最愛の人へ 〜未来への光〜   作:糖也

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第六話 家族

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すっかり遅くなっちまったなー」

 

 

夕暮れの中、真姫と二人で帰路を歩く。

見ると蛍光灯の明かりが所々つき始めていた。

 

 

「...」

 

 

横を見ると、何やら不機嫌そうに俺の隣を歩く真姫が目に入った。

 

 

「なんだよ。楽しくなかったのか?」

 

 

「違うわよ...お洋服が汚れちゃった...」

 

 

外に出る前まで真っ白だったこいつの服は、今は所々泥が付着してしまっている。

ていうか、そんな格好で遊びに行ったらそうなるに決まってんだろ。

まぁ俺が無理やり連れ出したんだけど...

 

 

「...名前」

 

 

「は?」

 

 

そんなことを考えていると、真姫がボソッと何かをつぶやいた。

声が小さすぎて聞こえなかったが...

 

 

「ねぇ...これからは、ヒロって呼んでもいい?」

 

 

すると真姫は顔を真っ赤にしてはっきりとそう言った。

思えばお前から、一度も名前で呼ばれたことはなかったな...

 

 

「俺もお前のこと名前で呼んでんだ。

お前も俺を名前で呼ぶのはふつーだろ?」

 

 

「...うん///」

 

 

そういうと真姫は少しだけ笑顔になる。

 

 

「今日は楽しかったか?」

 

 

お前を連れ出して、公園で色々遊んで...

今日お前はどう思ったのかな...

やっぱり家がいいのならもう連れ出したりはしない...

けれどもし、お前があの息が詰まりそうな生活より、こっちの方が楽しいと言うのなら、俺は何度でもお前を連れ出すよ。

 

 

「...生まれて初めてだった...こんなに楽しかったのは...

私ね...昔から習い事や勉強ばかりだったの...

そのおかげでいろんなことができるようになったし、テストで100点もとれて...

パパとママの言うことに間違いはないって思ってた...

でも...」

 

 

「...」

 

 

「でも...こんな世界もあるのね...

誰かと遊んで、笑って...

今までずっと一人ぼっちだったから...

あなたと一緒に外で遊ぶのは本当に楽しかった。

だから...今日は連れてってくれてありがとう...ヒロ」

 

 

 

そう言うと真姫は今日一番の笑顔を俺に向けてくれた。

そうか...

真姫はまだ...何も知らないんだ。

今日、驚いたよ。

お前は俺たち世代の遊びや流行を何も知らなかった。

みんな知ってるはずのことがお前の中には何一つ詰まってなどいなかった。

 

 

「また...遊びに行こうぜ」

 

 

「え...」

 

 

俺が言えた義理じゃないけど、確かに勉強や習い事は大事だと思う。

でも、それが全てじゃないだろ?

 

 

「俺も今日は、お前と遊べて楽しかった。

そんでお前が楽しそうに笑っているのを見た時...すげー嬉しかった」

 

 

お前が笑ってくれるなら、俺はお前とまた遊びに行きたい。

俺と初めて会った時のような顔は似合わない。

そんなに可愛いんだ、お前はやっぱり笑ってた方がいい。

 

 

「だからまた、外に遊びに行こう。

色んなとこで遊ぼう。

お前が楽しいと思えるなら俺は何度でもお前を連れ出してやる。

隣でお前を守ってやる。

だから約束...」

 

 

そう言って小指を差し出す。

真姫は一瞬驚いたような顔を見せたけど...

 

 

「...うん///」

 

 

俺の小指に自分の小指を絡ませ、笑顔で頷いてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒロ!!」

 

 

家の近くまで来ると父さんが俺を待ち構えていた。

 

 

「ただいまー

ちょっと公園で遊んで...」

 

 

ゴチンッ

 

 

俺がそう言いかけると、脳天に思いっきりげんこつを食らった。

 

 

「いっっってーーーー!

何すんだよ!」

 

 

あまりの痛さに頭を押さえたまま父さんに問いかける。

俺なんも悪いことしてねーだろ!

 

 

「おまえ!真姫ちゃんに習い事サボらせたな。

時間になっても家にいないからみんなで探し回ったんだぞ!

