ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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スタンピード観てきました。
どんなに控え目に言っても「最高」でした。久しぶりに映画で鳥肌が立ちました。
というわけで、その興奮が冷めない状態で更新しました。


第118話〝次の舞台(ステージ)は「熱狂」なり〟

 その島は、黄金そのものと言っても過言ではなかった。

 その国を象徴するドクロと星を描いた旗を掲げた港も、高くそびえ立つ巨塔も、これからたくさんの人々が住むであろう街も、何もかもが輝いている。

「諸君、よくぞここまで来てくれた。このギルド・テゾーロ、心から感謝する」

 黄金の塔――「THE() REORO(レオーロ)」の一階にある巨大ホールで、テゾーロは部下達に頭を下げる。

 ここまで来るのには長かった。

 たった二人で海へ出て組織を立ち上げ、伝説から新人までの幅広い人物(ヒト)と出会い別れ、時には無法者共と戦い、野望実現の為に自らの力で成り上がっていった。たくさんの人間をいい意味で巻き込んでいったテゾーロは、ついに終点へと辿り着いた。しかしその終点は第一段階の終点に過ぎず、明日にはまた新たな段階(ステージ)を目指すのだ。

「この国は世界史を塗り替える!! この国は世界をひっくり返す!! グラン・テゾーロは、今の世界の支配構造を根本から破壊する〝新時代〟への架け橋だ!!」

 怪物(テゾーロ)()える。

 賞金稼ぎから大富豪へ、底辺から天上付近へ昇りつめた〝出世の神様〟の野望はここからだ。グラン・テゾーロは世界で唯一王侯貴族が政治に関わらない国であり、国家元首(テゾーロ)自身も「世界の階位(ヒエラルキー)」の最下層に近い出自。そんな男が君臨する国が加盟国として認められ大きな権力(チカラ)を持ったとしたら、世界の政治体制に大きな変化をもたらすのは明白だ。

 そしてグラン・テゾーロの政治体制は、世界各国とは少し異なる。全てが王一人の決定で行われるのではなく、各分野を担う代表との議論で方針を決めていくというスタイル。身分や血筋に一切左右されず、国王に全権を集中させない政治――テゾーロはそれを実現しようと考えているのだ。それが世界政府にどう見られるのかは、実際にやってみてのお楽しみだ。

「この世界の頂点は腐敗に満ちている!! だが天駆ける竜が支配する時代は終わりを告げる……このギルド・テゾーロがこの世界に真の革命をもたらす!! 暴力で全てを語る〝旧時代〟はここまでだ。君らの望む〝新時代〟は目前だ!! その扉を開くのは私だけじゃない、ここにいる全ての人間だ!!」

 自らが誇りを持って生きられるために、絶対に安全な場所にいると慢心する他者の命と尊厳を踏みにじって生きる腐り肥えた天竜人達(ブタども)を、武力以外のチカラで引きずりおろす。かつて彼ら彼女らに虐げられてきた人にとって、どれ程甘美な言葉に聞こえようか。

 天竜人が支配する時代に楔を打ち、世界の秩序を改め「個の自由」を尊重する。それを成し遂げようとするテゾーロは、救世主か破壊者か――見方によるだろうが、 少なくとも言えることはただ一つ。

 テゾーロは世界を本当に覆す気であるということだ。

「人間の歩みは止まらない!! 共に未来を繋ぎ、時代を変えるぞ!!」

『おおおおおお!!』

 テゾーロの演説に、彼に従ってきた人々は滾った。

 

 この日、長く温めていた「グラン・テゾーロ計画」がついに成就し、テゾーロは新たな舞台(ステージ)へと足を運んだ。

 現在(いま)の世界を変えて〝新時代〟を創るという究極のエンターテインメント。それに惹かれた人々(ゲスト)を裏切るか否か――それはテゾーロの力量と待ち構える試練で決まるだろう。

 

 

           *

 

 

 グラン・テゾーロが完成して早一月。

 テゾーロは自らの国を「世界史を塗り替える夢の国」「己の理想国家(ユートピア)を一から創ろう」という謳い文句でモルガンズを通じて世界中に宣伝し、その言葉に惹かれた人々を国民として受け入れた。

(といえど、まだ原作通りの状態じゃねーわな)

 テゾーロは茶を啜る。

 国の経営を始めたとはいえ、現状は発展途上(ほねぐみ)だ。そのせいか世界政府に加盟するよう申請しても完全には認められず一度保留となった。一刻も早く国家としての形を完成させなければならない。

 この日は幹部達もせっせと働き、周囲の街の建設に熱心だ。一方のテゾーロは久しぶりのオフ日を満喫しつつも、頭をフル回転させて今後の方針を練っている。

「テゾーロ、お客さんよ」

「客?」

 そんな中、サングラスを上げてステラが指差す方向を見る。

 視線の先には、物凄いスピードで走って迫る男の姿が。

「テゾーロォォォォォォ!!」

「っ!? ステラ、逃げろ!! バカが来た!!」

「え?」

「うらあァ!!」

 

 ドォン!!

