どいつもこいつも猛者だな。感じるプレッシャーが半端ない。
鴉天狗は修験者装束に大きな扇子と仙杖。おそらく遠距離から攻撃してくる者と思われる。
西行寺幽々子はあの蝶形の死の能力を付与された弾幕で攻撃。
八雲藍は最強の妖獣のフィジカルを活かした接近戦。
そして全てのサポートを八雲紫が熟す布陣か。
なるほど、隙は無い。確殺の布陣と言える。
驚異度で言うなら、西行寺幽々子と八雲紫の2人が一番。だが、向こうもそんな事はわかっているだろう。簡単には落とさせてくれない。
なら次点で唯一の近接系の八雲藍を狙うか。だが、唯一の前衛が崩れば戦線が崩壊する事は向こうもわかってる筈。
なら最後の鴉天狗が最初の撃破対象になるか。
「よお。此方も初めましてだな。十六夜シャーキャだ。いきなり死ねとは随分と物騒じゃねぇか。今日は4人で1人の人間を袋叩きですか?何ともまあ、酷いいじめだ事。」
「御託はいいの。これから死ぬ者の話を聞く事程、時間の無駄という物はありませんわ。」
「そうかい。」
これからが本番だ。気合を入れる。
もう一度「練」でオーラを増幅させる。
だが、やはりここに来ているのは猛者。多少の顔色の変化はあれど、引いてくれる気配は無い。
「行けっ前鬼!後鬼!」
八雲藍が札を取り出すと2体の鬼が出てくる。
確か使い魔………式神って奴か。
そのまま、八雲藍は後方に下がり炎の弾幕を放ってきた。
クソッ、こいつも遠距離かよ。
弾幕を回避しながら、2体の鬼と交戦。
まずは拳を叩きつけようとした瞬間、「円」に複数の飛来物を感知。
即座に回避に移る。
飛来物は白く光る蝶と道路標識。
「はあ!?標識!?」
驚いている暇は無い。次々と線路やビルが降ってくる。それだけじゃない、地面が抉れる程の風の鎌鼬が飛んでくる。
瞬時に悟る。
これは手数で圧倒される。
全くと言っていいほど、攻撃に移れない。
鴉天狗を狙うとかも無理そうだ。即座に前衛を黙らせるしかない。
まるで爆撃機が絨毯爆撃をしたかのような、地形の変化。それに晒されながらも何と生きながらえていた。
敵の攻撃も巧みなもので、前衛には全く擦りもしない。
「フレンドリーファイアはしないってか?」
だからこそ、こいつらの懐に入れば遠距離攻撃の応酬を耐える事はできる。
そして、最小の動きでナイフで2体の式神を切り裂く。
前衛が崩れた。
なら今が好機!
