ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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【朗報】
やっぱベルメールさん救います。


大海賊時代Part4
第110話〝小さなヒーロー〟


 魚人島での騒動から一週間。

 テゾーロは現在の活動拠点であるバーデンフォードへ帰還し、グラン・テゾーロ計画を進めつつ次の計画を練っていた。

「そろそろ〝軍事力〟をいい加減考えないとなァ」

 国家を樹立させる以上、国軍は必要な存在だ。テゾーロも戦争は好まないが、自国を護るための戦力を保持しなければ国家存亡の危機に立たされる。ましてや新世界は常に覇権争いが絶えず、国の一つや二つを容易く滅ぼせる力を持つ海賊も多い。

 現実世界でもスイスが第二次世界大戦中でも中立の姿勢を軍事力で保てたことから、「軍事力による保障」がいかに重要かが伺えるだろう。

(自国の軍……中立国を名乗る以上は強力なモンにしないとな。それこそ七武海に引けを取らない程に)

 軍隊を保有する際、頭数に関しては後々募集をかければいい。問題はトップだ。

 テゾーロは戦闘力こそ財団トップだが、国政を担う以上前線に出ることはなくなる。せいぜい幹部達と手合わせをしたりする程度だろう。ならばテゾーロが軍のトップになればいいだろうと思われるが、軍は政治から分離された状態でなくてはならないものであるのでその選択肢は存在せず、あくまでも政軍関係は政治優先である必要がある。

(軍はおれの力でコントロールできるようにするのが筋だが……誰にしようか)

 候補はいないわけではないが、テゾーロはできれば避けたがっている。

 シードは元海兵という経歴から考えると適任だろうが、オールマイティゆえにどこでも活躍できるため軍には回ってもらいたくない。一番大変な事務仕事をテキパキとこなせるのは幹部ではシード・メロヌス・タナカさんの三名なので、一人欠けるだけで大分違ってくる。

 アオハルも戦力としては申し分ないが、彼はどちらかというと実際に前線で暴れる方がいいだろうし、情報屋なのでサイと共に活躍できる方がいい。ハヤトやジンも前線で暴れたい武闘派なので、司令官は財団以外の人間も考えた方がいいだろう。

 ちなみに覇気の師であるギャバンに話を振ろうかと思ったのだが、彼が律儀に業務をこなすのが得意とは考えられないので却下したのは秘密だ。

(早く決まればいいが……)

 

 プルプルプル――

 

「!」

 考え事をしている最中に響く、電伝虫の音。

 テゾーロは受話器を取ると、シードの声が聞こえた。

「シードか。どうした? 何かトラブルか?」

《い、いえ! 実はベルメールさんにちょっと挨拶しようかなって……》

「ベルメール……」

 テゾーロは目を細める。

 ベルメールは後に麦わらの一味の航海士となるナミとその義姉・ノジコの育て親であり、元海兵だ。つるや桃兎と比べるのもアレだが、将校にまで上り詰めてはいたので少なくとも一般兵よりは遥かに高い戦闘力はある。

 彼女はアーロンの手によって見せしめとして殺されるのだが、今はまだその時が訪れていないようだ。

《テゾーロさん、わがまましてすいません……》

「こっちはそろそろ散らばってる幹部達を招集したいと思っていたところだと言いたかったんだが……もうちょっとだけそっちに滞在しててくれないか?」

《え?》

 テゾーロは一つの書類を手に取る。それは手配書であり、あのアーロンの顔がでかでかと載っていた。

「最近インペルダウンから釈放されたアーロンがまた暴れ始めてるらしい。アオハルの情報だと、〝東の海(イーストブルー)〟で海軍の船が突然沈没したという事件も起こっていると聞いた」

《……〝ノコギリのアーロン〟が襲来すると?》

「可能性はかなり高い。侵略者は平和なところから襲って力で牛耳るもんだろうし」

 平和の象徴ともされている〝東の海(イーストブルー)〟は、「ONE PIECE(このせかい)」における侵略を企てる人物とは何かと因縁がある。現に大規模な海賊艦隊を率いた伝説の大海賊〝金獅子のシキ〟も、全世界支配の足がかりとして――ロジャーへのこだわりの裏返しでもあるが――〝東の海(イーストブルー)〟を壊滅させて支配下に置こうとしていた。平和な割には、というか平和だからこそ運の悪いことに災難が続くようである。

