ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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ワノ国編が七夕からスタートだ~っ!!
あと一ヶ月……楽しみです。


第111話〝皆の意見全部〟

 一週間後、バーデンフォードにて。

「ベルメールの方はうまく行って良かったな」

「はい! 久しぶりに会えて嬉しかった」

 会議前にシードと会談をするテゾーロ。

 二人の話題は、シードの留学についてだった。

「でもあと数分遅れてたら間に合わないところでした……」

「仕方あるまい、ジンベエに勘づかれまいと工作もしていたようだしな」

 テゾーロは嘆息しながら茶を啜る。

 今回の一件が解決した直後、事の顛末を知ったジンベエは仲間達と共にベルメールの元を訪れ謝罪したという。かつての仲間が何か悪さをしたらすぐに止めるつもりでいたのに遅れてしまったことを悔い、深く頭を下げたことは世経の一面に載る程の話題となったのは記憶に新しい。

 その一方でテゾーロは海軍本部及び世界政府に電伝虫で抗議し、全世界の海軍支部――特に東西南北の海の支部の監査の強化を要請した。汚職や暴挙を働く海兵は海賊以上に質が悪いので、すぐにでも浄化せねば海軍はおろか政府の信頼にも関わる上に機密が漏れやすくなるという訳だ。ちなみにこの時のテゾーロについて、一部始終を見ていた幹部達は「まるでヤクザのような恫喝だった」と口を揃えたというのは秘密だ。

(それにしても……ベルメールはこれで救えたが、ナミがルフィの仲間になれるかどうかは不透明になったな)

 テゾーロは考え込む。ナミが海賊相手に泥棒をしてたのはアーロンの一件が理由であり、それを失った以上は少なからずルフィと会う確率は減るだろう。もしかしたら「麦わらの一味」の航海士にならない未来も十分あり得る。

 しかし、どの世界でも運命や巡り合わせというものはある。ベルメールを救ったことでアーロンとの因縁が無くなったが、「自分の目で見た世界中の海図を描くこと」という彼女の夢そのものを潰したわけではないので、別の形でルフィの船に乗る可能性もあり得る。

 いずれにしろルフィと会ったナミの判断次第であり、テゾーロはわざわざそこへ介入する必要も無いだろう。

「――それで、どうだったんだ? 留学先は」

「ガープ中将の故郷なだけあって、皆いい人達でした。おかげで酪農技術を身に付けられました」

「そうか、どうやら問題も無く無事に終えられたようだな」

「……」

 テゾーロは満足気に頷いたが、シードはなぜか沈痛な表情を浮かべている。

 最初こそ怪訝そうに見つめてたが、時系列(・・・)のことをふと思い出した瞬間テゾーロも察して気まずく感じ、目を逸らした。

(そうか、もしやサボのことを……)

「テゾーロさん、その……」

「無理に話さなくていい、何となく察しているが……訊いて大丈夫か?」

「……はい」

 複雑な気分になりながらも、テゾーロはシードに何があったのか訊いた。

 シードは留学中ガープにルフィ達の躾をするよう依頼(どうかつ)され、彼が預けられているコルボ山の山賊カーリー・ダダンのアジトを訪ねた。その際にルフィに加え、猛獣だらけのジャングルで仲良くはしゃぐ貴族出身のサボと、あの海賊王ロジャーの血を継ぐエースと顔を合わせ、それなりに親しくなったという。

「ロジャーの子……ガープ中将から聞いたのか?」

「はい、正直驚きました……でも一番驚いたのはゴア王国の方でしたが」

「だと思ったよ……あそこは上っ面こそ立派だがな」

 ルフィ達と関わってから、シードはゴア王国の黒い部分を知ってしまった。

 国の中心部を壁で囲み中流階級より上の国民のみを住まわせている「偽りの美しさ」と、不衛生で治安が悪いスラム街〝不確かな物の終着駅(グレイ・ターミナル)〟。周辺諸国の評判を裏切る現実に、シードは絶句して思わず政府に怒りを露わにしたという。

「そこまでならまだ我慢できました。でも天竜人が訪問するとなったら、彼らは住民ごとスラム街を焼却しようと……!!」

「……」

「気づいた時には、全て終わってました……不幸中の幸いか、その日は海から猛烈な突風(・・・・・)が吹いたおかげで道ができ、全滅は免れましたが……」

 シードの悲痛な声に、テゾーロは何も言わない。

 彼もまた、〝見聞色〟の覇気を扱える。〝見聞色〟は生物の発する心の声や感情を聞く能力であり、人間の「心の叫びが聞こえる」ために心を痛めることも多いという。おそらく、火に包まれ焼かれていく人の心の声を聞いてしまったのだろう。

「それだけじゃない……サボ君は天竜人に砲撃されて……」

 体を震わせ顔を歪ませるシード。やはりサボは一人で出港し、通りすぎたところを天竜人――おそらくジャルマック聖――に砲撃されたようだ。

 テゾーロは「遺体は見つかったのか」と質すと、彼は首を横に振って遺体は見つかっていないことを伝えた。

「僕がもう少し長く居たら……彼は……!!」

「だが遺体は見つかってないのだろう? なら生きてる可能性も否定できない……お前の話を聞いてると、随分タフな子供のようだが」

「テゾーロさん……」

「希望は捨てちゃいかんよ。生きる意志は強く、奇跡は諦めない者の頭上に降りてくるモノさ」

 激励とも捉えられる言葉を投げ掛けるテゾーロ。

 その言葉にシードは瞠目し、「そうですよね」と同調し微笑んだ。

 シードの言葉通りなら、ドラゴンは同志を率いて革命軍をすでに組織してゴア王国に滞在しているはずであり、その最中に原作通り(・・・・)にサボを拾っている可能性は高い。ドラゴンと出会っていれば、参謀総長として未来で会えるだろう。

(………待てよ、革命軍の参謀総長だよな? それってまさか……)

 

 ――おれ、やっぱり革命軍(あいつら)の〝敵〟として会うんじゃね?

