ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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今週中にスタンピード観ます。


第117話〝王の資質も持ち主による〟

 一週間後。

 ドレスローザへの訪問を終え、バーデンフォードへと戻ったテゾーロ達は事業の仕上げに取り組んでいた。

「……あと半年あればどうにかなるか」

 満足げに建設現場を窓から覗くテゾーロ。

 グラン・テゾーロの行政府的役割を果たすカジノホテルを併用した黄金の塔「THE() REORO(レオーロ)」の工事は八割がた終わってきており、あともう少しで完成する。完成した暁には世界政府に加盟を申請し、新たなステージへと向かう腹積もりだ。

 そんなテゾーロに呆れた笑みを浮かべてシェリー酒を呑む客人がいた。

「お前はどこまでも奇天烈な奴だ」

「……それは褒め言葉と受け取りましょう、ゼファーさん」

 元海軍本部大将〝黒腕のゼファー〟。

 海軍が誇る化け物……ではなく伝説級の海兵であるガープ・つる・センゴクの同期であり、前線を退いた今でも海賊達に恐れられ民衆から英雄視されてる百戦錬磨の猛将だ。現在は軍の教官として第二の人生を歩んでおり、鬼のように厳しくも「全ての海兵を育てた男」と評される程の名教官として海軍にて活躍している。前線から退いた分全盛期と比べれば多少の衰えはあるが、それでも元最高戦力としての腕っ節は健在だ。

 そんな彼だが、正史では65歳の時に自分が指揮する演習艦を能力者の海賊――おそらく後の王下七武海エドワード・ウィーブル――に襲われ、右腕を斬り落とされた挙句アインとビンズを除いた訓練兵全員を失っている。それを機に、ゼファーは正しい海軍を体現する「不殺の漢」から海賊殲滅の為ならば一般人や海兵の犠牲を厭わない赤犬(サカズキ)クラスの攻撃的な性格と変貌した。後の「NEO海軍総帥〝ゼット〟」の誕生だ。

 中身が原作知識豊富な転生者であるテゾーロはそのような未来を望まないため、()()()を講じた。

「しかしお前には世話になる。おかげでいい訓練になった」

「礼を言う程じゃないですよ、自分の土地の一部を無償で貸し出してるだけです」

 含み笑いを浮かべるゼファーに、テゾーロは謙遜する。

 バーデンフォードは未だに未開拓の部分があり、中には戦場と言っても過言ではない程に荒れた場所も存在する。そこでテゾーロはゼファーにバーデンフォードの一部を利用した「軍事演習」の機会を設け、海兵の実戦訓練を行ってみることを提案した。多くの修羅場をくぐり抜けてきたゼファーは「最も危険で最も死に近い上陸戦の訓練ができる」としてあっさりと承諾、不定期で演習場として利用している。

 朝っぱらから銃撃の音や爆音が聞こえるので、今では開拓中のバーデンフォードの名物と化している。そんな中で黙々と作業に勤しむ状況も状況だが。

「しかし……」

「? どうかしましたか」

 それよりも、ゼファーは一つだけ気掛かりなことがあった。

 それは「THE() REORO(レオーロ)」の建設現場で働く労働者達。その多くは白いラインが特徴の作業着を着ているのだが、中には囚人服を身に纏った凶悪そうな人相の労働者達が混じっている。

「いいのか、世間的に」

「犯罪者の更生の一環と報じるようモルガンズに言っています。監獄で拷問するだけでなく社会奉仕させることで世間に対するポジティブなアピールとなるし労力も補える。一石二鳥じゃないですか」

 そう、労働者の中に囚人が混じって作業をしているのだ。

 囚人達は勿論あの世界一の海底大監獄「インペルダウン」に投獄されている者達で、その中でも独房で大人しくしている人間が一緒に土木作業に従事しているのだ。

「……」

「心配せずとも、逃げ出そうとする者には〝覇王色〟で手を打っています。紅蓮地獄(レベルワン)猛獣地獄(レベルツー)の囚人はちょっと威圧すればすぐ思い通りになるので――あ、一人いた」

 刹那、テゾーロが発した覇気で空気が震えた。

 それから数秒程経つと、外で誰かが倒れる音が響き騒がしくなった。

「ほら。アオハルも持ってるから同じ対応させてるし、最悪の場合は麻酔弾での狙撃。隙を生じさせない二段構えならば問題無いでしょう」

「使い方間違ってないか?」

 事務職(デスクワーク)をしながら〝覇王色〟の覇気で逃げ出そうとする不届き者を気絶させているというシュールすぎる現状に、ゼファーは心から呆れかえった。同じ〝覇王色〟の使い手であるセンゴクが聞けば頭を抱え、ガープが聞いたら涙を流しながら大爆笑しているだろう。