それにこんな遅くまで真姫ちゃんを連れまわすな!」

 

 

やべー、相当怒ってる。

でも、俺は悪いことはしてない。

それに帰ってきたのだっていつもより早いくらいだ!

 

 

「遊ぶことの何が悪いんだよ!

それに真姫は...!」

 

 

そこまで言いかけて思いとどまる。

それを言ったら、真姫が自ら抜け出したみたいになるじゃないか...

 

 

「いや、なんでもない...」

 

 

「とにかくついてこい。

真姫ちゃんを家に届けるから」

 

 

そう言って父さんは真姫の家まで歩き出した。

 

 

「ヒロ...」

 

 

隣を見ると、真姫がまた暗い表情で俺の名前を呼んでいる。

 

 

「心配すんな、大丈夫だから...」

 

 

そう言って真姫の手を握り、父さんの後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

父さんがおじさんに謝っている姿を隣で眺める。

その姿を見てだんだん申し訳ないと言う気持ちが湧き出てきたが、やはり何が悪いか自分自身イマイチわからないでいた。

 

 

「本当にすまない。それじゃあ...」

 

 

父さんの言葉を最後に家を後にしようとしたところで...

 

 

「おじさん!」

 

 

俺はおじさんに声をかけた。

 

 

「...今日、真姫を連れ出したのは俺だ。

真姫は習い事があるから行けないって言ってたんだけど、俺が無理やり連れ出した。

だから...真姫のこと、怒らないであげてください...」

 

 

それが俺の願い。

俺が怒られるのはまだいい。

ただ真姫のことは怒らないであげてほしい。

 

 

「ほら行くぞ」

 

 

そう言って父さんに腕を引っ張られ無理やり連れていかれた。

去り際に真姫の顔を見たが、また前みたいに暗い表情になっていたのがわかった。

なんだよ...せっかく笑ってくれたのに...

また元に戻っちまった...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、ベットの上で一人考えた。

今日のあいつの笑顔、笑い声、楽しかったと言ってくれたあいつの言葉。

やっぱり遊ぶのに理由なんかいらないはずだ。

あいつはずっと、悩んでた。

あいつの気持ちを聞いて、改めて思ったこと...

やっぱりこのままじゃダメだ。

親の言いなりで、自分の気持ちを素直に出せないあいつを見てるとイライラする。

でもそれは、周りの環境と、生まれ持ってのあいつの性格のせいであって...

自分の本当の気持ちをおじさんたちに伝えたらきっと、わかってくれるんだと思う。

 

明日、もう一度あいつを誘おう...

そしてまた一緒に遊びに行くんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♪〜

 

 

昨日と同じように真姫はピアノを弾いている。

俺もそれを庭の窓から眺めていた。

 

 

「真姫...また遊びに行こう」

 

 

俺がそう声をかけると、真姫は演奏を終えこっちに振り向いた。

 

 

「でも...」

 

 

そう言ってモジモジと下を向く。

俺の言葉を否定しないところを見ると、真姫自身もまた、外に出たいと思ってくれているってことなんだろう。

 

 

「ねぇヒロ...

あなたはなんで...そんなに真っ直ぐなの?」

 

 

「え...」

 

 

真姫の問いに、声がこぼれた。

 

 

「昨日、あれだけ怒られても...あなたはなんで、私を誘ってくれるの?

また、私と遊びたいなんて言ってくれるの?

今まで、そんな人はいなかった...

私と遊びたいなんて言ってくれる人なんて...一人も...」

 

 

そう言ってまた目線を落とす。

 

まぁそれはお前の素直になれない性格のせいなんだろう。

でもそれはおまえを知らない奴らが、お前の本当の優しさや思いやりに気づいてないだけ...

俺はこの一年で、お前の気持ちは大体理解したつもりでいるよ...

