ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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お久しぶりです。
スタンピードのネタバレがあるので、ご了承ください。


〝鬼の跡目〟復活編
第119話〝海賊王の遺産〟


 死んだはずの男――〝祭り屋〟ブエナ・フェスタがテゾーロとスライスに接触して一週間が経った。

 熱狂を産み出しつつ時代を駆け上がってきたフェスタは、テゾーロの長年の活動で貯蓄された莫大すぎる資金を利用し、世経のモルガンズに号外を発行させ世界へ喧伝を仕掛けた。

 

 ――〝黄金帝〟ギルド・テゾーロの国で「夢」を掴んでみろ! 天上の権力も及ばない絶対聖域に賭けてみろ!

 

 そんな喧伝をしてから経った三日。グラン・テゾーロへの移住を促す宣伝は前々からやってはいたが、フェスタが代わって実行に移した途端、移住者が倍以上に増えた。

 フェスタは敏腕興行主で、煽りのプロフェッショナルである。人々を熱狂させることを生き甲斐とする生粋の祭り屋が、海賊王がルーキー時代だった頃から培ってきた圧倒的経験値を有しているからこそできる「技術」だ。人を動かすことは得意分野であるテゾーロだが、一度に大量の人々を怒涛の如く動かすという離れ業は成し遂げられなかった。それ程にフェスタは人々を煽るのが上手なのだ。

「あんた、おれやスライスより経営手腕あんじゃねェの?」

「おれは「政治とカネ」に興味ねェ。あるのはロジャーを超える熱狂だけだ」

 ワインを飲み干しながらフェスタは断言する。

 彼は政治や世界情勢、革命軍の台頭に各地で起こる大事件など、常に新聞や世間を賑わすネタには何の興味も持たない。唯一こだわるのは、死に際のたった一言で世界を揺るがし時代を変える熱狂を生み出したロジャーを超えること――すなわち大海賊時代を塗り替える新時代を自らの手で巻き起こすことだ。

 その素質があると見込んだのが、ギルド・テゾーロという男だ。戦争を起こすような男ではないが、自分とは違った角度から新時代を巻き起こそうと画策しているテゾーロに、フェスタは自らの人生の全てを賭けたのだ。その選択は間違いではなく、ロジャーを超えられるかどうかはともかく世界中の人々を巻き込む影響力は確かにある。

「……で、あんな宣伝するなんてさすがだな」

「なァに、お前さんの素質を見込んだ上だ。それにああいう表現の方が今のご時世じゃ一気に名が広まる」

 フェスタが喧伝した「天上の権力」と「絶対聖域」という単語。この二つは当初テゾーロの台本にはなかった言葉だ。宣伝用の謳い文句は考えていたが、それはあくまで「夢を掴め」という部分まで……そこから先はフェスタのアドリブだったのだ。

 だがそのアドリブに、人々は惹かれたのだ。特に惹かれたのは政府非加盟国出身の民衆と天竜人の元奴隷達だ。天上の権力という抗いようの無い絶望から逃げ出し生きることができる唯一の居場所を示されたのだから、食いつかないはずなど無かった。

「本物の興行師にゃこの程度朝飯前だろうよ。――で、あんたは一体何に困ってんだ?」

「……軍隊だ」

 スライスは首を傾げる。

 テゾーロ曰く、グラン・テゾーロを守護する軍隊の設立を思案しているのだが、指導者が足りないという。軍隊における指導者は司令官であるが、テゾーロは海もそうだが〝陸〟も必要としている。陸上部隊と海上部隊に分け、それぞれ国の防衛に従事させるということだ。

 問題なのは、陸軍の指導者がいないことだ。海軍ならば近くの海軍本部から政府との貸し借りを名目に中将以上の猛者に教育させてもらえるだろうが、陸軍はそうはいない。海軍も上陸戦という形で陸上での戦闘訓練があるとはいえ、陸上での戦闘に特化しているケースはほとんどない。ゆえに陸軍はほとんどいないと言っていい。