「そういう訳だ。お前の事情に忖度して、幹部会の方は延期する」

《申し訳ありません……》

「構わないさ、たまにはこういう形で労わんとな」

《では、終わり次第連絡します》

「ああ。ご苦労」

 テゾーロはシードとの通話を終えると、窓から海を眺めた。

(ベルメール……間に合っていればいいが)

 

 

           *

 

 

 三日後。テゾーロの予想は的中した。

 タイガーの死後、タイヨウの海賊団から分裂したアーロン一味が「アーロン帝国」を築くためにココヤシ村へ上陸・侵略を始めたのだ。アーロンは大人一人10万ベリー、子供一人5万ベリーを毎月奉貢しなければ村を滅ぼすという無茶苦茶な条件を突きつけた。ココヤシ村はコノミ諸島と呼ばれる諸島全域を管轄としており、周囲にも多くの村がある。当然払えない村・反発する村があったのだが、それらは全て潰したという。

 そしてココヤシ村は大きな危機を迎えていた。村人達が重傷を負ったベルメールと彼女の家族であるナミとノジコを助けるべく、アーロン一味と交戦して窮地に立たされたのだ。村人達が武器を手に取り次々とベルメール達を助けようとするも、皆血を流して倒れていく残酷な光景に、ナミとノジコは愕然とするばかり。

「適当に相手してやれ。殺すなよ」

 アーロンは仲間達にそう命じつつ、ベルメールの額に銃口を向けた。

「お前が最初の見せしめだ……くだらねェ愛に死ね」

「させるかっ!!」

 

 ドゴォン!

 

「ぐはっ!?」

『アーロンさん!!!』

 アーロンの巨体が、一人の人間によって突如吹き飛ばされる。それを間近で見ていた魚人達は絶叫し、村人達は呆然とした。

「誰だてめェ!?」

 魚人達は一斉に武器を構える。

 ベルメールを庇うように立つのは、薄い茶色の髪と頭頂部に左曲がりのアホ毛が特徴の中性的な青年だった。歳はベルメールより下のように見え、少年と言われても気づかれないだろう。しかしその纏う雰囲気は歴戦の将を彷彿させ、見た目と違って多くの修羅場をくぐり抜けてきていることが誰もが理解できた。

 そしてその正体を唯一知るベルメールは、彼の名を口にした。

「シ、シード……!?」

「間に合ってよかった……お久しぶりです、ベルメールさん。とりあえずこの場は僕に任せて下さい」

 シードは微笑みながら魚人達を見据える。

 その隙にベルメールは馴染みの駐在・ゲンゾウとDr.(ドクター)ナコーに救助される。

「ベルメール、知っておるのか……!?」

「〝本部〟の元准将よ……今は辞めてテゾーロの部下として働いてるけどね……」

「海軍本部の元将官か!? 信じられん……!!」

 ベルメールの言葉に、その場にいた全ての者が耳を疑った。

 目の前の男が元海軍本部准将で怪物テゾーロの部下――普通に考えればワールドクラスの実力者の経歴だ。本当にそうだとしたら、いくらアーロン達でも太刀打ちできない。戦うならば心してかかる必要がある。

 魚人達は動揺し顔を強張らせる中、ベルメールは笑いながら口を開いた。

「言っとくけど見た目の割に腕っ節はかなりのものだったらしいわよ……チビだからって図に乗らないことね」

「誰がチビだっ!! 170は越えてますよ!!」

「あたしは186だけどね」

「もう一本腕折られたいか!!」

 身長をイジられて激昂寸前のシードに、ベルメールは「ごめんって」と苦しそうに笑う。

 すると、シードの攻撃で吹き飛ばされたアーロンが、怒りに燃えた表情で戻って来た。その迫力に一同は怯むが、シードだけは余裕の表情で見つめている。

「下等種族が……このおれを誰だと思ってやがる!!」

「僕の敵。あなた達はそれ以外の何者でもないだろう」

「ん? ――ちょっと待て、てめェ……〝アイツら〟をどうした?」

 怒り心頭のアーロンは、ふと気づいた。彼は村を征圧した際、飼い慣らしていた海獣モームの世話も兼ねて数人の仲間に見張りを任せていたのだ。彼らの目を掻い潜って来たのか、それとも倒してから来たのか――まさかと思いつつもシードに尋ねた。

