”CALL” me,Bahamut   作:KC

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ようやっと書きあがったので心置きなく新刊を読み始められます。

今回はちょっと長めでござる。


after_6) 愛を知らない野良猫

ンフィーレア・バレアレと漆黒の剣は、二日に分けた薬草採集活動を終え、エ・ランテルへと帰っていった。

 

彼らとの交流は、モモンガとクリュードにとって非常にためになるものであった。

 

ンフィーレアは旅の魔法詠唱者(マジックキャスター)モモンガがエンリ達に対して使用した()()治癒薬(ポーション)について非常に聞きたがっていた。

彼のその血走った目と尋常ではない様子に、思わず「自分たちは所持しておらず、モモンガの所持しているものについても知らない」と嘘を吐いてしまったが、後から事情を聞いて、この時の判断は正しかったと安堵のため息を吐いた。

 

モモンガ達が持つユグドラシル由来の治癒薬(ポーション)と、この世界におけるそれが大きく異なっていたからである。

 

 

ンフィーレアが緊急用に所持していた彼の作った治癒薬(ポーション)を見せてもらったが、そのどれもがユグドラシルでは見なかった青色だった。

 

加えて、彼の話ではこの世界の治癒薬(ポーション)は時間経過で劣化してしまうため、<保存>(プリザベイション)の魔法をかけて消費期限を延ばしているらしい。

 

親切という言葉を親の腹の中に置き忘れてきたのではないかと思わせるようなゲームシステムをくみ上げたユグドラシル運営でさえ、ポーションに消費期限は設定していなかった。

それが運営の優しさなのか、一つ一つに消費期限を設定する為のリソースが確保できなかった為なのかはわからないが。

 

 

この世界でもっとも多く流通している治癒薬(ポーション)は、薬草を使用して作る比較的安価なものだそうだ。薬草を原料とした治癒薬(ポーション)は使用後即回復するわけではなく、経時回復力を強化する程度のものであるらしい。

錬金術溶液に魔法の効果を封じ込めるタイプの治癒薬(ポーション)はすぐ効果が得られるが、非常に高価であり、上位の冒険者がいざという時のために所持するくらいであるという。

 

モモンガが使ったような()()治癒薬(ポーション)は、伝説にのみ存在する"神の血"と呼ばれ、時間経過で劣化せずに即時に魔法と同様の回復効果を発揮する、全ての薬師の目指す治癒薬(ポーション)の完成形らしい。

 

 

ユグドラシルにおけるポーションは、特殊なものを除いてすべて使用後即効果が得られるものであったし、最下級の下級治癒薬(マイナーヒーリングポーション)であれば数体雑魚敵を倒せば稼げる程度の値段でNPCの店から購入することができた。

 

しかし、この世界において同様の効果を持つものを購入しようとすると金貨八枚程度が必要となるらしい。

未だこの世界の金銭感覚が掴み切れていないが、話によると王国で三人家族が一年慎ましく生きるために必要な額がおよそ金貨十枚程度らしいので、それを考えるとかなりの価格である。

 

 

蘇生が一般的に浸透しているわけではない世界において、死にかけた際に命を繋ぐことができるものと考えれば安いのかもしれないが、ユグドラシルにおける価値と比較してどうしてもその金額に顔をしかめてしまう。

 

……というより、ユグドラシルにおける金貨一枚の価値が小さくなりすぎているだけなのかもしれない。

 

アダマンタイト程度が最硬の金属であると言われるこの世界では、存在する貴金属類の種類的にも相対的に金の価値が高いという事なのだろう。

 

 

 

彼らの薬草採集に興味本位でついて行ったりもした。

 

薬草の見分け方を教わって採集作業を手伝おうとしたが、いざ採ろうとして自生した薬草群を見たとたん、視界がぼんやりと定まらなくなり急に雑草との見分けがつかなくなった。

 

採取すべき薬草を指定されて丁寧に採取方法を教わっても、()()薬効のある葉を潰してしまったり根を千切ってしまったりしてまともにアイテムとして得ることはできなかった。

 

料理に挑戦したときに薄々予想していたことだが、やはりユグドラシルにおいて特殊技術(スキル)として存在していた行動は、たとえ日常的な動作であったとしてもその特殊技術(スキル)を所持していないと上手く行うことができないようだ。

 

一見して薬草採集に必要そうな職業(ジョブ)レベルを持っていなさそうなペテルやニニャでも薬草を摘めていたのは、彼らがこれらの行動を可能にする特殊なレベルを所持しているためか、このルールがユグドラシルからきた自分達にしか適用されていないからかは分からなかったが。

 

 

 

これまでに得られた多くの情報を精査して考える。

 

やはり、この世界は奇妙だ。

 

一見してユグドラシルと同じシステムに支配されているようで、細かな部分……特に、ユグドラシルでは気にされていなかった部分で差異がある。

 

