「どうだった?感想とかはあるかい?」
「本当に丁寧に教えてくれるのですね。」
霊夢が帰った後、今度は八雲紫と八雲藍を客間に通した。咲夜が着いて来たいと言ったが、第三者が居たら八雲紫も本心を出さないだろう。念文字で咲夜にはパチュリー様の遠見の魔法で監視をお願いした。
「当然だ。咲夜と二人ペアでやるつもりだ。片方だけを贔屓して、レベルに差が出れば危険度が上がる。」
「しかし、紫様と私が調べていた情報と違うようだ。それぞれ固有能力がある筈。嘘を言ってるのか?」
そりゃアンタらの念の知識はかなり偏りがあるってさとりから聞いてるぞ。
「その説明は1ヶ月後だ。二人の成果確認と同時に俺が美鈴と組手を披露するつもりだ。そこでアンタらの言う固有能力の説明もする。」
「わかりましたわ。今はそれでいいでしょう。」
「アンタらの危惧する気持ちもわかる。この念能力は幻想郷と相性が悪い。これ以上能力者を増やさない事だ。」
「それはどう言う事ですの?」
「さっきも言ったが、念は霊術や魔術と違い、努力と時間さえ掛ければ、誰でも習得可能だ。」
その説明だけで八雲紫は気がついたようだ。
「人間が妖怪を恐れなくなる。」
「その通り。人里にでも広まれば大量の念能力者が発生する。正しい指導法が無く、大成しなくても、『纏』ができるだけで弱小妖怪相手になら生き残る程度は可能だろう。」
「だが、その程度なら少しの差だと思うのだが。」
「いや、『纏』は本当に基礎中の基礎。四大行を知らず、『練』を習得しなくても、その内『絶』と未熟な『発』ぐらいには至るだろう。」
「それはさっきの授業でも書いてあったわね。」
「1ヶ月後に二人に説明するつもりだが、先にアンタらに言っておくと、『絶』は精孔を完全に閉じて、オーラを絶つ技。気配消しに使う。デメリットがオーラの防御力が完全にゼロになる事。」
「なるほど、妖怪から隠れ易くなるな。」
「それだけじゃなくて、妖怪を奇襲する事も可能になるわね。」
「『発』はアンタらの言う固有能力だ。これもピンキリでしょぼい物もとんでもない物もある。我流でやれば、大抵前者だが後者が発生しない保証にはならない。万が一、後者が現れれば、いよいよ人間と妖怪の立場が逆転しかねない。………これで念能力を無闇に広めるリスクがわかった筈だ。」
「ああ、だがそれなら尚の事、お前の存在は認められないな。」
八雲藍が此方を睨みつけながら、妖力は放ってくる。
こんな狭い部屋で戦闘は勘弁してもらいたいのだが、壊したら俺が咲夜に怒られるんだよな。
だが主人である八雲紫がそれを止める。
「やめなさい、藍。」
「しかし…!!」
「今はいいわ。全てを知ってからでもいいでしょう、その判断は?せっかちなのはいけないわ。」
「……わかりました。」
「あらあら、拗ねないで。それに霊夢も彼の事を気に入ったみたいだわ。」
「じゃあ、もういいか?」
「ええ、勉強になったわ。また1ヶ月後に会いましょう。」
二人はスキマを開いて消えていった。
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水晶玉の映像越しに去っていく妖怪の賢者の姿を見る。
やはり警戒を怠ってはいけない。八雲藍が見せたあの警戒心。八雲紫は流石に表情には出ていないが、あれが実際の二人の心境であろう事は明白。
それと霊夢。さっきまでの弾幕ごっこでのやり取りを見て、彼女の心境も大凡把握した。
あれは11年前に命を救われた事による恩義。それと博麗の巫女のプライド。それが10年の時をかけて、拗らせていただけである。
つまり素直にありがとうと言えないストレスを10年間、抱えていただけだ。
弾幕ごっこを終えた後の霊夢の笑顔。