「そもそも刑事施設は罪を犯した人間を更生させるのが本来の目的。罪に対して十分な更生を態度で示せば、多少の刑の軽減措置を図ってもいいでしょう? そもそもエニエス・ロビーの陪審員は死刑囚で構成されている。そんないい加減な司法制度では裁判所の名が泣きますよ」

「……」

 テゾーロの考えに、ゼファーは共感した。

 ゼファーは誰よりも海軍の正義を信じる男だが、その上役たる世界政府は別だ。還暦を過ぎた彼は政治が正義を歪める瞬間を長年の海兵人生で何度も目の当たりにしている。オハラの一件やバスターコールがそうだ。そんな現状を己以外にも憂い不満を抱く者がいるのは、正直心強いものだ。

「だがお前の考えは常識を覆す。ある意味政府から危険扱いされるぞ」

「常識は塗り替わるモノ。時代が変われば常識も変わります」

 テゾーロの考えは、世界政府の思想や世界的潮流の真逆である「犯罪者の更生」だ。罪を犯した者達に社会奉仕させ、その行いによっては刑を減軽させる――犯罪者であればどんな理由・経歴だろうと絶対にシャバへ出さないことが常識であるこの世界においては、一線を画すどころか青天の霹靂である。

 観念の違い――それがテゾーロとこの世界の決定的な差だ。

「なあテゾーロ、お前は一体()()()()()()()()?」

「どこまで、とは?」

「お前の今までの活動は、誰もが予想しない大胆なものばかりだが一貫性がある。世界政府を変えようと考えているところだ。魚人の差別問題も、テキーラウルフも、どれもそうだ。お前は何を成し遂げたいんだ」

「……」

 テゾーロの行動に疑問を抱くゼファー。

 フレバンス王国・テキーラウルフ・地下闘技場・魚人族と人魚族に対する差別……これらの問題の解決を促したのは、世界政府ではなくテゾーロだ。民間団体のトップを担う大富豪という立場でありながら、五老星や天竜人との謁見を許され海軍の軍資金提供者(スポンサー)となり、ついには国家樹立を狙うとんでもない人物だ。

 だが事実上の政府関係者でありながら、彼は政府の思想や在り方を不審に思っている節がある。ほとんどの政府関係者が「世界政府こそ絶対的存在」と考えていながら、その価値観とは距離を置いており、現に政府中枢でも彼を排除したがっている面々も多いという。そんな現状も承知の上で力を行使する理由を、ゼファーは知りたいのだ。以前より「世界を変えたい」と口にしていたが、具体的内容についてははぐらかしてきたのだから。

「……こっから先は内緒だが、おれの予測ではここ10年の間に世界政府が現在の体制を維持できなくなる時がやってくると思ってる」

「!?」

 テゾーロは語り始めた。

 天竜人の傲慢さと醜悪さ、世間に公表されていない世界政府とその加盟国の数々の暴挙、底辺から天上に届く一歩手前まで成り上がった自身から見た世界、慈善事業を経て知った世界政府の闇――その目で生々しい現状を、テゾーロは淡々と紡ぐ。

 それにゼファーは、ただ眉を顰め押し黙るしかなかった。押し黙ることしかできなかった。彼もまた軍の上層部という世界政府の身勝手さを痛感する立場にいたのだから。

「元々この世界を変えたいとは思ってた。だけど武力ではなくもっと別の手段で変え、再び起こる時代のうねりを乗り越えたいというのが本心です。この世界でのおれの野望は、理想論をどこまで実現できるかにかかってる……それがおれのこの世界での役目だと思ってる」

「フッ……まるで別世界から来たとでも言いたげだな」

「っ……エンターテインメントな表現でカッコイイでしょう?」

 不敵な笑みで核心を突くような言葉を放ったゼファーに一瞬怯むも、すぐに冷静さを取り戻すテゾーロ。

 ゼファーは「そうか」と呟き、再びシェリー酒を呷る。

「……お前はあの男をどう思う」

「あの男?」

「革命家ドラゴンだ」

 テゾーロは何とも言えない表情を浮かべる。

 英雄ガープの息子にして主人公ルフィの実父であるモンキー・D・ドラゴンは、打倒世界政府を掲げる革命家として世界各地・各国でクーデターを起こしている。彼が率いる革命軍は有名となり、世界政府がドラゴンを「世界最悪の犯罪者」と認識して必死に捜索している。

