6話:殺伐としたぼっちに救世主が現れないと思った?
人間界に降りた天使ラフィエルは、悪魔サターニャを尾行している。つね日頃から。
この日の学園でも、サターニャは階段の踊り場で、ひとりで昼食を取っていた。それをラフィエルは、壁の向こうから顔だけ出して、ソーッとのぞいている。
「おいィ? ラフィ!?」
「あっ? サターニャさん、気づかれてしまいましたか?」
「フッフーン、この大悪魔サタニキア様が、気づかないわけないだろ!」
「チッ」
「舌打ちってなんだよ! 付きまとうな!」
「えー、ダメですか~?」
「ぷんぷん!」
「おこなの?」
ふたりは学園の制服を着ていた。ラフィエルは銀髪で、サターニャは赤髪。そしてサターニャは階段に腰かけ、おにぎりとメロンパンを食べようとしていた。
「これから、お昼ご飯を食べるんですか?」
「そ、そうだが……?」
「ストーキングを許可してくれたら、わたしと昼食を一緒に食べる権利をやろう~♪」
「さすが天使汚い! ぼっち飯の弱みにつけ込むとはぁ~」
「ダメですかぁ~?」
「これは『魔界覇王許可証』を出さざるをえない」
「お昼を食べるくらいで、そんな某奥義みたいに言われましても……」
こうして階段でふたり並んで腰かけ、一緒に昼食を取ることになった。ラフィは手作り弁当を持参している。その中身は、いかにも女の子が作りそうな可愛らしいものだ。桜でんぶ、卵焼き、そぼろなどを使って、色とりどりのおかずがそろっている。美味しそうな匂いがあたりに漂う。
「(ジー)」
「あら、サターニャさん、わたしのおかずが欲しいんですか?」
「い、いや、そんなことないぞ? 食べたいとか思ってないぞー?」
「じゃあ、オカズに、わたしの足を舐めていいですからぁ~」
「はっ!? なんだよそれ!?」
スラリとした足を伸ばして見せるラフィと、呆れながらも照れた顔で見ているサターニャ。照れているのは、スカートの中がチラッと見えているからだ。
「冗談ですからぁ。……はーい、あーん」
「あーん(パクッ)」
「あらあら、うふふ」
「(ポッ)」
ラフィが弁当をサターニャに食べさせて、ふたりの雰囲気が和んだ。そこで、ラフィは新しい話題を切り出した。
「あの! サターニャさん」
「なんだよ、あらたまって」
「今度の休み、デートしませんかっ!」
「え! あ、あの……その……心の準備が」
「もう~童貞メンタルなんですから」
「いやいや! おかしいだろ! そこは処女だろ!」
「じゃあ処女なんですか?」
「えっ……そう……だけど」
「良かった~! わたしも処女ですぅ」
「お、おう……」
ラフィエルはふざけているようで、どうやら誘導尋問していたようだ。
「処女、言わされちゃったよ。さすがは腹黒天使。しかし、私たち同じ処女なのに、どうしてこうも、心のキレイさに差が付いたのか?」
「慢心、環境の差ですぅ」
「それ、笑顔でさわやかに言うなー!」
「まあまあ、私たち処女厨としては、『処女厨大勝利』で良いじゃないですかぁ~」
「私たちってなんだよ!」
「じゃあ、サターニャさんは、私が非処女でも良かったんですか?」
「え? いや、まあ私も、相手が処女の方が良いけど……」
それを聞いて、ラフィは脈アリと見たのか、話を畳みかけてきた。
「サターニャさん! 話が脱線しましたが、デート、デート!」
「あ、あう~。恥ずかしいよ~」
「んもー、仕様がないですね~。サターニャさんは乙女ンタルなんですから」
「その言い方も恥ずかしいよぅ~」
「そうだ。じゃあ、こうしませんか?」
笑顔でパン、と手を叩くラフィエル。と、照れた顔のまま、一時停止したように固まったサターニャ。
「サターニャさんがひとりで出かけ、それをわたしが追いかける、というのはどうでしょうか?」
「え? え?」
「名付けて、『恋のストーキング・デート大作戦』ですわ~♪」
「ええ~? なにそれ~!?」