鋼の心   作:モン太

58 / 68
管理者

異変は西行妖を再度封印する事で収束した。その後に幻想郷の管理人であり、裏で私の成長を促していたと曰う八雲紫なる妖怪と弾幕ごっこで叩き潰した。

 

博麗の巫女である私を裏で操ろうなど、許されざる行為だ。

 

それから、異変終了後の宴会も行われ、恙無く終わった。

 

しかし、雪が無くなり、晴れやかな空と対照的に私の心には暗い影が落とされていた。

 

異変の終盤。あの妖怪桜の暴走を止めた少年。霊力や妖力の類は感じなかった。だけど、彼が放つプレッシャーは妖怪桜と同等の物があった。

 

どうにもあの十六夜咲夜の関係者らしいが、得体が知れない。それに魔理沙が叫んでいた名前に聞き覚えがあった。

 

シャーキャ

 

11年前に私に黒歴史を叩き着けてきた人間。約1年前にも異変でメイドの口から出た名前だ。おそらく、十中八九彼が十六夜シャーキャだ。

 

自分なりに過去にケジメが着いたと思っていたが、いざその存在の所在がわかれば、落ち着いていられなくなる。

 

一瞬とはいえ、異変に関わったのだ。たとえ弾幕ごっこをしていなくても、宴会に出席するはず。その場で弾幕ごっこで負かす事で過去に精算をつけようと考えた。

 

だけど、その少年は宴会に現れなかった。

 

踏ん反り返る吸血鬼とそのお付きのメイドはやってきたが、あの執事服を着た少年はいなかった。

 

嫌々ながらも一番彼の事を知ってるであろう吸血鬼に話を聞こうとすれば、散々に煽られた。

 

曰く、見せ場を持って行かれた気分はどうだ?と。

 

徳利を投げつけてやった。側のメイドに阻止されたが。

 

だが、機嫌がいいのかその口はよく回っていた。

 

10年間外で遊んでいたらしい。前の異変の終わり際に帰ってきたようだ。それからは妹専属の執事をやってるらしい。通りで見かけない訳だ。このチンチクリンはよく神社に来るが、妹の方は一度しか会った事がない。ただ、その時に彼が居なかったのは何故か?

 

聞けば、あの時はむしろ妹が率先して私達に会いたがってたので、誰も邪魔はさせないようにしていたとか。言われてみれば、赤い館に到着した時に、魔法使いに案内されたぐらいだった。

 

そして、魔理沙が知っていた理由はよく魔法使いと妹の所に遊びに行くからだろう。

 

ダメ元でメイドにも聞いてみた。こいつは前の異変の時からずっと、牽制し合っていた。だから、話しかけても無視されるだろう。

 

だが、意外にも話を聞いてくれた。内容はレミリアと同じだったが。咲夜がピリピリしていた理由もわかった。

 

10年間放蕩していた執事を捜索中だった事。私が何かしら面識があった事で手がかりが見つかったと思ったかららしい。今はもう帰ってきたから、牽制してこなかったようだ。

 

だけど結局のところ、約10年間何処かで出歩いていた事と妹吸血鬼の執事程度のことしかわからなかった。能力等を聞いても馬鹿力がある程度しかわからなかった。

 

次に腐れ縁の魔理沙に聞いてみたが、こちらは難しい顔をしながら、わからないと答えた。

 

曰く、一度弾幕ごっこをしたが、霊力や魔力がないからか、スペルカードを一つも持っていないらしく、メイドのようにナイフを投げてくる事しか出来ず、随分と弱かったらしい。なのにあの異変で見せた力がわからないと頭を悩ませていた。

 

確かに霊力や魔力の類は感じなかった。なのに放つプレッシャーは凄まじく、目に見えない念動力のような力を行使していた。それに、そもそも吸血鬼の側近になれる人間が普通だとは思えない。あの十六夜咲夜がそうだ。

 

ならば此方から出向いて叩き潰すかとも考えたが、3日に一回のペースで開かれる宴会でとてもじゃないが身動きが取れない。

 

そんな時だ。偶々宴会の席で胡散臭いスキマ妖怪と2人きりになった時に思わぬ提案がなされた。

 

「ねぇ、随分と気にしてる人がいるのね?」

 

「アンタには関係ないでしょ。そこで黙って飲んでなさいよ。」

 

「やだわ。つれない事を言わないで。私にも関係のある話なのに。」

 

このスキマ妖怪とあいつに接点なんてあるのか?それとも10年間何処にいたかわからないと言っていたのは、こいつと何かあったのか?

