巨人の世界で(笑)   作:トッシー

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文字通りの無双回です。
上手く掛けているか心配です。
戦闘シーンは苦手です。


無双

「注目ッ!!!」

 

オレとエレンを伴った司令が城壁の上から集合した兵士達に号令をかけた。

いよいよ作戦の説明が行われる。

トロスト地区奪還作戦の開始である。

 

作戦の成功目標は超大型巨人によって破壊された扉を塞ぐことだ。

当然、全兵士がその作戦内容に戸惑う。

破壊された扉を塞ぐ。それは人類には不可能な偉業だ。

もしそんな力が人類にあれば、マリアの壁もとっくに塞いで然るべきなのだ。

兵士たちの心境は一つだった。

 

「どうやって?」

 

兵達の同様と戸惑いを流し、ピクシス司令の説明は続く。

そこで初めてエレンが紹介された。

 

「彼は我らが極秘に研究した巨人化生体実験成功者だ!」

 

云わく、エレンは巨人の肉体を生成し操ることが出来る。

巨人化したエレンがローゼ付近にある大岩を持ち上げて破壊された扉まで運び穴を塞ぐ。

兵士達の任務はエレンが穴を塞ぐまでの間、その生命を投げ出してでもエレンを護ることである。

ピクシス司令の説明した作戦が成功する意味は奪われた街を奪還出来るという事だった。

兵士達の目に希望の光が灯る。

 

「そんなことが出来るのか?」

「オレたち人類は、巨人をも支配できるのか?」

 

「そんな筈あるか!」

 

しかし巨人の恐怖に負けてしまった者は納得できなかった。

 

「そんな嘘に騙されるか!」

 

「そうだ!そんな訳のわからない作戦に命をかけることが出来るかっ!!」

 

恐怖に負けた兵士達は次々と隊列を離れていく。

敵前逃亡は死罪。

理解していても巨人に喰われるよりはと我先にと逃げ出そうとする。

将校達は逃亡兵を出すまいと、剣を抜いて道を塞ぐ。

ここで勝手を許せば秩序が崩壊するからだ。

それでも兵士達は止まらない。中には上官に対して剣を向けるものも出てきた。

 

「司令として命ずるっ!!今この場から逃げ出す者は罪に問わぬっ!!!」

 

全将兵が驚愕する。

 

「一度巨人の恐怖に負けたものは、もう巨人に立ち向かうことは出来んっ!去るものは追わんっ!行くがいいっ!!但しっ!自分の大切な者に巨人の恐怖を味あわせたい者もこの場から立ち去れっ!!!」

 

その言葉に逃げ出す兵達全員の足が一斉に止まった。

駄目だ。それだけは絶対に。

兵達の脳裏に大切な者達の顔が浮かぶ。

それにこの場に逃げ出せば人類の敗北、滅亡が決定するのだ。

4年前、ウォール・マリア奪還を名目に政府が抱えきれなかった大量の失業者を口減らしした。そのお陰で皆が生きていられる。

しかし今回ばかりはそうはいかない。

最後の壁、ウォール・シーナだけでは残された人類の半分も養えない。

待っているのは人類同士の戦争だ。

ピクシス司令の言葉に前兵士の士気が高まる。

そして司令がオレを前に押しやった。

やっと俺の出番か。これだけ大勢の前に立った事なんか無いから緊張するな。

 

「それからもう一人っ!頼りになる男を紹介しようっ!リク・クリムゾン!」

 

「どうも」

 

「もう知っているものもいるだろう。驚くべき事に彼は我ら兵士を養う為に働く生産者じゃっ!しかし此度の戦いにおいて自分の意志でこの戦場に降り立ったっ!彼が何の武装も無しに巨人共を蹴散らす姿を目撃した者は少なくないじゃろうっ!」

 

さて、どうやって自己紹介するか。

取り敢えず自分が巨人の同類じゃない事をアピールしつつ適当に茶を濁すか?

 

「紹介に預かったリク・クリムゾンだ。東洋の神秘、亀仙流の武術の継承者だ。まず初めに言っておく事がある」

 

オレは兵士達の顔を見渡す。

知っている顔が何人か見えた。ミーナが手を振っている。

しかし殆どの兵士がビビっているのが分かる。

なんでこんな奴らを守らないといけないんだろう。

一瞬そういった考えが脳裏を過ぎった。

しかし、コイツらはオレと同じだ。唯、巨人が怖いだけ。みんな同じだ。

そう思えば負の感情は薄れていった。

 

「さっきお前らと揉めた時に分かったことだけど、お前らはオレが巨人の同類じゃないかって疑っているだろう…」

 

オレの言葉に兵士達が顔を見合わせた。構わず続ける。

 

「心外だ」

 

オレは巨人が怖くて仕方がない。

怒りよりも恐怖、悲しみよりも恐怖。何よりも恐怖の感情が勝った。

だから死ぬ気で鍛えた。それだけに過ぎないのだ。

内地に逃げる為に良い成績を残そうとした者達と何も変わらない。

それでもオレは作戦成功の為に本音を隠した。

 