"武技"と呼ばれる技術や、生まれながらの異能(タレント)というユグドラシルにはなかったシステム。

 

いつかクリュードが予想で語っていた、世界樹(ユグドラシル)の加護が消失した世界という設定が非常にしっくりとくるほど、物の価値や生き物の強さが異常に低い世界。

 

使われる魔法や出現するモンスターの種類は、消えてしまった世界樹(ユグドラシル)の残淬か、それとも……。

 

 

まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、不自然に歪んだルールであるように感じた。

 

 

自分達にとっての常識が、この世界での非常識となってしまうのはとても恐ろしい。

不特定多数に対して自分達が異邦人であることを知られたくない今、あまり常識を外れた行動をとることは避けなくてはならない。

 

ひとまず、ユグドラシル由来のアイテムを使用する際は周囲にバレないように慎重に使おうと二人で頷きあった。

 

 

「しかし、時間経過でアイテムが劣化するとかなかなかクソゲーですね」

 

「現実はクソゲー、ってことですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話は変わって。

 

かねてより考えてはいた、冒険者登録による周辺諸国への冒険と外貨獲得。

エ・ランテルに細いながらもパイプができた今、本格的に行動に移し始めようとしていた。

 

漆黒の剣はエ・ランテルで冒険者登録をするなら是非自分達を訪ねてくれと言ってくれたし、町の薬師との繋がりも確保できた。

カルネ村との距離的にも、登録地はエ・ランテルでほぼ決定だろう。

 

自分達の本当の姿を隠す意味でも、世間との能力バランスを考えても、漆黒の剣に見せた通り、全身鎧の戦士サトルと、魔法とアイテムで後衛・援護を行う魔術師リュウのコンビで行くことにした。

 

とはいえ、二人とも初めて受け持つ役割(ロール)だ。

 

登録後の初戦闘でぶっつけ本番をして不様な姿をさらすようなことはしたくない。

まずは肩慣らし。という訳で、周囲の探索と脅威排除をかねて、二人はトブの大森林へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

―*―

 

 

 

 

 

ドスン、と大きな音をたてて両断された巨大昆虫(ジャイアント・ビートル)が崩れ落ちる。

サトルがグレートソードに付着した体液を振り払っていると、木の影から狙いを定めた絞首刑蜘蛛(ハンキング・スパイダー)が糸を放とうとして……急に爆ぜ上がった炎に巻かれて墜ちた。

 

サトルの少し後ろから、リュウが首をかしげながら顔を覗かせる。

丸焦げになってピクピクと足のみ動かす大蜘蛛を見て、うげぇと舌を出して顔をしかめていた。

サトルは両手に持っていた二本のグレートソードを地面に突き刺し、ふぅと一息吐いた。

 

 

「いい感じですね。基本的には相手との射線に壁役(タンク)が来るように動きながら、憎悪値(ヘイト)と魔法の再使用時間(リキャストタイム)を気にして時々顔を出して撃つ、って感じで良いと思いま……思うぞ」

 

「使える魔法の射程距離と効果範囲を意識しながら相手と距離を保って動く……。うー、魔法詠唱者(マジックキャスター)の動きって難しいな、サトル」

 

 

普段からボロがでないよう、サトルとリュウを演じながら、それぞれの役割(ロール)の練習をする。

前々から密かに前衛に憧れていたサトルは楽しそうだが、元より敵に張り付いて殴るしかしてこなかったリュウはいささか頭に負荷がかかっているようだ。

 

憎悪値(ヘイト)管理は良いんだけど、魔法を使いなれてないから射程と効果範囲と……あと、MP管理が難しいよ……」

 

「リュウはそもそもMP総量が少ないです……からな。その上、結構消費魔力の大きい魔法を覚えているし。まあ、短剣片手に軽業もこなす設定なんだし、魔法は手段の一つくらいにとらえておくと良いさ」

 

「タメ口慣れないね」

 

 

ケラケラ笑いながらリュウは手にもった短剣をくるくると回している。

MPの最大値と魔法攻撃に少しだけボーナスのついた、杖代わりになる短剣だ。ボーナス量も大したことがないため、専業の人間が使うには明らかな役者不足だが、今の彼が使うにはちょうど良い武器だ。

 

リュウはそもそも近接戦闘を主体としたゴリゴリの前衛だ。取得している種族や職業レベルも戦士系ばかりのため、三〇レベルほどの魔法詠唱者(マジックキャスター)と比較してもMP総量は少ない。

専業の魔術師としてではなく、短剣を使う体術とアイテムを利用した魔法剣士に近い戦いを目指すつもりだ。

 

 

「それより、サトルの方が心配だよ。僕も一応戦士系だから近接戦闘の基礎くらいは教えられるけど、剣を使った戦いの技術なんて持ってないし」

 

「こればっかりは……。ペテルに教えてもらえばよかったか」

 

「ホームタウンにしようとしているところの冒険者だからね……あまり下手なところは見せない方がいいかも」

 

