ガヴリールは、ネトゲでの仮想結婚の相手と、ついに現実世界でも出会った。
ガヴは普段なら絶対着ないだろう、ピンクのフリフリな服を着ている。サングラスとマスクがいかにも浮いていて、異様な感じだった。一方で相手の服は、落ち着いた感じのワンピースだ。しかしやはり、サングラスとマスクの不審さは隠せない。
ガヴは相手を確認した後に、こう切り出す。
「立ち話も何なので、ファミレスに行きませんか?」
「はい、そこでサングラスやマスクは取りましょう」
こうして、駅前からファミレスまで歩いて行くことになった。最初のうちこそ、遠慮がちに距離を取って歩いていた二人だったが、しだいに距離が詰まっていく。そして、手と手が触れた。
「「あっ……」」
ふたりの声がハモってしまう。お互いに敏感になっているようだ。ガヴは、ほんのちょっと手が触れただけで、ビリビリと身体に電流が走ったような衝撃を感じた。
「「すいません……」」
ふたたびハモる。こういう恋事にお互い慣れていないようだ。しかし、それはガヴにとって好都合だった。変に慣れた相手は嬉しくない。だって、大事な、大事な、初恋なのだから。
「あのっ……」
ガブは指を絡ませていく。相手は拒否しなかった。ふたりの手がつながれる。慣れた恋人つなぎではなく、握手のようなぎこちないつなぎ方だった。しかし、それでもガヴにとっては、まるでコンセントに電源をつなぐように、恋のエネルギーが手を伝わって流れてきた。
「(カアッ……)」
顔がみるみる赤くなるのをガヴは感じた。相手の顔はよく見えないが、相手にもこの感情が生じているのだろうか? 人間が「恋」と表現する痛切な感覚。ガヴは戸惑いながらも、今までになかった快感を覚えていた。
「(こんな感覚、初めてだ……)」
天使ガヴリールは二度堕天した。一回目はネトゲで、二回目は恋で。
ガヴはネトゲにハマったときの感覚を思いだす。しかも、あのときよりも、もっと強烈に引き込まれる。ネトゲの面白さを知らなかったように、恋の楽しさを彼女自身も知らなかったのだ。ガヴはすっかり恋の虜になった。
もちろん、ネトゲの中でも、ふたりは仲良くチャットしていた。しかし、友達以上、恋人未満、というようなヌルいものだ。それに、ネトゲはバーチャルなもので、どこか別の次元だという感覚がある。リアルでは、指が触れるだけで、ここまで強い力が働くとは。ガヴは驚いていた。
「あの、あの……」
「なんですか?」
目的地に着くまで待ちきれずに、ガヴは質問をする。せかされるような感覚がわき上がってきたからだ。
「今までに、つき合った相手はいますか?」
「ありません。あなたは?」
「わたしも、ありません」
即答だ。嘘をついている雰囲気はまったくない。初恋同士か。運命的な出会いを、ガヴは確信していた。つないでいる方とは別の手を強く握りしめ、彼女はしみじみと思う。これは天の加護があると。
ふたりはファミレスに到着した。案内された席で、向かい合わせに座るふたり。隣同士で並んで座るのは、ちょっと気が引けたのだ。手はつなげたが、まだまだお互いの間に、遠慮の空気が残っている。
席に座ってから、しばらく沈黙が続いて、気まずかったので、ふたりは軽くゲームの話をする。ガヴはゲームの中では、回復役のプリーストだった。天使にはお似合いだ。一方の相手は、攻撃魔法を使うウィッチ。
話しているうちにガヴは、マスクが邪魔なのと、そろそろ相手の顔を確認したい、という欲求を感じてきた。そこで提案する。
「……さて、そろそろ、取りません? サングラスとマスク」
「そうですね」
「あっ……!」