 

 

「そんなの決まってんだろ。

お前と遊ぶのが楽しかったからだよ」

 

 

「...!」

 

 

そう、昨日お前と遊んで、俺は心の底から楽しいと思えた。

嘘じゃない、何も知らないお前が初めてやる遊びや、流行を知って笑う姿は俺にとっても嬉しかったんだ。

そりゃ、お前の環境がかわいそうだってのもあるかもしれないけど、それよりも純粋に、また俺は真姫と遊びたいと思ってる。

 

 

「俺はいいんだ、怒られるのはなれてるからさ。

だからまた外に出ようぜ!」ニシシッ

 

 

そう言って、俺は真姫に笑顔を作った。

 

 

「...うん!」

 

 

返事とともに、真姫は立ち上がり玄関の方に走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え...もうかえるの?」

 

 

「あぁ、ちょっと用事があってな」

 

 

昨日と同じように公園で遊んでいたところで、俺はそろそろ帰ろうと真姫に提案した。

昨日よりも随分と早くに帰ろうという俺に真姫は驚いていたが、昨日あれだけ時間について怒られて流石に遅くなるまでは遊べない。

俺だけならまだしも真姫がいるからな...

 

 

「一応おばさんに連絡はしてるけど、今日は早く帰ろう。

今日はまだやることがある」

 

 

今日は母さん伝いにおばさんに連絡してもらった。

また迷惑をかけるわけにもいかないから。

 

 

「...うん」

 

 

真姫は少し落ち込んでいたが、納得したのか俺の後ろをついてきてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま〜」

 

 

午後四時。

俺は真姫を連れて自分の家に帰った。

 

 

「おかえりー、あら?」

 

 

「お、お邪魔します...」

 

 

真姫は母さんを見た後、挨拶を返したがすぐに俺の後ろに隠れてしまった。

 

 

「まぁ真姫ちゃんもきたのね!

さぁあがってあがって!」

 

 

母さんは真姫を見つけると嬉しそうにそう言ってくる。

 

 

「ほらあがろうぜ?

今日は習い事ないんだろ?」

 

 

「...うん」

 

そう言って真姫を家にあげた。

まだなれない人の前では人見知りするようで、真姫はおずおずと俺の後ろをついてきた。

 

 

リビングに入るとキッチンからいい匂いが漂ってくる。

 

 

「ゆっくりしていってね。

そうだ、真姫ちゃん晩御飯食べていってよ」

 

 

「で、でも...」

 

 

「遠慮しないでいいから。

もう少しでできるから待っててね」

 

 

「///あ、ありがとうございます」

 

 

何やら勝手に話が進んでいく。

母さんも真姫が遊びに来てくれて嬉しいのだろう。

いつもよりテンションが高い気がする。

 

 

「晩飯できるまでゲームしよーぜ。

俺の部屋に行こう」

 

 

そう言って真姫の手を引いて部屋に連れて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いただきます』

 

 

夕方になると父さんも帰ってきて、俺たちは夕食にありついた。

ただいつもと違うのは、夕飯が豪華なことと食卓に真姫がいること。

 

 

「家に連絡しておいたからゆっくり食べていいからね?」

 

 

「は、はい」

 

 

父さんは真姫にそう言って微笑んだ。

なんだよ、父さんも真姫がきて嬉しそうじゃないか...

真姫はというと、父さんが帰ってきて少し緊張してるみたいだ。

昨日目の前で父さんのゲンコツを見たからな、ビビるのも仕方がない。

...思い出したらまた頭が痛くなってきた。

 

 

「泊まってもいいんだけど、明日学校だからやめといたほうがいいかもね。

ヒロ、あとで真姫ちゃんを送ってあげなさい」

 

 

母さんは夕食を食べている俺にそう言った。

言われなくてもそのつもりだったけど...

 

 

「了解」

 

 

「なんだ、今日は素直だな。

真姫ちゃんがいるからいい子にしてるのか?」

 

 

「///う、うるさいよ!」

 

 

そんな会話をしながら、俺たちは夕食を食べ続ける。

真姫の方を見るとなぜか少しだけ笑っていた。

 

 

「どうしたんだよ」

 

 

俺がそう言うと真姫は俺の方を見て食べるのをやめた。

 

 

「ううん、なんだか...あったかくて...」

 

 

「ん?できたてなんだから当たり前だろ?」

 

 

夕飯があったかいのが嬉しかったのか?

家でいつもどんな飯食ってんだよ。

 

 

「そうじゃなくて...

誰かと一緒に食べるご飯って、久しぶりだから...

とても暖かくて...こんなに楽しいご飯、初めてだから...」

 

 

「...!」

 

 

おまえ...家に誰もいないのか?

知らなかった。

真姫がいつも一人でご飯を食べていたことなんか...

 

 

「おじさんたちは...?」

 

 

「パパもママも仕事が忙しくて...いつも帰ってくるのが遅いの...

