返して欲しいならこちらに来なさいーー
電話の主はボクにそう言った。
目的は分からないが、ボクも狙いの1つなのかもしれない。
ボクは抵抗しても雲雀さんが負けた相手なのだ、結果は知れてる。
それでもボクはできる限り動きやすい服装に着替えて何か武器になりそうなものが無いか探した。
「卵とかに七味や胡椒を入れたものを使うかな…」
考えに考えた末に七味と霧吹きを近くのスーパーで購入した。
汚れが酷い事で有名なドブ川の水を霧吹きに入れようとすると、悪臭が鼻について顔を背けそうになった。
嗅いだだけの感想を言うと、物凄く吐き気がしてくるくらいに酷い。
公務員仕事しろ、この悪臭は公害レベルで酷いぞ。
水を入れた霧吹きに七味を沢山入れると蓋をしてその場を離れたのだった。
最終的に荷物を確認すると、おにぎりと熱い緑茶と冷たい緑茶、例の霧吹きになった。
おにぎりと冷たいのははウエストバッグに入れて、後はチェーンで括り付けて腰の横にぶら下げた。
兄のいる場所まで距離があるので後はチャリを借りて行くことにした。
壊れたらどうしようかハラハラしたが、背に腹は変えられなかった。
「ここが黒曜ランド…」
電話で言われた場所に着いて自転車から降りると、辺りを警戒しながら中に入っていった。
人の気配はするのに、誰も襲ってこないのが不気味だ。
「失礼します」
当然ではあるが、帰る声はない。
寂しいなあ、と思いながら歩いていくことにした。
「あの子はいいのか?」
「ええ、勿論です。あれは少し興味深い」
ランチアは六道骸に尋ねた。
今回の目的の中には入っていなかったはずだ。
「あれはどう見ても弱いだろう」
「ええ、とても弱いですね。脆弱な人の体だ」
「なら何故、巻き込んだ?また生け贄か?」
前黒曜中の生徒会長を思い出して言った。
彼は今回の戦いの為に理不尽に生け贄にされた。自ら破滅の道を歩むように、道を敷かれそれを歩いてしまったのだ。
「ああ、それは違いますね。生け贄は一人で十分ですから」
「では何の為だ」
骸は口元に手を当てた後妖艶な笑みを浮かべて答えた。
「魂は僕と同族のような物でしたから、少し気になってしまいました」
「魂?」
「ええ、少なくとも確実に言える事は『この世界の魂』ではない、ということでしょうか」
「どういう事だ…!?」
「転生、の中には降りてくるもしくは昇ってくるパターンがあるんです。かぐや姫や西遊記の三蔵法師がその一例です」
だから人の体を得てはいるが、魂はやはり違っている。
「恐らくですが、何かの罰を得たのではないかと」
好奇心から降りたのなら記憶も無くなり、ゼロから始まるのだ。
「そして人間の体と中々合わないのでしょうあれは。だから弱いんです」
「…つまり魂をどうにかしたいと?」
「そういう事です。……僕はあの魂が誰だったのかを知りたい」
ある時、夢の中で気まぐれに歩いているときに見つけた一輪の花。
その姿は今来る人間の物とは違い、紅の長い帯をつけ手首足首を金の輪で飾った中性的な子供だった。
人離れした容姿をしていたが露出の多い艶やかな戦衣装を身に纏い額には花のような痣がついていた。
名前は無くしてしまった、というその幼子は明らかに自分よりも時を数えているのがその雰囲気で分かった。
君はどこにいる、と聞いたところヒバリ、と呟いたのみだった。
それから何度か会いに行くようになった。
蓮の花は少しずつだが本来の気性を現してきた。
どこか獣を連想させるような仕草を見せながら常人には理解し難い思考回路を見せた。
そして僕の前ではよく笑うようになった。
逢瀬を繰り返していたある日。
フゥ太を使ってランキングを見ていたのだが、一番上の名前を確認した時まさか、という思いが胸中を走った。
『雲雀恭弥』
ヒバリのところにあの幼子がいるのではないのだろうか。
他の世界の記憶を抱きこの世界に移された蓮の花。
並盛の生徒を襲う間に僕は彼の、彼の親族の情報を集めた。
そして、ようやく見つけた。
「……会いたいんです、友達に」
「友達だと?」
ランチアはこの少年に友達、と言うものがあったのかと目を白黒させた。
「会った時の記憶が無くなってるかもしれない。それでも、一目会って言葉を交わしたいんです」
できることなら、その先を望みたいが。
それは叶わぬ願い。
義理のとはいえ大切な保護者でもある兄を脅迫しているのだ。
何事もなく済む道理はない。
だから、僕は多くを望まない。
来たる現実の風との逢瀬の日。