ふたりは裸でキスをしていた。窓から差し込む夕日はもう落ちそうで、ガヴリールの部屋は急に暗くなってくる。ふたりは唇を離した後、すこしの間だけ見つめあってから、バスルームへ向かった。
バスルームに入ると、外の音はもう聞こえない。バスにお湯を溜める。ふたりの吐息と水音だけが反響していた。ガヴが身体を触っても、ヴィーネはまったく嫌がるそぶりをしない。ピチピチの柔らかい肌から熱が伝わる。顔を近づけると、髪の良い匂いが漂う。
「ガヴ、洗いっこしましょ」
「いいよ」
ガヴは、ヴィーネの身体にソープの泡を立てていく。スベスベだった肌がヌルヌルになっていく、微妙な変化を手の平で感じとる。肌をなでるたびにヴィーネが小さい声であえぐのが、ゾクゾクするような心地よい刺激だ。ガヴはまるで童貞男子のように、すっかり女体に夢中になっていた。
「はぁ……はぁ……」
「ヴィーネ、感じてる?」
「(コクコク)」
「フフッ、それっ」
「ひゃあっ!」
ガヴの手がヴィーネの太ももをスルーッと滑らせると、彼女は悲鳴を上げた。なにせ、ガヴは初体験なので、どうしても童貞のような、ぎこちない手つきになってしまう。しかしその一方で、女同士で性感帯は分かるので、的確な場所を責めることができる。
「ガヴ、今度はわたしが洗ってあげるわ」
「お、お手柔らかに……ひゃうっ!」
「フフ、いざ攻められる側に回ると弱いのね」
「そ、そこはダメだって~、いやん」
攻守交代で今度は、ヴィーネがガヴの身体を責める。ガヴと違って、より女の子らしい優しいなで方だ。ガヴの肌にソローッと指先をはわせていく。指をすべらせるたびに、ガヴはビクンと震える。と同時につい、女の子らしい声であえいでしまう。
「あっ、あんっ……」
「フフ。ガヴがこんなステキな声で鳴くなんて知ってるの、世界中でわたしだけよ」
「はあ……はあ……。ヴィーネの前では、わたしは天使じゃなくて、ひとりの女の子なんだよ」
「天使を堕とすなんて、悪魔冥利(みょうり)に尽きるわね」
「ジャボン、ジャボン」
洗い合っているうちにお湯が溜まった浴槽に、ふたりして漬かる。ふだんのガヴはボサボサ髪のイメージがある。が今は、濡れているためにボリュームが減って肌に張りつき、水に濡れて輝き、なまめかしい感じになっていた。その髪をヴィーネが手ですいてやる。
一方のガヴは、ヴィーネの紺色の髪をなでる。そして、柔らかい頬もなで、胸へと手を降ろした。胸のふくらみを手で包むと、弾力があって指を押し返す。さらに、もう一方の手で、ヴィーネの手を自分の胸に導く。
「しかし、ヴィーネとこんな関係になるなんて、夢にも思ってもいなかったよ」
「そう? わたしは堕天前のキレイなガヴに合った頃から、運命を感じていたわ」
「うう……。キレイな頃って、今はどうなんだよ?」
「フフ、今もキレイよ、ガヴ」
ガヴの唇に指をあて、それからヴィーネはガヴと唇を合わせる。
風呂から上がると、日がすっかり落ちていた。部屋は暗いものの、窓の外から街の明かりが差すので、つまずかないで歩ける程度には明るい。窓ガラスに、幸せそうに微笑んでいるふたりの顔が薄く映る。
どこで鳴いているのか、虫の音が部屋にまで響く。天空に月や星がかすかに見えるだけの薄暗い中、ふたりは子供のような純真な瞳で、窓からの夜景を眺めていた。どこにでもありふれている住宅街で、人間にとってはつまらない景色。
だが、人間界に来て日が浅い、天使と悪魔のふたりにとっては、まだ新鮮な景色に見えているようだ。それも、恋人になったばかりのふたりで見る夜景なら、なおさら感慨深いだろう。ふだんは無感情に見える、ガヴの心に感動が芽生えていた。
「ヴィーネ。わたしは天界、人間界、ネトゲの仮想空間。この短期間に、違う世界をいくつも体験してきた」
「それはわたしもよ。魔界から人間界に来てというもの、目まぐるしい毎日だったわね」
「でも、でもさ……」
「なに?」
ガヴはヴィーネをベッドに押し倒す。ガヴの中に、彼女を抱きたい情熱が燃え上がっていた。ヴィーネは脱力して抵抗せず、されるがままに押し倒され、ガヴの背中に手を回す。
「ヴィーネとふたりの世界が、わたしにとって一番幸せだよ!」
「わたしもよ、ガヴ!」
ふたりは恋人になって今まで、何回もキスしてきた。しかし今夜はそれよりも、一番熱い口づけを交わした。