「まいったな」

 

 

ふう、と兜の隙間からため息が漏れる。

 

サトル──モモンガは、これまで魔法詠唱者(マジックキャスター)一本でキャラクターを育ててきた。

それ自体はサブアカウントの認められていないユグドラシルではよくあることだが、今この場においては少しばかり厄介だ。

 

今相手にしている程度の──"冒険者難度"でいうところの六〇程度までの相手であれば、サトルの持つ単純な身体能力で押しきって勝利することは容易い。

人間体をとることで若干ステータスは落ちているが、それでも戦士職三〇レベルほどの筋力ステータスがある。

しかし、それを越えてくる実力の敵──

つまり、ステータスの拮抗する相手との戦いでは、戦士としての技量が圧倒的に足りない。

 

リュウに教えを請えれば良かったが、彼の本来の主武装は(クロー)だ。剣などの武器をもって闘うというよりも、いわゆる肉弾戦に近い超近距離で行われる戦いであるため、剣術とは少し訳が違った。

 

 

「まあ、もう少し練習しよう。せめて格好くらいつくようにしておきたいよ……」

 

 

そう言って、サトルは地面に突き刺していた剣を引き抜き、次の獲物を探して周囲を探し始めた。

ファイトー、と言いながら後に続くリュウ。

 

 

そんな彼等を見つめる、ねっとりと絡み付くような視線。

チラと振り返ったリュウが見たのは、視線の主が音もなく影から飛び出し、リュウの首に刃を突き立てようとする姿だった。

 

 

 

 

 

 

─*─

 

 

 

 

 

 

してやったりだ、上手く行った。

 

 

竜王国で起きた一連の騒動の最中、一部の隊員を引き連れた漆黒聖典隊長が国を離れている隙にまんまと国を抜け出してやった。

 

軽く仕掛けた陽動のお陰で、手土産に巫女姫の一人が装備していた叡者の額冠を奪い取ることもできた。

無理矢理装備を外した影響で巫女姫は発狂してしまったが、自分にはたいして関係ない。

 

目を潰された裸同然の格好の少女が狂ったように叫びながらのたうち回る姿は見ていて面白いだろうが、それだけだ。

 

 

用意していた陽動のお陰で風花聖典の初動も遅れさせることができて万々歳。

 

国を出て、索敵のされづらい森の中に逃げ込んでしまえばそうそう簡単には見つかるまい。

加えて、このトブの大森林は魔物の領域。

あくまで捜索や索敵に特化した風花聖典だけでは、英雄の領域に踏み入れている自分には到底追い付けまい。

 

あとはこの手土産を渡して、()()が起こした混乱に乗じてより遠い地へ逃げ去るだけだ。

法国と仲の悪い評議国か……都市国家連合の方へいくのも良いかもしれない。いずれにせよ、ほとぼりが冷めるまで()()の力を借りて地下に潜り、時期を見てまた動き出せば良い。

 

 

それでようやく()の自由な日々が始まるのだ。

 

あんな糞を煮詰めた煮こごりのような国で、護りたくもない人類の繁栄のため等という下らない理由でボロ雑巾のように使い捨てられて死んでたまるものか。

 

 

自分のためだけに自由に生きて、いつかあの憎たらしい糞兄貴を殺して両親に中指をたてて嗤ってやるのだ。

 

ざまあみろ、ってね。

 

 

薄暗いトブの大森林を疾走しながら、()()()未来を想像して、彼女──クレマンティーヌは、口を三日月のように裂き、笑った。

 

 

 

 

 

体力を温存しながらスルスルと森を進み続けていると、前方に人の気配がした。

 

気配を消したまま姿を隠して様子を伺うと、全身鎧の男と少々派手な格好をした少年がモンスターの死骸の前でなにやら話しているようだった。

全身鎧の方は顔までしっかり兜で隠れているので分からないが、少年の方はこの辺りでは珍しい黒髪であった。

南方から来た貴族か、旅人だろうか。

 

いずれにせよ。

 

剣を持つ全身鎧の男は、あれだけの装備をしてぎこちない様子もなく動き回っているのでかなり高い身体能力を持っていると見える。

しかし、肝心の体運びは素人のそれだ。

おそらく、立派な鎧で攻撃を受け止め、身体能力で相手を押しきる戦いしかできないヤツだろう。そんな程度の相手、自分の敵ではない。

 

少年の方は魔法詠唱者(マジックキャスター)のようだ。奥で燃え尽きている死体をみればそこそこ出来るようだ。短剣を持っていることから、ある程度は近接戦の心得もあるのかもしれないが、所詮は後衛。

 

スッといってドスッで、おわり。

 

 

クレマンティーヌの中にある加虐心が膨れ上がっていく。

 

あのガキの首にスティレットを突き立ててやったら、どんな顔をして死んでいくんだろう。

死んでいくガキをみてあの鎧はどんな反応を見せてくれるだろう。

 

 