 テゾーロのコネをもってしても、ヒットする人物はまずいない。ここへ来て窮地に陥ってしまったのだ。

「元でもいいから軍人いねェかなァ」

「……一人、心当たりがある」

 スライスの言葉に、テゾーロは目を大きく見開く。

 しかしスライスの顔は曇っており、どこか不安げだ。

「元軍人でとんでもなく強い男、あんたがよく知る場所にいるぜ。おそらく〝世界最強の男〟である白ひげを超える可能性も秘めている。ただ……解き放つと(・・・・・)ヤベェかな」

「その話、おれァ乗るぜ」

 フェスタは楽しそうな笑みを浮かべて同意する。

 彼はすでに悟ったのだ。元軍人・世界最強の二つの条件が見事に当てはまる、伝説の怪物(バケモノ)の存在を。

「テゾーロ、お前さんの権力(チカラ)でどうにかならねェか? そいつをうまく丸め込めたら、お前さんの野望にプラスになると思うぜ」

「……そういう割には嫌な予感がするんだが。それ以前にそいつをどうすれば引き入れることができる?」

「できるさ」

 フェスタはそういうや否や、ハイテンションである物を手にして叫んだ。

「ダダーン!! おれがこいつを持ってるぜ!!」

 フェスタが掲げたのは、古びた小さな宝箱。金銀財宝が入るような大きさではなく、どちらかというと小物入れ同然のサイズだ。

 あんな箱に何が入っているというのか。顔を見合わせ疑うテゾーロとスライス。

「見てみるか?」

 フェスタはそんな二人に近寄り、ニヤニヤしながら中身を見せた。

 最初は眉間にしわを寄せていたが、その中身を確認した途端、二人の顔は驚愕に変わりある種の戦慄すら覚えた。

「ウ、ウソだろ……? こんなのアリかよ……こんな代物(モノ)この世に(・・・・)存在していいのか!?」

「おいフェスタ!! これが公になってしまったら……!!」

「ああ、間違いなく世界がひっくり返る。これなら政府も要求を呑むだろうよ」

 箱の中身を見て驚愕に染まった二人に、フェスタは悦に入ったのだった。

 

 

           *

 

 

 三日後、聖地マリージョア。

 テゾーロはフェスタを連れ、世界政府の頂点――最高権力者の五老星と緊急の面談を断行した。

「アレが〝五老星〟か……成程、予想以上にいい面構えだ」

「ブエナ・フェスタ……生きていたとは」

 五老星の一人――金色の髪と金色の髭の老人は、表情は変えずとも驚きの声を口にする。

 フェスタは世間ではすでに死んだ扱いであり、世界政府もそう判断していた。その直後に死んだはずの人間が目の前に現れれば、さすがに戸惑ったり驚いたりはする。

「まァそれはいい――今回の面談内容である取引とは何だね?」

「……ダグラス・バレットの仮釈放です」

 テゾーロの衝撃の発言に、五老星は目を見開いた。

「〝鬼の跡目〟を、だと……!?」

 〝鬼の跡目〟ダグラス・バレット。

 歴史上唯一〝偉大なる海路(グランドライン)〟を制覇した〝海賊王〟ゴール・D・ロジャーが率いたロジャー海賊団の元船員であり、その際立った強さから「ロジャーの後継者」と呼ばれ恐れられた海賊。あまりにも強いがゆえに彼の捕縛の為だけ(・・・・・・)にバスターコールを発令したという逸話は有名であり、十数年経った今でも語られる伝説の怪物なのだ。

 そんな彼を仮釈放しろというメチャクチャな要求をテゾーロはしてきた。確かに世界政府は今までテゾーロに無茶ぶりをしてきたが、よりにもよって最悪の形で見返りを求めてきた。これを受け入れるのはいくら何でも許し難い。

「……待て、貴様は今「仮釈放」と言ったな? どういう意味だ?」

「ざっくり言うと、政府の指示に従う限り罪を免除するということです」

 仮釈放とは、受刑者その他の被拘禁者を善行保持の条件をつけて釈放することだ。世界政府が統治するこの世界では本来あり得ないが、犯罪者が刑に服した際に所内で反省・更生が認められれば刑務所から一度釈放されるのだ。当然「仮」であるので保護司という国家公務員の観察が必須ではあるが、犯罪者の更生をより促進するという意味では効果的だ。