普段彼女は気怠げな表情が多い。勿論全く笑わないなんて事も無い。だけど、女の勘が訴えてくる。彼女には注意しておかないといけないと。まだ、彼女自身が己の感情を理解しきれていない。だけど、それが私にとって良くない方向に傾く可能性は十分にある。そんな霊夢の表情だ。
そもそも、シャーキャは弾幕ごっこが弱い。弾幕ごっこのプロである霊夢にとって退屈な勝負をわざわざ引き受けている時点でやはり警戒しておかなければ。
一度は彼に手をかけておきながら、厚かましいにも程がある。
怒りに震えるが、シャーキャ自身が気にも留めていないので、私もとりあえずは大人しくしている。だけど、次はない。それは八雲紫にも言える。
「さ、咲夜。オーラを抑えて。もう彼女達は帰ったわ。」
パチュリー様の声で正気に戻る。
「失礼しました。」
「まあ、警戒する気持ちもわかるわ。だけど、彼はあの修羅場を一人で潜り抜けたのよ。仮に戦闘になってもあの2人だけじゃ手も足も出ないわよ。」
パチュリー様の言い分もわかる。八雲紫1人だけでも、手をつけれない程の強者。そんな奴らを複数相手に袋叩きにされながらも、圧倒して見せた彼。正直、11年前ならいざ知らず、現在のシャーキャを初見で倒せる者などいないのではないか?
そう思ってしまうが、今彼は自分の手札を晒し続けている。八雲紫にとって十六夜シャーキャは初見の敵ではなく、その凶悪な能力で対抗策を練ることができる相手になっている筈。
彼が念を教えきり、霊夢も念をマスターすれば、彼は用済み。十六夜シャーキャは念能力を霊夢以外の他人に教え、広める可能性のある危険因子になる。それは私にも言える事だが、八雲紫の目は確実にシャーキャに向いている。
私も力を磨いて、少しでも戦力にならなければならない。彼の強さに甘えてはいけない。
「そうですね。少し頭を冷やします。」
「そうした方がいいわね。結構一気に理論も説明されたから、整理した方がいいわよ。」
「そうですね。では失礼します。」
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私は図書館を出て客間へ行く。
「シャーキャ、無事!?」
すぐに部屋へと入る。中でシャーキャは来客用の紅茶のカップを片付けていた。
その姿を見て胸を撫で下ろす。
「ああ、全員帰ったな。特に問題はない。」
「それでもよ。あの式神が怒気を発した時は生きた心地がしなかったわ。」
「そうか。心配かけたな。」
そう言うと私を抱きしめてくる。急な事で顔が赤くなるが、それを誤魔化すように私は彼を叱る。
「本当よ。くれぐれも気を抜かないで。」
「わかったよ。」
「それにしても、随分霊夢と仲がいいのね?」
一応彼にも釘を刺しておく。
ピクッと私を抱きしめる腕が動いたのがわかった。
「まさかと思うけど、霊夢に気があるわけじゃないわよね?」
「そんな訳ないだろ。」
「それにしては、今日の指導は随分と彼女に入れ込んでたようだけど。」
「そりゃあ、最初の掴みは大事だからな。」
「………………」
それでも納得できない。どうしてもあの時の霊夢の笑顔が頭に浮かんでくる。
彼を信用していない訳ではない。それでもこれから霊夢とシャーキャは否が応でも長い付き合いとなる。不安で仕方ない。
「……はあ、泣くなよ。ほら。」
いつのまにか泣いていたようだ。彼の指が私の涙を拭いてくれる。そのまま私の顔を覗き込むように彼の顔が近付いて来た。軽くキスされて解放される。
「これで勘弁してくれ。」
「………わかった。」
とりあえずはこれで引こう。これ以上彼を困らせるのは本意ではない。
熱を持つ顔を見られないようにすぐに客間から出ていった。