風花の追っ手を撒ききれていない今、痕跡を残すべきではない。

いや、ここは魔物の巣窟。死体など、すぐに食い漁られてしまいだ。

殺して、痛め付けて、殺して……

売れそうなものを戴いて、逃走資金にでもしようか。

 

 

 

この瞬間、クレマンティーヌを抑えるものはなくなった。

 

トロンと垂れた目は抑えきれぬ喜びに細められ、口はごちそうを前にした獣のように裂けた。

 

 

ああ、これは自分への御褒美だ。

 

これからの自由を祝って、(疾風走破)(クレマンティーヌ)に捧げる贄だ。

 

 

訳もわからず、なにもできずに殺される、絶望の顔を私に見せてくれ。

ツレを殺され、無様に喚きながら自分の無力さを呪ってなぶり殺されてくれ。

 

ああ、お前達のその姿こそきっと

 

私が求めている(愛している)モノだ。

 

それ()をくれるお礼に──

 

<疾風走破>

<能力向上>

<能力超向上>

 

最高の一撃をくれてやる。

 

 

猫科の動物を思わせるしなやかな動きで身体を屈め、バネのように勢いをつけて木の影から一気に飛び出す。

 

求めた将来が手元に近づきつつあることによる精神の高揚、長時間にわたる運動により温まった身体、そして完全に死角からの不意をついたその一撃は、クレマンティーヌのこれまでの人生で最高の一撃であったと自信をもって言える。

 

クレマンティーヌの目には、突き出す刃が少年(ガキ)の首元に吸い込まれていく様がスローモーションのようにゆっくりと映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クレマンティーヌは、これまでの人生で他人の言う()()()愛を知ったことは一度もなかった。

両親は自分よりも出来の良い兄ばかりを愛していたし、周囲も自分をみることはしなかった。

 

兄の影になってしまったが故の悲劇であったが、しかし彼女もまた確かに優秀であった。

 

魔法の才能はなかったが、幼い頃より秀でた身体能力とその身体を自由に操る優れた戦士の才能を持っていた。

最終的に人類の矛たる漆黒聖典第九席次の座を得たことからも、それは証明されているだろう。

 

しかし、稀有な才能をもった兄を持ってしまったがために、()()()()()()()()()()としての扱いを受けるようになってしまった彼女を、法国はまるで鉄砲玉のように使い潰した。

 

 

幼い頃の彼女はそれでも信じていた。

成果を出せば、褒めてもらえる(愛してもらえる)

 

 

友人ができた。

 

 

少し成長した彼女は、まだ信じていた。

この苦難(拷問)に耐えなければ、褒めてもらえない(愛してもらえない)

 

 

あと少しで、友愛にたどり着けそうだった。

 

 

友人の死を目の当たりにした彼女は、信じてしまった。

 

私は、愛されているべきだった。

他人は、それを苦しみ()で示した。

ならば私も、拷問()で示そう。

 

気づけば、彼女の回りは(苦しみ)で溢れていた。

 

 

無限に引き伸ばされたような時間の中、ふとクレマンティーヌは疑問に思った。

はて、自分は(苦しみ)に囲まれて満ち足りていたはずだが、何故そこから逃げ出そうと思ったのだろう。

 

 

自分を苦しめ(愛し)た兄に、両親に、国に、私からの(苦しみ)を与えるためか?

 

 

記憶の彼方で掠れていた、死んだ友人の顔が一瞬浮かぶ。

 

友人と共に大部分が死んだはずのいつかの自分(正気)が、叫んでいる。

 

 

 

 

愛されたい(愛されたい)

 

 

 

 

……バカバカしい。

 

直ぐにいつもの自分(狂気)が覆い被さり、獲物の方へ意識を向ける。

この獲物を狩る喜びを、糞野郎共(兄貴達)が信仰していた死の神とやらに捧げてやろう。

 

眼前では、哀れ獲物となった黒髪の少年が、自分に迫る刃に目を向けているところだった。

さあ、その表情が怯えに染まる様を見せて……?

 

 

 

……はて。

 

何故、この一瞬でこんなにも多くの事を考えることが出来ているのだろう。

 

少年が刃から目を離してこちらを見た。

 

目が合って、理解した。

 

 

 

 

 

これ、走馬灯だ。

 

 

 

 

 

 

異常に高速回転していた意識が捉えたのは、

 

少年が裏拳で私が剣を持っていた手を打ちすえ、そのまま同じ拳で顎と脚を打ち抜いた姿。

 

そのまま空中でバランスを崩され、くるくると回りながら意識はどこかに吹き飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─*─

 

 

 

 

 

 

 

いくつかの打撃音と金属音の後、グシャリと嫌な音をたてて何かが後方の木にぶつかった。

 

 

「うわぁ!なんだなんですか!?」

 

「素が出てるよ、サトル」

 

 

音がした方を見ると、周囲には数本のスティレットが突き刺さり、木にへばりつくようにして気絶している女がいた。

 

