ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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二週間ぶりです、お待たせしました。


第116話〝やりにくい男・テゾーロ〟

 リク王家復権の協力を盟友(スライス)から頼まれたテゾーロは、早速動き出した。

 まず自身のコネで世経――世界経済新聞――の社長であるモルガンズに連絡を取って「テゾーロがドレスローザで慈善事業をする」という旨の記事を号外で作らせ、世界中へ発行させて注目を集めた。数々の功績で世界中に名を轟かすテゾーロ財団のトップが大事件からまだ傷が癒えていない国民への慈善事業を行うことで世界各国へアピールするのではという社説が載せられたが、それは表面上の目的で実際はどさくさ紛れにドンキホーテファミリーの懐に潜りこむという思惑があるのだ。

 そんな魂胆があることを見抜いているかどうかは不明だか、ドフラミンゴはドレスローザへの訪問をあっさりと了承した。ただ本人としてはテゾーロ財団の首根っこを掴みたいところだろうが、生憎中身は正史(げんさく)の知識がたっぷりの転生者――テゾーロの「正体」を全く知らない彼にとっては思わぬ誤算にも程があるなど知る由も無い。

「よく来てくれたな、テゾーロ」

「……何もあんたの味方になるつもりじゃない」

 ドレスローザの王宮にある「スートの間」。

 そこでテゾーロは単身、ドフラミンゴとそのファミリーに迎えられていた。

(ったく、同じ光景をマリンフォードで見たことあるぞ……)

 随分と前に海軍と交渉したあの日(・・・)を思い出すテゾーロ。伝説の海兵や未来の最高戦力に囲まれたあの時と比べると、さすがに自身の胆力や度胸も成長し、それどころか「癖の強さは同等だが威圧感が無い」という余裕すらできる程になった。

 若い時から無茶を重ねた賜物かもしれない。

「フフフ……少しは和解の姿勢でも示してくれると思ってたんだぜ?」

「おれはお前のような(・・・・・・)質の悪い無法者は嫌いでね……どうも気に入らない。人を人とも思わない残虐な輩がいきなり救国の英雄になるなんて虫が良すぎる」

 ドフラミンゴを露骨に疑う素振りをするテゾーロ。

 怪物と称される男の煽りに、ドフラミンゴを慕うファミリーの幹部達は苛立ちを露わにするが、それを制したのはドフラミンゴ自身だった。

「フフッ……フッフッフ!! おれがこの国を奪った言い方だな!!」

「おれは少なくともそう思ってるがな……っつーかウチの連中は大体そう思ってるはずだし」

「ほう……ならてめェの推測をぜひ聞かせてほしいもんだな」

 ドフラミンゴが笑みを深めて要求すると、テゾーロは「まずは歴史からいいか」と言いながら誇張気味な己の推測を語りだした。

「この土地は元々ドンキホーテ一族という一族が治めていた。だがドンキホーテ一族は800年前のある日、聖地マリージョアへと移住した……彼らは世界政府の創造主であったからだ。それから長い年月が経ち、その子孫は「人間宣言」をして下界へと下り、数奇な運命に翻弄されながらもかつての支配地を目指した。だがその地はすでにリク王家という別の王族が統治していた。これはマリージョアのパンゲア城内にある図書館に保管されている調査資料に詳細に記されている」

「……」

「そしてここからがおれの推測だ。――この国をドンキホーテ一族に代わって統治していたリク王家は戦争を嫌っており、戦争しないがために他国に睨みを利かせ外交で渡り合っていた、いわゆる平和国家。しかしごく一部の人間から見ればその国は国防力を蔑ろにし、国民の生活水準も低下させているように思えた。国を憂いた先代統治者の子孫は、その王族達に政権交代を要求した」

「フフフ、随分な美談じゃ――」

「だが実際には国を憂う愛国心などこれっぽっちも無かった。なぜならその先代統治者の子孫は凶暴極まりないドがつく悪党(クズ)であり、その上特権意識とそれが否定されたことから生じた世界への憎しみに駆られたがゆえに「世界の破滅」を望む化け物級の危険人物。そんな奴に国を任せられっこない」

 子孫の本性について語った途端、ドフラミンゴは顔色を変えて怒りを滲ませ、サングラス越しに睨んだ。その様子にファミリーの幹部達は目に見える程に動揺し、最高幹部の一人であるディアマンテも「ドフィ……!?」と呟き困惑気味だ。

 そんな彼らの気持ちを一切無視してテゾーロは言葉を紡ぐ。

「だがそれをストレートに伝えれば反対され、万が一……いや億が一にも戦闘になれば国盗りが成功しても政府が容認するとは思えない。そこで〝彼〟はあえて莫大な大金と引き換えに国の統治の継続を認めるという手段に出た。当代王はそれを鵜呑みし、国中の財産を集めた――それ自体が罠と知らずに」

「……!」

「そう、彼は国盗りの過程でどう人々を確実に騙し、一切の不穏分子を絶やすかに重点を置いていた。回りくどい手段に出たのは、国の混乱を鎮めた英雄となれば政府の傘の下で悪事を働けると考えていたからだ――全ては世界の破滅の為」

「っ――」

「当代王とその臣下を文字通りの操り人形として国民に牙を向けさせ、絶望と憎しみで全てを染まらせた時に彼は手を差し伸べた。都合のいい奴隷に洗脳し、真実の王を陥れ、悪一色で塗り潰した。そんな外道をやってのけた子孫の正体こそ――」

 

 ドォン!!

