巨人の世界で(笑)   作:トッシー

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暗殺

ミーナとアルミンを真友認定して翌日、俺は清々しい気持ちで目覚めた。

景色が何時もと違って見える。

シミだらけの汚い天井も澄み切った青空のように思えてくるのだ。

それというのも、真友が出来た事が大きいだろう。

明日からなにして遊ぼう…。

ショッピングに行くのも良いかも。

ミーナとデートというものもしてみたい…。

いやいやミーナは友人だ!

デートとはか、彼女とするものであって友人とするものでは…。

いや友人とだって有りだろう。アルミンとついでにミサカも誘えば不自然ではない筈。

 

俺はウキウキきた気分で、さっそくアルミンとミーナを訪ねて遊びに行かないかと誘った。

結果、

 

「だめだめ、何言ってるんだ?兵士の僕達にそんな暇あるわけ無いよ」

 

断られた。

すげえ凹んだ。

いや普通に気づけよ俺。

どこの中学生だよ。初めて友人の家に遊びに行く小学生か。

ダメ元でミーナにも声を掛けてみたが、

 

「ごめんなさい。今日は哨戒任務があるの。え?いつ終わるのかって?新入りの私にはちょっと…」

 

なんかやんわり断られました。

すげえ凹んだ。

俺達、友達だよな?いや真友だよな?

兵士の任務と俺、どっちが大事なんだよ。

俺なら開拓の仕事をほっぽり出してでも行くけどなぁ…。

 

「はぁ…」

 

二人に断られた俺は重い足取りで修行場所へ戻ってきていた。

それにしてもいい加減にしてほしい。

 

「…あのう、さっきからウザいんですけど…、いい加減にしてくんない?」

 

数日ほど前からなのだが、何をトチ狂ったのか俺の後を付け回すストーカーさんが現れるようになった。

上手く気配を消したつもりでも気を隠せていないので丸判りなのだが…。

ていうか付け回される心当りがない…。

こんな物騒な殺気、いや殺意を向けてくる怪しいおっさん達に恨まれる様な事をした覚えは全くと言っていいほど無い。

気配は十一、木の上に八、前に一人、背後に二人。

ていうか俺、何かしたっけ?

 

「リク・クリムゾンだな…」

 

「俺をご指名?おたくら誰?初対面のオッサンに殺気をぶつけられる覚え、無いんだけど?」

 

同時に俺は跳躍する。

ドスン、ドスンと俺のいた場所に弾が着弾する。

火薬と鉄の匂い。これは間違いなく銃撃だ。

 

「散開っ!奴は上だ!」

 

「うぉっとっ!?殺る気満々っ!?」

 

リクの眼前に迫るのは立体機動装置を装着した中年の男だ。

ワイヤーをリクの背後の木に向かって射出、同時に宙へと身を躍らせる。

他の男達も動き出す。

時間差で、あるいは同時に。良く出来たコンビネーションだ。

標的を確実に殺す。ただその為だけの行動。

男達は何時でもこの方法で確実に標的を始末してきた。

そして今回も…いや、何時も以上にタイミングは完璧だった。

この行動によってリク・クリムゾンを確実に始末する。

 

 

リク・クリムゾン(15)

ウォール・マリア、シガンシナ地区に住む平民の少年。

訓練兵団の門を叩くも立体起動術において脱落、農地開拓へと移される。

その時より奇行が目立つ様になる。

常軌を逸した程、開拓に取り組むようになり、同時に周囲から浮き周囲から孤立するようになる。

この時、要注意人物として監視が置かれるようになるが、それ以上に目立った行動はなかった為、監視を中断。

それから再び超大型巨人の来襲事件において、生身で巨人を殺したという報告が上がる。

事実確認の結果、事実であると判明。

審議の結果、目標が我らの社会秩序において危険と判断。

リク・クリムゾンの殺害を決定。

 

 

(……殺った)

 

何時もどおり。

目の前の目標も、今までの標的と同じ。

この一撃で首と胴体が別れ、心臓に大穴が穿たれる。

それで仕舞だ。

しかし男の手には何時もの人を斬った感触が伝わってこなかった。

肉を切り裂き骨を断ち切る、そして頬に掛かる生暖かい血の熱。

人を殺した感触が返ってこないのだ。

 

「……がはっ!!?」

 

腹部に衝撃が走る。

口に広がる生暖かい熱、これは吐血だ。

自身の身体は不自然な程くの字に折れ曲がっている。

鏡はないため自分の姿は確認できないが、それでも分かる。

自分はここで終わりなのだと。

薄れゆく意識の中で「ぐふっ」、「ぎゃあああああ」と悲鳴が聞こえた気がした。

 

 

リクが一瞬で五人、ほぼ半数を無力化したのを見て目の前の男は声にならない呻き声を上げた。

それも当然の反応だ。

この十一人は自分と上司が見出した選りすぐりの使い手たちだ。

巨人殺しのプロである調査兵団が相手であっても確実に殺せる自信がある。

目の前の子供≪ガキ≫も生身で巨人を殺したというが、所詮は生身の人間。

人間である以上、殺せない道理は無い。

喉を、心臓を、急所を狙えばあっさりとケリは着く筈なのだ。

いかに相手が超人的であろうとも、自分たちはその道のプロなのだから。

 

