気紛れに時は風と通り過ぎ   作:サンダンス

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風を放つ

休日の朝に雲雀さんに伝えるとそうか、と言われただけだった。

 

この日は部活は無いからと山本武はボクを家に誘ってきた。

勿論筋トレも教えるとの事だったのでそれに釣られて遊びに行くことにしてしまった。

 

用意を済ませると山本の友人の獄寺と十代目…ツナも来るとの事になり三人が山本の家に遊びに行った。

 

ボクは家を知らないと言うと寿司屋を探せばいいとの事だったので、試しに雲雀さんに聞いてみるとそれはあっさり見つかった。

 

山本の家は有名な寿司屋を営んでおり店に入ると彼の父が仕込みをしていた。

ボクが元いた世界ではなかなか味わえない贅沢だなと思ってしまった。

 

「こんにちは、山本武のクラスメイトです。山本君はいらっしゃいますか?」

「おう、いらっしゃい。武なら二階に居るぜ、おーい」

 

上からドタドタと物音がして裏から山本と獄寺とツナが降りてきた。

 

「おー!これで全員揃ったのな」

 

 

 

 

「まずどれくらい動けるのか見ないとな」

 

動きやすい、汚してもいい服で来るように言われていたので今日はスポーツウェアを着ている。

河原に移動するとそこには野球場があるくらいの簡単な運動は可能なスペースとなっていた。

 

「一旦50m一本走ってみてくれるか?軽めに一本ならそんなに酷くはならないと思うしな」

「軽く、か」

「そうそう、流す感じで」

 

パン、と乾いた拍手の音に合わせてそこまで力を入れず何も考えずに走ってみた。

駆け抜ける、というより跳ぶに近い感覚で一本走るとそこまで息は上がらなかった。

 

「いい感じいい感じ、今度は本気でやってみるのな」

「分かっててそれはいってるのか?」

「ああ」

 

他の皆も止めようとしたが何の為にさせるのかなんとなく理解したボクはまたスタート位置に戻っていった。

 

そして今度は指先まで精神を研ぎ澄ませて走った。

足を高く前に飛ばして。脇は締め、腕を後ろにも降る。

さっきよりぎこちないがこれで速くなるのだ。

走り抜いてからスピードを緩めると息がつまるのを感じて足が止まりそうになる。

ダメだ、ここで止まったらもっと苦しい。歩かなきゃ。

 

「大丈夫!?」

「おい、しっかりしろ!」

 

二人が駆け寄って来た。

苦悶の表情を浮かべるボクは必死に顔を取り繕った。

下手に心配をかけたくない。

 

背中を擦られながら山本の所に戻るとへなへなと座り込んでしまった。

 

「お前本当に大丈夫か?」

 

流石に獄寺も心配して座り込んだ蓮奈を見下ろす。

 

「…あのな、てめぇも心配しろ!」

「あ、わりぃ。驚いたし考えてた」

「考えてた?」

「蓮奈に合うのを教えてやりたいし少し気になったからな」

 

山本は片膝をついて目線を合わせると笑ってみせた。

何を言われるのだろう。戸惑いが目にちらついているのが手に取るように分かった。

 

「体に負担をかけることをさせてごめん」

「え。あ、ああ、これくらいなら大丈夫だ…」

「でさ、俺見てて思ったんだけど走ってるときこう、固められてるっつーか縛られてるように見えたのな」

「縛られてる」

「力み過ぎてるんだよな。それで変に力を入れて使って力尽きてるように見える」

 

虚をつかれたのか目をぱちくりと瞬かせた後見つめる。

山本は話を続ける。

 

「だから何も気にしないで走ってもいいと思うぜ。前に陸上部の奴が言ってたんだけどよ、何も考えずに走ったときの方が一番いいんだってな」

「えっ、そうなの」

 

ツナが驚いていた。ツナも足が遅いのか。

 

「だから縛られなくてもいいと思うのな」

「縛られない…」

「そう、縛られない」

 

何も考えずに走る事を考える。

囚われる事なくただただ走る。

 

ふいに夢を思い出した。

あんな風に自由に動けたら。

 

ボクは呼吸を整えて立ち上がるとさっきのスタート地点に戻った。

山本はボクが準備ができたのを確認すると立って合図を送る。

 

「よーい、ドン!」

 

夢の中のように駆ける。

夢で見た事を再現はできなくても、少しでも近づきたかった。

近づければ、きっと何かから開放される気がして。

鹿のように軽やかな足取りで飛び出すと、さっきまでの窮屈感は消えていた。

 

「お、速い速い!」

 

山本の喜びの声が遠くから聞こえる。

 

なんだろう。風に包まれてるような、胎児に戻ったようなこの感覚は。

ああ気持ちいい。ずっと待ち焦がれてた気がする。

 

「あれ…?」

「どうしました十代目?」

「今何か光ったような…たぶん気のせいかな?」

 

気のせいと言いながらツナは頭の中では否定していた。

 

蓮奈の走った跡に火花、粉塵のようなものが見えた。

しかしそれは一瞬で頭の中から何も無かったように消えてしまった。




ボクが初めて現実で飛び出した日。
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