ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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一応これで100話突破しましたけど、原作開始までの道は長いな~……。
「早くしろよ!」という方はさぞ多いでしょうが、何卒よろしくお願いします。

キャラ設定の方は忘れてはいませんが、この小説における設定を詳しく執筆しているので遅くなってます。こちらも申し訳ありません。


第100話〝覇王色の部外者〟

 ミニオン島、バレルズ海賊団のアジトにて。

 雪を踏み締め歩いて来るドフラミンゴとそのファミリー。彼らの眼前には、血塗れのコラソン――ロシナンテが息を切らしていた。

「……」

「ハァ……ハァ……」

 ドフラミンゴとロシナンテが対峙する。

 ロシナンテはコラソン――実際は二代目で、初代はヴェルゴ――としてファミリーの幹部を務めていたが、彼がフレバンスに立ち寄って以来行方不明だった。それを機にしつこく追っていた海軍がどういう訳か会わなくなり、幹部達はロシナンテの内通疑惑を度々主張したが、ドフラミンゴが「実の弟を疑いたくない」という理由であまり追及はしなかった。

 だが今回()()()()()()()()練った〝オペオペの実〟の強奪計画において、合流地であるスワロー島に現れた軍艦を見て悟り、さらにヴェルゴからの報告で確信した――ロシナンテが海軍のスパイであると。

「半年ぶりだな……コラソン……!!」

「ゲフ、ゲホ………ハァ……ハァ……」

 ロシナンテは拳銃を取り出し、銃口をドフラミンゴに向けた。

(マリン)(コード)―01746…「海軍本部」ロシナンテ中佐……ドンキホーテ海賊団船長ドフラミンゴ、お前がこの先生み出す惨劇を止めるため……潜入していた」

「……」

「おれは「海兵」だ」

 ロシナンテの告白に、ファミリーは腸が煮えくり返るような思いを抱く。

 自らの船長が大切にしていた実弟がよりにもよって海軍のスパイだった。ドフラミンゴは相棒であるヴェルゴを海軍に潜入させているので、自分達が思うのもどうかと思うが「家族」に裏切られたことはショックであると共に殺意も沸いた。

 だが一番ショックを受けて殺意を抱いているのはドフラミンゴだろう。彼はマグマのように煮えたぎる感情を抑えながらも、ロシナンテを質した。

「だろうな……質問に答えろコラソン。〝オペオペの実〟はどこだ?」

「……〝オペオペの実〟は、ある少年に「海に捨てておけ」と言って渡したよ……今頃海の底だろうな。いや、本部の監視船に保護されてるかもな……どっちにしろドフィは手出しできねェ……」

「てめェ……!!」

 憤怒の形相のドフラミンゴ。〝天夜叉〟の異名通りの凶暴な一面を露わにし、ロシナンテに殺意をぶつける。

 ドフラミンゴは〝オペオペの実〟の最上の技である不老手術を施させた上で、聖地マリージョアに眠る存在自体が世界を揺るがす「国宝」を手中に収めることで世界の実権を握ろうとも画策していた。やり方はかつてのフォードとは全く違うが、実現できればドフラミンゴを頂点とした世界が生まれただろう。

 すると、上空から偵察していた子供達――バッファローとベビー(ファイブ)の報せが響いた。

「若様!! 確かにさっき……「少年を保護した」と海軍が通信を……!!」

「!? なぜそれを早く言わねェ!!」

「まさかそうだとは……!!」

(……少年を? 何の偶然だ!? 〝オペオペの実〟なら、おれの懐にある…!!)

 焦るドフラミンゴに対し、困惑するロシナンテ。

 何を隠そう、先程ドフラミンゴに言った少年の話は、その場で思いついたウソだったからだ。彼は少年と会っていなければ見てもおらず、そもそもこの島に少年がいること自体知っていないのだ。

 これ程の幸運があるのだろうか。

「確認を急ぐぞ!! 〝鳥カゴ〟を解除する、出航の準備をしろ!! 事実なら海軍の監視船を沈めてガキを奪え!!」

「よせ……!! 追ってどうする……!?」

「どうするって……? 〝オペオペの実〟を食っちまったんなら、()()()()()()()()()に教育しなきゃならねェだろ」

「っ……!!」

 ドフラミンゴが平然と言い放った一言に、ロシナンテは戦慄した。

 ロシナンテがドフラミンゴを止めるべく危険を冒して奔走したのは、彼の実力やカリスマ性ではなく、凶暴さにある。長く苦楽を共にしてきた仲間に対しては情に厚いが、狡猾で残忍極まりない本性こそ最大の脅威なのだ。

「全く……なぜおれの邪魔をする!? コラソン!!」

「……」

「なぜおれが実の家族を()()()殺さなきゃならないんだ!!!」

 ドフラミンゴの言葉に、ロシナンテは俯く。

 ドフラミンゴとロシナンテは、人間的な暮らしを求めた父親・ホーミングの計らいで天竜人の位を放棄し、世界政府非加盟国に移住した。しかし天竜人の横暴に憎悪を抱いていた移住先の住民から壮絶な差別や暴行を受け、その最中で病気で母を亡くし、生き地獄そのもののような境遇の中で必死に生きた。

 ドフラミンゴは恨みのままに父親を射殺して〝狂気の海賊〟となり、ロシナンテは当時中将だったセンゴクに拾われて成長した。そして今、互いにとって最悪の形で決別しようとしている。

「お前におれは撃てねェよ……父によく似てる……!!」

「じゃあおれが代わりに請け負ってやるよ」

「!?」

 

 ブゥン!! ゴパァァ!!