ご飯はいつも家政婦さんかシェフが作ってくれてるものを食べてる...」

 

 

真姫は少し寂しそうにそう言った。

 

話を聞くとおじさんもおばさんも多忙で真姫が寝静まった頃に帰ってくるらしい。

弟の翼も幼稚園の居残りで、夕方にお手伝いさんが向かいに行ってくれてるそうだ。

学校から帰るといつも習い事か勉強で、友達と遊ぶ時間も好きなことをする時間もない。

親の方針とは言っても、俺なら耐えられそうにないな...

 

真姫...おまえ...いつもそうやって過ごしてたのか...?

なんだよそれ...そんなの...寂しすぎるだろ...

 

 

「うちに来ればいい」

 

 

「...!」

 

 

「一人の時はいつでもうちに来ればいい...

俺も母さんも、ヒロも...いつでも待ってるから...」

 

 

父さんは真姫に向かって微笑みながらそう言った。

俺も同じ気持ちだ。

家に誰もいないなら俺の家に来ればいい。

暇なら俺と遊べばいい。

野球があるから、毎日は無理だけど、俺ならおまえも気兼ねなく遊べるだろ?

 

 

「真姫...行こう」

 

 

「え...」

 

 

食べかけの夕飯を置いて、俺は真姫の手を握り、椅子から立たせる。

 

 

「おまえの気持ちを伝えるんだ。

おじさんとおばさんに...」

 

 

「で、でも...」

 

 

「大丈夫、俺がついてる。

おじさんたちだってきっとわかってくれる。

俺に任せろ!」

 

 

そう言って俺は真姫の手を引いて廊下に出た。

 

 

「ちょっとヒロ!ご飯は?」

 

 

「あとで食べるから置いといて!」

 

 

母さんにそう答え、俺たちは真姫の家に向かって走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピーンポーン

 

 

真姫の家のインターホンを押す。

数秒すると、中から足音が聞こえてきた。

 

 

「はーい」

 

 

ドアを開けながらおばさんが顔を出した。

 

 

 

「あらヒロくんありがとう。

送ってくれたのね」

 

 

「おばさん...

少しだけ、話を聞いてよ」

 

 

「?」

 

 

俺がそう言うとおばさんは俺を家にあげてくれた。

 

 

「心配すんな、大丈夫だよ」

 

 

「...ヒロ」

 

 

怖がる真姫の頭を撫で、俺はおじさんがいるところに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだヒロ、話って」

 

 

場所はリビング。

俺はおじさんとおばさんが座るっている向かいの椅子に座った。

真姫も俺の隣にちょこんと座る。

 

 

「昨日はごめんなさい...

真姫を勝手に連れ出して...レッスンもサボらせて...」

 

 

「...」

 

 

おじさんは黙ったまま俺の目を見てる。

普段ムスッとしてるだけに妙な貫禄があるな...

 

 

「今日、真姫と一緒に外に遊びに行った。

昨日と同じように...

遊んでる時の真姫は本当に楽しそうによく笑ってた。

いつも家で見る暗い表情が嘘のように...」

 

 

「...」

 

 

「俺はバカだから...習い事もしたことないし、勉強だって苦手だ。

だから真姫の大変さもわからないし、わかってやれない。

今日色々聞いたんだ...

真姫の気持ちも悩みも...

それで思い出した...家にいる時のこいつは、俺にはどこか寂しそうに感じた...

でも、外に出て一緒に遊んでる時のこいつは、少なくとも俺には楽しそうに見えた」

 

 

一緒に遊んで、笑って...

その楽しそうな表情は、今までの寂しさの裏返しのようで...

胸が締め付けられた。

なんでもっと早く気づいてやれなかったんだろうって...

俺がそう思うくらいだ...

おじさんたちはもっとだよ...

 

 

「仕事が忙しいのもわかります..

でも少し...少しだけ真姫の気持ちも聞いてあげてよ」

 

 

そう言って俺は真姫の背中を押した。

 

すると真姫は決心したようにおじさんたちを見る。

 

 

「パパ...ママ...私...もっと外の世界を見たい...

みんなともっと遊びたい...

