金曜の17時には間に合わなかったよ……
はじめに神は天と地とを創造された。 地は形なく、むなしく、やみが淵のおもてにあり、神の霊が水のおもてをおおっていた。
神は「光あれ」と言われた。すると光があった。 神はその光を見て、良しとされた。神はその光とやみとを分けられた。
神は光を昼と名づけ、やみを夜と名づけられた。夕となり、また朝となった。第一日である。
(旧約聖書 創世記 第1章 冒頭)
その夜、ある妖怪は飯を求め、だが当てらしき当ても無くふよふよと彷徨っていた。その名をルーミアという。
黒い空からは白い粒が、彷徨っているように見えて実はしっかり下に向かっている。周囲は雪景色であったがそれを見ることはない。だが木々の枝が吹かれて織りなす甲高い音は存分に感じることが出来た。
この妖怪は周りから姿を隠せるが、一方それにより周囲を確認することが出来ないでいる。飯を探していながら外を見ない形態をとるとはなんともおマヌケなように見えるが、飯を探すとは其奴にとって面倒くさい行為でもあるため、手を抜くのも最もでもある。
周りが見えなければ、甲高い音がする中危険を察知するのは至難の技となる。ましてやそれを同時に被るものが、空を飛ぶことで周囲に吹雪を生じさせているならば。
そのもう一人、こちらは正真正銘根っからの人間である小夜というが、雪の中修行のために飛んでみせよう、と言って寺から神社へと空を駆けていた。
しかし飛べば自ずと、雪は身体のそばを高速で過ぎるようになる。見通しもかなり悪いその恐怖が神社の明かりが視界に入って弛緩したことが、運悪くもそれがぱっと消えた時の対応を遅らせた。原因が何か、など判断する暇なんぞなかったであろう。
そして小夜からすれば半ばめり込むような形で内部に突っ込み、無論周りの見えぬルーミアも対策なんぞ取りようもなく、両方を抱えた黒丸は舞う雪と同様雪原へと吸い込まれていく。
果たしてルーミアがうつ伏せで仰向けの小夜の上に覆い被さり、揃って気を失いながら白い布地に赤と黒と黄色が刻まれる状況が成立したのである。
暫くした。取り敢えず小夜が凍傷を発症しない程度である。ただでさえこの寒々しい環境であるのに、それを助長し、背筋を凍らせそうなほど寒そうな服を着た幾回り大きな妖怪が、その上を通り過ぎようとした。名をレティという
レティはちらりと見て、そのある妖怪の存在を確認した。妖怪なら雪に突っ伏してようと大したことはなかろう、と通り過ぎようとしたが、少しその光景に違和感を覚え、立ち止まった。
もう一度、今度は少し時間を置いて眺めてみる。違和感の理由は、ルーミアの少し上に黒い塊が落ちているからだった。
そうしてさらにじっと見てみると、人間らしきものが下敷きになっているようである。服は赤と白、この警戒色はあの鬼畜巫女と同系統だと示している。どうやら本物の人間のようだ。
なるほど。どれほどの者かは分からぬが、これを見逃し、のちにそれが発覚したら巫女に真剣勝負をさせられ、いや虐殺されるやもしれぬ。ここは保険も兼ねて保護するのが得策だろう。
その大きな妖怪は雪原上に二つの足跡を付けると、ルーミアと人間を共に拾い上げ、自らの住処へと悠々と飛んで行った。
このレティの住処は木で出来ている。扉を開けて二人を一度床に降ろすと、湿気ったぶんの服を冷気に溶かしてから、奥の押入れから敷布団を二つ取り出し並べて広げた。それに波が生じないように伸ばすと、それぞれが着ている濡れた服を取っ払うことにした。
まずはルーミア。黒い胸掛けにしては後ろまで覆っている服、次いで白いシャツを脱がせる。あとは身体の周りにある小物を取って、右側のタオルケットと掛け布団の下に突っ込めば終わりである。
次いで人間。こちらは格好を見るにやはりあの鬼畜巫女関連の人間に違いない。ならば尚更風邪など引かせるわけにはいかぬと袖の部分を外してから上着、下の布を脱がせ、下着姿にする。
そうしてみたはいいものの、なかなか奇妙である。巫女と同系統な上髪からしても女のようであったが、どうも下着が成す形状からして、そうではなさそうな気がしなくもない。
が、ともかくもその下着も濡れていたため、両はしを掴んでずり下ろした。
その時この妖怪は、この人間が幻想郷に現れて以降の重大な秘密をその目で確認したのである。その股にある象を。それなのにこの者はあの巫女の関係者なのか。謎が新たに生まれはしたが、妖怪同様今度は左側の布団に突っ込んだ。
