鋼の心   作:モン太

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素直な気持ち

私は今、吸血鬼屋敷の図書館へ来ていた。普段なら畳の上でゴロゴロしてるはずなのに。

 

5日前、胡散臭いスキマ妖怪の口車に乗り例の少年と戦った。

 

大義名分以上に私の個人的感情の後押しが殆どだった。

 

初めて人間を手にかけた。妖怪は何度かあったが。幻想郷の守護者として、いずれは人間へ手を下す事もあるとわかっていた。その相手が自分にとって因縁浅からぬ相手だった。手をかけた瞬間は呆気ないものだった。もっと感情が乱れると思っていた。覚悟していたからだろうか。思ったよりは平静でいられた。

 

それでも多少の動揺はあったのだ。だから、背後で立ち上がった彼の気配に気がつかず油断した。

 

油断を突いた相手に油断を突かれるという屈辱。そして後から聞かされた事の顛末。色々な感情がグチャグチャになり、一周した事で逆にすんなりと受け入れてしまった。

 

故に今紅魔館に来て、これから念能力という異能について彼から教わるなんて事になった。

 

自分でももうよくわからない。

 

そもそも、私は十六夜シャーキャとは11年前の時にしか、言葉を交わしていないのだ。

一度自分の頭を整理するためにも彼と会う事を決めた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「いらっしゃい霊夢。話は聞いてるわ。着いて来て。」

 

エントランスでこの館のメイドに出迎えられた。

 

礼をするその所作一つとっても完璧。堅苦しさは相変わらずだ。

 

彼女の案内について行く。正直、一度妹吸血鬼に会う為に図書館へ行ったので必要無いが、このクソ真面目なメイドは仕事に妥協はしないだろう。

 

暫く彼女の後ろを歩いていると、ふと立ち止まった。

 

まだ図書館からは遠い。何かあったのだろうか?

 

確認しようとした瞬間、喉元にナイフを突きつけられた。

 

いきなりの事に一瞬呆気に取られる。だが、すぐに頭に血が登った。博麗の巫女である自分に歯向かってきたのだ。到底許されない。向こうがやる気ならここで叩き潰してやる。

 

そう思い、目の前の女の顔を見て後悔した。

 

まるでこれから捨てるゴミに向ける目。そんな一切の感情が見えない、けれどもとても深い闇の色が見える紅い瞳に見つめられた。

 

「彼は貴女の事を許してたわよ。一度殺されたにも関わらず、随分と優しい事だと思ったわ。でもね、私は彼のように優しくないの。次に彼に手をあげてみなさい。地獄の底まで追いかけて殺してあげるわ。………手足の爪を剥がす。次に手足の指の骨を折る。足先から細かく切り刻んで削ぎ落として、殺してあげる。………例え貴女に返り討ちにされても、亡霊となって貴女を呪い殺す。………わかった?」

 

咲夜がそう言うとナイフをしまって再び歩き出した。

 

彼女が歩き出した事で我に帰った私は彼女に着いて行く。だけど、無意識のうちに彼女との距離を離して歩いていた。

 

顔中から流れる汗。少し震える両肩に気が付かないフリをして歩いた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

図書館に来てみれば、紅魔館の連中と紫とその従者が揃っていた。その集団の中心に彼がいた。

 

「来たか。……こうして話するのは初めてだな。十六夜シャーキャだ。長い付き合いになるだろう。よろしく。」

 

「博麗霊夢よ。」

 

「それだけですか。」

 

「何よ、私は妖怪と仲良しごっこはしないわよ。その妖怪とつるんでる人間もね。」

 

図書館に着いた頃にはいつものペースに戻せて話せるようになっていた。

 

「それで、霊夢は本当にいいのか?念の習得に関しては?」

 

「いいわよ。」

 

「これは紫にも言ったが、安全なものではない。危険が付き纏う事になる。それでもやるかい?……紫とは約束したが、あくまで念を習得するのは霊夢だ。アンタが納得できないならこの話は無しとなる。」

 

「別に今更言い分は変えないわよ。」

 

「そうかい。なら始めるとしよう。……パチュリー様、準備お願いします。」

 

「わかったわ。」

 

声をかけられた魔女が呪文を唱える。図書館の床に幾何学的な文様が光り輝く。その光に飲みこまて目を開ければ、周りが岩山に覆われた砂漠のような地形にいた。

 

「成功よ。無事に私が作った異空間を召喚できたわ。」

 

「ありがとうございます。……さすがですね、グランドキャニオンをイメージして作ってくださいとは言いましたが、ここまで再現度が高いとは。」

 

「私の魔法の事はいいから。じゃあ、こあ。このメガネを全員に渡して。」

 

魔法使いの従者が全員にメガネを渡して行く。

 

あれはなんだろうか?

