ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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少し早めの投稿ですかね……。


第103話〝チビとジジイと孫と〟

 翌日、〝東の海(イーストブルー)〟のフーシャ村。

 四皇の一人として位置づけられた大海賊〝赤髪のシャンクス〟が率いる赤髪海賊団が滞在しているが、テゾーロの部下であるシードもまた酪農の留学として滞在していた。

《っつーわけでな。お前も協力しろ》

「……僕らは便利屋じゃないでしょう?」

 テゾーロから事情を聞かされたシードは、溜め息を吐く。

 テゾーロ財団は多くの事業を行い、成功を収めている。現在進行中のグラン・テゾーロ計画もいずれは完遂し、世界でも珍しい国家として注目されるのは間違いない。テゾーロの野望である世界的な革命も成就に近づき、この世界の在り方をも変えることも現実味を帯びるだろう。

 だからといって、政府は財団を便利屋扱いするのはどうだろうか。トップが仕事に律儀であるため断ることは多くないだろうが、いくら何でも政府は怠慢にも程がある。ここらでまた経済制裁でも食らうハメになりそうだ。

「……わかりました、僕も僕なりで良い人材を探します。とはいえ、この〝東の海(イーストブルー)〟にクロコダイル級の猛者がいるかどうか……」

 この世界を構成する海域の中でも〝東の海(イーストブルー)〟は最も治安が安定しており、「平和の象徴」と言われているため、他の海の海賊や海軍からは最弱の海とバカにされてる。だが一方で、あの海賊王ロジャーや海軍の英雄であるガープといった伝説級の大物を輩出することもある海でもある。

 とはいえ、そんな都合がいい展開などそうそう来るものではない。すぐそばの酒場で部下達とドンチャン騒ぎしてる海賊ならいいんじゃないかと思ったが、よくよく考えればテゾーロの二歳年下でありながら世界政府では手に負えないあの〝赤髪〟だ。いくら七武海への勧誘とはいえ、相手が四皇だと五老星でも渋るだろう。

「あ~……テゾーロさん、〝赤髪〟がいるんですけど……」

《シャンクスがいるのか? ほう……》

「おいチビ! 一人推薦してやろうか?」

「あ゙あ゙!? 誰がチビだ、海のクズが!!」

 シャンクスにいきなりコンプレックスをイジられたシードは、声を荒げて彼を罵倒する。その剣幕に一瞬きょとんとしたシャンクスに対し、彼の部下達はそれを大笑いして一斉に船長をイジリ始めた。

