鋼の心   作:モン太

59 / 68
覚悟

約3ヶ月の間、3日おきに宴会が開かれていた。よく飽きもせずに出れるもんだ。お嬢様は全部出席していた。逆に妹様は宴会には興味無いようで一回も出席しなかった。また、最近はお嬢様が妹様に舐められているようで、あいつ呼ばわりされている。まあ、2人の問題なので好きにさせている。どんなにキツく当たっても妹に甘いお嬢様は許してしまうからだ。

 

そんな宴会騒ぎも終了した。

 

これも小さな異変だったみたいで、とある小鬼が人妖を集めていたようだ。最後は人間組の霊夢、魔理沙、咲夜とその小鬼が戦い宴会は終了した。

 

小鬼の名前に聞き覚えがあった。伊吹萃香という。確か勇儀が6年前に言ってた鬼の四天王の1人だと言って筈だ。

 

今度機会があれば挨拶しておくか。一応勇儀からはよろしくと伝えておいてくれと頼まれているからな。

 

今は厨房で紅魔館幹部勢、3人分の食事を作っていた。

 

「貴方も一度は来たら良かったじゃない。」

 

「妹様1人にさせる訳にもいかないだろ。」

 

「でも、私達ばかり楽しんで、貴方がずっと留守番ってのも………」

 

「まあ、もう終わった事だから、いいよ。それに仕事量はお前の方が多いんだし、羽伸ばしには丁度良かっただろ。」

 

咲夜は時間を止めれるので、館の仕事の割合が誰よりも多くなる。それに普段から空間も広げているので尚更だ。

 

「それでもよ………」

 

「どうしたんだ?」

 

「………………」

 

プイっとそっぽを向く咲夜。

 

「はあ〜。」

 

咲夜の頭を撫でてやる。

 

こういう時は大体構って欲しいってサインだ。

 

「もう!子供扱いしないでよ!」

 

そうするとすぐに頬を赤くして、此方にバッと振り返ってくる。その隙におでこに軽くキスする。

 

これで黙ってくれるだろう。

 

「……………………」

 

「まあ、今度機会があればちゃんとお前の弾幕ごっこを見てやるからさ。今は許してくれ。」

 

「……………………」

 

そのまま暫く、咲夜は赤い顔をしながら無言でフライパンを煽っていた。次第に表情も笑顔になっていったので、機嫌も治ったようだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

食事が終わり、自室に帰った。適当にシャワーを浴びて髪を拭く。今日はこれで終わりかとシャワールームを出た。

 

すぐに机の上にある手紙が目に入った。

 

表紙には「果し状」と書かれていた。

 

中を開く。

 

『明日の明朝、寅の時刻に霧の湖に来られたし。ーー伊吹萃香』

 

寅の時刻ーー午前3時ごろか。

 

遂に来たというべきか。宴会が終わって直後、直接面識のない俺に興味を持ったのは何故か?

 

勇儀曰く、伊吹萃香は地底に殆ど帰ってこないという。なら宴会の最後で人間と戦った際に最後の人間、つまり俺の事を聞いてこれを渡してきたか。

 

だが、どうやってこれを俺の部屋まで運んで来たのかが問題だ。美鈴が何も言っていない事から正面ではなく、侵入したと考えるべき。また、鬼の性格上、卑怯な事を嫌う筈だから、尚更正面から渡しにくる筈なのだ。

 

不可解な果し状。俺の違和感からくる答えの正体。

 

「裏に八雲紫がいる。」

 

これは伊吹萃香の果し状ではなく、八雲紫からの処刑宣告と見るべきだ。

 

八雲紫の能力なら、誰にも気付かれずに部屋に置き手紙をする事など容易だろう。

 

俺の能力を暴く事が目的なのか?それとも伊吹萃香こそが、俺と相性の良い能力者なのか。

 

だが、鬼は接近戦が好みのはず。ならば能力の確認が目的で本命は別にあると見るべきか。

 

考えても仕方ない。これ以上はわからないからだ。だが、この果し状が咲夜の元にも届いていないか気になる。一度確認する必要があるな。

 

咲夜はまだ「練」が使えない。その為、念能力者特有の威圧感は感じないはず。だから気が付かれていないはず。だが念には念を入れるべきだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

コンコン

 

紅茶を2人分用意して部屋の扉をノックする。

 

「俺だ、シャーキャだ。」

 

ガチャ

 

扉が開けられる。中からはいつもの蒼い目と銀髪が覗いてきた。髪が濡れているのがわかった。

 

「すまん。取り込み中だったか?出直すわ。」

 

おそらくシャワーを浴び終わったばかりだろう。

 

「いいわよ、貴方なら別に。せっかく用意してくれた紅茶が冷めてしまう前に中に入って。」

 