 

もしかしたら、手がかりがわかるかも知れない好機か?

 

私は食いついた。

 

「アンタ面識でもあるの?」

 

「直接は無いわ。でもねぇ、幻想郷の管理者として見過ごせない事を知ったわ。」

 

胡散臭い笑みから、声色が剣呑な物に変わった。

 

「彼、地底から出てきたらしいのよ。」

 

「はあ?そんな訳ないじゃない。地上と地底は不可侵条約があるじゃない。」

 

「だから、それを2度も破ってるのよ。」

 

「2度も!?」

 

「ええ、11年前に吸血鬼の所に居たって事は不可侵を破って地底に入って、不可侵を破って地上に来たって事だわ。………この不可侵は今までずっと守られてきた物だわ。この事が公になれば、最悪地上と地底で戦争になりかねない。1人の軽率な行動で幻想郷が破壊される事は見過ごせないわ。だから、これはお願いでもなく、幻想郷の管理者と幻想郷の守護者としての仕事の話。十六夜シャーキャの粛正よ。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

春がやってきた幻想郷。異変が解決しても私の中でできたシコリに悩まされる。

 

私の友人にパチュリーという魔法使いとフランという吸血鬼がいる。以前はよく遊びに行くし、人里の案内もした事がある。

 

その館にいる執事の事だ。フランのお付きのだが、一度戦ってみてあまりの弱さによくフランのお付きを許されたものだと思っていた。

 

あの時の彼は此方を見下して手を抜いて様子もなかった。相手をしている分に全力だったのは間違い無いはず。

 

だけど、よくよく考えてみればフランのタックルを生身で受け止めれる人間などいない。確かに男というのもあって、力は強いのかもしれないが、所詮は人間。それに体格は普通。ガタイが特別良い訳でもない。

 

そんなに気になるなら、本人に聞けばいいと思うのだが、宴会続きで紅魔館に行けてない。

 

いや、それは言い訳だろう。本当は怖いのだ、彼の事が。あの異変で私に向けてきた殺意に未だに怯えてる。それだけの事。

 

その事実が悔しくて、言い訳をしてるだけだ。

 

霊夢も彼が気になるのか、周りに聞き回っていた。私の所にも聞きにきたが、よくよく考えてみればフランやパチュリーは兎も角、シャーキャとは殆ど絡んでいなかった。何もわからないのと一緒だ。

 

スキマ妖怪やその従者も宴会の席で情報収集しているようだ。

 

それはそれとして、私は出逢いには恵まれている方で、新たに友人ができた。魔法使いの人形師のアリスだ。彼女もパチュリーに似た研究者気質だ。ただ、フットワークは軽いようでその点はパチュリーと反対だ。今度パチュリーに紹介してやろう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

今年こそは桜の開花が観れると楽しみにしてたのだけど、結局見れなくて残念だわ。

 

妖夢にも悪いことしちゃったし。折角協力してくれたのだけど、巫女さんに阻止されちゃったわ。途中で記憶が無くなったのだけど、あの桜が暴走したみたいで私の力を吸い付くそうとしたみたい。それを紫と周りにいた人達で助けてくれたみたい。

 

だから、こうしてお詫びと感謝の意味を込めて宴会に参加している。3日おきに宴会があるけど、料理も美味しいから毎日でもいいわね。

 

「幽々子、楽しんでる?」

 

「あら、紫。もちろんだわ。こんなに美味しい料理とお酒が食べれて生きてて良かったわ。」

 

「何を言ってるのかしら。貴女死んでるでしょう?」

 