「港には同胞達とモームがいたはずだぜ……!?」

「ああ、彼らか。騒がれると面倒だったから倒しといたさ、牛の方も念の為にやっといたけど正解だったね」

「っ――このクソガキがァァァァ!!!」

 アーロンは激情に駆られたまま殴りかかる。ジンベエのような武術の達人ではないが、かつてはタイヨウの海賊団でトップクラスの実力を有していた魚人の攻撃は、キレにムラがあれど凄まじい威力を発揮する。

 しかしそれは、当たった場合の話。〝見聞色〟の覇気を会得しているシードは次々に攻撃を躱していく。覇気を扱えないという決定的な差と陸上での戦闘という不利な条件が重なり、アーロンは徐々に怒りから焦りの表情へと変わっていく。

(ちくしょう、何で当たらねェ!?)

「――さてと。ジンベエには申し訳ないですが、あなた達は僕が潰します」

 シードはそう言うと、手を叩いて巨大な骨を生み出しアーロンに向けて放った。

「なっ!?」

「〝芯骨弔(しんこっちょう)〟!!」

 

 ズドンッ!!

 

 巨大な骨が〝武装色〟の覇気を纏いながらアーロンに直撃する。彼の体からミシミシと嫌な音が鳴り、ついには吐血して倒れ、息はあるが起き上がらなかった。

 たった一撃で、アーロンは散々蔑んでいた人間に屈したのだ。

「アーロンさん!!」

「おのれ下等な人間が!!」

「殺してやる!! 覚悟しろ!!」

 アーロンを慕う魚人達が怒り狂い一斉に襲い掛かる。だがシードはその繰り出される攻撃を全て躱し、覇気で黒く硬化させた両腕両足で次々に沈めていく。持っている全ての武器も、魚人特有の怪力と陸上でも絶大な威力を発揮する武術「魚人空手」も、何もかもが通用しなかった。

 気がつけば周囲にはアーロンを含めた魚人達全員が倒れ伏しており、アーロン一味は壊滅状態に陥ってしまった。

「……すごい」

「これでテゾーロの部下(・・)とは……! 〝偉大なる航路(グランドライン)〟にはこんな化け物がいるのか……」

 普通の人間ならば敵うことない化け物と思われた魚人達をたった一人でのしたシードに、ベルメールとゲンゾウは驚きを隠せない。

「いやいや……僕より強い人なんて〝偉大なる航路(あのうみ)〟にはゴロゴロいますよ。それよりも皆さんのケガをどうにかしないと。ドクターさんは?」

「ここにおる! お主、できるのか?」

「医者としての技術はありませんが、戦闘で負った傷の応急処置ならば」

「十分じゃ!」

 シードが村人達への応急処置を施そうとした、その時だった。

「図に、乗るんじゃね……!!」

『!?』

 〝芯骨弔(しんこっちょう)〟で倒されたはずのアーロンが起き上がり、ふらふらとした足取りでシードの背後に迫ってきたではないか。その鬼気迫る表情は、まさしく悪鬼羅刹を彷彿させた。

「下等な人間が……このおれに何をしたァ!!」

「――〝剣硬骨(けんこうこつ)〟」

 シードはアーロンの渾身の拳打を躱すと、骨の剣を生み出して横薙ぎに一閃。アーロンは血飛沫と共に倒れ、血だまりを作っていく。

「種族が違えど心臓一つの「ヒト」であるのは変わらない……それに気づいてくれなかったのは全く残念だ」

「こ、の……かと、種族が……」

 シードを心から恨むような言葉を漏らし、今度こそアーロンは倒れた。

 それを目の当たりにした村人達は、歓喜の声を上げた。海賊の支配を受けず、アーロン達と戦う理由であったベルメール達の命も無事だったのだから当然だろう。

「シード……」

「安心してください、すでに支部の方々に通報はしてあるので少し待てば来るはずです」

 近くの海軍支部が救援に来ることを知ったベルメールは安堵する。

 すると、ナミとノジコがシードに駆け寄って涙ながらに頭を下げた。

「ベルメールさんを助けてくれて、ありがとう!!」

「ありがとう!!」

「……どういたしまして――といっても、軍を辞めてからも変わらない僕の正義に従ったまでだけど」

 海兵時代を思い出したのか、シードは恥じらいと懐かしさが入り混じったような表情を浮かべるのだった。




「スタンピード」のダグラス・バレット、細かい設定が判明次第本作に登場させようと思います。
仲間にするかどうかは不明ですが。

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