「甘く見過ぎたか…」

 

男は直ぐに思考を切り替えた。

確かに驚愕した。今まで殺してきた標的とは全く違う。

認めよう。目の前の敵は捨て身で掛かろうとも殺せない事を。

ならば道は一つだった。

 

『総員、撤収!目標を牽制しつつ合流地点Bまで後退!』

 

逃げの一手だった。

 

「だがその前に…」

 

同時に周りの男達が銃をリク、いや倒れている男に向けた。

 

「…まさかっ!」

 

これは口封じだ。自分たちの情報が漏れないように倒れた味方を切り捨てる。

このままでは倒れた男達は殺されてしまうだろう。

銃声と同時にリクは跳んだ。

瞬時に複数の気弾を生み出すと同時に放つ。

 

「な、なにぃっ!!?」

 

リクは気弾によって銃弾を相殺、そして瞬時に次の行動に出た。

倒れた男達をひっ捕まえる。

 

「太陽拳!!」

 

リクは全身から凄まじい閃光を放出した。

 

「ぐああああああああつ!!?」

「め、眼がっ!?眼がああああああっ!?」

 

リクは男達が目を眩ませている隙に倒れている男達を回収してその場から姿を消した。

 

 

 

「あんにゃろう、一体何だったんだ」

 

木々の間を忍者のごとく駆けながらリクは独りごちる。

 

「やっぱり全員、叩き潰すべきだったか…いやそれよりも」

 

リクは後ろに視線を移す。

両肩には無理やりに五名もの男を背負っている。

既に邪魔な立体機動装置は外しており、リクの腕力なら難なく運ぶことが出来る。

リクは背後に意識を向けたが追ってくる気配はない。

どうやら上手く巻いたらしい。

リクは樹から樹へ飛び移りながらも周囲の様子をうかがう。

目の前に川が見えた。

リクは地面に着地して川辺へと駆け寄った。

 

「さてと…」

 

リクは軽く一息つくと背負っていた男達を放り投げた。

男達は意識を失ったまま宙へと投げ出され、水面に叩きつけられた。

ブクブクと息をしているところから、ちゃんと生きているようだ。

そして、

 

「ばっはぁっ!!?」

「ぶはっ!げほっ!?ゴホッ!!?」

 

次々と意識を取り戻して水面から顔を出してくる。

むさい男達が水をたらふく飲んで涙目で咽ている。

正直キモい…。

リクは不快感を顔に滲ませながら、一番早くに顔を出した男の顔を踏みつけた。

 

「よう!起きて早々に悪いけど、聞きたいことが有るんだけど勿論答えてくれるよなぁ?」

 

「ぶふっ!?」

 

友人が出来て清々しい朝、そして誘いを断られて鬱な午後。

そんな時、訳も分からずに殺されかけた。

もしも亀仙流の修行をしていなければあっさりと殺されていただろう。

ハッキリ言ってしまえば今の自分は凄まじく機嫌が悪い。

目の前の男達は殺人も厭わない外道のようだ。

八つ当たりしても問題ないよね?

リクは気弾を掌に生み出しながら邪悪な笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 

「リクに悪い事しちゃったかな…」

 

新兵として任務に励むアルミンは馬の世話をしながら溜息を付いた。

 

「仕方ないわ。私達にはしなければならないことがあるんだから」

 

ミサカは淡々と言葉を返す。

 

「流石に遊びに行こうは無いだろう…」

 

「いや、俺も出来るなら遊びに行きてぇな…ああ!ガキだった頃に戻りてぇ!」

 

しかしそれも最早敵わない。

自分たちは既に兵士なのだから。

 

「けどさ、本当に僕達もリクみたいな力が手に入るなら…、これまでの戦術や作戦が根本的に変わる。そんな気がするんだ…」

 

「まぁ、確かに…けどよ、なんかそれって危なくねぇか?」

 

ジャンは馬の背に走らせるブラシを止めて言った。

少し手が震えている。

 

「今でこそ俺達はヤツを味方と認識しちゃいるが、得体が知れないのも確かだ…一歩間違えればどうなっていたか…」

 

「それってリクが敵になってたかもしれないってこと?」

 

「ああ、なにせ素手であっさり巨人の群れを始末しちまう様な奴だぜ?下手すりゃ…」

 

人は理解できない存在を前に心穏やかにはいられない。

多くの兵士がリクを敵として剣と殺意を本気で向ければリクも身を守る為に拳を振るうだろう。

 

「それって最悪の事態じゃないか…」

 

「俺らはまだいい…、けど他の連中は?」

 

「ま、まさか…っ!?」

 

アルミンは思わずリクの家の方を見た。

急激に下腹が熱くなっていくのを感じる。

 

「……友達、か…」

 

アルミンにとっての友人といえば第一にエレンの顔が浮かぶ。次にミサカだ。

正直、リクの友人になると決めたのは打算によるところが大きい。

 

「けど…、リクは大丈夫だよね…」

 

アルミンはそうであってほしいという希望は風の音にかき消されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く?

 

 

 

 

 




リクに襲いかかってきた正体不明の集団。
原作読んでる人は何となく予想はつくでしょう…。

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