ふたりはキスをしていた。時間が止まったような感覚。
ガヴとヴィーネが唇を離すと、一時停止していた時間がふたたび動き出す。ふたりはモールの中庭にある公園にいた。その喧噪が聞こえてくる。ふたりでいるうちに、まわりの目が気にならなくなっていた。ガヴの瞳に映るのはヴィーネだけ。
「ヴィーネ……」
「ガヴ……」
お互い背中に手を回して抱き合っていた。ふたりはうっとりした顔で見つめ合う。柔らかい少女の身体の感触。体温の温かさ。髪の良い香り。身体が熱くほてってくる。
ガヴはもう身を任せてもいいと思った。もう過去を手放してもいい。友達だった頃に戻れなくてもいい。恋人としてのヴィーネを手に入れたい。もう後戻りできない。ヴィーネが欲しい。
「ヴィーネ。わたしを本気にさせちゃったな。もう離さないぞ」
「うん、わたしもずっと一緒よ」
その後、ショッピングモールを離れて、ふたりはガヴリールの部屋にやって来た。昼を過ぎて、ほんのりと空が赤くなってきた。今日の部屋は片付いている。それがヴィーネには意外だったようだ。
「へぇー。あんなに散らかってたのに、キレイになってるじゃないの」
「わたし、前はキレイ好きだったからな」
「女の子を連れ込むために、ずいぶん涙ぐましい努力をしたのねえ」
「う、うるさい!」
照れるガヴをよそに、ヴィーネはゴソゴソと部屋を漁りだす。そして、コンドームの袋を見つけると、驚き呆れた顔をした。
「なによこれ……」
「あ、それはっ!」
「女の子どうしなのに、何に使うつもりだったのよ?」
「う……、うるさい、うるさい、うるさい!」
モールでふたりはすでに昼食を取っていたが、それでも歩き疲れて腹が減っていたため、すこし早めの夕飯に、スパゲッティを作って食べることにした。
窓から夕日が差し込み、夕日の色に染まるテーブル。そこに、オレンジ色のパスタを盛った皿がふたつ並ぶ。美味しそうなパスタソースの匂いが漂ってくる。そして、カチリ、カチリとフォークの音が部屋に響く。
「ガヴ、あーん」
「あ、あーん」
「わたしにもちょうだいよ」
「ほら、あーん」
「あーん」
お互いに食べさせ合う甘いひととき。そのとき、手元が狂ってガヴの頬に、赤いソースが付いてしまう。すると、ヴィーネは頬にチュッと吸い付き、舐めとってしまう。ガヴの頬が赤く染まった。しばらく沈黙が流れる。
「……な、なあ、ヴィーネ。今夜はどうする?」
「もちろん泊まっていくわよ」
「じゃ、じゃあ、シャワー先浴びろよ」
「一緒に浴びましょうよ」
「なっ……」
「ほらほら、脱ぐわよ」
「ちょ、まっ……」
「ガヴは『女同士』って言って、わたしの前で裸になってたじゃない」
「あれは、今みたいに恋人じゃなくて、友達時代のことだから……」
「ほら、いいから脱ぐわよ」
「なんでここで脱がせるんだよ!」
「脱がしたいからに決まってるでしょ」
「あーもう……」
ふたりは脱がし合いを始めた。クスクス笑い声を漏らしながら、服を脱がしていく。ヴィーネのパンティに指が掛かったときは、ガヴの手が一瞬止まったが、けっきょく脱がしてしまう。
夕日の前で、お互い一糸まとわぬ姿で、向かい合って立つ。しかし、差し込む夕日がまぶしくて、大事な部分がよく見えない。
「謎の光があるから、R-15でも大丈夫だな!」
「なんの心配してるのよ、あんたは!」
「ハッハッハッ!」
ガヴは腰に手を当てて、なぜかドヤ顔をしている。ヴィーネはそんなガヴを見て、フッとほほえむ。
「ホント憎めないのよね、ガヴって」
「そりゃあ、天使だからな」
「うん……、ネトゲで堕天してたけど、前のようなホントの天使にちょっと戻ってる気がする」
「アクマで天使だからな」
「わたしの天使だからね」
「うん」
「……」
ふたりは裸でキスをした。肌が夕日を浴びて光り輝く。ふたりっきりで人目がないので、今度は思いきり唇を求め合う。舌を絡めるピチャピチャという音と、吐息だけが部屋に響く。
そして、むさぼっていた唇を離すと、唾液が糸を引き、ふたりの間に橋を架けた。それは夕日を浴びてきらめき、まるで運命の赤い糸のよう。
「ヴィーネ、好きだよ」
「ガヴ、私もよ」