 

シャーキャ、咲夜、私以外にメガネが行き渡った。

 

「今渡しているものはオーラが見えるメガネだ。霊夢はこれから念の習得するからメガネがなくても見えるようになる。」

 

「では、私達は一旦スキマの中から見学させていただきますわ。」

 

そう言うと紫と従者はスキマに消えた。

 

抜け目の無い事だ。あくまでもここは紅魔館勢力の中心。気を緩めるつもりはないようだ。

 

「では始めようか。………霊術は俺にはよくわからないが、この念能力は感覚的でありながら、かなり理論的でもある矛盾した能力だ。退屈かもしれないが、まずは必要最低限の理論の説明をする。」

 

彼は紙ペラを取り出す。指に摘まれたそれは、重力に逆らうようにピンっと一枚の板のように伸びた。それを投げる事で紙が岩肌に刺さる。

 

普通の物理現象ではありえない。

 

「念を使えばこんな事もできる。まあ、今の技が万人にできるかはその個人の相性にもよる。今のはほんの一例だ。」

 

今度は白板が現れた。魔法使いが召喚したらしい。

 

「念能力はオーラを操る能力。オーラとは生命エネルギーの事で、人間や動物、植物も持っているものだ。逆に妖怪はその成り立ちが『畏れ』から来るのでオーラがないんだ。念に目覚めていない者でも微弱に垂れ流しになっている。念能力者はそのオーラを自在に操る者を指す。念能力は才能によって習得の速度に違いは現れるけど、基本的に誰でも使えるようになる。故に教える者はその者が邪悪でないか、見極める必要がある。でないと……」

 

彼はしゃがみ込み、地面に手を置いた。

 

次の瞬間、岩肌の地面に無数の亀裂が走った。

 

「肉体は粉々に砕かれるだろう。今のは俺が地面を殴った訳でもない。ただ、オーラを放っただけ、ここに本来であれば拳の速度と重さが乗る事で破壊力は更に上昇する。」

 

彼は立ち上がり、地面を足で叩けば亀裂が消えた。これも能力なのだろうか。

 

「さて、肝心のオーラだが。全身に精孔と言う穴があり、そこからオーラが出る。霊夢には二つの選択肢がある。」

 

「選択肢?」

 

「そうだ。ゆっくりとオーラに目覚めさせるか、無理矢理目覚めさせるかだ。前者であれば、瞑想によってオーラを感じる事で目覚めさせる。後者の場合は俺がアンタにオーラを放出する事で目覚めさせる。」

 

「それでどう変わるのよ?」

 

「前者が基本ではある。後者のメリットはすぐにオーラに目覚める事。デメリットは危険である事。さっきの地面の亀裂を見ただろう?無論アンタの身体が壊れないように手加減はするが、さっきのをアンタにする。因みに咲夜は後者で既に念に目覚めている。」

 

「そうなの?」

 

「そうね。前の春雪異変の時に」

 

「咲夜は念能力者である俺の側にいた時間が長い人間だ。結果的に意図せず目覚めてしまった訳だ。……それとデメリットをもう一つ。オーラは生命エネルギー。精孔をこじ開けると、大量に垂れ流しされる。生命エネルギーは無限じゃない。放っておくと全身疲労で立てなくなるし、最悪は命を落とす。」

 

そう言うと彼は白板に黒いペンで四つの漢字を書いて行く。

 

『纏』『絶』『練』『発』

 

「説明が横道に逸れてしまうが、この四つは念能力の基本技で『四大行』と呼ばれている。そのうちの『纏』。これは垂れ流しになっているオーラを身に纏う技術だ。念能力者のデフォルトはこの状態だ。これにより肉体は頑強となり、若さを保つ。俺の師匠に1000年生きている念能力者がいる。物的には見せれないが、俺が知っている証拠だ。……話を戻すと、オーラに目覚めてすぐにこの『纏』を覚える事でオーラの流出を防ぐ。」