だが雪で冷やされた身体は布団だけでは体温を回復しきれないだろう。布団の周りの冷気を吸えるだけ吸い込んでみたが、十分かは分からぬ。それにしても、久々にまともなものを見た。
このレティ、先程の行動からも分かるように冬を象徴する妖怪であり、それ以外の季節は苦手で眠りこけており姿を現さない。そしてレティが起きている冬は、雪が積もり薪を拾うのも一苦労な為、人里の人間があまり好き好んで出かける季節ではない。無論子供もである。
そしてこの幻想の郷に住む一部の妖怪の習性から考えると、レティには他の妖怪より経験値が少ないことが幾つかある。そのうちの一つが、食べる経験である。これは他の妖怪よりも圧倒的に少ない。とすれば、これは大きなチャンスだと考えられる。
もはや迷う必要はなかった。簡単に布団をもう一枚出して人間の右隣に敷くと、冷気で出来た服を取り払い、人間の方の布団の中に潜り込んだ。
ふむ。やはり身体が自分でも分かるほど冷えている。私自ら温めようと、レティは人間の腰の下から腕を通し、人間の右腕を自身の胸の間に埋めるようにして抱きしめた。周りの冷気を少しでも奪っていけば、相対的に温めることができる。やはりまだまだ冷気は残されていたようだ。
人間の若干苦しげだった息は収まり、ルーミアの方はもうすやすやと安らかな寝息を立てている。この人間、抱き心地が良い。もう片手を人間の腹の辺りに伸ばし、そっとへそを中心に輪を描く。上質な絹のような腹というのも、なかなかよいものである。
その手を足の方へと伸ばし、途中の障害物で止める。腹の側に倒れる竿とその下にぶら下がる二子玉、確かに見た通りに感じられる。そしてここが一番冷えている。ここは集中的に冷気を取り払うとしよう。
段々と温かみが手に感じられるようになった。竿をそっと手で包むと、体を通じて伝わっていた鼓動が手からも伝わるようになる。指先を動かしていると、手が成す輪が膨らんでいく。少し強く握るとそれはこんにゃくから石へと変わり、手を力強く押しのけた。それどころか竿そのものが手をぐいと持ち上げたのである。
この硬さ、この力強さ、只者ではないッ!
ますます食わずにはいられなくなる。巫女の嫌がらせとしても悪くない。が、隣にルーミアがいる以上下手に起こす訳にはいかない。ましてや巫女の系統なのだから尚更である。だがこの機会、逃してなるものか。
飛び込むまでは潔かったが、そのあとが詰まる。悩んだ挙句、レティはその竿を除く性別と若さが織りなす要素を味わいつつ、目を覚ますのを待つことにした。
足、腕、腹、首、胸、肩、頰、髪。時には頰を擦り付けつつ、時にはくちづけをしつつ、時には舐めつつ、時には抱きしめつつ。まるで時とまだ触れていない場を恋しがるように徹底的に身体に染み込ませた。
レティが布団に入ってから一刻と少し経った頃、人間が身体をよじりながら言葉を漏らし始めた。目を覚ます時が近いようである。妖怪はさらに愛撫したい気持ちを抑えて、第一印象を少しは、少しはまともにすべく隣の布団に入って寝顔を眺めていた。
よくよく見ればルーミアも寝返りを頻繁に打っている。悪くない。寧ろ良い。仕上げの時は近い。
人間が薄く目を開いた。自身の状況については十分に理解出来てないようだ。脇から一声かけてみると、一瞬返事をしたがすぐに顔を紅潮させながらばっと反対側を向いた。残念ながらその先も、タオルケットがずれて外気に触れたルーミアが横になっているのだが。
人間が顔を天井の方へ戻した。共に胸の先は出していないから、レティからすれば反応としてはいささか大袈裟すぎる気がした。確かに寝顔を眺めている間それにかまけていた為、また身体を冷やした可能性がある、と再び布団を移り抱きついてみる。
体温は大して変わらなかったが、理由は明らかだった。竿の硬さ、暑さ、その何れも先程よりもさらに力強くなっていたのである、触れてもないのに。顔の通りウブだったようである。これは解放させねばなるまい。これは保護した者による正当な治療であり、保護に対する正当な見返りである。
人間が何か言っているが気にせず布団の奥の方へ潜っていく。おお、あのウブな顔のウブな反応に似合わず反り返るそれが、見事に布団を押し上げていた。やはり只者ではない。これに対する対応は二つ、まずは舌用いることにした。
