ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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仕事が忙しくて遅れました。


第105話〝鷹の目を持つ暇人〟

 ジュラキュール・ミホークは、世界中に星の数程いる剣客達の頂点に立つ男である。

 世界最強の剣士、大剣豪、鷹の目、一匹狼、世界最強の暇人……圧倒的な剣の腕前と気まぐれな性格から数々の異名と逸話でその名を天下に轟かせ、四皇の一人である大海賊〝赤髪のシャンクス〟と伝説と謳われる決闘を繰り広げた豪傑。それが彼である。

 そんなミホークの元に、一人の男が現れた。

「それで……是が非でもおれに加盟を要請するのか」

「君を探すのにどんだけ苦労したと思ってんの……こっちは必死だったんだぜ……」

 好物である赤ワインを呷るミホークに、深い溜め息を吐く長身の男性。

 ギルド・テゾーロ――テゾーロ財団理事長を務める大物実業家で、数々の慈善事業で功績を上げて世界の秩序と安寧に貢献してきた男。世代的にはミホークと同じだが、若さゆえの堅苦しさの無さと老成した実業家としての確かな手腕は世界が注目している。テゾーロを知らぬ者などそうそういないだろう。彼の後ろには、この海において〝海の掃除屋〟として名を馳せ恐れられているハヤトが万が一の場合の護衛として付き従っている。

 そんな彼らがなぜ新世界のとある島でくつろぐ自分の下へ来たのかというと、世界政府が設立した王下七武海制度への加盟交渉の為だという。ミホークは「興味など無い」の一点張りだが、テゾーロはあの手この手で食い下がり、事態は平行線を辿っているままだ。

「なぜそこまでおれに加盟を求める。おれでなければならないのか?」

「いや、だって暇そうじゃん。暇潰しに王下七武海になるってのも悪くない話だろう?」

「あんた何言ってんだ!?」

 ハヤトですらツッコミを炸裂させるトンデモ発言に、ミホークは鷹のように鋭い目を見開かせる。

 剣客界における世界最強の座に君臨することとなったミホークだが、確かに今の彼は退屈な日々を送っている状態だ。この世界で自らと唯一渡り合ったのは後にも先にも現時点では(・・・・・)シャンクスしかおらず、素質という面では白ひげ海賊団の〝花剣のビスタ〟くらいだ。

 テゾーロは王下七武海に加盟すればそんな退屈な日々を変えられると熱弁する。王下七武海は制度上、加盟すれば指名手配・懸賞金の解除をはじめとした多くの特権を持つが、実は何らかの理由で欠員が出た場合にはその都度補充されるシステムもある。七武海の特権を狙う海賊達もいる可能性は極めて高く、七武海の一角を崩そうと仕掛けてくる者が出てくるのは目に見えるが、裏を返せば「挑戦者が必ず現れる」という意味でもある。

 ジンベエは要請中であるため、現時点で加盟しているのはハンコックとクロコダイルだが、彼らのかつての懸賞金は約8000万ベリー――ただし数億ベリークラスの海賊と同等の実力を持っているが――である。圧倒的実力を持ちながら海賊ではないことから懸賞金が懸けられてないミホークが加盟すれば、大抵の人間は甘く見て切り崩そうとするだろう。

「まァ半端者が多いだろうけど、挑戦者が増えるという点では多少の暇潰しにはなるだろう? 上層部(うえ)はテキトーに丸め込むから、加盟してくれないか」

 両手を合わせて懇願するテゾーロに、ミホークは笑った。

「フッ……ワッハッハッハッハ!! おかしな男だ、世界政府の制度がおれの暇潰しに相応しいと!?」

 自らの腕を買ってるだけではなく、最強ゆえの退屈さを変えるために王下七武海の一角を担うことを提案するテゾーロに、ミホークは心底愉快そうに笑う。

「随分な変わり者とは思っていたが……だからこそお前の元に人々が集まり、慕われるのだろう」

「ミホーク……」

「いいだろう、お望み通り暇潰しで(・・・・)その話に乗ってやろう」

「! ――恩に着る!」

 七武海加盟を承諾したミホークに、テゾーロは頭を下げる。

 すると、一連の流れを見ていたハヤトが口を開いた。

「〝鷹の目〟……あんた今暇なんだろ?」

「ハヤト?」

「……」

 ハヤトは背中に背負った愛刀の大太刀〝海蛍〟を抜き、切っ先をミホークに向けた。

「暇なんだろ? 勝負しないか」

 

 

           *

 

 

 〝鷹の目〟と〝海の掃除屋〟の剣戟は、刃を交えてから一時間休みなく行われた。

 二人共、愛用している得物は刀剣の中でも長大な部類だ。250センチを超える身長のハヤトの大太刀〝海蛍〟は彼とほぼ同じ大きさで、ミホークの黒刀〝夜〟に至っては柄も含めれば彼自身よりも大きい。それを普通の刀のように容易く振り回せる両者の身体能力の高さには恐れ入る。

 だが――

「うおおおお!!」

「……まだ(・・)だな」

 ハヤトが覇気を纏った斬撃を放てば、ミホークはそれ以上の斬撃で相殺する。大きく踏み込んで突きを放てば、避けていないのにまるであしらうように流される。高速で振り下ろし薙ぎ払っても、それを予見しているかのように捌かれてしまう。

()ね」

 

 ドゴォン!!

