ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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第108話〝オトヒメ王妃暗殺未遂事件〟

 一週間が過ぎた頃。オトヒメは帰還するミョスガルド聖と共に聖地マリージョアへと赴き、彼や事情を聞いたクリューソス聖を説得して一枚の紙を持って笑顔で帰国した。

 オトヒメがあの天竜人を説得し、人間の世界から無事に帰還した。そればかりでなく、その天竜人からの書類を持って帰ってきたことは、魚人島の人々に今までとは違う未来を予感させるに充分だった。

「世界貴族の一声は王達の会議、〝世界会議(レヴェリー)〟でも強い力を発揮します!! これは世界貴族の一筆、こう書いてあります」

 オトヒメが手にしている書類には「魚人族と人間との交友の為、提出された署名の意見に私達二人も賛同する」と記されていた。

 今度の〝世界会議(レヴェリー)〟で、魚人島から地上移住の要望の署名を提出した時、この世界貴族の賛同の書類を沿えることでより現実的な〝力〟を与えられることになる。この後押しがあれば、きっと移住は可能になる。

 オトヒメはそう民衆に説明した。あとは魚人島の人々が地上への移住を決意し、より多くの署名さえ集まればいい。だが今まで散々虐げてきた天竜人がオトヒメに協力してくれたことに、嬉しく思いつつも不安に思ってもいた。

「ですからあと……必要なのはより多くの署名です。私にはもう皆様の決断を待つことしかできません。どうか人間との共生の意思を、地上の移住の意思を示して下さい………!!」

 懸命に訴えるオトヒメ。

 そんな彼女の元に、テゾーロが一枚の書状を手に近づいた。

「テゾーロ……」

「「我々テゾーロ財団はリュウグウ王国・オトヒメ王妃の魚人族・人魚族の地上移住運動に賛同し、その活動を全面的に支援する」……おれ達の総意です」

 財団の意見書をその場で彼女に渡す。

 するとテゾーロは指輪を一つ外して放り投げ、能力で大きな金の箱を作り上げた。それと共に声高に魚人島民に言葉を投げ掛けた。

「さあ、皆さん!! 王妃の熱い想いに賛同する署名をどうぞ!!」

 テゾーロがそう言った途端、島民達は署名した紙を取り出して箱の中に入れ始めた。次々と箱に署名された紙が入れられていき、オトヒメが用意した箱はあっという間に一杯となりテゾーロが即席で用意した箱もかなりの量が入っている。

 7年に渡る苦労は実を結び、オトヒメはこれまでやってきたことがようやく叶い我慢できず嬉し泣きした。

「オトヒメ王妃の想いがやっと島の皆に届いたようじゃのう……」

「おれが裏で手ェ回したのもあるけどな……まァ無事でよかった」

 オトヒメの努力が報われたことに喜ぶジンベエと、裏で手を回していたことをあっさり言ったテゾーロ。

 そんな二人に、メロヌスは質した。

「――それにしても今回は随分と人を揃えたな。何かやるのか?」

 普段テゾーロが外遊するときは、テゾーロ自身が素で強いため最低限の人数で行動する。しかし今回は財団の社員を50人近く動員している。メロヌスは、それがテゾーロが何かしらのアクションを起こすのではないかと読んだのだ。

 テゾーロはそれについて、「その通りだ」とあっさり肯定する。

「さてと。ジンベエ、今からやることは大分人手が必要だ……そちらの船員達にも声かけてくれないか」

「……?」

 

 

           *

 

 