さてこれまでレティの方を重視してきたが、ルーミアの方も見てみるとしよう。ルーミアは少しずつ身体の感覚を取り戻しつつあった。意識が薄っすらだが戻った時、腹の方が寒いことに気づいた。そして度々の寝返りにより小夜の方に近づいていた。おまけに小夜の右側にレティが入っていった為に布団が引っ張られ、ルーミア側の布団は腕が見えるほどになっていた。
頭がまだ寝ぼけているルーミアにとって、自身にかかる布団ではなく、目と鼻の先にある空間を成す布団が自身の布団であった。薄眼を開きながら少しずつ接近し、そこに入る。中には丸い棒がある。布団にしては触り心地が変だが。とりあえず温かかったので気にせず掴み、身体の正面を温める糧とした。
ここで何かを聞いてはっと目が覚めた。正面は上が赤、中が黒、そして下が白。後になってそれらが順に顔、髪、枕だと分かった。そして先程抱えた棒は正面の者の腕だった。そして何より、自身が全裸であった。
小夜とは以前森の中で会ったことがある。はっきりいって弱々しく、頼りには無さそうな人間であった。布団の奥から聞こえる声と経験からここがレティの家だと知った。まだこちらが起きたことには、共に気づいてないようである。
布団は自身の腹の辺りで水っぽい音を響かせつつ、しきりに上下している。そして小夜からは腕を通じて痙攣が伝わる。呼吸は荒いながらもしっかりしているので、問題はなさそうだが、辛そうである。ルーミアは自身の腕に少し力を込めた。
上がる息の合間から僅かだが声が漏れている。向こうの鼓動が速くなる。共鳴するように自身の鼓動も激しさを増す。何かを堪えようとしているのか、布団の辺を咥え、それを握る手を強く握り締めている。
何だろうか。鼓動だけならともかく、この腹の下の辺りから感じられるこの熱いものは。
小夜は口を離すと、腹の辺りからの吸引音に続いて言い表し難い奇声をあげた。腹の辺りがさらに何度も突き上げられている。妖怪はそれに動じることなく、腰が止まるともう一度一際長く吸引音を立てた。また少し布団が盛り上がる。喉を鳴らす音の後に、顔を一つ跨いでレティが頭を出した。ルーミアは何故か狸寝入りをしなければならない気がし、そうした。
レティは冷気で服を纏うと人間の枕元に服を渡し、それを着る様をじっと見物した。そして少し話した後、吹雪く外へと舞い上がっていった。ルーミアは鼓動が収まるのを見計らって布団から這い出て、乾かされている自身の服に手をかけた。
まずは一番下に積まれていた下着である。それを抜き取り広げて足を突っ込むと、まだ股のところだけが濡れているようだった。一度脱いでその濡れている箇所を眺めてみるが、他の箇所は乾いていてここだけ濡れているのも変である。ルーミアは眠っていた布団もめくってみたが、漏らしたわけでもない。
恐る恐る自身の股の下に手を当てた。手に水が付いた。目の前に持って来てみたが、どうも尿とは違うようだ。だが身体から、しかも股の何処から出ているのは間違いない。
何だこれは。先程の下腹部に感じた感覚と関係あるのだろうか。それとも他に理由があるのだろうか。吸血鬼に血を吸われた気がした。
拭けるものを探したが、身近にはない。止むを得ず近くの布団の端で拭いてしまった。その後は早く着替えた。他に変なところは無さそうである。空腹を除けば。だがルーミアとにかく怖かった。万が一これが妖怪の存在に関わるものであれば、どうしたら良いのか。
とそこへ扉が開き、レティが帰宅した。ルーミアはレティへ抱きつき、ことの顛末を喚くように語った。レティは始めは真顔でそれを受け止めだが、話を聞くにつれそれが歪んだ。少し焦ったが、今日のことは秘密にすると裏付けを取った上で、腹が減ったというので食事を作ることにした。
食事は無論全て冷たいものだった。それを共に食べながら、その液体は何ら害のないものであること、心が興奮すると出るものであることなどを簡単に説明すると、一安心したようである。が、レティは何をしていたのかと聞かれたのには黙秘を貫いた。その為にはあの人間の秘密を伝えねばならないのだから。
食事を終えると、レティはルーミアを帰し、布団を洗濯することにした。そして今、この季節をさらに楽しもうと決めた。
中身が薄いなぁ……
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