 

「うおわァ!?」

 ミホークは覇気を纏わせた重い一撃を見舞った。ハヤトは咄嗟に防御するが、威力を殺しきれずそのまま吹き飛んで岩盤へ叩きつけられてしまう。

(ここまでの差が……! あのハヤトですら傷一つ負わせるのが精一杯とは……これが〝鷹の目〟か)

 テゾーロは能力で生み出した黄金の耳かきで耳掃除しながら、驚きを隠せないでいた。

 財団の中では比較的武闘派で、なおかつ剣士であると共に覇気使いでもあるハヤト。その彼が斬り合いで相手に傷一つ負わせるだけで疲労困憊になるのは、テゾーロ自身想定外だった。それ程までに〝鷹の目のミホーク〟という壁が巨大なのだ。

「ハァ……ハァ……ハァ……」

「〝海の掃除屋〟……一通り太刀筋を見たが、それなりの腕利きではあるようだな。――だが今のままの凶暴な剣術ではおれに勝てんぞ」

 得物をしまいながらハヤトを総評するミホーク。

 ハヤトの剣は一対多数――それも特定の誰かを倒すというよりも眼前の全ての敵を薙ぎ倒す、力でゴリ押しするような剛剣だ。しかし相手の攻撃・斬撃を剣で受け流す、いわゆる「(じゅう)(けん)」を習得しておらず、ミホークのようなワールドクラスの剣豪、すなわち世界最高峰の相手だと通用しない。

「柔の剣。それが今のお前に足りない要素だ」

「柔の剣……」

 ミホークがハヤトの欠点を指摘した直後、テゾーロが拍手をした。

 互いの戦いぶりを称え、その顔は満足そうな笑みを浮かべており、それこそショーを楽しんだ観客のような振る舞いだ。

「お見事! とても見応えのあるエンターテインメンツだった」

「……」

「さて……大丈夫か? ハヤト」

「これが大丈夫に見えるかよ……」

 疲労困憊の体に鞭を打って立ち上がるハヤトに、テゾーロは「お疲れさん」と労いの言葉をかける。

「ミホーク、ウチのハヤトはどうだったい?」

「攻撃の型が限られてる分やはり読みやすいな……だが刃を交える中で生じる隙は小さく、斬り口の無駄な破壊も抑えられている。己の刀を知り、操れている証拠だ。柔の剣を扱えるようになれば、最強の座で待つこのおれを捉えられるだろう」

 ハヤトの太刀筋を評価するミホーク。

 一端の剣士としてハヤトはかなり腕の立つ方であるらしく、これからも成長し続ければ最強の座を視界に捉えることもできるという。しかしその為に必要な「柔剣」の習得は剛剣よりも難しいらしく、険しい道だという。

「ほう……ここまでくると、むしろ興味が湧く。ウチに剣士はあと3人もいるんだ、そいつらと剣を交えるのも悪くないんじゃないか?」

「……お前の部下に、か」

「ハヤトと同じく、お前の予想を裏切る面子が揃ってるよ」

 不敵に笑うテゾーロに、返事するようにミホークも笑みを浮かべる。

 実を言うと、ミホークはハヤトを軽視してもいた。いくら海で名を馳せても、経歴はどうあれ所詮は賞金稼ぎであり首から下げている小さなナイフで十分だと判断していた。しかし実際に刃を交えるとその考えは一転し、初見の格下相手に黒刀を抜いた――ハヤトはミホークに届かずとも確かな剣の腕があったのだ。

 そんな人間が彼を含めて四人、テゾーロの部下にいる。テゾーロと関われば、自分を良い意味で裏切ってくれる剣士と出会える。一端の剣士として、世界最強の剣豪として、暇を持て余す自分にとって願ったり叶ったりだ。

「……貴様の口車に乗るのも一興、だな」

「わかってくれるとありがたい」

 ミホークは踵を返し、風のように去っていった。

 

 

 二週間後、世界最強の剣士〝鷹の目のミホーク〟はクロコダイルとハンコックに続いて七武海に加盟した。

 それと共に、名実ともに世界最強をも七武海に加盟させたテゾーロを人々は〝怪物〟と呼ぶようになる。


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