 

 刹那、覇気を纏った拳と拳がぶつかる。その衝撃で地面に亀裂が生じて土煙が上がる。

 テゾーロに攻撃、いや祝福の拳をプレゼントしたのは、彼の盟友である石油王のスライスだった。噂を聞きつけて駆けつけてきたのだろう。

「スライス、余興にしちゃ熱入りすぎじゃないか……!?」

「盟友からのサプライズもねェなんざ退屈の極みだろ……建国おめでと、うっ!!」

 スライスは拳を押し込んでテゾーロに迫る。彼もただの商人ではない。覇気を扱い闇の勢力と対等に渡り合える技量と力を秘めた大物だ。だがそれはテゾーロも同じ――それを押し返すように更に一歩踏み込む。

 その瞬間、互いの拳圧は弾かれて周囲へ散る。それは突風のように走り、中には吹き飛ばされそうになる人間もチラホラ。

「せっかく造った街をメチャクチャにする気か……!!」

 呆れかえるテゾーロは、スライスを睨む。

 その時、どこからか男の歓喜の叫び声が響いた。

「マーヴェラス!! 〝黒幕〟スタンダード・スライスに〝怪物〟ギルド・テゾーロ!! 新世界が誇る若き二大金主がいれば、スゲェ祭りができそうだ!!!」

「「あ?」」

 テゾーロとスライスは息を合わせるかのように同時に〝覇王色〟を放つが、二人の覇気をまともに受けながらも男は胡散臭い笑みを浮かべる。半端者ならすぐに卒倒してしまう程の威圧に屈さないどころか眉一つ動かさないのは、相当の場数を重ねている証だ。

「おいおい、いきなり覇王色(そいつ)で挨拶はキツイじゃねェか。こちとら還暦過ぎたじいちゃんだぜ?」

 そう言って丸いサングラスを額に上げる。

 男はアフロヘアーに無精髭、紫のコートが特徴で、外見的には若作りだがその顔には深い皺が刻まれている。老獪で派手好きなインチキ臭い初老の男性――それが彼の第一印象だ。

「あんたは……」

「〝祭り屋〟ブエナ・フェスタ……! 本物か……!?」

 ブエナ・フェスタ。

 大海賊時代以前――いわゆるロジャー時代の大物海賊で、あらゆる祭りを仕掛け人々を熱狂させることを生き甲斐としている文字通りの〝祭り屋〟だ。しかし彼はすでに隠居した身であり、海難事故で海王類に食べられて死亡したと世間に報じられたはずだ。

「海王類との海難事故で死んだはずだろ……!?」

「ああ、だがおれは生きている」

 不敵に微笑むフェスタ。

「あら、こんにちは。私はステラよ」

「おや、これは麗しいお嬢さん。おれは世界一の熱狂好きのブエナ・フェスタだ」

 やけに紳士的に接するフェスタは、ステラの手の甲にキスを落とす。それを間近で見たテゾーロは武装色で硬化した右足で蹴り飛ばした。

 人々に〝怪物〟と呼ばれるテゾーロも人の子――好いた女性の為に妬くようになったようだ。

「このジジイ……」

「テゾーロ、落ち着け! 今のは完全にあいつの自業自得だが」

「フォローしろよ!!」

 怒りを露わにするテゾーロを諫めつつフェスタを切り捨てるスライス。

 覇気を纏った攻撃を食らった老人は鼻血を流しつつ抗議するが、当の本人達は聞く耳を持たない。

「……で、隠居した元海賊のあんたがなぜここに?」

「フフフ……おれはあんたら二人と手を組みてェんだ」

 フェスタは淡々と己の過去を語りだした。

 卓越した頭脳や口の上手さ、人脈と羽振りのよさで半世紀も前から海で活躍してきたフェスタ。彼と同じ世代の海賊は伝説級の猛者ばかりであり、海賊には海賊王ロジャーや後の四皇である〝白ひげ〟と〝ビッグ・マム〟、彼らと共に大海賊として恐れられた〝金獅子のシキ〟や〝世界の破壊者〟バーンディ・ワールドがのさばっていた。その彼らと敵対する海軍にも海軍が誇る英雄ガープやつる、大将であったゼファーとセンゴクが最前線で戦っていた。あの頃の海はまさに「熱狂」であり、フェスタにとってはそんな海で生きること自体が最高の娯楽だった。