そうして案内される。

 

咲夜に勘づかれないように部屋を見渡す。

 

特に不自然な点は見当たらない。置き手紙らしき物も無い。隠していなければだが。

 

咲夜にも変化は見当たらない。あの様子なら本当に何も無かったと見ていいか。

 

ついでに「円」でも確認するが、特に変わった物はない。

 

杞憂だったかと内心ほっとする。

 

どうやら八雲紫に咲夜が念に目覚めた事がバレた訳では無いようだ。

 

安堵して、心に余裕が出てきて改めて咲夜を見て驚く。

 

「おい、いくらなんでも薄着すぎるだろ。」

 

「あら、今更リアクション?最初にスルーされた時は少し悲しかったわ。」

 

彼女は薄手の寝巻き一枚だけだった。

 

「いや、悪かったって。…………ってだからさぁ。」

 

「はいはい、わかったわよ。」

 

そういうと咲夜はガウンを羽織った。

 

「はあ〜、もういいよそれで。」

 

「ふふふ、さっきの仕返しよ。」

 

さっきって厨房のやつか。

 

「狼狽える貴方を見れて満足ね。3ヶ月も手を出してこないから、私には一切魅力がないのか心配してたけど、今のを見るに貴方がヘタレなだけね。」

 

「五月蝿い。ずっと宴会してたじゃねぇか。」

 

「はいはい。わかってるわよ。」

 

上機嫌に笑う咲夜。

 

絶対わかってないだろ。

 

「いいから、チェスでもしましょう。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

暫く打ち続けていたが、一向に勝てない。

 

俺も上達してる筈なんだがな。

 

「ねぇ、シャーキャ。」

 

「何だ?」

 

「何を隠してるの?」

 

「ーー」

 

一瞬動揺するが、すぐに駒を置く。

 

「隠すって何を?」

 

「何か深刻な事があったんでしょ?そして、私の事が心配になってやってきた。」

 

「よく自分でそこまで言えるな。」

 

「まず、最初にやってきた時間が早い。いつもなら、私がシャワーを浴びてる事を察してもう少し、遅い時間にやってくる。次に私の格好を見て反応が無かった事。他の事に気を取られていた。無反応ならずっと無反応なはず。途中で気が付いたって事は貴方の中の心配事が無くなったか、杞憂に終わったってところかしら?」

 

「……………………」

 

「見くびらないで欲しいわ。貴方が私の事を大切にしてくれてる事は知ってる。今もこうして私の側から離れないようにしてくれてるんでしょう?」

 

「お前は深読みし過ぎなんだよ。別に他意はないよ。宴会も終わって久しぶりにゆっくりと話したかっただけさ。」

 

「…………何も教えてはくれないのね。」

 

「だから、他意は無いって。」

 

「…………そう。」

 

咲夜が駒を置く。置いた駒に視線が行った瞬間に執事服のネクタイを引っ張られた。

 

いきなりの事で目を白黒させている間もなく、唇を塞がれた。

 

ガラガラとチェスの駒が机から落ちる。

 

顔が離れる。

 

「じゃあ、私の覚悟を見せてあげる。」

 

そう言った咲夜の瞳はどこまでも真っ直ぐだった。

 

「…………」

 

逡巡する。これもいつまでも隠せる問題では無い。念に目覚めたんだ。今はバレて無くてもいずれは咲夜にも火の粉が降りかかる。

 

潮時か。

 

「わかった。話すよ。」

 

そうして俺は咲夜に俺が本当に心配していた事を話した。八雲紫を警戒している事に変わりはない。だけど、それは地底を行き来した事では無く、八雲紫が念能力を目の敵にしている事が理由である事。

 

「すまない。俺のせいでお前にも被害が及ぶかもしれない。だから、俺は………」

 

ここから去るとは言えなかった。

 

再び口を塞がれた。

 

「そう。だからどうしたの?前にも言ったよね?一緒に戦うって。」

 

「……………」

 

「例え全てを失うとわかっても私は貴方を選ぶわ。お嬢様と貴方を天秤に掛ける事になっても貴方を選ぶ。私は絶対に貴方を裏切らない。」

 

そう言うと腕を引っ張られる。

 

2人してゴロンとベッドに横たわった。

 

「後悔する事になるかもしれないぞ。」

 

「後悔する事になっても、私は貴方に着いていくわ。」

 

本当に強情な奴だ。

 

でも、

 

「ありがとう。」

 

「……きて」

 

俺は一つ本当の事を隠した。今晩の呼び出しの事を伏せた。

 

きっと今夜俺は死ぬだろう。

 

心の中でサヨナラを告げて、俺は咲夜に覆い被さった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告