鋼の心   作:モン太

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反省会

完敗だった。

 

完璧と言われれば、そうではないだろう。だが、時間をかけずにできる最大限の布陣で臨んだ。だけど、結果は見渡せば自分以外の全員が重症を負って気絶していた。

 

そこにコツコツと足音が響いてきた。

 

「死屍累々とはこの事ね。戦争でもしたの?随分と酷いことになってるじゃない。」

 

声に振り返れば、いつも花畑に引きこもっている腐れ縁だった。

 

「貴女、今まで何処に居たのよ。声をかけようとしたのに。」

 

お世辞にも仲が良いとは言えない関係だが、今回の討伐に組み込もうと画策していたのだ。彼女も一角の実力者で、癪ではあるが同等の実力を有してると認めている。太陽の畑にいなかったのだが。

 

それが今更やってきて何のつもりなのか。

 

「何処に居ようと私の勝手でしょう?…………それにしても、貴女も随分と短絡的で焦ったやり方ね。まあ、あの子の事を知らない貴女なら力尽くでいけると思ったんでしょうけど。」

 

「貴女、アレを知ってるの?」

 

「勿論知ってるわ。あの子を育てたのは私だもの。」

 

「貴女、まさか!」

 

「そう殺気立てないで欲しいわね。………別に特別な存在では無いわよ。あの子はただ他人より少し強いだけの男の子だわ。」

 

「あの、来るもの全て消炭にするような貴女の台詞じゃ無いわね。」

 

「自分でもおかしな事をしたと思ってるわ。」

 

「貴女はあれが危険だとは思わないの?」

 

「何で危険だと思うのかしら?………お前やそこの亡霊姫だって幻想郷を破壊できる力を持っている。先の異変だって同じでしょう。妖怪桜の暴走次第では、幻想郷が滅んでいたかもしれない。それに比べれば、直接の殺傷力のない分マシだと思うけど。」

 

「能力を知ってるの?」

 

「ええ、大体は聞かせられたわね。あまり理解できなかったから、殆ど忘れてしまったけれど。」

 

「…………………」

 

「教えてと言っても教えないわよ。今日は貴女の悔しそうな顔を見る為にやってきたのだから。ついでに言うと彼の足跡も教えないわよ。」

 

そう言うと引き返して行った。

 

どちらにせよ。今は手出しする事はできそうにない。

 

まるで嫌がらせをしに来たような口振りだったが、あそこで更にシャーキャを追い詰めようとしたら、幽香が敵に回っていただろう。私の誘いを断りながら、わざわざ太陽の畑から駆けつけてきたのだ。あれは遠回しの警告。

 

また、こんな特異な人間が地底にやってきていたなら、古明地さとりや星熊勇儀が知らない筈がない。何も言ってこないのであれば、地底もシャーキャの味方と見たほうがいい。

 

不可侵違反で戦争になるとか、脅してみたがそうはならないだろう。

 

いっそ巻き込んで殺そうかとも考えたが、どうやら没のようだ。

 

それに霊夢にも首枷をつけられてしまった。

 

これでは人里や妖怪の山を煽って、排斥運動を起こすことも難しい。あれだけの戦闘能力を誇るのであれば、最初から此方の方法で動いていたのだが後の祭りだ。

 

焦っていたのも事実だ。もっとやりようはあったはず。

 

異変の際に現れて以来、全く姿を現さない。自身の主人である筈の吸血鬼もあまり情報を持っていない事。そこから導き出される相手像は警戒心が強く、秘密主義でよく頭が回るタイプ。

 

相手に力を付けられないように早期に決着を決めようとした。

 

ただ、幽香の言い分も最もだ。現状ではシャーキャよりも西行妖の方が危険度は高かった。

 

霊夢の過去の葛藤を餌に引き入れていたが、己も過去に囚われていただけ。結局はそれだけの事だった。

 

「はあ〜」

 

今更反省会をしても仕方がない。

 

目先は彼に手出しできない。それに向こうから情報を開示してくれるなら、それに乗っかろう。

 

周りを見渡す。

 

焼け野原となった湖周辺。誰もが血に濡れ、地面に伏していた。重症ではあるが、死んだ者はいない。6対1ではあったが、向こうは殺さないように手加減できる程の力量だった。

 

「はあ〜。」

 

また溜息が出た。

 

このレベルなら月人に対しても有効な手札になるかもしれない。ただ、今更月の都と戦争する気はないのだが。

 

そこでふと疑問に思う。

 

あれだけの強さがあって、なぜ若輩吸血鬼如きの従者に甘んじているのか?