だらしなく白目を剥き、開いたままの口からは血と泡が少し漏れている。歯も何本か折れているようだ。

右手と左足は曲がってはいけない方向に曲がっており、痛々しい打撲の痕が見える。

 

目を背けそうになりながら、助けるために近寄ろうとしたサトルをリュウが押し留めた。

 

 

「リュウ、どうして止めるんだ!このままだとあの人死んじゃうよ!」

 

「あれやったの僕だよ。襲ってきたから反撃(カウンター)入れた」

 

 

サトルの動きが止まる。

自分達を害そうとした敵である、という事実が、すぐにサトルの警戒心のスイッチを入れた。

 

 

「ちょっと前からなにかいるなーってのは分かってたんだけど。まさか即襲ってくるとは」

 

「PKってことか?まさかプレイヤー……」

 

「いやあ、それにしてはちょっとお粗末だと思う。レベルも三〇ちょっとじゃないかな」

 

「尖兵の可能性もある……襲ってきた理由を吐かせてみるか」

 

 

有事に備え、二人とも元の姿(モモンガとクリュード)に戻る。

モモンガが周囲に探知阻害の魔法を張り巡らせたのを確認して、クリュードが回復魔法で女を回復させる。

 

クリュードのステータスでは彼女を全快させるには至らなかったようだが、外傷はかなり治癒されたようだ。

 

女が苦しそうに身動ぎし、血を吐くように咳き込みながら目を開く。

怨めしそうに此方に視線を向けると同時に目を見開いて固まった。

 

彼女が目にしたのは死の象徴。

その白い骨の指が自分を指差している姿であった。

 

 

<支配>(ドミネイト)

 

 

魔法によって光を失った目が、死の支配者(オーバーロード)を映している。

何の感情もないはずのその瞳には、すがるような気持ちと、深い絶望と後悔の色が浮かんでいるように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

魔法による尋問は、抵抗(レジスト)に失敗すれば嘘がつけない。

 

二人の()()に答えたのは、彼女のむき出しの心であった。

 

 

彼女の名前はクレマンティーヌ。

 

スレイン法国の特殊部隊、漆黒聖典に所属していた。

 

この二つに答えた時点で、この女性が二人にとって現時点でもっとも警戒するべき集団の一人であることが判明した。

 

これはかなり深いところまで知っている可能性が高い。

 

そう判断したモモンガは、本人の解釈の混じる()()ではなく、彼女自身の()()を覗き込むことにした。

 

 

「クリュードさん、記憶を直接覗くので情報を魔法で共有しておきますね」

 

「はーい」

 

 

 

 

<記憶操作>(コントロール・アムネジア)

 

 

 

 

モモンガは、クレマンティーヌの()()()()をビデオの早送りのように追体験していった。

 

 

孤独に支配された幼少期。

 

冷たい目でこちらを見る周囲。

 

敵の手による苛烈な拷問。

 

初めて心を通わせた友人。

 

そしてその死。

 

歪みきった彼女の、漆黒聖典での活躍。

 

 

 

 

大量の情報と一緒に、彼女の感情の濁流がモモンガにぶつかっては消えていく。

 

スレイン法国の秘宝や戦力、彼女の知りうる限りの秘匿事項を知ることができた。

しかし当然、これだけの秘密を知る彼女を法国が放っておくとは思えない。

彼女に接触し、情報を抜き出したことがバレるのはまずい。

 

記憶を消して放逐は論外だ。

蘇生できないように()()するのが最善か──

 

そう考えた時、追体験していた彼女の最後の心の呟きが再生(リフレイン)される。

 

 

 

 

 

 

 

 

愛されたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法で逐一情報を送ってきていたモモンガの動きが止まった。

 

クリュードは、固まったままなにかを考え込んでいるモモンガを不審に思いながら、クレマンティーヌをどうすべきか考えていた。

 

クレマンティーヌから得られた情報はかなり多い。

特に、スレイン法国の内部の情報が得られたのはかなり大きいだろう。

 

ユグドラシルプレイヤーの作った国。

竜王国で見たあの青年は漆黒聖典の隊長。

そして法国の取っておき、隊長よりも強い番外席次。

 

六大神(プレイヤー)が残した、至宝(アイテム)の数々。

自分達(異形種)とは相容れぬ、警戒すべき国。

 

その国の暗部に全身浸かっているこの女をこのまま放逐する選択肢はないだろう。

この女はどうやらスレイン法国側から見れば裏切り者のようだ。

捕らえて法国に突きだし恩を売る手もあるが、わざわざこちらの存在を明かすのが得策とも思えないし、情報を抜かれたと疑われてしまう可能性が高い。

 

()()()()か?

