ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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第112話〝身内〟

 幾許か年月が流れ、グラン・テゾーロ計画は折り返し地点を迎えた。

 本格的に工事が進み、ついにテゾーロの富と権力を象徴する巨大な七ツ星カジノホテル「THE() REORO(レオーロ)」の建設が始まった。テゾーロの国家の中枢となる拠点なだけに、その造りは荘厳なものが予想されるだろう。

 それと共に財団が移住者募集を行い、早速四桁を軽く超える数の人々が集まった。その多くは貧困階級や元奴隷、戦争などの諸事情で難民となった人々であり、世界中から寄せられた。テゾーロはそれら全てを受け入れることと引き換えに街づくりを任せることを命じ、新天地の開拓をさらに進め、少しずつ街並みが生まれつつある。

「――さて、そんないい風に乗ってる最中に君らは何をしていたのかな?」

「「ごめんなさい」」

 茶を啜るテゾーロに謝るのは、二人の男。

 一人は、テゾーロ財団幹部にして〝海の掃除屋〟の二つ名で知られた元賞金稼ぎ・ハヤト。もう一人はプロレスに出そうな出で立ちの髭面の巨漢・ダイス。二人共頭に大きなたんこぶができており、それを見ていた幹部達は若干顔を引きつらせている。

(しかし、こういう形でダイスと出会うとは思わなかったなァ)

 ダイスは本編においてグラン・テゾーロのディーラーとして活躍するテゾーロの部下。元は裏世界一危険と言われたデスマッチショーで無敗を誇ったチャンピオンである彼がテゾーロの部下になったのは8年前――原作開始時点の6年前だ。

 しかし今は出会うとされる年よりも早い。おそらく、テゾーロの中身(・・)が違うことと生き方が「本来の彼」と異なったがゆえに生じた出会いなのだろう。しかし経歴は同じで、つい最近までデスマッチショーで大暴れしていたという。

「今、この島は開発中なんだ。一々暴れられると修復にどれだけの金と時間が掛かるかわかるだろう?」

「「はい……」」

「以後気をつけるように……ということだメロヌス、ダイスを早速現場へ向かわせて働かせてくれないか? 気質はともかく(・・・・・・・)労働力としては申し分ないだろう」

 テゾーロがダイスを働かせるようメロヌスに催促すると、メロヌスは無言でダイスを引きずって外へ出た。

 その二人と入れ違うように、ジンが慌ててテゾーロの元へ駆けつけた。

「エライことになったぞ!」

「何事だ」

「こんなモンが届いてやがった!」

 ジンは一枚の招待状をテゾーロに渡した。招待状にはパーマをかけたような髪型と海賊帽が特徴の口紅を塗ったドクロが描かれている。

 招待状とドクロのマークと言えば、間違いなくあの海賊団からの〝召集令状〟だ。

『ビッグ・マム海賊団!?』

「あ~あ、来ちゃったよ……どうしよっかな」

 ビッグ・マム海賊団は、海賊王ロジャーや金獅子、白ひげといった伝説的大海賊とも覇を競った長い歴史を誇る海賊団だ。

 首領は「四皇」の一人である〝ビッグ・マム〟ことシャーロット・リンリン――狡猾さと豪胆さを併せ持つマフィアの頭領のような女傑だ。その部下・幹部達のほとんどは彼女の子供達で構成されており、最高戦力たる「将星」は化け物と評される幹部達の中でも特に戦闘力が秀でている。まともにやり合って勝てる相手ではないのは明白だ。

 そんなビッグ・マム海賊団からの招待状が、テゾーロ宛てに来たのだ。

「どうするつもりです? 相手は四皇ビッグ・マム……話なんか通じませんよ」

「同感だ、カイドウの方がまだどうにでもなる」

 シードとジンの意見に、テゾーロは「だよな……」と小さな声で呟く。

 テゾーロは考え抜いた末、ひとまず返事を送ることにしたのだが――

「「新規事業に躍起になってるので無理です」って返事しよう。誰か紙とペン持ってきて」

『――えええええ!?』

 テゾーロの返答に、ステラを除いた面々は愕然。

「ビッグ・マムの要求を蹴るんですか!?」

「そりゃあおれだってそこまで暇じゃねェし」

 テゾーロの言い分に、一同は絶句する。

 ビッグ・マムは基本的に自身の要求を拒絶した者は絶対に許さず、えげつない報復をする。四皇の脅迫は「必ず来る未来」であり、その要求を拒絶することは我が身の破滅を招くのだが……テゾーロはあっさりと拒絶した。

 それがどういう意味なのかは言うまでもないが――テゾーロには彼なりの考えがあった。

「ああ、確か拒否ったら「身内の誰かの首を送りつける」んだったな……じゃあその身内ってのはどこまでが身内だ(・・・・・・・・)?」

『!!』

「身内ってのはどんなに広く拡大解釈しても〝同じ組織に属する者〟まで……身内と知人は別物だ。それにおれの身内は全てこの島にいるじゃないか」

 実はテゾーロはビッグ・マムが要求してくることを予測し、事前に対策を練っていた。

 この島は海軍G-1支部に近く、その反対側――〝赤い土の大陸(レッドライン)〟を越えた先には海軍本部が置かれている。海軍の軍資金を提供するスポンサー的な立場のテゾーロは、緊急の要請で海軍を動かすことも可能な立場となり、天竜人とも結びつきがあるので政府内でも影響力がある。そんな彼の身に何かが起こると政府は黙ってはいないので、ビッグ・マムに対し「おれに手を出せば海軍も動くぞ」という暗にメッセージを発しているのだ。

