ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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第98話〝二十文字以内〟

 天竜人とオトヒメの邂逅という歴史的な事件から、数年が経過した。

 テゾーロの尽力によりリュウグウ王国とクリューソス聖の親交は深まり、それをモルガンズが社長を務める世経にリークしたことで、世間では人間と魚人の協和を肯定的に受け取るようになった。当然「悪しき習慣」は根強く残っているため反対する者が多いが、それでも人間と魚人が対等に見られるように少しずつなってきたのは重要な進歩だ。

 そんな中、軍資金の件で海軍本部に出入りしていたテゾーロの元に衝撃の報せが飛び込んだ。

「――おめェ、今何つったよバーロー」

《だから〝オペオペの実〟を手に入れることになったんだよ、ギル(にい)。あと口調が乱暴だよ》

 アオハルの爆弾発言に、テゾーロは頭の整理が追いつかず口調が少し乱暴になる。

 何とアオハルは〝オペオペの実〟に関する有力な情報を入手することに成功したというのだ。人に〝永遠の命〟を与える不老手術を施せるという悪魔の実の中でも別次元の高性能を有し、「究極の悪魔の実」と呼ぶ者がいる程の価値があるという代物に関する情報など、誰もが欲しがる情報ではあるがどうして得たのだろうか。

「何でそうなった、過程を二十文字以内で説明せよ」

《子供が一人、原因不明の疫病に倒れたから。以上です》

「おお、ちょうど二十文字」

 アオハルはさらに詳しく説明した。

 彼は〝北の海(ノースブルー)〟で情報収集をしていた折、たまたまフレバンスに寄った。テゾーロ財団には救国の恩があるとして歓迎されたが、その際にある医者の一家に「我が子を救ってほしい」と助けを求められたというのだ。

 子供はラミという少女で、原因不明の病気にかかり苦しんでいるという。しかしアオハルは医者の技術は持っておらず、試しに他の医者に掛け合ってみたがすでに診察していて、それでもお手上げだった。ある医者は「ケスチア熱」と似ていると言っていたが、フレバンスの今の医術では治療は困難を極めているという。

(ケスチア熱か……)

 ケスチア熱とは、高温多湿の森林に住んでいる有毒のダニ「ケスチア」に刺されると発症する病気だ。40度以下に下がらない高熱・重感染・心筋炎・動脈炎・脳炎などを引き起こし、五日後には死に至るということから〝(いつ)()(びょう)〟と呼ばれ恐れられていた。

 ケスチア熱は病原体であるケスチアが約100年前に絶滅したことから、すでに抗生剤も製造されていない。医療界では念の為に抗生剤の製造方法を記した書物は存在するらしいが、ラミがかかったモノはあくまで似ている(・・・・)のであり、治療法は不明だ。発症してからすでに五日は経っているが死んでないので、ケスチアではないが予断を許さない状況であるのは変わらない。

 そこでアオハルが提案したのは、例の〝オペオペの実〟の能力で治すという方法。医学的知識と技術を持った人間がその実を口にし、ラミの体内からケスチアの毒素を取り除けばいいというやり方である。

「アオハル……ホントは別の理由があるだろ。わざわざそれを示唆したってこたァ――」

《……敵わないなァ、ギル(にい)には》

 テゾーロはアオハルの真意を悟る。

 アオハルは〝永遠の命〟を得られる力を手にしてはいけない人物が介入する可能性があると考えているのだ。特に最近は表立って対立してないが、元天竜人のドフラミンゴのような凶暴性を隠している輩など以ての外。〝オペオペの実〟をこの機に乗じて奪い取ることで、世界規模の暴挙を実行しようとする輩――特にドフラミンゴ――を牽制しようというのだ。

「……いいだろう。その一件はお前に任せる、好きに動け」

《了解。報告はまた後日》

 テゾーロはアオハルとの通話を終える。

(参ったな、これからどうしようか……)

 正直に言うと、オペオペの実の取引が行われることをテゾーロはすっかり忘れていた。

 原作では今の実の所有者は元海軍将校で海賊の(ディエス)・バレルズであった。原作とは状況が違うため別の人物が所有している可能性もあるが、彼に目をつけるべきなのは確か。とはいえ、今は魚人島のことで手一杯の立場――アオハルに全てを任せるしかないだろう。

「しかしラミって名前、どっかで……」

 テゾーロは廊下を歩きながらラミについて思い出そうとした、その時――

 

 ドッ!

