気紛れに時は風と通り過ぎ   作:サンダンス

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風は深層へ潜る

蓮奈は夢を見ていた。

正確には夢とは違うのだろうが、近いものを述べるのならば夢。

 

自分にどこか似た童子が一人。

自分とさほど背丈の変わらないようだが、顔つきは自分よりも子供っぽさがあり髪も長かった。

葉のような腰布をとても長い赤い帯で締めてある。金太郎の様な前掛けを身に着け、首や腕、足は一つずつ金の輪で飾られていた。

薄桃色の唇に頬は可愛らしいが、目はややつり上がり強い意志を感じる。

傍らには房の付いた槍と車輪が置かれていた。

 

「貴方は……?」

「貴方の魂の一部とでも申しましょうか、私は蓮の精ですよ」

「名前ではないのでしょう?」

「ないかもしれませんよ?」

「いや、違う。貴方の事は私が知っている。名乗らないのであれば当ててみますが、できればその口からお聞きしたかっただけ」

 

「哪吒。貴方の名前はそれであってますか?」

「ご名答。よく分かりましたね」

 

彼は槍を持つと切っ先に焔を灯した。

蓮の花のような薄桃色の焔は風に吹かれるようにゆらゆらと揺れ動き、火花は舞い散る花びらのように離れていく。

 

「だって、昔よく読んでたんですよ?貴方が出てくるお話を」

「らしいですね、空想の存在だという事実は複雑ですが……」

 

彼は本来なら存在しない者だ。

話毎に設定は異なり、経歴も使える力も変わる。

親も誰なのか、どのようにして生を受け死を得たのか、それすらも曖昧だ。

それは正に風のように自分自身ですら掴みきれない物で。

 

「あれ……でも何故貴方は居るんです?居たとしても転生する理由が無いでしょうしそもそも起こり得ないのでは」

 

記憶を辿れる限り辿ると蓮の精になったまででその先は別の物になってないと思うのだが。

ボクは自殺した。

そう、自らの罪を精算する為に……精算?自殺??

 

「あれ、ボクは何を……?」

 

自殺だったのか?

思い出せない。分からない。辿ろうとしても意識が混濁して分からない。

 

「私は、誰……?」

 

それを見ていた哪吒は蓮奈に近づいた。

 

「少し診させてくださいね」

「えっ、一体何を?」

 

哪吒は自らの手を額に当てたり目を覗いたりと、医者のように診始めた。

一通り済ますと少し納得いった様子で話し始めた。

 

「僕達の記憶や人格、そういった様々な物が今貴方の中で入り混じってそう思っていたみたいですね」

「記憶や人格?」

「僕の人としての最後、覚えてますか?」

「ええと、確か竜王を……」

 

哪吒は最終的に竜王が天帝に直談判に向かうのを止める為に骨肉を返したのだ。

父母の目の前で頭から落ちて一歳にも満たない歳で亡くなったという。

 

「あ」

 

ここまで思い出して私の思い込んでいた記憶と比較した。

ほとんど同じではないか。

 

「…人として死んだ時の記憶が、貴方の中に入っているみたいですね」

「あれが、哪吒の記憶……?」

 

それをきっかけにして何か堰き止められていたものが壊れる音がした。

私の一人称は「ボク」では無かった。

こんな山は私は知らない。こんな空間は見たことがない。

 

「では、本当の私は誰……?」

「それは分かりません。少なくとも貴方は僕みたいに文献に乗るようなことはしてないのでしょう?」

「たぶん……そうですね」

 

そもそも載る存在の方が少ない気がする。

 

「だったら、消去法で消すしかないのでは?」

「消去法」

「消去法ですよ。とりあえず僕は分かりましたよね?」

 

それはそうだ。

哪吒のことは知ってる、本の知識のみだが。

 

「そこから消しましょう。一つ一つ探して紐解いてみてください」

「……他にも、居るんですよね」

「はい、そうですよ?」

「ちなみにどれくらいいるか分かりますか?」

「……人でない者は居ますね、僕以外にも」

「人は!?」

「人も居ますよ、一応」

 

一応って。一応ってそれは。

 

「不安しかないんですけど」

「そこは…頑張ってください。僕は残念ながら全員知りません」

「姿とか説明できますか?」

「僕ほど強く出てきてる物が無いので今はまだ…まあ、頑張ってください」

 

匙を投げないで、匙を投げられたら一番困るの私です。

 

「じゃあ時間をあげますんで少し体を借りさせてください」

「え、体を?」

「上手く使い切れないと思いますが……炎を使える分マシでしょうし」

 

マシってなんだ。マシって。

 

「……勝手にしてください」

「心得ました」

 

そう言って彼は目の前でふっ、と姿を消した。

 

「……私の戻し方後で教えてくださーい!!」




さあ、今こそ至福を知れ。
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