 また、テゾーロにとっての身内はほぼ全員がバーデンフォードに集っており、身内の首を送ろうにもバーデンフォードに乗り込む必要がある。島には屈強な財団幹部が揃っており、島が新世界の海賊に対抗できるような造りの元海軍基地なので海岸の防備は大方完了している。攻め落とすのは容易ではないし、籠城戦に持ち込まれては救援に来た海軍との混戦も予想されるだろう。

「ビッグ・マムが話のわかる人物とは言い難いことはよく聞く……だが自分に恥をかかせた罰を科すためだけ(・・)に海軍や世界政府を巻き込むのは面倒だろうし、何よりお菓子がこれっぽっちも関わってない」

 ビッグ・マムは甘いお菓子が大好物であり、その貪欲さは常軌を逸し、お菓子の為だけに国の一つや二つを戦争を仕掛けて滅ぼすことも厭わない程だ。しかし見方を変えれば、たとえ世界各地の珍しい宝物・珍品を前にしてもあくまでも(・・・・・)お菓子が最優先であるのだ。ゆえに〝怪物〟と呼ばれる大富豪を潰すためにお茶会に支障をきたすような事態は避けたいはず……テゾーロはそう考えたのだ。

 もっとも、欲しいものには一切妥協しない彼女がそんなことを思うかどうかは別だが。

「おれの見立てでは、ビッグ・マムは白ひげのような義理人情ではなく損得で物事を判断すると考えてる。利益があまりにも少ない戦争を一々仕掛けちゃこないだろう。それにビッグ・マム海賊団は業界一の情報通だ――すぐに攻めようとはしないはずだ」

 

 

           *

 

 

 それから一週間後、ホールケーキアイランドにて。

「おれの要求を蹴るとはいい度胸じゃねェか……!!」

 そう言って怒りを露わにするのは、四皇ビッグ・マム。彼女が怒る原因は、テゾーロからの手紙にあった。

 ビッグ・マムは定期的に「お茶会」という行事を開くのだが、その招待状は実質絶対の「召集令状」であり、断られた場合は広い情報網で出席者を調べ上げて制裁を科す。テゾーロはそれを知ってるのか知らないのかはともかく、止むを得ない事情――それでも制裁するが――でなく自分自身の都合であっさりと断った。

 肝が据わってるのか、はたまた命知らずか、それとも両方か――これにはマム本人だけでなく子供達も度肝を抜いたのは言うまでもない。

「このおれを見くびってるようだな……フォードの件で図に乗りやがって!」

「ママ、待ってくれ」

 怒るビッグ・マムに声を掛けるのは、シャーロット家の次男坊であるシャーロット・カタクリ――ビッグマム海賊団の最高戦力である将星の中で最強の実力者と称される傑物だ。母たるビッグ・マムからも厚く信頼されており、ビッグ・マム海賊団においては非常に大きな発言権がある人物の一人である。

「カタクリ、どういうつもりだい!? おれの顔に泥を塗った小僧に肩入れする気かァ!?」

「違う、ママ。おれはママの怒りはもっともだと思ってる……だが奴は今まで断った奴らとは少し違う」

「違う……?」

 ビッグ・マムが怪訝そうな表情を浮かべる中、カタクリはテゾーロの思惑を語り始めた。

 それは奇しくも、テゾーロのビッグ・マム海賊団の対策と全く同じものであった。

「テゾーロの拠点は海軍G-1支部に近く、〝赤い土の大陸(レッドライン)〟を越えた先には海軍本部がある。テゾーロは海軍のスポンサーであり、海軍もテゾーロに借りがある……奴に手を出せばいくら海軍でも黙ってない」

「!」

「それとこれはおれの予想だが……奴の身内は拠点に全員揃っているとしたら、報復しようにも直接バーデンフォードへと乗り込まなければならない。そうなった時に奴がどういう対応をするかはともかく、時間稼ぎをして海軍の応援を待つ可能性が極めて高い」

「…………!!」

 カタクリの言葉を理解したビッグ・マムは、眉間にしわを寄せた。

 ビッグ・マム海賊団は拠点のホールケーキアイランド及びその周辺諸島を「万国(トットランド)」という国として統治しており、他にもビジネス上の関係でナワバリとしている海域や島がある。当然それらを護るためには巨大な戦力を必要とするが、テゾーロ一人の為に大軍を向かわせたりするのは愚策だ。

 四皇同士が手を組めば世界政府の破滅はほぼ確定だが、そもそも四皇同士が結託するなど基本あり得ず常に海の覇権を競い合っている状態であり、四皇同士の全面戦争は今のところ起きてないとはいえ何が起こるかわからない。下手に動けば隙を突かれてナワバリを奪われる可能性も否定できない。

「小賢しいマネを……ペロリン♪」

「だがどうする!? このまま奴を野放しにするわけにはいかんだろう」

「幹部達は歴戦の覇気使いも多いと聞く……とはいえ武力衝突は避けたいはずだ」

 幹部の息子達も話し合う。

 潰せない訳ではないが、テゾーロの下に集うのは海で生きる者ならば一度は耳にしたことがある名前ばかりだ。賞金稼ぎから元海兵、情報屋などが彼に従っており、武力としては一国の軍隊をも勝る。

「ママ、どうする? おれ達はいつでも大丈夫(・・・・・・・)だが」

「……………」

 カタクリはビッグ・マムに武力行使の準備ができてることを伝える。

 彼女はそれに対し無言であったが、その顔には怒りの感情は浮かんでおらず、むしろ笑みを深めていた。


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