 

今更遅いかもしれないが、気になった違和感だ。調べてみる価値はあるかもしれない。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

懐中時計の時刻を確認する。

 

5時半か。そろそろ朝日が登り、使用人達が起きる時間だ。

 

11年前の幻想郷に来る前は、吸血鬼に合わせて夜に活動していたのだが、去年の紅霧異変以来、博麗神社に合わせて昼に活動する様になった。

 

帰ってみてれば行きとは違い、ちゃんと起きている美鈴に会った。

 

「おかえりなさい。シャーキャさん。お月見はいかがでしたか?」

 

「……………ただいま。それなりに楽しかったよ。」

 

「そうですか、よかったです。なら早く戻られた方がいいでしょう。」

 

「そうだな。」

 

俺は紅魔館に入った。

 

まだ館内は静かだ。とはいえ後30分もすれば、妖精メイド達が活動し出すだろう。

 

とりあえず、この格好から執事服に着替える必要がある。

 

ベッドの上に服を置いていた筈。

 

だが、服が見当たらない。

 

「探し物はこれかしら?」

 

背中に冷汗が流れる。

 

振り返れば、扉の裏から咲夜が現れた。手には俺が脱いで行った執事服があった。

 

笑顔で俺に手渡してくる。だが目が全く笑っていなかった。

 

「お、おう。ありがとう。」

 

俺の声が震えてしまう。

 

俺が全く気がつかないなんて。教えた訳ではないが、「絶」をマスターしたらしい。俺が苦手だった「絶」をこうも簡単に。…………凄い才能だな。

 

俺は咲夜の念の上達に感心するという現実逃避をしながら受け取ろうと手を伸ばす。

 

だが、寸前で俺の手は空を切った。

 

「その前に聞いていいかしら?」

 

「………ど、どうぞ。」

 

「その格好で何処に行ってたのかしら?」

 

「…………ち、ちょっと散歩をだな」

 

「わざわざ、その服を選ぶ理由は?」

 

「………ず、ずっと着てなかったし、た、偶にはいいかなと思ったんだ。に、似合ってるだろ、これ?」

 

「ええ、似合ってるわよ。………で、朝起きた時に隣に貴方が居なかった時の私の気持ちがどうだったか、貴方にわかるかしら?」

 

「………………………」

 

「ヤる事やったら、はいさようならってのが貴方のスタンスなのかしら?」

 

「それとも責任逃れのつもりかしら?」

 

「昨日の私の覚悟を踏み躙った気分はいかが?」

 

「………………………」

 

やばい、まじで怒ってる。

 

怒涛の質問ラッシュに言葉を失う。

 

昔みたいに怒鳴り散らしてくれた方がやりやすいのだが、淡々と責められると何も言い返せない。すっかり、俺を制圧の仕方を心得た咲夜に手も足も出ない俺。

 

「…………でもね。それよりも知りたい事があるの。」

 

まだ、何かあるのか………。もう俺の精神は瀕死なんだが、これ以上は勘弁してほしい。

 

そう言うと咲夜の瞳が蒼から紅色に変わり、表情も笑顔から真顔になる。

 

「その服の血痕は何?誰にやられたの?………場合によってはそれをやった奴を今から殺しに行くわ。」

 

「…………」

 

まずいな。そりゃ気がつかないはずがないか。そもそもこの外出がバレるつもりがなかったので、言い訳を考えていない。

 

俺が死ぬ可能性が高い為、極力痕跡を残さない等の細工をしていたが、俺が生き残る可能性は高くないと考えていた為、帰って来る時のプランを立てて無かった。

 

無論、生き残る為に全力を尽くす事はした。最期まで足掻くつもりだった。

 

ただそれでもこうして今右往左往をしている事を鑑みるに、俺も精神的に追い詰められてた訳か。

 

白状するしかないか。博麗霊夢にも念を教える話をした以上、隠し事をするメリットが実質皆無だ。どうせ修行場所を作るにもパチュリー様の協力を得ようとも考えてるし、そうなればお嬢様の耳にも今夜の出来事の説明をしないといけない。

 

それに今の状況なら、皆に周知した方が結果的に皆の安全も確保できる。事後報告になる事は申し訳ないが説明しようか。

 