 

『!?』

 ロシナンテとドンキホーテファミリーの間に走る、赤い閃光。雪を溶かして蒸気と化し、地面をごっそりと抉るその熱量と威力に、一同は怯む。

 ドフラミンゴは、この赤い閃光を知っている。赤い閃光を刀に宿し、多くの猛者共を次々と薙ぎ倒してきた剣豪の太刀筋だ。こんなマネができる輩は、自分が知る限りではたった一人だ。

「……ドンキホーテ・ドフラミンゴとそのファミリーで合ってる?」

「てめェは……!!」

 コートをなびかせて現れる、刀を抜いたアオハル。

 気怠そうな見た目であるが、彼から放たれる威圧感は本物。一歩近寄る度に空気を震わせるような錯覚に襲われ、ドフラミンゴ以外のファミリー全員の者が本能的に後退った。

「ア、アオハル……」

「あーあー、ひどいケガだね。どうする? おれのビームで焼灼(しょうしゃく)止血法的な感じで焼き潰す?」

「いや……結構だ……余計に悪化しかねない気がする……」

 引きつった笑みのロシナンテに、アオハルは「それもそうか」と呟く。

 焼灼止血法は出血面を焼くことでタンパク質の熱凝固作用によって止血する方法であるが、適切な焼灼とその後の火傷の処置が行われないと逆に悪化させる結果になる。海兵達は医療班不在という緊急事態に備えてある程度の応急処置はできるが、さすがに深手を負った状態で他者に焼灼止血法を頼むのは怖いのだろう。

 海賊との戦いで戦死したのではなく、間違った焼灼止血法で傷を悪化させて死亡したとなれば、上司(センゴク)とあの世の両親に顔向けできない。

「で、どうする? おつるの軍艦来てんだけど」

「おつるさんの……?」

「何!?」

 つるの名を聞いた途端、ドフラミンゴは冷や汗を流した。

 覇気を扱い、目に見えないほど細く強靭な「糸」を操る〝イトイトの実〟の能力者である彼も、〝大参謀〟の名で恐れられる女傑と真っ向から戦うことはできない。彼女の悪魔の実の能力や純粋な腕っ節は今の自分では勝ち目は薄く、逃げざるを得ないのだ。

 だがロシナンテにとっては、まさに希望の光。つるもまた、ガープやセンゴクといった海軍屈指の古豪が揃う伝説の世代の人間。アオハル自身の戦闘力を含めれば、千人力の力を得たも同然だ。

「……〝剣星〟、なぜコラソンを庇う? これは身内の問題だ、邪魔するな」

「いやね、こっちもおれの独断で動いてんの。厳密に言うとギル(にい)から受けた命令じゃないしね……身内の方はともかく、〝オペオペの実〟は取らないとマズイし」

 アオハルは呑気に言いながら、ロシナンテの元へ向かって彼のコートを探り始めた。ロシナンテは抵抗しようとするが、傷が影響してうまく体を動かせない。

 そして、コートの内ポケットに手を入れたアオハルは、ついに()()()を手にした。

「これか、〝オペオペの実〟って……意外と小っちゃいね」

「アレは!!」

「野郎、そんな所に隠していやがったか!!」

 アオハルが手にした〝オペオペの実〟を見て、ファミリーの最高幹部であるトレーボルとディアマンテは声を上げる。一方のドフラミンゴは、目的の実がロシナンテの懐にあったことに怒るかと思えば、不敵な笑みを浮かべている。

 ドフラミンゴは時間に追われつつも、アオハルと交渉をした。

「……時間が時間だ、お前と揉めるのは面倒だ。〝オペオペの実〟をこっちに渡せば見逃してやるよ」

「嫌に決まってんじゃん。そっちに渡すとどうなるかぐらいわかるよ……ウチらでも手に負えなくなるような選択取るわけないでしょ」

 拒否の意を即答され、ざわつく幹部達。

 しかしドフラミンゴは、アオハルの答えに隠された事実を悟ると笑みを深めた。

「――成程、それはおれの()()()()()()を解った上での発言か。読みはいいな、情報屋をやっているだけはある……だから尚更妥協できねェってか」

「まァね……そういう訳で、正当防衛でオペオペの実は護らせてもらうし、彼は死なせないよドフラミンゴ」

 

 ブゥン!

