気紛れに時は風と通り過ぎ   作:サンダンス

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風と駆ける

こちらの世界に来てから数ヶ月。

夏休みに入り学校には部活以外で来る事はなくなる予定だった。

 

「水泳?」

「ああ、少しでも体力をつけるというか呼吸ができるようにするなら、と考えたんだ」

 

水泳は人間の肺活量を鍛えるのには持ってこいだ。

 

一度に息を吐き出して酸素を吸い込む。細胞呼吸が追えないくらいの過剰な運動を行えばどんな人間も体を削り倒れてしまう。

蓮奈はそのせいで体を壊すように激しい動きをしてしまい、最後は地べたに突っ伏していた。

 

そこで水泳なら持続力を身につけることができるためトレーニングに加わった。

 

夏休みに入っても雲雀さんは相変わらず学校や町を取り締まっていた。彼に休みは無いのだろうか。

 

ボク自身の弁当を作るようになり台所に立つようになった。背丈のせいもあり踏み台なしではまだできないが、少しずつできるように特訓を重ねている。

 

部活のある日は運動部なのもあって多めだがとても楽しい。

 

 

 

 

「花火大会?」

「まさか、花火も知らないと言うのかい?」

「いや、流石に知ってますよ」

 

花火も知らないのかと言われて少しムスッとした。それくらいは流石に同じでないと困る。

 

「今日は部活は休みだったよね」

「はい」

 

今日明日は部活はない。学校の、町の頂点に立つ雲雀さんは把握済みのようだった。

 

「風紀の仕事でそこに行くんだけど君も来る?」

「いいんですか!?」

「いいに決まってるじゃないか。ただし、一応風紀の仕事は手伝って貰うよ」

 

そこじゃない。

問題はあなたが群れて体調を崩さないのかです。

 

後で知ったのだがボクは他の人間と同じ換算をされてない、人間として数えられてなかったのだった。

血が繋がってはいないとはいえ肉親だからということなのか、はたまたその価値すらないのか。ボクには分からなかった。

 

 

 

 

屋台にたくさんの食べ物や玩具が商品として並ぶ。

子どもたちの笑い声、缶を開けて酒とストレスをイッキ飲みする男、着物で着飾り女はめかす。

会場は既に賑わいを見せていた。

 

雲雀さんに連れられながら練り歩いていると風紀の仕事が分かってきた。

屋台の一つ一つに上納金として多額の金を徴収するのだ。しなかった場合屋台は取り潰しになりその場ですぐに破壊される。

中には綱吉、獄寺、山本達がいる屋台もあり互いに驚かれた。

 

「蓮奈も居るー!?」

「お前、風紀委員じゃねーだろ!」

「委員長の家族」

「そこかよ!!」

 

獄寺とのやり取りは時々コントみたいに盛り上がってしまう。それを諌めるのが山本と綱吉だ。

 

「そういや蓮奈は着ないのか?」

「ああ、あれですか」

「あれか、じゃねーよ。着たいとか思わなかったのか?」

「場所を考えたらあの格好は難しいですよ…はだけるし動きにくいし」

 

男子三名は納得した様子で頷いた。

 

「女子ってすごいですよね…色々と」

 

この後乱闘騒ぎが起きたり花火を帰り道から眺めたりしつつ帰宅した。

 

ボクは先に雲雀さんに風呂に入るように促すと冷やしたスイカを小さく切って塩を少し振り、彼とボクの分を取り分けた後に彼の部屋に置いてきた。

 

冷蔵庫に自分の分のスイカを入れると風呂上がりの雲雀さんがやってきた。

今日は着物を身に纏っている。上気した肌が少し赤い。

 

「麦茶いれますね」

 

コップを手に取り麦茶を冷蔵庫から出して注いで手渡そうとすると、彼はボクのスイカに手を付けていた。

 

「雲雀さんの部屋にもありますよ?」

「いい、もう食べ始めてるしね。後で僕のを入れておくからそれを食べなよ」

「分かりました」

 

気まぐれだな、と思いながら笑みを浮かべるとボクは風呂をいただいてきます、と言ってそこから去った。

 

 

 

 

風呂で汚れを落として少し濡れた髪をそのままにサイズ違いの着物を着ると台所に向かった。

 

冷蔵庫には彼の言った通り、小さく切り分けられたスイカがあった。

 

ボクはスイカをもって廊下に出ると軒先に座って食べ始めた。

そっと口付けるとしゃく、と音を立てて口の中が果汁で溢れた。塩気と甘さが夏の疲れた体に心地よい。

しゃくりしゃくり、と食べて次の物に手を付けようとした瞬間、冷たい物がぴと、と頬にくっついて情けない悲鳴をあげた。

 

振り返るといつの間にか麦茶を二つ持った雲雀さんがしゃがんでいた。

 

「隣、座るね」

「は、はあ…」

 

お盆に麦茶を置き直してお盆を二人の間に置くと、お盆の横に雲雀さんは座った。

私がスイカの皿をお盆に置くと彼はスイカに手を付けた。

 

「スイカ欲しかったんですね」

「いいでしょ、別に。それに食べ切れないことを知ってるからね」

「…よくご存知で」

「兄だからね」

「それ理由になってます?」

「なってるさ。食事量が人一倍少ない事くらい分かってる」

 

困った兄だ。

口端に笑みを浮かべると麦茶を手に取った。

 

「麦茶を入れてくれてありがとうございます」

「いいよ、別に」

 

そう言うと彼はスイカを一つ咀嚼した。

二人の間を風が通って風鈴を鳴らした。




風と雲の夏休み終わり間近の日
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