「…………わかった話すよ。ただし、全員にだ。大図書館に集まろう。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「はあ〜」

 

「……………………」

 

大図書館に向かって移動する。

 

俺の後ろには咲夜がピッタリと引っ付いている。

 

すっかり表情筋が凍った赤い目で俺を睨み付けながら、監視されていた。俺が逃げ出すと思っているようだ。まあ、心境としては合ってるが。

 

時間を止めれる咲夜にこんな至近距離で監視されたら、瞬間移動できる奴以外誰も逃げれないだろ。

 

大図書館に入る。中には既に全員が揃っていた。

 

お嬢様と妹様の吸血鬼姉妹は普通にしていたのだが、美鈴は苦笑い、パチュリー様はジト目で此方を見ていた。

 

美鈴はきっと「結局バレたんですね」って事だろう。パチュリー様はよくわからないが。

 

「揃ったわね。さあ、シャーキャ説明しなさい。………と、言いたいけれど先にみんなに見せたいものがあるのよね、パチェ。」

 

「ええ、じゃあ見てちょうだい。」

 

そして、水晶から映し出されたのは上空から霧の湖へ歩いていく俺の姿。

 

すぐに状況を察し、パチュリー様の方を見る。

 

「貴方には悪いけれど、使い魔で監視させて貰ったわ。昨晩、美鈴から貴方が紅魔館を抜け出して、何処かに旅立とうとしてると駆けつけてきたからね。」

 

「い、いや〜、またシャーキャさんが居なくなられたら、いよいよ門番クビになっちゃいますからね。」

 

こればかりは仕方ない。さっきの苦笑いはそういう事だったか。

 

背中に感じる視線に圧を感じる。俺も思わず苦笑いが出る。

 

映像は変わり、最初に萃香が現れる。その瞬間、背後からを殺気を感じた。

 

冷汗をかく。

 

頼むから、暴れるような事はやめて欲しい。

 

そして、俺以外の全員が例のオーラが見えるメガネを掛けて映像を見ていた。

 

どうやら咲夜はまだ誰にも念能力に目覚めた事を伝えていないようだ。

 

映像は萃香との戦いから八雲紫率いる精鋭との4対1の戦い、そして最後の霊夢の不意打ちへと進む。

 

俯瞰視点での戦闘は色々と勉強になる。「円」で把握していたが、それでももっと効率的に戦う為の戦術の勉強になるな。

 

そんな現実逃避をする。

 

八雲紫の登場、袋叩き、霊夢の登場、不意打ちによる死亡、そこからの逆転、霊夢を生捕にしての交渉。

 

一つ一つの出来事の度に背中の殺気がどんどん大きくなっていく。

 

「ふむ………なるほど。とりあえず、咲夜。落ち着きなさい。喚いても状況はわからないし、ましてや好転はしないわよ。」

 

背中の視線の圧が弱くなる。

 

「それで、今のを踏まえて説明しなさい。」

 

そうして漸く発言を許された俺は、事の経緯とその結果を話した。

 

「なるほど、まずは八雲紫と霊夢の鼻を挫いた事は見事だわ。だけど、少し独断専行が過ぎるわね。これからはちゃんと報告しなさい。秘密にしたい事もあるだろう。だけど、我々が無関係ではない事は事実よ。ならば知らせる義務が貴方にはある。」

 

「わかりました。申し訳ありません。」

 

「じゃあ私からは以上だけど、これからの事でパチェの協力が必要でしょう。その話を進めましょう。八雲紫がまた良からぬ企みを立てる前に、交渉の言質の既成事実化を急いだ方がいいだろう。」

 

「ええ、そうね。シャーキャは何かある?」

 

「そうですね。まず念の修行は咲夜と霊夢の2人で行います。」

 

「咲夜も?」

 

「そうです。これも事後報告で申し訳ありませんが、咲夜に関しては既に念に目覚めてます。」

 

「ああ、だから咲夜もオーラが安定していたのね。」

 

流石、パチュリー様。目敏い。

 

「だだっ広い岸壁地帯が好ましいです。それをパチュリー様には召喚魔法で修行中は出していただきたい。また、見学者全員にそのメガネを用意していただきたいです。」

 

「八雲紫達にも渡していいの?」

 

「ええ、霊夢に覚えさせる以上、その方がいいと考えてます。」

 

「わかったわ。用意しておく。」

 