 翌日。それは突然起こった。

「うわああああーーー!!!」

「離れろォ!! 火が上がったァ!!!」

 突如として署名を入れる箱が燃え出した。まさかの事態に市民達はパニックになり、その場から逃げ出す。

「早く火を消して!! 署名が!!」

「集まった署名を守れ~~!! 燃やすなァ!!」

 このままでは折角の署名が燃やされてしまうと焦る。警備兵が急いで署名を持って燃えないように移動させようとしたが、テゾーロとメロヌスが駆けつけ待ったをかけた。

「ご安心を、その署名は偽物です。昨夜すり替えておきました」

「死ぬかと思ったけどな……」

「え……!?」

「どういうことだ!?」

 テゾーロがいつの間にか署名をすり替えていたことに驚愕するオトヒメと警備兵。

 実は昨夜、テゾーロは万が一を見越してタイヨウの海賊団と共に署名の写しを完成させ、オトヒメ達に気づかれないように本物とすり替えておいたのだ。すり替えられた本物はタイヨウの海賊団の船に保管しているという。

「オトヒメ王妃、言ったでしょう? 王妃の理想が不都合なのは、人間だけではないと」

「理事長はこういう事態を想定して動いたってことだ。おかげで魚人も人間も徹夜で死にかけた奴が大勢出たが……今頃副理事長が面倒みてるだろうな」

 遠い目をするメロヌスに、顔を引きつらせるオトヒメ。たった一夜であの大量の署名を丸ごと写してすり替えたのだから、相当な疲労が溜まったことだろう。

 いずれにしろ、本物の署名は無事であるのは揺るがぬ事実なので、オトヒメは安堵した。

「王妃、広場はパニックです。ここは……」

「ええ……」

 その時だった。

 テゾーロとメロヌスは、広場の遥か向こう側――白い岩壁の方から殺気を感じ取った。

「「!」」

 二人はすぐさま動き出し――

 

 パァン!! ズドォン!!

 

 二発の異なる銃声が、広場に響いた。

 警備兵や市民、ジンベエらタイヨウの海賊団が一斉に振り向くと、一同の視線の先にはメロヌスとテゾーロがオトヒメを庇っていた。

「あなた達……」

「メロヌス!!」

「わかってる!! 全員気をつけろ、狙撃手(スナイパー)がいる!!」

 愛銃のボルトハンドルを操作して(やっ)(きょう)を排出しながら叫ぶメロヌスと、ゴルゴルの実の能力で黄金の剣を生み出してオトヒメの前に立つテゾーロ。オトヒメ王妃を撃とうとした不届き者がいることを瞬時に理解したジンベエは、兵士達にテゾーロの援護をするよう命令した。

「全員広場から離れろォ!!」

「王妃様!! ご無事ですか!?」

 右大臣が市民達を広場から遠ざけ、左大臣はオトヒメの安否を確認する。それと共にネプチューンやオトヒメの子供達――しらほしとフカボシ、リュウボシ、マンボシも駆けつける。

「オトヒメ!! 無事か!?」

「あなた……」

「母上!! 早く避難を!!」

 フカボシが母・オトヒメを避難させ、ネプチューンはしらほしを宥めながら移動し、リュウボシとマンボシは辺りを見渡して刺客が襲ってこないか警備兵と共に監視する。

 テゾーロもまた、部下や協力者であるジンベエらと会場でパニック状態になってる市民を誘導したり火事の鎮火に動く。

(さて、あとはアオハルがうまくやってくれれば……)

 

 

           *

 

 

「何なんだあの人間は……!!」

 オトヒメを殺そうとした真犯人(ホーディ)は、焦燥に駆られていた。

 人間の海賊に署名箱を燃やさせ、その騒動の隙にオトヒメ王妃を殺し、そして雇った人間の海賊も殺して犯人に仕立て上げる。魚人島はオトヒメの思想・信条に共感してはいるが人間に対する不信感を払拭しきれてない部分はあるので、成功すれば人間との共存は夢のまた夢となり、ホーディの目論見通り人間への復讐がしやすくなる――はずだった。

(あの距離からの狙撃に気づくどころか、弾丸を(・・・)撃ち落としやがった……!!)