 

 刹那、ドフラミンゴが覇気を纏った蹴りを放った。テゾーロはすかさず能力で黄金の長剣を生み出し、刃に覇気を纏わせ振るった。

 その瞬間、互いの覇気がぶつかった余波で稲妻のようなモノが大気に走り、窓ガラスが全て割れ壁にヒビが生じた。〝覇王色〟の衝突だ。

『ぎゃああああああ!!』

 衝突の余波で、ファミリーの幹部以下の手下達は次々に吹き飛んでいく。一方の幹部達も、あまりの衝撃でその場に踏ん張っていられるのが精一杯なのか必死に耐えている。唯一平然としているのは、ぶつけ合っているドフラミンゴとテゾーロの二人だけだ。

 暫くして〝震え〟が収まると、テゾーロが呆れたように口を開いた。

「――いや、まだ名前言ってないじゃん。心当たりでもあるのか?」

「フフ……フッフッフ!! 今ここで消してやると言われた気がしたよ」

「本当にそうしてもいいんだがな」

 テゾーロは能力を解除し、ドフラミンゴも脚を下ろす。

 しかし互いに警戒心は解いておらず、いつ戦闘になるかわからない緊迫した状況は続く。

「……おれは悪を完全否定はしない。この人の世には必要悪ってのがどうしても求められてしまうからな。だがあんたは違う……そんな奴を見逃す程おれはお人好しじゃない」

 そう言ってテゾーロは踵を返し、その場にいる全員に聞こえる程の舌打ちをしてから「スートの間」を後にした。

「や、野郎……図に乗りやがって! ドフィの首を取る気だってことをわざわざおれ達の前で(・・・・・・・・・・)言うなんざ、頭イカレてんのか!?」

 テゾーロに悪態を吐くディアマンテ。それを皮切りに、幹部達や下っ端達も嫌悪感を露わにテゾーロを罵倒し始める。

 一方のドフラミンゴは、笑みを深めて呟いた。

「フフ……フフフ……!! 全く、どうにもあいつはやりにくい。操られるだけのゴミ共と変わらねェ生まれのクセして妙に勘が鋭いときた。――だからあいつは、嫌いだが欲しい(・・・・・・・)んだよ」

 

 

           *

 

 

 同時刻。ドレスローザにあるひまわりが咲き誇る花畑で、シードはメロヌスと共に島を一望していた。

「……」

「随分と思い悩んでるな」

「はい……ここは僕の知人が救おうとした国でしたから」

 哀しそうな笑みを浮かべるシードに、メロヌスは煙草を吹かしながら目を細める。

 シードは元軍人――それも若くして海軍本部准将にまで上り詰めた実力者で、センゴクやゼファーをはじめとした海軍古参の猛者からも次期大将と見なされた程だ。しかし出世する程に「嫌な部分」を多く見るようになるのも必然であり、心優しい彼にとっては血生臭い戦場よりも不快で苦しかったことだろう。

 ふと、メロヌスは何年か前の酒の席でシードの心情を聞いたのを思い出した。

 

 ――正義を背負いながらの矛盾や受け入れきれない現実くらい、今更どうってことない。でも……残酷すぎるっ……!!

 

(……タタラも地獄を見てきたが、シードはそれ以上の地獄だったんだろうな)

 タタラは地下闘技場で多くの命を殺めた。その中には牢獄で仲良くなっていた者もおり、斬る度に彼らの慟哭を耳にし続けた。それに興奮し盛り上がる観客達がどれ程憎いか、殺し合いで快楽を見出した主催者(フォード)を何度殺したいと思ったか、言語に絶するモノだっただろう。

 仕込み杖の刃を伝って怨嗟が心に染みつく感覚だったと彼は語っていた。地獄を生き抜くためだったとはいえ、脱出と自由を誓った同胞を殺めるという所業は忘れたくても忘れられないのだ。

 メロヌスはそんな理不尽とは無縁の生き方をしてきた。どちらかというとジンやアオハル、ハヤトのように思うがままに生きてきた。本来なら価値観の差で対立することもあり得たが、いい塩梅で手腕を振るったテゾーロや一人一人と向き合ったステラのおかげで仲良くなれた。それでも過去ばかりはどうしようもない。

「……シード。おれはオツムはいいが、どうにも色々と背負ってる人間と付き合うことに慣れねェ。だからこそ言ってやる……理事長がどうにかしてくれる」

「……はい」

 その直後、メロヌスは愛銃を手にし目にも止まらぬ速さで装填。銃口を背後へと向けた。

「どこのどいつだ……3秒以内に出てこねェと股のボールを吹っ飛ばす。はいイーチ――」

「お、おいおいおい待ってくれ!! おれは敵じゃねェ!!」

「あ?」

 メロヌスの脅しにあっさりと観念して現れたのは、ハートをあしらった服と黒い羽毛が大量についたコートが特徴の道化師のようなメイクをした男。メロヌスは発動中の〝見聞色〟から戦意を感じないため殺気を抑えたが、怪しさ満載の雰囲気に銃口を向けたまま睨み続ける。

 そんな股間に銃口を向けられるという絶体絶命な彼に、救いの手が差し伸べられた。

「あなたは……ロシナンテさん!?」

「!? あんたは……シード元准将か!?」

 思わぬ出会いが、待ち構えていた。


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