ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~ 作:悪魔さん
翌日。
リュウグウ王国の政の中心・竜宮城は大騒ぎであった。
「何だ……? 随分と騒々しいな」
テゾーロは怪訝な表情を浮かべる。
この魚人島は海の王者である大海賊〝白ひげ〟のナワバリであり、その恩恵を受けている。ロジャーの死から大海賊時代を迎えて以来、多くの海賊やそれを取り締まる海軍が島に押し寄せると共に人魚の誘拐などが行われたが、白ひげのナワバリ宣言でたった一日で王国は平穏を取り戻したという。
その白ひげが一味を率いて来たというのなら、この慌てぶりは理解できるが……。
(……妙だな)
騒ぎは騒ぎでも、その〝質〟は違った。
白ひげとその一味は、魚人島にとっては大恩ある存在。そう考えると、むしろ騒ぐというより盛り上がるといった表現に近いだろう。だがこの騒ぎは、どちらかというと大混乱に近い――それこそ、招かれざる客でも突然来たかのような。
「そこの人、何が起きたんだ?」
「こ! これはテゾーロ殿……」
テゾーロは騒動の原因を突き止めるべく、兵士に尋ねた。
「一体何の騒ぎだ? 兵士たちの騒ぎ様だと、只事ではないようだが……」
「そ、それが……て、てて……」
「て?」
「て、〝天竜人〟が来訪していて……!!」
「天竜人が……!?」
「オトヒメ王妃との謁見の書状を渡したはずだ!!」
「し、しかし……」
「よさんか貴様ら!」
魚人島の港にて、海兵達とネプチューン軍が騒ぎを起こしている。外套を身に纏った初老の男性が一喝するが、騒ぎは収まらない。武力衝突は双方望まないようであるらしく、武器を構えてはいないもののかなり緊迫した状況だ。
「……あーあー、こりゃあ面倒な……」
そこへテゾーロ達が竜宮城から急遽駆けつける。ネプチューンとオトヒメの客人ということが国民にも知られてるからか、道を開けてくれた。
そしてテゾーロの視界に飛び込んできたのは――クリューソス聖の姿だった。
「……何やってんですか、クリューソス聖」
「テゾーロ!!」
クリューソス聖に声を掛けるテゾーロ。
ようやく話の通じる相手が来たと露骨に安堵している彼に、テゾーロは思わずジト目になる。
「……一体どうしたんで? ドタキャンどころかサプライズ登場なんて」
「君がマリージョアを訪れた後、オトヒメ王妃とネプチューン王との謁見を願った書状を書いて送ったのだ。だがその返事が来なくてな……」
「それで直談判に来たと……」
テゾーロはクリューソス聖の言葉を聞くと、頭を抱えて溜め息を吐いた。
魚人島は深海にあるため、辿り着くにはシャボンディ諸島にて船のコーティングをする必要がある。だが問題はそこから先で、コーティングして潜ったはいいがその先に待ち構えるのは表層海流と深層海流――別々の動きをする巨大な海の流れだ。上へ下へと浮上したり潜ったりする「〝
そんな事になったら、国際問題になるのは明白。下手をすれば「なぜリュウグウ王国は救助に行かなかった」などという言いがかりをつけられてしまうかもしれないのだ。
「あの……来るなら来るで別の手段で連絡を寄越せばよかったんじゃないですか? 交渉においてアポを取るのは基本中の基本ですよ」
「すまんな、疲れていて連絡できなかった」
「
「そうでもないのだよ」
クリューソス聖曰く、連絡できなかったのは天竜人の間で行われるパーティーに参加していたからだという。しかもパーティーに参加するのはあの最も誇り高く気高い血族――同時に世界で最も性根が腐敗したクズ――である天竜人だ、当然ただのパーティーではない。
舞台にあげられた奴隷達、並べられた水槽の中に繋がれた魚人や人魚……腐った部分のオンパレードだったのだ。クリューソス聖はテゾーロと交流してから
そんなパーティーの後で来たのだから、疲れるのは致し方ないだろう。
「……それ以前に奴隷がまだ居たんですか?」
「〝
テゾーロは「それもそうか」と頭を掻いて呆れる。
(しかし……書状とやらがリュウグウ王国に伝わってないか……)
この世界の一般論として、普通では考えられないような絶対的な権力を有する天竜人から書状が送られた場合、何が何でも紛失しないようにしなければならないものだ。しかしクリューソス聖の書状は、リュウグウ王国に届いてから紛失したのではなく、そもそも届いてないというのだ。
考えられるとすれば、魚人島へ向かう過程で海王類に襲撃されたり海流で船を破壊されるといった海難事故に巻き込まれたか。あるいは――