これで報告と皆の協力を取り付けることになった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

再び部屋に戻ってきた。

 

「結局全て、貴方1人で片付けてしまったわね。」

 

「悪かったよ。勝手に突っ走って。」

 

状況を飲み込んだ咲夜は先程の激情はなりを潜めた。だが、終始俯いた表情を見せていた。

 

「………本当に?また、1人で勝ってやらない?………貴方は大切にしてきれるのは嬉しい。でも前にも言ったよね。一緒に戦おうって。黙って護られろなんて、それはただの人形よ。……わ、私もひとりの人間なの。………だ、だから、…………もっと私を見てよ。」

 

そう言い、咲夜が泣き崩れてしまった。

 

そこで俺は漸く気付いた。戦慄が走る。

 

俺は馬鹿だ。彼女を護る事ばかりに目を向けて、彼女の事を見ていなかった。

 

そうだ。いつも誰よりもこいつを追い詰めていたのは俺だった。

 

口で護ると言いながら、いつも傷付けていたんだ。俺は咲夜の事を信頼していなかったのではないのか?

 

この期に及んで適当に煙に巻けばいいと思ってたのではないのか?

 

何が痕跡は残さないだ。何が覚悟を踏み躙るだ。結局は自己偽善の自己陶酔でしか無かったのだ。彼女の気持ちなど、ビタ一文も考えていなかった。

 

昨夜は彼女がどんな気持ちで身体を捧げたのか、俺は考えていなかった。上手く出来たの出来なかっただの、俺の主観の話でしかない。

 

いつも俺は相手の都合を考えずに己の物差しでしか、相手を測っていなかった。

 

10年で成長した気になってただけで、結局子供のままだった。それだけの事。

 

これだけ追い詰めて、漸く気が付く俺は心底救いがない奴だ。

 

「………そうだな。ずっと、俺は独り善がりでお前の事を見れて無かった。お前がこんなに悩むまで気が付いて無かった。………ごめん。」

 

きっと、俺達はお互いに一方通行で相手の理解を得ないままに、お互いの為を思って動いてきた。今まではそれで偶然、上手くいってただけ。

 

………お嬢様の言う通りだな。言葉無くして、通じ合っていると勘違いする程、愚かな事はない。

 

「………だから、お互い納得できる方法を決めよう。」

 

「………納得?」

 

「そうさ。例えばお互い話し合うとかは典型例だな。」

 

「………でも、お互い譲れない場合はどうするの?」

 

「……そうだな。最後はコインの裏表で決めようか。恨みっこ無しで。でもこれは基本的には使う事はない。お互いが納得できるまでトコトン話そう。コインばかりに頼れば、いずれまた今回みたいになると思うからさ。」

 

そうして、咲夜は目元の涙を拭い目を瞑った。そして、逡巡の後此方を真っ直ぐ見つめてくる。瞳に暗い闇は無くなった。

 

「………わかったわ。それでいきましょう。」

 

「ありがとう、咲夜。」

 

「じゃあ、早速…」

 

そう言うと咲夜は人差し指を立てた。

 

「これから、貴方の教えの元で念を学ぶけど、一切手心を加えないで。」

 

「どうして?」

 

「経験則だけど、この念能力は接近戦で殴り合う事が主能力な以上、常に命の危険を伴うと思うのだけど。」

 

「そうだな。その読みは概ね正しい。だから俺が咲夜に無茶をさせないように甘い指導になると思ってる訳か。」

 

「そうよ。」

 

「……まあ、これに関しては咲夜の望み通りでいいよ。」

 

「いいの?……気を遣ってるわけじゃないわよね?」

 

「無論だ。霊夢に教える事はつまり八雲紫に教える事にもなる。八雲紫との交渉は念の情報開示。霊夢には危険が伴う事を承知で念の習得をやってもらうつもりだ。相方になるだろう咲夜も同様だ。片方だけ違う指導はしない。バランスが取れなくてなるからだ。霊夢の危険については八雲紫が責任を取る手筈だ。お前にはあの懐中時計を渡す。これで釣り合いを取ろうと考えてる。」

 

「わかったわ。じゃあお願いね。」

 

「ああ。」

 

窓を見れば、もうすっかり朝日が入ってくる。もう妖精メイド達は仕事を始めていた。

 

「まあ、まずはお嬢様達の朝食からだな。」

 

「そうね。」

 

こうして俺達は2度目の大きな喧嘩と仲直りをした。

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