 

 

「……クリュードさん」

 

 

モモンガの様子がおかしい。

白い骸骨から響くその声は、少しだけ震えているようだった。

 

 

「……同情しましたか」

 

「……記憶を追体験している間ずっと、その時々の彼女の感情も流れ込んできたんです。辛い、苦しい、……寂しい、感情が」

 

 

単なる情報として記憶を受け取っていたクリュードですら、少々不憫に思う来歴だった。

本人の感情にさらされてしまったのだとしたら、人として生きようとしている彼はひどく影響を受けるだろう。

 

特に、()()()()()()()()()()()、彼は。

 

 

「……。ま、この女次第ですね」

 

 

それを聞いて少し安心したような雰囲気を出したモモンガは、かなりのMPを消費してクレマンティーヌの記憶の一部を塗り潰し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─*─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭がぼんやりしている。

 

視界に光はない。目を閉じているからではなく、光の無い場所にいるからのような気がする。

体の感覚がない。というよりも、体がなくなっている気がする。

 

だが、そのわりには自分でも驚くほど心が凪いでいる。

何時もは常にぐにゃぐにゃと形を変えながら自分に覆い被さっている(自分を守っている)狂気の外面が見当たらない。

 

 

 

──選べ。

 

 

 

声が聞こえる。

なにかとても恐ろしいものの声だった気がする。

何の声だったか必死に思い出そうとするが、なにかに塗りつぶされてしまったように、靄がかかってしまっている。

 

無い筈の体が震え上がり、必死にその場から逃げ出そうとしている。

しかし、なにも動くことはない。

 

 

──ここで苦しみなく、永遠に果てるか

 

──我々に服従を誓い、苦しんで生きるか

 

 

ああ、嫌だ。

何時もは狂気が覆い隠しているから漏れ出さないモノが、今はどんどんと無様に溢れだしていく。

 

 

 

死にたくない。

 

まだ、誰にも愛されてない。

 

何でもするから、生きていたい。

 

 

 

 

────。

 

――よろしい。では、取引だ。

 

 

 

 

 

声が魔法を行使したようだ。

その声色はどこか安心したもののように聞こえる。

 

魔法の鎖がどこかから生まれ、自分を縛っていくのを感じる。

彼らに背くことをすれば、きっとこの鎖は私を絞め殺すのだろう。

だが、その鎖は不思議と苦しく感じなかった。

 

いつしか、何時もよりも大人しい外面が覆い被さっているのを感じた。

 

いつからだったかわからぬ間に、体を、音を、光を、取り戻していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木々の隙間から差し込むわずかな光が顔を照らし、そよぐ風が頬をなでている。

体はほんのりと熱を帯びており、まるで朝の微睡みのような心地好さを感じる。

 

少しずつ体が感覚を取り戻していくのを感じていると、誰かの話す声が聞こえる。

 

 

「──る─に────ないと──ね」

 

「─うで──。――ですか?」

 

「――ますよ。ほい」

 

 

意識が輪郭を取り戻す。

ぼんやりとした頭のままでゆっくりと目を開けると、こちらをみている二人の人間が見える。

 

誰だったかと記憶をたどる。

霞の中に隠れていたが、思い出すことができた。

 

 

「やあ、おはよう。意識はしっかりしてる?」

 

 

少年がこちらの目を覗き込んでくる。

お前がやったんじゃないか、白々しい。

 

今度こそ殺してやろうかと睨み付けようとしたが、不思議なことに殺意が沸いてこない。

首をかしげながら二人を見ると、一瞬だけ二人に何か恐ろしい存在が重なったように見えた。

 

意識とは裏腹に、本能とでも呼ぶべき何かが彼らに逆らってはならないと悲鳴にも似た叫びをあげている。

 

 

「さて、取引の続きだ。君には私達に服従を誓ってもらった。そうである限り君は私達の()()だ。君に降りかかる災難は私達の災難だし、君の幸福に可能な限り協力しよう。だが、我々を裏切って我々の身内を害すようなことがあれば――」

 

 

――ただで済むと思うな。

 

 

鎧の男の声が頭に響く。

体中を虫が這いまわるような悪寒で鳥肌が治まらない。

冷汗か脂汗かわからない何かが頬を伝い、帯鎧の隙間から肌を伝っていく。

 

首を小さく縦に振る以外、一つも身動きが取れなかった。

 

 

「何、悪い事しなければいいだけさ!別に非人道的なことをするつもりもない。差し当たっては僕らの拠点の護衛と……()()()をお願いすることになるね」

 

 

少年がケラケラと笑いながらいつの間にか腰が抜けて動けなくなっていた私をヒョイと持ち上げ、肩に担いで歩き始める。

……私はガタイがいいほうではないが、所持品や装備品、戦士として鍛え上げた肉体を考えれば、コイツ程度の体つきで簡単に持ち上がる重さではないはずだ。

魔法詠唱者(マジックキャスター)だと思っていたが、見た目に似合わぬこの筋力といい、先ほどの……人類最高峰の戦士であるはずの私ですら回避不可能な速度の反撃(カウンター)。拳法使いだったのだろうか。