 

 アオハルはそう言いながら刀を構え、刀身に高熱の赤い閃光――ビームを纏わせると、横一文字に振るった。

「っ――伏せろォ!!」

 ドフラミンゴの叫びと共に、一斉に伏せるファミリー。

 その次の瞬間、赤いビーム上の刀身が伸びながら周囲を薙ぎ払い、瓦礫や廃墟を豆腐のように切断してしまった。切り口も焼けていることから、高熱で切断しているのだろう。

「っ……厄介な能力を手に入れやがって……!!」

 悪態を吐くドフラミンゴに、アオハルは容赦なく振るう。

 伸縮自在のビームは全てを抉り焼き薙ごうと荒ぶり、ドンキホーテファミリーに襲い掛かる。これがまだ一刀流ならともかく、まだ抜いていない刀にもビームを纏わせ二刀流で攻撃してきたら溜まったものではない。

 これ程の戦闘力を持ちながらテゾーロの部下であることを考えると、彼の人柄と実力が伺える。ドフラミンゴはテゾーロ財団が海軍よりも厄介に思えてきた。

「っ! 小癪な……!」

 黒ずくめのコートとゴーグルやマスクに覆われた顔が特徴の男――グラディウスが銃を構える。

 彼は砲術や射撃を得意とする〝パムパムの実〟の能力者。海楼石以外の無機物であればほんの僅かな時間で破裂させることができる輩だが、アオハルの凄まじいビーム攻撃には手は出せない上に使い方を誤れば味方も巻き込んでしまうため、アオハルを倒すには銃撃で勝負するしかない。

(たった一発で頭をブチ抜く……それで十分だ!)

 グラディウスは狙いをアオハルの頭に定めた。

 だが――

 

 ゴゥッ!

 

 それを見越していたかのように、見えない衝撃が――アオハルの〝覇王色〟がグラディウスに襲い掛かった。

 強大な気迫に貫かれたグラディウスは、前のめりに倒れた。

「グラディウス!?」

「こいつもドフィと同じ〝覇王色〟を……!?」

 アオハルが〝覇王色〟を覚醒させている者と知り、戦況は大きく変わった。

 ドフラミンゴはこれ以上の戦闘はファミリーに甚大な被害が出ると判断したのか、頭上に展開されていた巨大な糸の檻〝鳥カゴ〟を解除した。

「ドフィ!? どういうつもりだ!?」

「……アレ? 諦めるの?」

「愚弟一人を〝死〟で許すためにファミリーを傷つけたら世話がねェだろうが」

 意外にもあっさりと退いたドフラミンゴ。実弟とのケジメをつけるがために部外者(アオハル)との戦闘で「家族」を失うわけにはいかないようだ。

 とはいえ、あくまでも()()()()()()()()のであって実際は執念深くこれっぽっちも諦めてないだろう。ドフラミンゴは元天竜人……大抵の天竜人は力に対する固執が病的な域であるので、彼も例外ではないだろう。

「……行くぞ」

 ドフラミンゴはただ一言告げて踵を返した。

 ファミリーの者達はロシナンテとアオハルを睨み殺す勢いで見つめてたが、ドフラミンゴに従ってバレルズが所有していた財宝を全部かっさらって撤退した。

「……す……すまねェ……」

「喋っちゃダーメ。あんた死にかけてんだから」

 すると、遠くから海兵達が武装して駆けつけてきた。〝鳥カゴ〟を解除されて乗り込めるようになったのだ。

 暫くすれば現場は完全に包囲され、アオハルと重傷のロシナンテ以外は海兵で埋め尽くされる。それをかき分けるように壮年の女性が女性の海兵を引き連れ前に出た。〝大参謀〟の異名で海賊達から恐れられている海軍本部中将・つるである。 

「おつるさん……」

「あんた、まさかロシナンテ中佐かい……!? 成程、そういうことか……だからセンゴクはあんな情報を……」

 作戦の総指揮を執るセンゴクの真意を知り、溜め息を吐くつる。

 センゴクとロシナンテの関係は、海軍でも有名な話。血は繋がっていないが実の親子のような信頼関係があり、自由奔放なガープに怒鳴りちらす苦労人の一方でロシナンテの前では〝仏のセンゴク〟の異名通りの優しさを見せている。

 だが最近名の通った海賊団のスパイとして息子のように大切に可愛がっていた男を送り込んでいたのは、いくら秘密裏であったとはいえさすがの彼女も想定外だったようだ。

「センゴクにはあとでキツく言っといた方がいいかねェ……あんた達! さっさと手当てしな」

 つるの一声に海兵達が動き、ロシナンテを担架で運ぶ。

 担架で運ぶ最中でも医療班の措置が施されている分、相当な深手だろう。

「……〝剣星〟、あんたも来てもらうよ」

「あい」

 テゾーロが魚人島でオトヒメ王妃の夢の実現に尽力する中、その裏で行われた「〝オペオペの実〟争奪戦」はこうして幕を閉じた。


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