 酒で酔いが回っていたのもあるが、シャンクスもカチンときたのか「船下りたいのか」だとか「ぶっ飛ばすぞてめェら」だとか言って怒る。

 それが筒抜けだったのか、電伝虫越しでテゾーロも爆笑していた。

《ハッハッハ!! あの〝赤髪〟をクズ呼ばわりとはお前も随分肝が据わったなシード、相手は四皇だぞ?》

「あ……聞こえてたんですか……?」

《ちょうどいい、シャンクスに代わってくれ。一人薦めてるんだろう? 聞く価値はある》

 テゾーロにシャンクスと代わるよう言われ、渋々彼と電話を交代するシード。

 酔っ払い気味のシャンクスは、笑い上戸でテゾーロと電伝虫越しで言葉を交わす。

「おう! お前がギルド・テゾーロか?」

《そうそう。いや~、お宅の元上司の副船長さんには覇気の修行で世話んなりましてね》

 その直後、シャンクスは呷っていた酒を盛大に噴き出した。

 一気に酔いが醒めて冷や汗を流し始めた彼に、部下である海賊達は顔を見合わせる。

「レ、レレレレイリーさんに!? ちょ、おまっ……えェ!? どういうこった!?」

《あとギャバンさんにも多少》

「ギャバンさんにもォ!?」

 叫びだしたシャンクスに対し、テゾーロは淡々と言葉を並べる。

《そんで、推薦したい奴って何者さ》

「あ、ああ……おれの剣のライバルである男だ。ミホークっつってな」

 その直後、今度は電伝虫越しにテゾーロが飲み物を噴く音が響いた。シャンクスと全く同じ反応である。

《ミ、ミミミ!? おまっ、マジで!?》

「そんなに驚くことか……?」

《いや、まさかそんな大物を出すたァ……》

 ミホークの名に、動揺を隠せないテゾーロ。

 実を言うと海軍と世界政府は数年前からある剣士をマークしていた。それがジュラキュール・ミホークという男――海をさすらう一匹狼だ。懸賞金こそ懸けられてはいないがとんでもなく強いらしく、巨大ガレオン船や海賊艦隊を真っ二つに両断して轟沈させながら自由気ままに生き、その上あの大海賊シャンクスと何度も決闘で激突し、未だに決着はついてないが海賊界では伝説として語り継がれている。

 海賊行為というよりも賞金稼ぎのような生活をしているため、政府は指名手配にこそしていないが、サイファーポールの諜報員を動員して行動は監視している――のだが、ミホークが非常に勘の鋭い男であるのか諜報員の詰めが甘いのか知らないがすぐ見失ってしまうのが現状だ。

《……ミホークは今どこにいるんだ?》

「さァな……どこにいるかわからない奴だからなァ。ハッハッハ!!」

《笑いごとかよ……わかった。とりあえずありがとう、海賊(あんた)を頼ってもちゃんとした成果出ないかもしれないから自力で探します》

「ひどっ!!」

 遠回しにシャンクスの情報は役に立たないと切り捨てるテゾーロに、当の本人は一海賊団の船長でありながらふてくされた。

 子供が駄々をこねているような珍光景に顔を引きつらせるシードに、シャンクスはムスッとした表情で受話器を渡す。

「シードです……それで、テゾーロさん……僕はこれからどうすれば?」

《ミホーク探しも手伝ってくれ。おれは魚人島で忙しい……それとサイから聞いた情報だが、どうも〝東の海(イーストブルー)〟に過激派組織がいるらしい》

「過激派組織?」

 テゾーロ曰く、サイは政府上層部から「世界政府打倒の思想を持つ男が世界各地で同胞集めをしている」という情報を得たとのこと。

 氏素性に関する情報が全くと言っていい程に把握できないため、男の個人情報も何もかもが不明だが、たまに新聞の一面に載るクーデターや反乱には黒いローブを身に纏った不審者が目撃されていることから、世界政府はヤマを張っているという。

「……そんな人に出くわしたらどうすれば……」

《そこはお前の正義に(・・・)任せるとするよ。お前なら自分に何ができるのかぐらい考えられるだろ?》

「テゾーロさん……」

《じゃあな、一旦これで失礼するわ。期待してるぞ》

 テゾーロはシードに激励の言葉を投げ掛けて切った。通話を終えたシードは、静かに受話器を下ろす。

「……信頼されているな、チビ」

「だからチビって言うな!!」

 

 

           *

 

 

 酒場から出たシードは、一人考え込んでいた。

(九蛇の件も然り、世界政府は何を焦っているんだ?ここまで急ぐのは珍しいな……)

 世界政府が始めた王下七武海制度。現在ではクロコダイルとボア・ハンコックの二名だけだが、今後は残り五人分の枠も埋まることになるだろう。そして今回の件で四皇であるシャンクスと同格の剣の腕前を持つジュラキュール・ミホークをうまい具合に丸め込めば、三人目の七武海として加盟することになる。

 だが、ここへ来て加盟を急ぐのは妙だ。確かに海賊達の数は膨らむ一方であるが、その強さは海軍本部の佐官クラスが多く、対処できないこともない。世間をにぎわすような大型ルーキーも登場せず、ある意味で気が楽になる時期と言える。だからこそ今の内に制度を固めるという解釈もできるが。

(政府の狙い……もしかしたら……)

 王下七武海は政府の戦力としてカウントされる。海賊である以上は世界政府への忠誠心は皆無で、要請や命令に応じず、権力を隠れ蓑に凶悪な犯罪を企む可能性もあるが、強さゆえに海軍と並ぶ勢力として、四皇や他の海賊達を牽制できるのならそれに越したことはない。

