この小説には
・三次創作
・男の娘
・非KENZEN
・原作に対するキャラ崩壊
・ネタバレ
などが含まれます。
今回東方男娘録作者のゆくめで先生に投稿に関する許可を頂きました。本当にありがとうございます。
2月10日から始まる第8話を楽しみに待ちましょう。
ゆっくりしていってね。
小夜はふと目を覚ました。取り敢えず正面を見つめるが、視界に入るのはただ暗闇の中の壁のみ。まだ丑の刻頃だろうか。
そして間も無く小夜は目を覚ました要因を理解した。腹の下に感じる嫌な重さ。そう、夜中に厠へ向かいたくなったのである。昨夜のうちに行ったはずとも思ったが、感じてしまったものはしょうがない。
小夜は布団から出ようと布団の端を持ち上げたが、身体が起こせない。理由は明らかだった。背中から聞こえる寝息のせいである。其の者が背中から小夜の腹へ回した腕は、小夜の身体をがっちりと固定していた。
手を握って外そうとも思ったが、出来れば起こしたくない。鍛錬で疲れてらっしゃるだろうというのもあるが、厠へ、ということに自身の秘密に対する直感的な恐怖を感じたからでもある。
はてどうしたものか。何よりこの場で赤蛮奇の再来を起こすのだけは避けたいのだ。時間がない。しかし下手に身体をよじる訳にもいかない。そこで身体を上方へずらし、腹に巻かれた腕に空間的余裕を持たせ、這い出ることにした。
ゆっくり、ゆっくり、下手に背中の人に刺激を与えないようにしていたが、運が良いのか悪いのか、股の秘密に人の手が触れる。思わずextend仕掛けたが、寝息の様子からして気付かれてないようで、それを確認すると漏れぬうちに急いで厠の方へ駆けて行った。尿意に注意を向けると下は治まった。
「ふぅ……」
離れにある厠へは間に合った。少し身体を震わせる。手を洗い手拭いで拭き、ほっとした顔で寝室の方へ戻る。自分の部屋を過ぎ、霊夢さんの部屋に入ろうとする。
さてどう戻るべきか。明日の朝輪の中に入っていなかったら、霊夢さんが不思議に思うだろう。かといって入り方も問題である。腕の輪の中に入るのは、明らかに出るのより難しいからである。しかも外を歩いているうちに少し目も覚めてしまった。このまま入って抱きしめられたら先ほどの下が回復しかねない。
小夜は少し縁側で座って考え、入ってすぐ寝る為眠気を待つことにした。爪先を地面につけ深く息を吐く。またゆっくりと行くしかないのだろうか。風がぬるい。それを爪先に触れる砂利が相殺する。
広い。眼前には色が失せた、ただ広い場があった。鳥居からの参道のみが少し鈍く濃く見える。ボクの今の札はあの鳥居に届くのだろう。来てすぐは前にさえ飛ばなかったというのに、時が経つのは早いものだ。
視線を上げる。空に浮かぶは数多の星と月。ウサギがいるように見える、完全な丸ではないが、丸っぽい月……ボクがあの時ふと浮かんだあの人も、月を見ていたのだろうか……
「おはよう」
「……あ、お燐さん。」
小夜の隣で、1匹の黒猫が丸まっていた。
「早いね、お小夜ちゃん」
「あ、いえ……目が覚めてしまって……」
「厠かい」
「そうです……お燐さんは?」
「いつも通りさ」
猫は尾を縁側に何度かペチンとたたきつける。
「はぁ……」
「で、どうしたの?」
「……はい?」
「なぜ今ここにいる?」
「ああ……月って……変わらないんですかね、と。」
「月?」
「この綺麗な月です……この前上白沢さんに調べてもらったところによると、私は今とははるかに違う時代から来たそうです。」
「食事見たらわかるよ」
「そうですか……それで、もしかしたらこの月、私の知る月とは違うのかも……と。」
「どうなんだろうね」
「……私、分からないんです。私がどうしたいのか。」
両手を膝の上に乗せ重ね、握る。
「永遠亭の八意先生によって記憶を取り戻す薬を飲んで治らなかった時も、悲しみだけじゃなかったんです。確かに喜びがあった。」
「そうかい」
「……どうしたら良いんでしょう。元の月のある所に戻るべきなのでしょうか……それとも……」
「簡単さ」
「えっ?」
軽い発破音ののち、隣の猫は猫耳を生やした少女に切り替わる。
「帰れる時になったら考えれば良い。」
「……帰れる時に、ですか。」
「少なくとも今じゃないんだろう?」
「……はい。いつかは分かりませんが。」
「そうかい。その時、その二者択一を迫られた時、初めて考えれば良い。それまでお小夜ちゃんはそんなこと気にせず、いつも通り鍛錬に励んで、いつも通り生活していれば良いさ。」
ニカッと八重歯を見せる。それにつられ、小夜も口元が緩んだ。
「それより、起きているなら撫でておくれよ。」
「あ、はい。喜んで。」
再び黒猫に戻ったお燐が小夜の膝の上に乗ろうとしたその時、小夜の身体が浮いた。両脇の下から日本の腕が飛び出し、胸の方へ巻きつく。
「ひゃあ!」
「さ〜よ〜。うぇひひ……」
「れ、霊夢さん?」
その主は先ほどまで寝ていたはずの霊夢である。
「な〜に起きてんのよ。明日もあるんだから寝なきゃダメでしょ。」
「あ、すこし厠へ……」
「あと勝手に布団から出て行くんじゃないわよ。早く寝るわよ。」
小夜を抱き上げながら、霊夢は寝床の方へ連れて行く。
「はい……あの、降ろしてください……」
「だ〜め。」
霊夢は小夜の髪の中に鼻を埋め、深く息を吸い込む。
「すうぅぅぅ……ふひいぃぃぃ〜。この格好も悪くないわね……」
「あの……」
「じゃ、お燐。おやすみ。」
「あいよ」
その姿のまま、2人は布団の上に倒れこんだ。深い深呼吸の音は、周りの森からの僅かな音を掻き消す。
「男ってつらいね」
丸に近い月は、ただ静かに空に浮かぶ。