そう思い、接近しようと試みたところで凄まじい速度で鴉天狗が突っ込んできた。手には扇子や仙杖ではなく、剣が握られている。
「シッ!」
一閃。早すぎるその斬撃は鋭さも合間って必殺の一撃となった。
回避は無理。だがオーラで防御しても無傷とはいかないだろう。剣術は知らないが、この太刀筋は並のものではない。
両手にオーラを集中。攻防力85で剣を挟んだ。白羽どりと言う奴だ。
一瞬の硬直が現れる。どうやら予想外だったらしい。
即座に右足で米神目掛けて蹴りを放つが、逃げられる。
すぐに追いかける為に
こいつも音速で飛べるのか。
そうして追いかけていれば、目の前にスキマが現れる。
急停止し、呑み込まれる前に離脱。そうしている間に再び召喚された式神2体と弾幕の爆撃が再開された。
機動力の高い鴉天狗が、前衛の居なくなった間をヒットアンドアウェイでフォローする訳か。
「
能力の出し惜しみは無用。ここからは全力だ。
死の弾幕と大質量の弾幕は無理だが、風と炎の弾幕は砂鉄でガードする。
そして、少しばかり空いた手で
ターゲットは鴉天狗。
だが、それも風で上手くいなされる。
まあ予想通り。だから俺は磁力を操作してナイフを空中で方向転換させた。
「え?」
ドスッと鴉天狗の腹に背後から大きな風穴を開ける。「周」で強化されてんだ。刺さる程度じゃ済まない。
グルンと白目を剥いて鴉天狗が墜落した。
死にはしないだろう。妖怪な訳だし。八雲紫に選ばれる程度には猛者の筈。
そのままナイフを手元に戻して、2体の式神を切り裂く。
今度は八雲藍に投げる。前衛を黙らせる。
だが、先程のを見て学んだ残りの妖怪たちは、蝶形弾幕と列車でナイフを押しつぶした。
だが、それによって俺が完全フリーとなる。
八雲藍を音速で引き寄せて、「硬」で殴る。
「
思いっきり、腹に拳を叩き込み吹き飛ばす。
「ガハァッ!!」
口から大量に血を吐き、地面に崩れ落ちた。
ピクピクと痙攣していたが、やがて体の震えも無くなる。
気絶したか。
残り2人。
ナイフを投げる。だが、今度はスキマに吸い込まれてしまう。とはいえ、圧倒的に弾幕の密度が少なくなったことにより動き易くなった俺は手を翳す。
地面にS極、西行寺幽々子にN極を付与し、全力で磁力を高める。
地面に墜落し、叩きつけられる西行寺幽々子。
「
「グハッ!」
「幽々子!」
助けようと八雲紫が何かしようとするがさせない。
スキマでガードされるが、その間に西行寺幽々子がノックダウン。
残りは八雲紫だけ。
もう一度ナイフを投げるがスキマに呑み込まれる。返す刀で弾幕と鉄塊が飛んでくる。
ナイフと弾幕の応酬の決着は呆気無いものだった。
「え?」
突然、八雲紫の体に風穴が開く。
惚けている間にも2個風穴が空き、地面に墜落した。
地面に倒れる八雲紫。
俺は彼女の側まで近付く。
「な、何をしたの?」
口から血を吐きながら、此方を睨みつけてくる。
「何、簡単な事さ。目に見えないナイフで攻撃しただけだ。」
そう言うと俺は掌にナイフを具現化する。
これが
『
能力は磁性を持つナイフを具現化するだけ。単純ではあるが、オーラでできた物質の為、「隠」で見えなくする事が可能。散々普通のナイフで戦っていた為、不意打ちとしてこれを使用すると絶大な力を発揮する。しかも、元がオーラなので、威力も絶大。
八雲紫への不意打ちは全てこれで決める算段だった。
「さて、話をしようか。」
右手に「硬」でオーラを溜めて八雲紫を脅す。
「そう、保険をかけておいてよかったわ。」
保険?
そう思った次の瞬間、背後に何かいる事を直感で感じた。
何故「円」に引っかからないのか?
そんな疑問は捨てて振り返り、「硬」で強化していた拳を振り抜く。
果たして振り返った先には、博麗霊夢がいた。
同時にしまったとも思った。「硬」では人間相手にやり過ぎだ。しかし、もう拳は止まらない。
もう次の瞬間には霊夢が全身から紅い花を咲かせるだろうと思いながら、振り抜いた拳は霊夢の体を透過した。
「は?」
そして俺の胸に手を当ててきた。
「夢想封印」
「硬」で攻撃した事が仇となった。全くのノーガードで俺の体内側から、霊力弾が爆発した。
俺は胸に穴を開けて倒れた。
意識が戻る。
どうやら一度死んだらしい。だが、
それにしても見事だ。伊吹萃香が前座で本命は八雲紫と見せかけて、自分すら囮にして、勝利の瞬間の油断を突いて仕留めてきた。
頭脳が長けているのも納得だ。
俺はまだ起き上がらない。死んだと思われているなら好都合。
「無様ね、紫。」
「ふふふ、でもお陰で勝てたわ。………彼に勝てた感想は?」
「………別に、どうせ私1人でも勝ててたわよ。」
確かにあの透過現象を攻略できないと無理だな。どう言う原理なんだ?