……いや、確かに火炎系の魔法でモンスターを倒していたはずだ。火炎の威力的に、第三位階相当の魔法であるのは確実だと思われる。

第三位階相当の魔法を使いこなし、私を片手で簡単にいなす格闘の実力者。

 

 

「……バケモンが……」

 

「裏切らなければそのバケモン達の身内だよ。おめでとう」

 

 

何も言えなくなり、そのままうなだれる。

最早彼女の表情に狂気と呼べるものは見当たらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森の中にかすかに響く、重いものが地を蹴る振動。

野伏(レンジャー)の技能は持たないクレマンティーヌだが、優れた戦士として研ぎ澄まされた感覚は、下手な野伏(レンジャー)よりも鋭い。

遠くから確実にこちらめがけて迫りくる脅威を、鋭敏に感じ取っていた。

 

 

「……ねぇ、なんか来てるっぽいんだけど」

 

 

今日の戦利品(クレマンティーヌ)をとりあえずカルネ村に連れて行こうとする道中、リュウに担がれたままのクレマンティーヌが反応した。

サトルは背中のグレートソードを抜き、音のする方向をにらみつける。

 

ビリビリと振動する木立の間から、ビュンと風を裂く音と共に何かが飛び込んできた。

サトルはとっさに剣を振りぬき、飛び込んできたものを切り落とそうとする。

ガキンという金属がぶつかったような音を立てて弾かれたそれは、鞭のようにしなりながら木立の影へと消えていった。

 

 

「ほう……某の初撃を受けて無事とはなかなかできるでござるな、人間」

 

「……森の賢王」

 

 

怯えと諦めの入り混じった声でクレマンティーヌは呟く。

魔物の巣窟であるトブの大森林の中で暴れすぎたか、と悪態をついている。

 

 

「む、エンリが言っていた奴か……だとしたら殺すのはまず……い……?」

 

「……癒し系だね」

 

 

遥か昔の侍のような言葉と共に木の陰から姿を現したのは、黒く湿ったつぶらな瞳に、全身を柔らかそうな毛に覆われた齧歯類。

鋼のような尾を除けば、巨大化させたハムスター以外の表現方法が見つからない魔獣だった。

 

 

「これを癒し系と言い切るアンタ達はやっぱりバケモンだよ」

 

「……サトル、どうしよう?」

 

「降伏させるしかないな」

 

 

グレートソードを構え直し、森の賢王(でかいハムスター)に向き直る。

リュウにはシュールな絵面にしか見えない。

 

 

「ほう、やる気でござるか……ならば命の取り合いをするでござあァァ――――ッ!?」

 

 

ステータス的に拮抗するであろう相手との戦士としての戦いを前に緊張したサトルは、無意識に<絶望のオーラ>の特殊技術(スキル)をオンにしてしまった。

全身の鎧の隙間から漏れ出す絶対的な強者のオーラに中てられた森の賢王(ハムスター)は、口上の途中で情けない悲鳴を上げながらひっくり返ってしまった。

 

ついでにオーラに中てられたクレマンティーヌも震えながらへばりついてくる。邪魔である。

 

 

「こ、降参でござるよー。何でもするから殺さないで欲しいでござる……」

 

「なんか今日こんなのばっかり……」

 

「いいじゃないかサトル。コイツのお腹やわらかいぞ」

 

 

深いため息をついて肩を落とすサトルを慰めつつ、ひっくり返った森の賢王(ハムスター)の腹に飛び込むリュウ。

もしゃもしゃと腹の毛を堪能する彼を見ながら、クレマンティーヌを村に紹介するための準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─*─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュゲムは、エンリとネムの姉妹や他のゴブリン隊と共に村に面しているトブの大森林の方面を注視していた。

先ほど、周囲の哨戒をしていた騎兵(ライダー)のキュウメイとチョウスケから、騎乗している(ウルフ)達が森の奥から何かが来ると警戒を続けていると報告があった。

 

村人たちは村の広場に集まってもらい、有事の際には合図とともに護衛役の死の騎士(デスナイト)数体を盾に逃げ出す手筈となっている。

ジュゲムとしてはエンリとネムも村人たちと共にいてほしかったが、午前中に特訓と称して森に入っていったサトルとリュウの二人が心配だからと頑として譲らなかった。

 

正直、この村にいる十数体の死の騎士(デスナイト)が束になってかかってもあの二人には勝てないと思っているので、心配するだけ無駄なのではないかと思ってはいるものの、召喚主の手前口にはしない。

あの二人のおかげでエンリが幸せそうなのは確かだし、ゴブリンたちにとっても仲間ではあるからだ。

 

 

遠くでギャアギャアと鳥たちが騒ぎながら飛び立つ音が聞こえたのを最後に、森の中から小動物たちの声が消え、あり得ないほど不自然に周囲が静まり返る。

それと同時に、森の奥から明らかに強者の気配を纏った何かがこちらへと向かってきているのを感じた。

 