 

「うっ!?」

「!? わ、悪い! 大丈夫か?」

 誰かと肩をぶつけてしまい、相手が書類を落としてしまった。

 テゾーロは謝罪しながら落ちた書類を素早く集め、相手に渡すが――

「いや、大丈夫だ……あなたは?」

(ヴェ、ヴェヴェ……ヴェルゴ!?)

 目の前の相手に硬直するテゾーロ。何と目の前に若き日のヴェルゴがいたのだ。

 ヴェルゴはドフラミンゴにとって「最も重要な部下」であり、スパイとして海軍に潜伏してセンゴクからも入隊後の活躍の評判の高さを知らしめている海賊だ。どうやらすでに潜伏しているらしく、服装が私服でないことから地位はまだ低いようだが油断できない相手であるのは変わらない。

「……もしや、あなたはギルド・テゾーロ氏では?」

「あ、ああそうだ……君は? あと左頬の目玉焼きは?」

「ヴェルゴです、どうぞよろしく」

「左頬スルーしやがったよこいつ」

 テゾーロの指摘を華麗にスルーするヴェルゴ。頬のことは他人にあまり追及されたくないようだ。

 飲食するときに頬に食べかけの食べ物――それも半分以上残っている――やスプーンを張り付けるという珍プレーを披露する彼も、直す気が無いのか直すのを諦めたのかはともかく、説明せずスルーするということはやはり恥ずかしいのだろう。

「ギルド・テゾーロ……あなたの活躍はおれも知っている。海兵だったら大将や元帥も夢ではない有望株だと」

「それはこっちの台詞(セリフ)じゃないか? 入隊して間もなく大活躍らしいじゃないか。海賊だったら厄介なことこの上ない……ましてやドンキホーテファミリーのような頭の切れる海賊団となれば」

「……」

 テゾーロは「ドンキホーテファミリー」の名を持ちだしてヴェルゴを挑発する。

 ヴェルゴは冷淡な性格ゆえに感情をあまり表に出さない。だがテゾーロがドフラミンゴにまつわるネタを使って挑発したことで、怒りに近い感情を一瞬だけ露わにした。

「……」

「〝お前ら〟が(わり)ィことをこれ以上重ねないならギャーギャー騒がないよ。おれは約束は守る男だからな」

 テゾーロはそう言うとヴェルゴの肩を軽く叩いて、まるで何事もなかったかのように去っていった。

 そんな彼の背中を、サングラス越しでヴェルゴは睨んだ。

 

 

           *

 

 

 同時刻、新世界。

 グラン・テゾーロ計画を推し進めテゾーロ財団が開発している島に置かれた仮設事務所で、アオハルは情報の整理をしていた。

「さて、これからどうするか」

 オペオペの実の取引が、〝北の海(ノースブルー)〟のスワロー島周辺で行われる。その情報を入手したアオハルは悩んでいた。

 オペオペの実の現時点の所有者(ディエス)・バレルズと世界政府及び海軍による取引なのだが、どの島でいつどれくらいの規模で行われるか不明であり、下手をすればオペオペの実を狙う海賊達の乱入もあり得る。ラミの治療に関わることも伝えたため、上司(テゾーロ)からは「お前の好きなように動け」と許可が下りたが、今ここで行動を起こせば敵に動きを知られる可能性があるのでタイミングを伺わねばならないだろう。

「それにしても、〝永遠の命〟ね……」

 オペオペの実の能力で得られる〝永遠の命〟が、果たしてどういうものかは実際のところ不明だ。回数を超える量の死を経験すれば本当に死ぬのか、それとも一定条件下で死ぬのか、あるいは命の限りも殺す手段も無い完全な不死身なのか――それは誰にもわからない。

