ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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第7話〝非正規雇用〟

 ここは橋の下倉庫。

 トムの造船会社「トムズワーカーズ」の本社であるこの倉庫にテゾーロとステラは訪れていた。

「すごい……設計図がいっぱい……!」

 膨大な数の船の設計図があり、その量に驚愕するステラ。

「莫大な量でこれ程の正確さ……並大抵の船大工では到底敵いませんな」

「たっはっは!! そうでもないわい」

 ふと、青髪の少年がトムの元へ駆けつけた。

(アレは…アイスバーグか……?)

 アイスバーグ。

 トムの一番弟子であり、後にウォーターセブン市長にして超巨大造船企業へと成長する造船会社「ガレーラカンパニー」社長となる人物だ。

 この頃はトムズワーカーズの社員として働いている若き日のアイスバーグだ。

「トムさん、誰だよその二人。客か?」

「たっはっ……!! っ……!! ……!! あァ、ビジネス相手だ」

「ビジネス相手?」

「そこの二人に、ちと面白い話を持ちかけられてな。ドンと乗ってやったわい!! たっはっは!!」

 豪快に笑うトム。

 すると、トムの帰宅を察してか一人の女性と少年も現れた。トムズワーカーズの秘書であるココロと、後に「麦わらの一味」の船大工となるフランキーだ。

(ココロのバアさんとフランキーか? 若いな二人共)

 ――原作開始時点に近づくにつれ二人の容姿があそこまで変わるとなるのか、と思って目を細めるテゾーロ。

「おや、見ない顔だね…他所の人間じゃないか。あたしゃココロだ、この子達がフランキーとアイスバーグ」

「ギルド・テゾーロです。それとステラだ」

「ステラと申します」

 互いに軽く挨拶し、ココロが用意した席に座る。

 久しぶりの客だからなのか、歓迎ムードだ。

「トムさん、面白い話って何だ?」

「ああ、ぶったまげる話だ!」

「やめてください、そういう地味なプレッシャーは」

 テゾーロは苦笑いしながら、先程トムに言った話をもう一度話すことにした。

「我々が持ちかけた話は、あなた方と手を組んでビジネスをすることです」

 

 

 テゾーロの計画をもう一度整理する。

 このウォーターセブンは、周囲の島との連絡がつきにくく物資も豊かではない。さらに海賊の影響で廃れてきている。

 そこでテゾーロは、トムに大型貨物船を造ってもらい、その船で多くの島へ向かって良質な材木をはじめとした多くの物資を手当たり次第買い取りウォーターセブンへ売り捌くという。テゾーロ自身も賞金稼ぎの一面もあるので海賊の相手を任せられるうえ、稼いだ金の数割をウォーターセブンやトムズワーカーズへ提供するという。

 資金と物資が集まれば、海列車の完成も早くなる上治安の改善とウォーターセブンの発展につながる。

 互いに損の無いWin-Winの関係を築くことができる、文字通りのイイ話だ。

 沈みゆくウォーターセブンの未来の為になると察したトムは、トムズワーカーズ社長として承諾し今に至るという。

「マジの儲け話じゃねェかよ…」

フランキーは、話のスケールのデカさに唖然とすると共に、こういう取引とは今まで無縁だったため困惑もする。

「周辺の島との貿易なんて考えたこともなかった……気宇壮大な話だが、とても理にかなっている」

 アイスバーグはそう呟く。

 今は廃船島で船の材料を調達しているが、海水で腐ってしまっている材木も多い。それに資源は限られている。いずれ底を突くのも目に見える。 だがテゾーロの話では、彼は運輸業を行おうとしている。自らが作った船で物資の調達に向かい売り捌けば、経済も良くなりそれがウォーターセブンの発展につながる。

「じゃあ、そのためには船が必要だねェ。航海士・船医・船大工位の人材もだ」

「たっはっは、何ならわしらも海に出るか!」

「いやいやいや! あなたにはあなたの仕事があるでしょう!?」

テゾーロの素早いツッコミに、トムは相変わらず豪快に笑う。

「街の酒場とかで聞いてみるとええ、数人ぐらい元船乗りはいるじゃろうて」

 

           *

 

 

「いない……」

 溜め息を吐いて頭を抱えるテゾーロは酒を煽る。

 テゾーロは色んな酒場に行って利用客から情報集めしようとしたをが、やはり廃れてきているせいか客は比較的少ない。

 情報集めに徹してるが、これといった有力な情報はなく、詰んでいる状態だ。一人くらいはいるだろうと踏んでたので、それが通じないことを知ったテゾーロは困り果てた。

「ハァ……中々見つからねェや」

「この辺りじゃあ、そういう奴ァいないからねェ」

 酒場の店主がそう言いながらテゾーロに酒を出す。

 この酒場が、ウォーターセブンにある最後の酒場…ある意味最後の情報収集だ。

「まァ、人探しなら時間をかけてやるなり、一ヶ所に絞って捜索するのもアリだと思うがねェ」

「って言われてもな~……」

 するとその時、サングラスをかけた黒髪の男が戸を開けてテゾーロの隣に座った。

 がっしりとした体格であり、かなり強そうだ。

「オヤジ、ラムをくれ……瓶ごとでいい」

「あいよ」

 男は瓶ごと出されたラム酒を飲む。

 豪快そうだが気さくな雰囲気の男は話しやすそうで、テゾーロは声をかけた。

「そこのお兄さん。ここいらで船乗りをやってた人間を知ってますか? 元海賊でも構わない」

「ん?」

「私はギルド・テゾーロ……この街で商売をしようと思っていまして、そのために船乗りだった人物が必要なんです」

 遜った挨拶をするテゾーロ。

 すると男は笑いながら言った。

「そうか…じゃあおれでも雇うってか?」

「え?」

「こう見えておれァ元海賊だぜ。一味は訳あって解散したが、〝新世界〟で何年か航海したこともある」

「!? 〝新世界〟まで……!!?」

 〝新世界〟は〝偉大なる航路(グランドライン)〟後半の海の通称であり、世界で最も航海が困難である最強の海だ。海流・気候に加え、前半の海で唯一信頼できた磁気までもが変動する島があり、航海中完全に磁気を失う島さえあるという、〝偉大なる航路(グランドライン)〟前半の海の常識すら一切通じない海でもある。

 なお、その新世界を制した者が「海賊王」の称号を得られるのであり、今はゴール・D・ロジャーが唯一制覇したことで知られている。

(これは思わぬ収穫だ、好機(チャンス)は今しかない!!)

 一度でも新世界に足を踏み入れた者は、口を揃えて前半の海を「まるで楽園(パラダイス)だった」と語るという。

 そんな海に行って生きて帰った経験があるのだから、絶対に雇わねばならない。この先そんな人物と会えるかどうかなんて、(ゼロ)に近い確率だ。

「仕事がないなら、私の商売をぜひ手伝ってくれませんか? 報酬はちゃんと用意できますゆえ」

「へェ……坊主、中々面白ェことしでかす気だな? まァ、おれもヒマだからな……非正規雇用といこうぜ」

 男は何と了承した。

 新世界での航海経験がある人物が手伝ってくれるとなると、これ程ありがたい人物はいない。

「改めて……私はテゾーロ財団のギルド・テゾーロ。あなたは?」

「スコッパー・ギャバンだ。よろしくな」

(アレ? どこかで聞いた名前だな……)

 どこかで聞いたことのある名前の気がしたが、テゾーロは気にせずギャバンと握手した。

 そしてこのギャバンという男が、実は伝説の海賊だったということを知るのはまだ先の話。


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