 

 テゾーロはようやく気づいた。

 原作におけるテゾーロの影響力は、革命軍が無視できない程だった。今でこそ生き方や思想信条は別とはいえ、世界政府側の有力者であるのは事実。近い将来に間違いなく干渉し、場合によっては武力衝突もあり得る。

(ヤッベ、何か不安になってきた………あんなアクの強すぎる面々と衝突なんて冗談じゃねェぞ!?)

 革命軍には各地域をまとめる「軍隊長」がおり、東西南北の海に一名ずつ置かれている。露出度の高い過激な服装をしているベロ・ベティ、かつては凶悪な海賊として活動していた巨人族のモーリー、科学力を主軸とした戦闘を得意とするリンドバーグ、小声で何を言っているか聞き取りにくいカラスが軍隊長であり、いずれも油断ならない猛者ばかりだ。

 原作では海賊〝桃ひげ〟が彼らの餌食となったが……その矛先がテゾーロに向かないとは言い切れない。むしろ彼らの生け贄としての条件が整っている始末だ。

(原作開始まで10年切ってるよな? これ結構マズイんじゃ……)

 シードが立ち直りそうになる中、自分の置かれた立場に若干の危機感を募らせたテゾーロだった。

 

 

           *

 

 

 シードとの会談を終え、テゾーロは幹部達と会議を開いた。

「アレから色々考えたが、政治の方は後々決めることとしよう。おれが国王を務めることさえ決まってれば後で役職は色々付け足せるしな……問題は住民の方だ、財団の人間だけではこの島の発展は厳しい」

「成程……じゃあ、一体どうする気で?」

「それを今から考えるんだが……おれ一人で決めるのもなんだし、ここは民主主義的(・・・・・)に話し合いで決めよう」

『民主主義的?』

「……」

 民主主義的という言葉に首を傾げる一同に対し、テゾーロは顔には出さずとも非常に焦った。

(しまった、民主主義は存在しねェんだった!!)

 全ての国民に平等に主権があり、自分達のことは自分達で話し合って決めると考える民主主義は、テゾーロの前世では常識ではあるがこの世界では「未知の思想」だ。

 世界政府加盟国だけでなくこの世界のほぼ全ての国家は君主制であり、組織または集団の長が全てを決める権限を有する。テゾーロも最終的な決定権こそ自身にあれど、その過程は多くの部下達の意見を反映させており、かなり異質なものである。

 この世界の歴史上、民主主義を取り入れた国は現時点では存在しない。しかも天竜人が絶対であることが暗黙の了解どころか国際法と言っても過言ではない世界に、主権は市民にあるという思想は天竜人を脅かす可能性を秘めている。万が一にも政府関係者に聞かれたら危険人物扱いされかねないだろう。

「と、とにかく! グラン・テゾーロ計画の完遂の為にお前らの意見を聞きたい」

 気を取り直して話を元に戻すテゾーロだが、幹部一同は何とも言えない表情を浮かべる。政治分野とは無縁なのだから無理もないだろう。

 そんな中、ステラはテゾーロに尋ねた。

「ねェテゾーロ……だとしたら一度に大勢の人を受け入れた方がいいかしら?」

「その通りだステラ。さらに要求すると国籍も何もかもが違う方がいい……同じ色じゃつまらないだろう」

 グラン・テゾーロ計画では、国際色豊かな国家でありたいというテゾーロの願望がある。

 それを実現するには、一度に世界中の人間を大勢受け入れられるような活動でないといけないのだ。

「……だとしたら、一つ提案があるのですが」

「! 何だ、タタラ」

「奴隷解放された人達はどうでしょうか」

 タタラの提案は、元奴隷達に居場所を与える形でバーデンフォードに移住させるというものだった。

 奴隷解放の折、テゾーロは元奴隷達を故郷へ送り帰したり労働者として財団へ迎え入れたりしたが、それでも膨大な数の元奴隷達が世界中に散らばっている。解放されたとはいえ、そこから新たな人生を送り成功させるのは難しいことであり、そこに介入して住民として迎え入れるのはどうかということだ。

「元奴隷達か……」

「それだったら、天上金の関係で被害に遭った連中もいいんじゃないか?」

 タタラに続き、ハヤトも意見を述べる。

 天竜人への貢ぎ金である天上金によって貧困に苦しむ国家や人々は数知れず、場合によっては国が滅んでいることもある。天上金のせいで不幸な目に遭った貧困層を受け入れるのも一種の手であるだろう。

「それはかなりの妙案だ。他には?」

 テゾーロが意見を促すと、少しずつだが意見が飛び交った。

 魚人族・人魚族の最初の移住先、世界政府などから被害を受けた難民の受け入れ、足を洗った元海賊など、多様性に富んだ意見が集められる。

「――ステラ様、あなた様はいかがですかな?」

 意見を全てメモを取っていたタナカさんは、ステラに話を振った。

 ステラはテゾーロと共に財団を支えた分、その発言の影響力は大きい。テゾーロも含め、一同は彼女を凝視すると……。

「じゃあ……皆の意見全部で♪」

「それ考えてなかった人が言う言葉ですけど!?」

『それだ』

「ちょ、皆さん!?」

 ステラの発言に、ツッコミを炸裂させたタナカさん以外は全員賛成。

 かくしてテゾーロ財団の方針は、ステラの鶴の一声で全て決まったのだった。


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