(何かの勢力に目をつけられたか、だな……)
人間と魚人の共存を反対する勢力に襲撃され、人為的に書状が紛失したか。
こちらの線が、可能性としては海難事故よりも高いかもしれない。この時期の魚人島はオトヒメのやり方とタイガーのやり方の板挟みのような状況……不殺の信念とはいえ、積年の恨みを考えると多くの魚人は人間への仕返しを望むだろう。
「こういう気まぐれさっつーか、自由奔放さは天竜人共通なのかねェ……」
その時だった。
「何事です!?」
『王妃!?』
騒ぎを聞きつけてか、署名活動中のオトヒメが現れた。
ネプチューン軍の兵士達は慌て、オトヒメがクリューソス聖に近寄らないよう説得するが、意にも介さず人混みの中をかき分け彼の前に立つ。
「あなたが、クリューソス聖……ですか?」
「では、あなたがオトヒメ王妃か。初めまして、どうぞよろしく」
クリューソス聖はオトヒメに握手を求め手を突きだす。
種族間の長い「負の歴史」が続く中、人間の頂点と言える天竜人と人魚族の王妃が決してあり得なかったはずの出来事に、オトヒメはおろかその場にいる全ての魚人族・人魚族が動揺を隠せないでいた。
「人間が人間を虐げ、人間が魚人を虐げ、魚人が人間を虐げる。その負の連鎖を断ち切ることができるのは今しかないのだ。どうか、手を貸してほしい」
そう言って、クリューソス聖はオトヒメに頭を下げた。
天竜人として前代未聞の行動をしたクリューソス聖に、一同は絶句。唯一驚いていないテゾーロも、思わず心配そうに尋ねてしまう。
「……クリューソス聖。いいのかい、そんなマネして」
「テゾーロ……天竜人はこの場では一人の人間に過ぎないのだ。未来を明るくするためには、恥辱を承知の上で行動せねばならない」
クリューソス聖の言葉に、その場にいた者全てが息を呑む。
天竜人は800年前に世界政府を創設した創造主の末裔であると共に、悪質極まりない治外法権が認められてるせいで傍若無人の限りを尽くす極悪人というイメージが定着していた。だがクリューソス聖の人柄と態度は、それらを覆すようなものだった。
「……だそうだが、オトヒメ王妃はどう思われる?」
「喜んで!!」
オトヒメは朗らかな笑みでクリューソス聖の手を握った。
*
一方、
「ジンベエ……オトヒメ王妃の訴えやテゾーロのやり方は理想だな」
「…………」
酒を煽りながら問うタイガーに、無言のジンベエ。
この日、タイガーはアーロンの問題行動に喝を入れていた。アーロンが海軍との戦闘において、一人の海兵の息の根を止めたのだ。
タイガーは一味の中で「決して人間を殺してはならない」という規律を設けており、たとえ相手が殺す気で襲ってきてもそれに応じて殺してはならないと同胞達に口酸っぱく言っていた。これはタイガーの海賊稼業が「差別の歴史への復讐」ではないことと、タイヨウの海賊団が「解放と自由」以外の意味は持たないからである。それだけじゃなく、恨みのままに人間への復讐を始めればまた人間から復讐されるという〝いたちごっこ〟があるだけであり、何の罪も無い未来の魚人族が目の仇にされるという最悪の未来を防ぎたいという思いも込められている。
だがアーロンはその意見に賛同できず「復讐する気にならない程の恐怖を植え付ければいい」という過激な主張をした。恐怖を与えることが復讐を止めると考えているからであった。
「ジンベエ……あの二人にとって、おれとアーロンは何が違う?」
「さァのう……じゃが、わしゃテゾーロと会って人間は魚人を虐げる者ばかりとは限らんことを知った。恐怖でもなければ軽蔑でもない、ただ対等に話し合った……それだけでも、わしのさっきの考えはズレとるのではないかと知ったんじゃ」
「ああ、それはおれもだ……ああいう人間も世の中にいるなんざ驚いた。元奴隷でもないのにな」
テゾーロとの邂逅は、タイガーとジンベエの人間に対する考えを改めるには十分だった。
彼自身の人柄も当然あるだろうが、魚人をあそこまで対等に接しようとした人間は多くないだろう。人間は全て卑しい存在ではないのだ。それでも――
「おれは……自分の心の奥に棲む〝鬼〟が一番恐い……!!」
「?」
タイガーは酒を飲み干すと、そのまま酒瓶を握り潰した。
ここ最近のワンピでの注目キャラは、居眠り狂四郎です。
オロチのことを小心者呼ばわりしたり、おでんの妻のトキを「奥方」呼ばわりしたり……案外いい奴なのかなって思ってます。
ワノ国のヤクザの親分でもあるので、今後の活躍に注目してます。