 オペオペの実を人類の長年の夢を実現できる「究極の物質」と解釈するか、ただ生き続ける苦行を与える「本当の悪魔の力」と解釈するかは人によるが、いずれにしろ手に入れてはいけない人物が存在するのは事実である。

「そう言えば、シーちゃんはどうしてるのかねェ」

 

 

 一方、〝東の海(イーストブルー)〟ドーン島では……。

「ハァ……ハァ……し、しんど……」

 ダラダラと流れる汗をハンカチで拭うシード。

 ここはフーシャ村。東の海で最も美しい国とされるゴア王国に属する村で、あまりに僻地にあるため王国中央部からは存在すら忘れ去られているのどかな農村地帯だ。シードはグラン・テゾーロ計画で役立つため――実際はコンプレックスの身長の低さの克服の為でもある――に、わざわざ留学して酪農を学んでいる。

 戦場や事務仕事とは違った労働にシードも思いの外苦戦したが、財団屈指のオールラウンダーぶりを発揮して知識・技術を吸収し、村民から一端の農家として認められるようになった。現在は乳牛の世話を代役として担うだけでなく、時たま襲って来る海賊を叩きのめしたり村の酒場「PARTYS(パーティーズ) BAR(バー)」の女店主・マキノの手伝いをしたりなど村の為に働いている。

 そんな中、思わぬ客が訪れた。

「相変わらず無茶やっとるのう。海兵時代から治っとらんな」

「……余計なお世話ですっ!」

「ブワッハッハッハッハ!! ――それにしても、お前とこんなところで出会えるとは思わんかったぞい」

「僕もガープ中将と鉢合わせるのは想定外でしたよ……」

 何とまさかの休暇中のガープ。

 彼によると、ある子供を知り合いに託しており時々様子を見に行くという。シードは海軍をやめてからもその人柄から未だに信頼が厚いため、手紙を送る程度の交流は続けているのだが、他の人間の家庭的な事情は深く追究しようとしないため、子供の様子を見に来るのは意外だった。

 しかし、彼の実子・ドラゴンは素性が全く掴めない謎の人物であり、海軍も政府も大海賊時代以前から最前線で活躍した功労者のガープの息子ゆえに追跡はしていないが注意はしている――にもかかわらず、彼に子供がいたというのだ。当然養子であったり戦場で拾った孤児である可能性も高いのだが、どうも気になる。

「その子供の親は、今どうしているのですか?」

「あ、ああ……もう随分と昔に死んじまってのう。腐れ縁ということで託されたんじゃ」

(……少し目が泳いだ)

 ガープの目が少し泳いだことを見逃さなかったシードは、眉間にしわを寄せる。

 ある子供の正体は、実はとんでもない血筋の持ち主ではないのだろうか。それも天竜人というよりも、世界規模で恐れられた大物の。

「ガープ中将、その子供って素性知られたらマズイってことですか?」

「うっ!? な、何を言うんじゃお前は!!」

「思いっきり動揺してますけど!?」

 明らかに動揺しているガープに、思わずツッコミを炸裂させるシード。

 いくら何でもわかりやすいにも程がある。中将というかなり高い地位に居ながら明るい性格をしているガープにシードもまた惹かれたのだが、こういうところに関しては未だ成長していないようだ。

「ま、まァ訊くだけ野暮かもしれませんけど……僕にだって知る権利くらいありますよ」

「あってもわしが許さん! いくら人柄がよくても男は油断ならん狼じゃからな」

「異議ありっ!! 僕を今までケダモノだと思ってたんですか!? っていうかその論理だとあなたもですよ!?」

 シードは猛烈に反発するが、ガープは鼻をほじりながらどこ吹く風。

 尊敬する人物の一人ではあるが、どういう訳か殺意が沸いた。

「センゴク大将やコング元帥の苦労がわかった気がした……」

「何か言ったか小僧」

「いいえ、全く」

 頭を抱えながら、シードは与えられた仕事に専念するのだった。




オロチって八岐大蛇でしたね。
狂四郎の行動にも注目ですね。

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