チリチリと肌を焼く様な緊張感が場を支配し、ジュゲムは息を呑んだ。

やはり、少なくとも自分達では束になってもかなわない相手だ。だが、サトル達ほどではないと思う。

村人を守っている死の騎士(デスナイト)達ならば、束になれば倒せるだろう。

 

誰かを殿として、数体の死の騎士(デスナイト)を呼びに行けば犠牲は最小限にできる。

エンリ達を下げながら、機動力のある騎兵(ライダー)二人で死の騎士(デスナイト)を呼びに行かせる。

 

 

敵対の意思が見られたら、すぐに走れ。

 

キュウメイ達に合図を送ると二人は(ウルフ)に飛び乗り、エンリ達を少し下げる。

いつでも走り出せる準備が整うと共に、木々の隙間から巨大な影が顔をのぞかせた。

 

 

人を大きく超える巨大な体躯に、深い叡智を思わせる黒く大きな瞳、全身を覆う白銀の毛皮。そして蛇のように自由自在に動く非常に長い尾。

 

 

「……森の、賢王」

 

 

誰かの口からボソリと漏れた言葉。

これまでカルネ村を森のモンスターたちから守っていた存在が、ついにその牙を村に向け――

 

 

「あれ、ジュゲム達そろってる。どうしたのさ」

 

 

賢王の頭からニュッとリュウが顔を出した。

さらにその巨体の影からはサトルと一緒に、軽鎧に身を包んだ()()()()()()()()()()()()()()()が現れる。

 

 

「あー!サトル様達帰ってきた!」

 

「おかえりなさい!えっと、その方達は……」

 

 

飛びついてきたネムを抱きかかえたサトルは、そのまま賢王の頭にいるリュウにネムを預ける。

 

 

「ただいま皆。えーっと、彼女は……()()()。優れた戦士でね。森の中であったところをスカウトしたんだ。これからは村の護衛として働いてもらうつもりだ。それとこのでっかいのは……」

 

「ハムスケでござる!殿の強さに感服し、忠誠を誓ったでござるよ!森の賢王と呼ばれることもあったでござるが、殿に名を頂いたのでそう呼んで欲しいでござる!」

 

「レティさんにハムスケさん、よろしくお願いします!それにしても、森の賢王を従えちゃうなんて、さすがサトルさん達です!」

 

 

エンリはキラキラとした目をサトルに向け、ネムはリュウと一緒にハムスケの上ではしゃいでいる。

二人ともどう見ても単なる村娘にしか見えないはずなのに、この場の誰よりも肝が据わっている。

 

 

「レティ、彼女がエンリだ。一応私達の世話役をやってくれているから、何かあったら彼女に言うといい」

 

「……恐ろしいお嬢ちゃんね」

 

 

レティ――クレマンティーヌは、最早諦めたような声色でエンリと挨拶を交わした。

彼女が持っていた所持品はすべてサトルに渡してある。最初は抵抗の意思を削ぐためかと思ったが、すぐに代わりとして別の装備を渡してきた。

正直、本国にいた時の装備品に匹敵するほどの魔化をほどこされた武具ばかりだ。渡した装備がゴミに思える。

 

渡された武器は使い慣れたスティレットではなくレイピアだったが、戦闘スタイルは大きく変えることなく使用することができる。

身軽に動くためとはいえ、これまでの装備は少々肌の面積が多いものだったが、一転して現在は全身をタイツのような鎖帷子(チェイン・シャツ)で覆っている。

 

言われてすぐに身に着けた魔法のピアスのおかげで、クレマンティーヌは元の面影を残さない顔へと変わっている。

 

もはや親族ですら、一見して彼女をクレマンティーヌだと言い当てることはできないだろう。

 

 

「さあ、レティをみんなに紹介だ。それとハムスケ、この村の人間の顔を覚えておけよ。襲うんじゃないぞ」

 

「了解でござる!」

 

 

リュウとネムを乗せたまま、のしのしと村の中へと進んでいくハムスケ。

その背を追う様にサトルたちも村へと戻っていく。

 

そんな中、一人蹲ってその場に残るジュゲム。

 

 

「またこのパターンですかい……」

 

 

ジュゲムはキリキリと痛む腹を押さえながら、キュウメイ達に村の警戒を解くように指示を出した。

 

 




<記憶操作>で感情云々:捏造です。たぶん本編ではそんなことは起こらない。

クリュードの使った回復魔法:<ケアル>系統。対象のHPを回復。アンデッドにはダメージ。

魔法のピアス:装備者に<変装>(ディスガイズ)の魔法を永続的に付与する。声はそのまま。物理的接触による発覚を避けるため、クレマンティーヌは体と顔の輪郭は変えずにパーツだけいじっている。

レティ:
「クレマンティーヌだから……。……げろしゃぶか……フーミンだな」
(エエ――ッ!?)



またしばらくお待たせします。

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