「あら、そうだったわ。じゃあ成仏しないように気をつけないとね。」

 

「貴女は呑気で羨ましいわね。」

 

「紫は難しい事を考えすぎなのよ。でも、お陰で私は助かった訳だし感謝してるわ。」

 

「なら、感謝続きで今度は私のお手伝いをしてくれるかしら?」

 

「うふふ、今度は貴女が異変を起こすの?」

 

「異変では無いわ。ただ、幻想郷の管理者としての仕事に手伝いが必要なの。」

 

「そうなの。紫の頼みならいいわよ。」

 

「ありがとう、幽々子。」

 

この友人は全てを自分1人で抱え込んでしまう悪癖がある。折角優秀な従者がいるのにも関わらず。

 

だから、声をかけてくれたのなら手伝おう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

100年以上前の忌々しい記憶。幻想郷を作り出す前の話だ。

 

世界各地へ有力な妖怪や人間と接触を図っていた頃、1人の人間と戦闘になった。

 

何度か命を落とすような経験はあった。産まれたばかりの頃などはそうだ。よく敗走したものだ。自身の能力をうまく扱う事もできなかった。それでも逃げ延び力を磨いた。既にこの世で自身を倒せる者など、月の住人以外にはいないと確信していた。

 

だけど、殺されかけた。信じられない速度で攻撃してくる観音。あらゆる攻撃を感知され、払い除けられた。戦闘というにはあまりにも一方的に倒された。スキマを使って何とか逃げ果せたが、あの人間とはもう会わないようにしている。既に100年経っているので死んでるだろうが。

 

だが、力以上に危険なのはその冷徹なまでの合理的思考。妖怪のように力を誇示するために暴れる訳では無い。無論、対魔師も合理的思考の元で妖怪を滅する。だが、対魔師は妖怪がいなければ存在意義がない。つまり自己保存の本能が働く。そして、妖怪が猛威を振るう事で人間は妖怪を畏れる。畏れは妖怪を強くするし、その妖怪を倒す事で対魔師も信仰を得られる。つまり、暗黙での持ちつ持たれつの関係だ。

 

それが念能力者にはない。どこまでも自分達だけで完結する彼らにとって、妖怪はただただ邪魔な存在でしかない。だから、どこまでも冷徹に合理的思考で戦ってくる。また、その合理的思考は幻想を薄め、妖怪の存在が保てなくなる遠因にもなっている。

 

だから、妖怪達の楽園を作った。合理が入らない事で妖怪の衰退を抑える事に成功した。

 

その私の楽園に一匹の虫が入り込んだのだ。到底許せるものではない。だが、何処から来たのかわからない。聞いてみれば、11年前の吸血鬼異変の時に従者として入り込んでいた。

 

だが、すぐに姿を眩ませてしまったようだ。10年も所在が掴めない事自体、異常だ。管理人である私が居場所を掴めない場所など限られている。

 

だが、確証はない。とりあえずは入り込んだのだ害虫は即駆除するべきだろう。だけど、あの実力はいただけない。西行妖を封殺できる実力は厄介だ。負けるとは思わないが、確実に殺せるように準備は必要だろう。幸い既知の萃香が宴会をして妖怪を集めてくれている。根回しは容易だ。準備ができ次第袋叩きすれば終わる。

 

そして、今目の前で私の従者に捕らえれた鴉天狗。こいつも飄々とした態度とは裏腹に1000年を生きる猛者だ。

 

「い、いや〜これはこれは。幻想郷の賢者、八雲紫さんじゃありませんか〜。」

 

「盗撮とは褒められた趣味じゃありませんよ。」

 

「いえいえ〜、これは取材ですよ。幻想郷の有力者が集まる宴会はトクダネが沢山ありますかね。」

 

「へぇ、じゃあそのカメラの中を見せてくれないかしら?」

 

「ええ!駄目ですよ!言論の自由は保障されるべきです!」

 

「そう?じゃあ、見逃す代わりに手伝って欲しい事があるのだけど。」

 

「と、言いますと?」

 

こうしてまた新たな協力者を引き入れた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告