 

「なるほどね。後者は早く目覚めるけど、その際のリスクとその後のリスクがあるのね。前者はノーリスクだけど、時間がかかるのね。具体的にはどれくらいかかるの?」

 

「個人差があるから難しいが、俺が見てきた中では1週間から1年のバラツキがある。」

 

「わかった。後者にするわ。」

 

「理由は?」

 

「既にそこのメイドがやれたんでしょ?なら、先に進められて差を広げられたくはないわ。それに私は博麗の巫女よ。そんな技術、直ぐに会得するわよ。」

 

「オーケー。じゃあ俺に近付いて背中を向けろ。」

 

言われたとおりにする。

 

「何か感じるか?」

 

言われて背中に意識を向ける。何か圧迫感を感じる。

 

「何か圧迫感を感じるわ。」

 

「それがオーラだ。オーラが見えない者でもオーラは感じとることができる。戦闘になればこれに敵意や害意が加わる事で威圧感を感じる筈だ。」

 

確かにあの西行妖の時に感じたプレッシャー。あれがオーラだったのか。

 

「じゃあ、行くぞ。」

 

次の瞬間、全身から湯気のように立ち上る白い光が溢れた。

 

「これがオーラ!?凄い力強い。どんどん湧き出てくる。」

 

パンッ

 

彼が手を叩く事で意識が戻った。

 

「はい、集中。今から『纏』を行う。いいな?」

 

「ええ。オーラを留めるのよね。こうかしら?」

 

オーラが見えるようになったからわかる。目の前に二人の見本があるんだ。二人とも薄くオーラが全身を均一に纏われている。

 

なら真似をすればいいんだ。直感に従って。

 

気付けばオーラの放出は止まった。

 

「よし。成功だ。」

 

「これが『纏』。」

 

「これで防御力は多少上がった筈だ。まずは試しに俺の拳を受け止めてみようか。俺はオーラなしの素の力のみだ。妖怪には遠く及ばないが、男性が放つ拳は当たりどころが悪ければ、骨折くらいはする。それを『纏』での防御でどうなるか、体感しよう。」

 

本当に念能力って近接戦闘がメインなのね。

 

彼が拳を構える。

 

「そうだ。言い忘れていたが、これからの念の修行では霊力の使用は俺がいいと言うまでは無しだ。」

 

つまりこの攻撃は「纏」だけで防げと言うわけね。

 

右手で防御の構えをする。

 

次の瞬間掌に衝撃が走った。痛みに顔を顰める。

 

何が妖怪には及ばないだ。確かに威力は妖怪の方が上かもしれないが、それでも人間の威力じゃない。速度に至っては並の妖怪を超えている。

 

それでもこの程度の痛みで済むのは確かに凄い。この男のパンチなら手の骨が折れていたかもしれない。

 

「咲夜、お前もだ。」

 

そして咲夜も彼の攻撃を受け止めていた。

 

「これがオーラでの防御する感覚だ。」

 

「ええ、凄いわね。でも普段貴方が戦ってる時のオーラの鎧はこんな物じゃ無かったわ。もっと厚みも有るし、もっと防御力がある筈だわ。そうじゃないと、お嬢様と殴り合ったりできるわけがないもの。」

 

「そうね。戦闘時のシャーキャのオーラはもっと分厚いわ。そんな薄さではないわね。」

 

遠くで見ていたパチュリーも同様の意見だ。

 

「ごもっともだが、暫くはこれで行く。今の状態では仮に二人が俺と同じ厚みでオーラの鎧を纏っても同じ防御力は得られないぞ。」

 

「そうなの。じゃあどうするの?」

 

「オーラの質を高める修行を行う。」

 

白板にペンを走らせる。

 

『燃』

 

『点』『舌』『錬』『発』

 

新たに5つの漢字が並べられる。

 

「これもネンだ。こっちは念の事を聞いてくる者に対して、念を教えないようにするための方便。『点』で目標を定め『舌』で目標を口にする。この際は心の中で強く思うだけでもいい。そして『錬』で意志を高め、『発』で行動に至る。と言うものだ。だけど、これは全くの嘘と言う訳ではなく、この精神修行を持ってオーラの質を高める。まずは2ヶ月。毎日『燃』のみの修行に入る。だからわざわざここにくる必要は無くなる。1ヶ月後に途中の成果を見たいから、その時に来てくれ。」

