、胸につっかえていた重さはなくなっていた。

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