「オレは……、巨人なんかよりも恐ろしいぞ」

 

何人かが息を呑むのが聞こえた。

オレは今、さぞ酷い顔をしていることだろう。

徐に手を天に翳す。気功波を放った。

凄まじい光線が天を突き、大雲に大穴を穿った。

全兵士、開いた口が塞がらない。

横を見ると、エレンもアルミンも司令、ミカサまでがあんぐりと口を開けて固まっていた。

 

「まぁ、そんな訳で死ぬたくないなら巨人はオレの所まで誘導しろ」

 

巨人はオレに任せとけ。

そうすればオレが片付けてやる。

無言。全兵士は無言だった。もしかしなくても外したのか?

オレは恥ずかしくなって背を向けて下がる。

後は司令に任せよう。

その時だった。

 

 

 

ウ、ウ………ウオオオオオオオオオオッ!!!!!

 

 

 

「うおっ!!?」

 

オレの背中に兵士達の大咆哮が突き刺さった。

 

「見たか!?今の!?」

 

「ああ、なんかよく分からんがスゲエっ!!」

 

「実はオレ、喰われそうになってた時に助けられたんだ」

 

「オレも見た!巨人を投げ飛ばしてた!」

 

「嘘だろうっ!」

 

マジですか。

まさか気功波にここまで効果があったとは…。

 

「驚いたわい…。まさか士気がここまで上がるとはのぅ。お主、指揮官に向いておるかもしれんの…」

 

「…冗談」

 

そんな面倒くさいのはゴメンだ。

あんなの力を見せつけただけ。

その場しのぎのパフォーマンスに過ぎん。

例え才能があったとしても指揮官なんて面倒臭いもの絶対に嫌だね。

多くの兵士の命運を背負うなんて考えただけで胃が痛くなる。

 

「本当にどうしよ?」

 

偉そうな事を言っておいて何だが、やっぱり巨人は超怖い。

今にもチビリそうだよ…。

 

「おい!シャンとしろ!俺とお前に作戦の成否が掛かってんだぞっ!」

 

その時、ドンとエレンが活を入れるようにオレの肩を叩いた。

 

「本当に大丈夫か…、コイツ」

 

ミカサが感情の篭っていない目でオレを見る。

心なしか怒っているようにも感じる。

 

「正直わたしはお前の事は気に入らない」

 

「ちょ、ちょっとミカサ!?」

 

「お前の戦いは見た。確かに凄まじい力だと思った。だけど」

 

「なんだよ」

 

「どうして本気で戦わない?」

 

「え?ど、どういうこと?」

 

アルミンとエレンが信じられないといった顔でオレを見る。

気づいていたのか?

流石はミカサだな。こいつは完全に自分をコントロールできる。

そういった力を持つからこそ気づいたのか。

 

「もしもお前が本気で戦っていたのなら…、エレンは巨人に喰われることもなく、そしてもっと多くの人を救えたんじゃないか?」

 

そしてコイツはエレンを慕っている。

だからこそオレに対して憤っているのだろう。

 

「そ、それは本当なのか?」

 

「ああ。オレは全力を出していない」

 

「ど、どうして…」

「……出せないんだ」

 

アルミンの疑問に対してオレは声を絞り出す様に答えた。

正直コイツラがどんな反応をするのか分からない。

エレンには本音を言ったが、実際にどう思っているのか聞いていない。

オレはエレンを見る。

 

「わからねぇ。さっき巨人が怖いって言ってたよな?」

 

「ああ。珍しくもない話だけど、親父がさ、目の前で巨人に喰われた。俺を庇ってな…」

 

「そうか…」

 

「その後、母さんが口減らしの為にウォール・マリアに送り込まれた。それ以来、巨人が夢に出ない日がなくなった」

 

必ず巨人に追われ、最後には食い殺される。

そんな夢を毎日見るようになった。

前世の事を思い出して現実逃避したり、修行を始めてからは少しはマシになったけど…。

どうしても、親父が喰われる瞬間だけは頭から離れない。

 

「そして見えるんだ。巨人に喰われる親父がオレにダブってよ」

 

「オレも…、母さんを巨人に喰われた」

 

「そうか…この時代、珍しくもない悲劇だな。エレンには言ったけど、オレは保身の為だけに強くなったんだ。笑えるだろう?超人的に強くなったのはいいけど巨人を目の前にすると身が竦んで実力の半分も出せない」

 

どうだ?軽蔑したか?