それに...」

 

 

「...?」

 

 

「私...パパとママと...もっと一緒にいたい」

 

 

「...!」

 

 

真姫はおじさんとおばさんの目をまっすぐに見て、そう言った。

 

それでいいんだ。

だってそうだろ?

自分自身のことを決めるのはいつだっておまえなんだから。

そしてこれから先も...

 

 

「ごめんなさい、俺なんかが偉そうなこと言って...

じゃあ帰ります」

 

 

あとは家族で話した方がいいだろうと思い、俺が席を立ち玄関に向かおうとしたところで...

 

 

「ヒロ」

 

 

おじさんに呼び止められた。

やばい、怒られるのかな...

おまえなんかが偉そうなこと言うなって...

そう身構えたが、かけられたのは意外な言葉だった。

 

 

「...ありがとう」

 

 

「え...」

 

 

その言葉を聞いて固まってしまう。

 

 

「おまえは本当に若い頃の父さんにそっくりだな...

勇敢なところも...見返りも求めず、誰かのために頑張るところも」

 

 

「い、いや...」

 

 

「ありがとう...娘のことを親身になって考えてくれて...

ただ...子供として最低限のことはしないといけない...

勉強とかな...

この子だけじゃない...ヒロ、おまえもだ」

 

 

ぎくっ

 

 

怒られなくてよかったけど、そう言われると弱い...

俺は勉強が嫌いだ...

 

 

「またいつでも遊びに来い。

勉強も俺が教えてやろうか?」

 

 

「い、いや...それは...」

 

 

おじさんと勉強なんて緊張してできるわけがない。

 

 

「ハハハ、まぁ勉強は母さんにでも聞けばいい。

とにかくおまえの言いたいことはわかった。

少し話し合ってみるよ」

 

 

おじさんは笑いながらそう言ってくれた。

よかった...

おじさんたちにも届いて...

 

 

「それじゃあ帰ります。

お邪魔しました」

 

 

そう言って俺は玄関に向かった。

 

 

「ヒロ!」

 

 

「...?」

 

 

靴を履いている途中、振り返ると真姫が俺を呼び止めていた。

 

 

「どうした?」

 

 

「ん...」

 

 

真姫は下を向いて少しモジモジしたあと...

 

 

「あ..ありがと///」

 

 

恥ずかしそうにそう言った。

 

 

「また、遊びに行こうぜ?

約束な」

 

 

俺は小指を差し出す。

そして真姫は俺のところまで来て...

 

 

「うん!///」

 

 

前と同じように、小指を絡ませて頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから一年後...

 

 

結局、真姫はピアノ以外の習い事を全てやめた。

数多くある習い事の中で、ピアノだけは唯一好きだったみたいだ。

勉強は元から好きだったらしく、自分から進んでこなしているため心配はいらないらしい。

おじさんたちも勤務時間を見直したらしく、今では昔ほど遅くに帰って来ることはなくなった。

 

 

「ただいまー」

 

 

野球から帰り、リビングのドアを開ける。

 

 

「「おかえり」」

 

 

その瞬間目に入ったのは、キッチンで料理をしている真姫と母さんの姿...

 

 

「なんだ、おまえもいたのか...」

 

 

「な、何よその言い方!///」

 

 

あれから真姫は頻繁に家に来るようになった。

たまに翼も一緒に来て、三人で遊びに行く日もある。

今は母さんに家事をいろいろ習ってるらしい。

学校でも少しだけだけど、友達もできたようだ。

 

 

「あー疲れた」

 

 

そう言ってユニフォームのままリビングに寝転ぶ。

 

 

「ちょっと!汚いから先にお風呂入りなさいよ!」

 

 

最近はずっとこの調子...

母さんの性格がうつったかのように俺に文句を言い散らす。

なんでこうなったんだよ...昔はもっと可愛かったのにな...

 

 

「ハハッ」

 

 

それでも俺はあの日、おじさんたちに話してよかった。

だって、今のこいつは昔の面影もないほどよく笑うから...

 

 

「何笑ってるのよ...気持ち悪い」

 

 

それが嬉しくて思わず笑うと、真姫にそう言われた。

 

 

「うるせぇよ」

 

 

こんな俺でも、おまえの力になれたのかな...

今はもう、生意気な妹のようなおまえの背中を、これからも俺は押し続けるよ。

だっておまえはもう、俺にとって...家族のようなものだから...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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