 しかしロジャーが公開処刑の死に際の一言で起こした大海賊時代によって敗北を感じ、ロジャーを超える熱狂を生もうと画策するが答えを出せず、失意のうちに隠居した。フェスタにとっての生き地獄の始まりだった。

「おれは一度死んだ……ロジャーに一度負けて祭り屋として(・・・・・・)死んだんだ………だが!! 地獄を生きればその中に光明は見えるもんだ!! その光明がお前なのさギルド・テゾーロ!!!」

 隠居生活を始めて間もない頃、フェスタはテゾーロの活躍を度々耳にしていた。しかしその経歴は異色ではあるがフェスタの興味を誘う程ではなく、そのまま気にも留めずにスルーし続けた。

 ――テゾーロがグラン・テゾーロを建国させるまでは。

「あんたはド底辺から天上の一歩手前までのし上がった。それは若い頃のおれを彷彿させた!! おれは白ひげやロジャーみてェな化け物じみた腕っ節はねェが、口と頭でトントン拍子よ!! だからおれは確信したのさ、こいつなら時代を変える程の熱狂を生み出せるとな!!」

 フェスタにとって、熱狂とは人の闘争心をかきたてることだった。世界中を巻き込む闘争こそロジャーが起こした大海賊時代を超える熱狂と信じてきた。

 だがテゾーロの今日までの活躍を知り、彼は考えを改めた。闘争でなくても熱狂を起こせるのではないかと。戦争を仕掛けること以外で世界と時代を変えるという選択肢もアリなのではないかと。

「そしておれは決めた!! ギルド・テゾーロとスタンダード・スライスに賭け!! ロジャーの野郎が巻き起こした大海賊時代を塗り替える最高の新時代(マツリ)――〝最強の熱狂(スタンピード)〟を巻き起こすとなァ!!!」

 フェスタはドヤ顔で宣言した。

 新世界に君臨する二人の大富豪の権力・財力で世界中の人々を動かす「祭り」を起こし、この世界の支配構造を時代ごとぶち壊し、新しい時代へと導く。それによってブエナ・フェスタの名はギルド・テゾーロとスタンダード・スライスの名と共に後世へと語り継がれる。決して砕けない硬石に刻まれた碑文〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟のように、自らが死んだ後も人々に伝わり続けるのだ。

 その為には、二人の協力が必要不可欠なのだ。

「――どうだ?」

「……こちらとしては、あまり海賊と手を組むのは嫌なんだ。ウチの信頼に関わるし、印象操作でもされたら厄介だ」

「構わねェさ!! ロジャーを超えるためなら、おれは何にでもなってやるぜ!! 何なら部下でもいい!! おめェらならきっとやってくれる!! おれの残りの人生全てを賭けてやる!!」

 残された命の灯火を全て賭けると豪語するフェスタ。それは虚言でもなければ威勢でもない、揺るがぬ信念を持つ本気(マジ)の言葉。ロジャーを超えるという執念に取り憑かれた老人の宣言だった。

 ギラリと輝く祭り屋(フェスタ)の瞳に射抜かれた怪物(テゾーロ)は、暫く目を閉じた後にゆっくりと瞼を開いた。

「……わかった」

「!」

「テゾーロ!?」

「だが条件がある。あんたは海賊行為を金輪際せず、ウチの顧問として手腕を振るってほしい。今ちょうど人手が足りないんだ」

 それはテゾーロの譲れない意思だった。

 フェスタの過去から彼が類稀なる交渉術と頭脳を持っていると知ったテゾーロは、彼を国家運営に誘い手腕を振るわせることに決めた。彼は熱狂を起こせれば文句を言わず対立する気も無いので、せっかく海賊稼業から隠居したのだから世界の為に貢献してほしいと願って条件を付けた。

 それを汲み取ったのかどうかはわからないが、フェスタはニヤリと笑みを深め――

「いいぜ。交渉成立だ」

 テゾーロと固く握手をした。

 それはフェスタが海賊界から完全に身を引いたことを意味し、同時に熱狂の新時代を戦争以外の手段で巻き起こすという〝最悪の戦争仕掛け人〟としてのブエナ・フェスタとの決別の瞬間でもあった。

 

 かつてロジャーが暴れてた頃の海を生き抜いた元海賊〝祭り屋〟ブエナ・フェスタは、グラン・テゾーロの最高顧問としてかつての敏腕興行主ぶりを振る舞い、後にテゾーロと共に新時代を切り開く導師として生きることとなる。


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