「負けず嫌いな、貴女はそう言うでしょうけど、これは仕事。確実性がなによりも一番よ。」
「はいはい。わかったわよ。」
そう言って霊夢は八雲紫に向かって歩く。
今だ!!
俺は自身に
「霊夢!!」
八雲紫が叫んだ頃には俺の腕の中で気絶した霊夢がいた。
俺はナイフを霊夢の首に当てる。
「どうして死んでないの?」
「おいおい、それを妖怪のアンタが言うのか?」
「いいから答えなさい!」
「教える訳ないだろ。」
一回しか使えないんだからな。
「さて、もう一度言う。話をしようか。」
「ーー!!」
「抵抗すれば、幻想郷の守護者の命がなくなるぞ。」
「それは貴方にとって不都合では無くて?紅魔館の貴方の主人は妖怪よ。幻想郷が必要なのでは?」
すぐに動揺を消して、逆に此方を揺さぶろうとするあたり年季があるな。
「別に何とも思わないね。俺はただ旅をしていたら、紅魔館に来ていただけだ。幻想郷ってものを見せてくれると約束されたから、従者でいただけ。もう十分楽しんだ。今更、仮初の主人や幻想郷がどうなろうが構わない。」
本心はともかく、こうでも言わないと相手に付け入る隙ができる。
「とはいえ、これから一生命を狙われるのはごめんだ。」
「貴方は不可侵を破ったのよ。今更逃れられないわ。」
「だったら、そこで伸びている小鬼はなんだ?あれは不可侵違反だろ。どうせその話もでっち上げ。萃香との会話でそれが出たから乗っかっただけだ。俺が地底にいた事を周りに話す奴は1人もいないからな。」
「…………………」
「だから取引をしよう。」
「取引?」
ここからが正念場だ。今この場での勝利だけでは意味がない。長い目で見て、俺が生き残るには、やはり管理者側に俺の存在を容認させなければならない。
「アンタは本当は俺の力、念能力が怖いだけだ。」
「………それを知ってたのね。」
「だから、俺が念について教えよう。」
「………どう言う事ですの?」
「わからないから、警戒する。なら理解できれば適切な対処ができると思わないか?」
「その話に私が乗るとでも?」
「なら、ここで霊夢を殺す。念には相手にかけるものもある。そうだな、俺に危害を加えようとする事と俺に脅迫するような事が有れば、即座に霊夢の首が刎ねられるルールにしようか。」
勿論嘘だ。俺にそんな能力はない。
だが、八雲紫にとってそれがはったりだと断定できない。
「これを解除するには、除念と言う方法しかない。これでアンタは俺に危害を加えられない。因みにアンタが直接でなく、間接的にでも害意を抱いて行動すれば発動される。」
「いいわ。聞きましょう。」
「潔いな。アンタは念の情報を得られるし、俺は安全を得られる訳だ。教える方法は霊夢に念を覚えさせる。」
「私じゃダメなのかしら?」
「妖怪は無理だ。人間や生物限定の力だ。『畏れ』と言う幻想で生み出された妖怪は無理だ。………霊夢の強化にも繋がる。アンタに旨みもある。俺の指導に疑問が有れば、その都度聞けばいい。言っておくが、念の習得は安全な物とは呼べない。最大限配慮はするが、いつでも助けられる準備を勧めておく。」
「わかったわ。それで手打ちにしましょう。」
一旦は身の安全を確保できたか。
俺は慎重に霊夢を引き渡す。
気がつけば、八雲紫に空いていた風穴が塞がっていた。八雲紫も立ち上がる。
俺は背中に警戒しながら、戦場を後にした。