そんな視線を皆に向ける。

 

「笑えないよ…」

 

アルミンが握りこぶしを震わせて、ポツリと漏らした。

 

「笑えるわけないよ!リクは凄いよっ!何がかんだ言っても、結局は戦ってるっ!現実から逃げてないじゃないかっ!」

 

「おい、さっきの話を聞いていなかたのか?」

「でも訓練を積んできたんだろう!?僕達兵士よりも更に厳しい訓練を!それって巨人の問題から目を背けずに戦ってるって事じゃないか!?」

 

「アルミン」

 

アルミンの言葉に目頭が熱くなる。

 

「だな。でなけりゃ、トーマスとミーナは死んでた。他にも救われた奴はいただろ?」

 

「それが保身の為だとしても、お前は強い人間だと私は思う」

 

「エレン、ミカサ…」

 

コイツらに話して本当に良かった。

オレは、この最高の仲間達を絶対に守り抜こうと決めた。

 

 

 

 

現在オレ達は司令が選んだ精鋭を伴って城壁の上を走っていた。

目的地は件の大岩のあるローゼ内門付近だ。

エレンは大岩を、そしてオレは。

 

「エレン、見送りはここまでだ」

 

「ああ」

 

「作戦の成功を祈る」

 

もう他に言うことはない。

オレは身を翻すと、城壁から飛び降りた。

目的地はトロストの中央、そこに集まってくる巨人を殲滅する。

オレは瞬く間にトロスト地区中央に到達すると、屋根の上で叫んだ。

 

「死にたくないなら巨人をオレの所まで誘導しろっ!!!」

 

巨人が歴史に出現して以来、人類が巨人に勝利した記録はない。

巨人と戦う度に人類は後退し領土を奪われ続けてきた。

しかしそれも今回の作戦で終わりだ。

人類は今日初めて勝利する。奪われたトロシナを奪還する事によって。

 

 

 

 

「ひっ、ひぃぃっ!?」

 

「させるかっ!」

 

巨人に捕まった兵士を間一髪で救出する。

群がってくる巨人の隙間を潜り抜けて弱点を削ぎ落とす。

同時に助けた兵士を城壁の上まで放り投げる。

兵士達はオレの強さを見ると、次第にオレの指示通り巨人を誘導し始めた。

巨人をオレの所まで連れてくるとその場を離れて、また新しい巨人を連れてくる。

オレは次の巨人が来るまでに視界に入った巨人を手早く始末していく。

そして偶に巨人に喰われそうになった兵士を救出。その繰り返しだ。

全兵士ドン引きである。

 

「はあああああああっ!!!」

 

そしてそれ以上にオレは普通にチビってしまっていた。

股間が気持ち悪い。バレてないよな?絶対に大丈夫だよな?

オレは多重残像拳で複数の巨人を幻惑する。

蹴りを、突きを繰り出す度に巨体が弾け地面を転がる。

 

「そっち任せた!」

 

「お、おう!」

 

オレの声に反応して兵士が止めを刺す。

殺した巨人の数は既に30体を超えた。

帰ってくる兵士が減っているが、恐らく巨人誘導中に失敗して喰われたのだろう。

 

「リク!連れてきたよ!」

 

ミーナが5体ほど巨人を連れてくる。

全部が7メートル級だ。良く無事だったな…。

 

「無事じゃないよ!一人喰われた!私もガスが限界っ」

 

「よし!後はオレに任せて補給に戻れ!」

 

「お願いっ!」

 

ミーナは本部に向かって去っていく。

オレは地面に散乱している瓦礫を拾い上げるとミーナが連れてきた巨人達に向かって跳躍した。

投石によって速攻で巨人の目を潰す。

そして3体を兵士達が止めを刺し2体をオレが仕留める。

 

 

「みんな、見ろっ!!」

 

そこで兵士が空を見て叫んだ。

赤い煙が上がっている。失敗の合図だ。

 

「そ、そんな…。アイツ失敗したのか?」

「巨人に殺られたのか?」

「やっぱり敵だったんじゃ…」

 

「狼狽えるなっ!!」

 

このままじゃ不味い。

そう思って、つい一括してしまった。

 

「そうだとしてもオレらのやる事は変わらん!」

 

オレは近づいてきた4メートル級を掴み上げると15メートル級のうなじに向かって振り下ろした。

ぐしゃとり嫌な音を立てて2体の巨人が力尽きた。

 

「次の命令があるまで巨人を殺しまくるっ!」

 

「しかしっ!」

 

「口動かす暇があるなら次の巨人を連れて来いっ!」

 

「わ、わかったっ!!」

 

「それからお前、動きが鈍ってるぞ。ガスが尽きそうなら補給してこい」

 

「わかった!」

 

兵士達は再び巨人を誘導する為に、そして補給するために各々動き出した。

 

「エレン、確りしろよ…」

 

オレは掴みかかってくる巨人の髪を掴んで地面に叩きつけると赤煙の上がった空を見て呟いた。

 

「あ、忘れてた」

 

そしてオレは力を込めて踏みつけている足の下でジタバタしている巨人に止めを刺した。

人類の勝利は遠い…。

そしてオレの心の平穏は更に遠い…。

オレの股間からは相変わらずアンモニア臭が漂っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く?

 

 

 




ヘタレた部分を隠しながら戦うリクでした。
漏らしたのバレてないですよね…。
戦闘中だし、あれだけ動きまくってたら濡れた股も直ぐに乾きますよね。
リクの尊厳は…。

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