 

「随分と退屈な修行ね。」

 

「仕方ない。始まったばかりだ。基礎修行しかできないからな。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

もう今日の修行は終わりになった。

 

情報量がとても多いので整理する必要がある。ただ、時間としては4時間程度で終わった。

 

次は1ヶ月後。それまではここに来ることはない。なら今日しっかり話さないと、次のチャンスがまた遠のいてしまう。

 

皆が解散する中、私は図書館に残り続けた。

 

帰らない私を見て、彼も察したようで客間に通してくれた。

 

こいつも執事なようで客間に入ってからも、すぐに紅茶と茶菓子を出してくれた。

 

そして向かい合って座った。

 

ある意味で待ち焦がれた再会。

 

「で、何が聞きたい?」

 

だけど、問われて言葉を失ってしまった。

 

自分はどう言うつもりでこの人を追いかけていたのか。最初は叩きのめすつもりだった。だけど、今は?

 

今更ながら何故自分はこんな「念の修行」なんてものに付き合っているのか?

 

私は実際にこの人と会って何がしたかったのか?

 

「アンタの見間違いじゃない。俺は11年前、吸血鬼が襲来した時にいた人間だ。」

 

彼から話を切り出した。内容はあの日の夜の話。私を助けた人間が目の前の人物の空似ではないと言う確認。

 

「その時から俺は紅魔館の勢力の一人だった。侵入した吸血鬼ってのも、察していると思うがお嬢様の事だ。俺は当時、アンタが何者かなんて知らなかった。ただ、俺達が戦争を仕掛けた所為で、人間の子供が被害を受けてしまうと考えて助けただけだ。つまりはただのマッチポンプだ。アンタが恩義を感じる必要はない。」

 

それを聞いた瞬間、私はバンッと立ち上がった。

 

「何を勘違いしてるのかしら。アンタに恩義を感じる?馬鹿にしないでよ!博麗の巫女に泥を塗ったアンタが許せないのよ!」

 

そうだ。侵略しに来ておいて、それで恩義を感じる?どこまで傲慢なんだ。それにそれが事実なら、尚の事向こうに非がある。

 

だけど、怒鳴ってみても私の感情のモヤモヤは晴れない。本能でこんな事をしたい訳ではないと言っているからだ。じゃあ何がしたいのか?

 

「そうかい。そりゃ悪かったな。」

 

怒鳴ったにも関わらず、怒るでもなく涼しい顔で紅茶を飲む彼を見ていると更にイライラする。だけど、再び怒鳴る気持ちも湧かない。

 

「10年間、地底を彷徨ったり、地上の妖怪や妖精と触れて時間を過ごした。そんなある日の事だ。空が赤くなったのは、直感でお嬢様の仕業だと思ったよ。同時に道草も終わりだと思った。帰ってみれば、お嬢様と互角以上で戦うアンタの姿があった。」

 

あの時の弾幕ごっこが見られていたらしい。それもかなりの近くで。

 

「こう言えばアンタは気分を害するだろうけどさ。正直に言えば、あんな大人しかった子がとても強くなっていた事に驚いたし、あんな綺麗な弾幕が撃てる程に大人になったんだなと上から目線で思ったものだ。」

 

「……………」

 

「だからさ、弾幕ごっこしないか?弾幕ごっこじゃ俺は幻想郷最弱だけど、それでもアンタとやってみたい。博麗の巫女じゃなくて、博麗霊夢と言う一人の人間とさ。」

 

私は漸く気が付いた。最初は叩き潰そうと思っていた。その気持ちが無くなっても、わざわざ紅魔館に赴いた己が行動の理由。それは、ただ彼と弾幕ごっこが(仲良く)したかっただけだ。

 

「別にいいわよ。本来、弾幕ごっこは勝負けが重要じゃなく、どれだけ綺麗な弾幕を貼れるかを競うものよ。今日の修行で念能力とスペルカードルールの相性が悪い事もよくわかったわ。それでも貴方の全力を見てあげる。」

 

「それはありがたい。なら早速やるか。」

 

すぐに外に向かう。

 

その背中に11年前に言えなかった言葉を小さくつぶやいた。

 

「……あの時、助けてくれてありがとう。」

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