 そう考えると、政府が急いでいるように思えるのはテゾーロが伝えた例の過激派組織のせいなのだろう。海賊は政府や海軍と敵対しても政府そのものを倒そうとはしない――四皇レベルだと本当に倒せるかもしれない――のだが、世界政府の打倒を目論む男への万が一の迎撃準備とすれば納得は行く。

(だから政府は焦っているのかな? 連中が影響力を強めないように王下七武海を揃え、必要に応じて始末に向かわせると)

 世界政府の思惑を推測していた、その時だった。

「シード! シャンクスはどこにいるんだ?」

「!? ルフィ君!?」

 シードにシャンクスの居場所を問う子供。名前をルフィと言い、その祖父はあの海軍が誇る怪物ジジイ――伝説の海兵の一人である英雄ガープの実の孫だ。

 ルフィとはフーシャ村での個人的な理由で始めた酪農実習の開始時から知り合っており、何だかんだ仲良くやっている。時折顔を出すガープも、元海兵のシードと仲良くやってることに非常に満足しているのか「さすがわしの孫」と大笑いしている程に良好な関係で、付き合い始めて半年以上は経過している。

「シャンクスどこだ?」

「ルフィ君はガープ中将の孫でしょ!? 自分の人生だから自分のやりたいように生きるのはいいけど、おじいちゃんの気持ちは汲み取ろうよ!! あの人は孫バカだから!!」

「誰がバカなんじゃ? おめェ言ってみろ」

 第三者の声が響き、ゆっくりと振り返る。

 視線の先に立つのは、アロハシャツを着た壮年の大男――ガープがいた。

「ガ、ガープ中将!?」

「あ、じいちゃん!」

「二人共元気そうじゃな……それでだシード、誰がバカなんじゃ」

「いや、頭の方じゃなくて孫バカって意味でして! ほら、孫が可愛すぎてついつい甘やかしたり構っちゃったりする人いるでしょ? そういう人のことを言うんですよ!!」

 シードは顔を青くして必死に言い訳する。

 彼も実はガープにトラウマを植え付けられたことがある。ガープが嫌いという訳ではないが、彼の児童虐待も真っ青なスパルタ教育を施されて数々の修羅場に放り込まれ、何度も死にかけてガープとの任務の度に遺書を書いていた程だ。

 今はテゾーロという理想の上司の下で働いて心機一転しているが、ある意味で凄惨な過去はやはり消えることはないようだ。

「――ぶわっはっは! まァ孫に甘いのは確かじゃな」

 豪快に笑うガープだが、彼の「甘い」は常人からだと理解不能の領域なので、それを知るシードは顔を引きつらせる。

「しかし……ルフィの教育がなっとらんのう、シード」

「いつから僕は彼の保護者になったんですか!? 保護者なのはあなたでしょう!?」

「仕方なかろう、親父が親父なんじゃ。それに〝赤髪〟に毒されるよりはマシじゃからのう」

 ゴキゴキと指を鳴らしながら迫るガープに、シードは後退りする。

 そこに水を差したのは、ルフィだった。

「じいちゃん!!」

「何じゃい」

 いい年こいた大人同士の争いを見かねたのか、ルフィは大声を出す。

 そんな彼に淡い期待を持つシードだが……。

「シャンクスをバカにするな!!!」

(それ逆効果だよー……)

 よりにもよって祖父(ガープ)が嫌う人物をフォロー。当然これにガープは怒り、額に青筋を浮かべ孫を睨む。

 シードはガープの理不尽(ゲンコツ)から逃げられないことを悟り、二十代も後半に差し掛かろうとしているのに情けなく涙を流す。正直に言えば抵抗できなくもないが、そうなったらシャンクス達をも巻き込んで、フーシャ村が地図から抹消されかねない修羅場になるのが目に見えるので、非情な現実を受け入れることにしたのだ。

「もう毒されおったか……シードも抜けておるし許さん!! 二人共歯ァ食いしばれ!!」

 

 ドゴゴォン!!

 

「「ぎゃあああああああああ!!!」」

 のどかな村に、二人の断末魔の叫びが木霊した。




やっとルフィ出せた……!!
今のところはシードだけですが、後々テゾーロとも関わらせようと思います。

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