 ゼファーはそんな彼とテゾーロを、やり方こそ違うが同じ思想なのではないかと指摘しているのだ。

「……いつかは相対するでしょうね。互いの信念がぶつかるのも時間の問題です」

「……お前」

「こっちの事情と相手の事情……並び立たない以上はぶつかる。その覚悟くらいはできてますよ」

 テゾーロの揺るがぬ覚悟に、ゼファーは目を見開いた。

 

 

           *

 

 

「……」

 テゾーロとゼファーが話し合っている一方で、銃の手入れをしながらメロヌスは険しい表情を浮かべていた。

「メロヌス、何か悩みでも?」

「タタラ……」

 カツ、カツ、と杖を突く音を響かせながらタタラが近づく。

 メロヌスの隣に座ると、額の第三の目で彼の顔を見つめた。

「……何だよ、おれの頭ん中覗く気か?」

「生憎、私の第三の目は物体の先を見抜く透視ですので、人の心の中までは読み切れませんよ」

 クスリと笑みを浮かべるも、タタラは真剣な表情に戻る。

「……先日の件、シード君から聞きました。やはり天夜叉は黒のようですね」

「ああ、だが立場がグレーな上にバックが厄介だ」

 二人の話題は、ドレスローザでメロヌスとシードが遭遇したロシナンテのことだ。

 遭遇した後、二人はロシナンテによってひまわり畑の地下に案内され、そこで元リク王軍軍隊長キュロスとその家族と面会した。

「先代王朝の末裔であるドフラミンゴが仕掛けたクーデターに駆けつけたキュロスは、リク王と王族を救出しようとするが海楼石の足枷に拘束されてしまった」

「そこへ駆けつけたのが、次期海軍元帥であるセンゴク大将の命でドンキホーテファミリーを追跡していたロシナンテ氏だった」

 王族の皆殺しを宣言したドフラミンゴはリク王の首を刎ねようとしたが、そこへナギナギの実の能力を行使したロシナンテが乱入――現場を混乱状態に陥れた隙にキュロスを解放しリク王を救出した。その後は急いでひまわり畑へ向かい、かねてよりファミリーを監視するためのある意味で前線基地である地下へと招き、王族を匿ったのだという。

 しかし王族の一人であるヴィオラはすでに人質として拉致されており、彼女自身もリク王助命の為にドフラミンゴの部下となる道を選んでいた。ドフラミンゴの本性を知るロシナンテもさすがに救出できず、今は同志を集めてセンゴクと情報共有しているという訳なのだ。

「海軍からは反応は?」

「ダメだ。ドフラミンゴは七武海……海軍でも除名するなんてマネはできない。そもそも七武海の任命権は世界政府にあるからな。それにサイも言っていたが、どうも「CP-0」が妨害しているらしい」

 メロヌスは直接的に表現はしていないが、天竜人が裏で動いているようだ。

 今の天竜人はテゾーロのように従来の在り方を変えるべきという意見もあるが、やはり大多数は権力と地位に固執する通常運転ばかりだ。そんな彼らがドフラミンゴを邪魔しないよう口利きしていれば、話は当然ややこしくなる。

「ドフラミンゴも頭使って理事長の手を封じようとしているのさ。連中にとっちゃ理事長の方が厄介なのは明白だ」

「〝世界最強の諜報機関〟の妨害となると、一筋縄ではいかないようですね」

「すぐに手を打てねェのが悔しいな」

 ドフラミンゴを野放しにするのは危険だが、彼は七武海の肩書きとテゾーロ以上の天竜人とのコネによって守られている。いくら政府中枢に顔が利くテゾーロでも、ドフラミンゴが相手だと権力という面では分が悪い。

 ただでさえ越権行為に定評のあるCP-0を容易に動かせるのだから、同じ土俵に立つとどちらが優勢かは一目瞭然だ。

「となると、スライスやモルガンズ達だけじゃ物足りねェってか」

「とどのつまり、そういうことでしょうね……」

 メロヌスは「ままならねェな」と呟き、煙草を咥えて火を点けたのだった。




次回辺りでグラン・テゾーロが完成し、新しい一歩を踏み出す予定です。

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