 ホーディはネプチューン軍で戦闘技術を学んでおり、当然銃を用いた狙撃術も会得している。かつて所属していたジンベエには及ばずとも、現時点のネプチューン軍ではトップクラスの実力を有しているのは自覚している。

 だが長いライフル銃を携えたメロヌスという男は、自らが放った弾丸を狙撃してオトヒメ暗殺を防いだ。ジンベエやアラディンといった実力者、沢山の警備兵や住人がいる中で誰にも気づかれず狙撃できたにもかかわらず、防がれたのだ。しかもテゾーロも勘づいていたのか、オトヒメを庇い臨戦態勢であった。

 いずれにしろ、暗殺は失敗だ。

「ちっ! 仕方ねェ、出直して今度こそ殺して――」

 刹那、見えない衝撃がホーディを襲った。衝撃に貫かれた彼は意識を持ってかれそうになったのか膝を突いて前のめりに倒れた。

「……そんなことだろうと思った」

 ホーディを制圧したのは、アオハルだった。

 彼はオトヒメの帰還を機に彼女の思想に反発する輩が本格的に活動するのではないかと読み、人知れず広場周辺の警備をしていたのだ。そして偶然ホーディが暗殺を防がれ慌てた場面に出くわし、〝覇王色〟の覇気を放ち無力化させたのだ。

「な、何をしやがった……!?」

「別に……ちょっと覇気をぶつけただけだよ」

 居ながらにして屈強な強者達の意識を奪ってしまう〝覇王色〟の覇気。当然同じ資質を持つ者や多くの修羅場をくぐり抜けた強豪の中の強豪となれば平然と受け流せるが、半端な精神力では意識を保つことができても指一本動くこともできなくなることもある。

 鍛錬だけでは会得できない「王者の気迫」の前では、ネプチューン軍でもずば抜けた腕っ節を持つホーディも屈せざるを得なかった。

「大人しくお縄につきなよ。排他主義や種族主義なんて時代遅れだ」

「黙れ!! 下等生物が!!」

「その下等生物の覇気に屈した君は何者なんだろうねェ」

「っ――このクソッタレがァァァ!!」

 激昂したホーディは何とか立ち上がると、鬼の形相でアオハルを殺そうと迫った。

 しかし、そのホーディの背後に非常に細い黄金の触手が迫り、ホーディをあっという間に拘束してしまった。

「な、何だこりゃあ!?」

「……アオハル、お前おれより覇気強力なんじゃないの?」

「ギル兄!」

 そこへ駆けつけたのは、テゾーロだった。彼の後ろにはジンベエやアラディン、さらには国王ネプチューンもいる。

「よもやお主がこんなことをするとは……」

「お前さん……自分が何しでかしたかわかっとるのか」

「ネプチューン……ジンベエ……!!」

 ネプチューンは怒りというよりも哀れみの眼差しで地に伏したホーディを見下ろす。まさか自国の軍の一員が公衆の前で王妃を狙撃し殺そうとしたなど、夢にも思わなかったのだろう。ジンベエはそんなホーディが仲違いしたアーロンと面影を重ねたのか、複雑な表情を浮かべている。

「計画は誰も知らないはずだぞ、なぜだ……!!」

「知ってなくても大方の予想はつくさ、君みたいなのは特にわかりやすい」

 テゾーロは淡々と言葉を並べる。

 誰にも知られていない暗殺計画であるのは事実だったが、そもそも反人間派の魚人達の悪しき教育の結晶ともいえる過激な排他主義者が何も行動を起こさないという認識自体が過ちだ。暗殺しようとしたりクーデターを実行するなり、何らかの暴力的活動を起こすのは目に見えていることだ。

 それをホーディ自身は思想を重視するあまり自覚してなかったようだ。

「主義主張が仇となったな……無意味な種族主義活動ご苦労だったね」

「ほざけェ!! お前だけは、お前だけは殺してやる!! ギルド・テゾーロ!!!」

「生憎だが、君のテロリズムはこれでチェックメイトだ。言っただろう、「お前の聖戦は正義ではない」って」

「テゾーロォォォォォォ!!」

 アンモナイツ達に連行されるホーディは、テゾーロへ憎悪に満ちた叫びを上げた。


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