 さて、そんな仮釈放を要求したテゾーロだが、その真意はフェスタが見せた代物と関係する。

「この取引は、まず私の要求を一番わかりやすい形で示すのが筋かと。フェスタさん(・・・・・・)、例のモノを」

「おう」

 フェスタは例の古びた小さな宝箱を見せつけ、中身を見せた。

 宝箱の中身は「永久指針(エターナルポース)」だ。磁気を永久的に記録させることで、特定の島を指し示すようにした「記録指針(ログポース)」であり、砂時計形の入れ物に入っている特殊なコンパスだ。

 問題なのは、そこに刻まれた古びた文字だ。五老星は目を凝らして確かめると、冷静沈着なはずの彼らが一斉に顔色を変えて動揺し、冷や汗を流した。

 文字の正体は「LAUGH TALE」――この世の全てであるという「ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)」が眠る、あの〝偉大なる海路(グランドライン)〟の終点・ラフテルなのだ。ラフテルへの道標を、祭り屋としてロジャーに敗れた銀メダリスト・フェスタは手に入れていたのだ。

「これでテゾーロの奴が何を言いたいのか、天竜人(ブタども)でありながら権力に溺れてねェあんたらならわかるだろ?」

 煽るような発言でフェスタは笑みを深め、五老星は真剣な表情を浮かべる。

 ロジャーの強さを継ぐ〝鬼の跡目〟ダグラス・バレットを「海賊王の遺産」の守護者にしたい――要はそういう意味だ。

「なぜバレットなのか、理由はあるのかね」

「単純な話です。彼が求めるのは強さだけだからです」

 テゾーロは強さという言葉を強調して返答する。

 彼はフェスタから事前に情報を得ていた。バレットは〝金獅子のシキ〟のように全世界を支配するような凶悪な思想は持っておらず、海賊王として時代の覇権を握る気も無い。目指すのは「海賊王」というよりも「世界最強」で、バレットは海の覇権争い自体には興味を示さない可能性が高いとテゾーロは判断したのだ。

 彼はインペルダウンの最下層「LEVEL6」で幽閉されているため力が衰えているかどうかは不明だが、並大抵の強豪では歯が立たないのは事実。ならば彼にラフテルの永久指針(エターナルポース)を守るよう協力を促し、今までの罪を政府の要請に応えれば減刑すると話を持ち掛ければいい方向へ向かうのでは――そういう腹積もりだ。

「まァあのまま死なせるのは勿体無いと思っていますけどね」

「我々が管理した方が安全だろう?」

「むしろダメですね。あなた方はともかくそれ以外の政府関係者は何を考えてるかわかりません。特に七武海が」

「ムゥ……」

 複雑な表情を浮かべる五老星。

 ラフテルの永久指針(エターナルポース)という「〝海賊王〟への直線航路」を、政府関係者が無視するわけなど無い。三大勢力の一角でもある政府側の海賊「王下七武海」も確実に狙いに来るだろう。特に海賊王を目指していたクロコダイルやゲッコー・モリア、世界の破滅を望み新たな混乱が起こることを待ち詫びているドフラミンゴの手に渡れば世界中が混沌の渦に巻き込まれる。

 当然政府内部の人間も狙い、政府中枢による権力争いの激化もあり得る。万が一そこに天竜人が加われば、世界政府の機能そのものに支障をきたす可能性がある。海賊王の遺産は、存在が公になった瞬間にあらゆる勢力を刺激し世界を巻き込む争いを生みかねないのだ。

「この宝は正負を問わず無限の可能性を秘めている。武力という点ではこれを世界中の大物から護り切れる程の実力は私には無い」

「だがロジャーの後継者と目される程の強さを持つバレットならば話は別……そういうことか?」

「察しがよくて助かります」

 バレットはルーキー時代の時点で当時のシルバーズ・レイリーに匹敵する強さを有していたという。捕縛された際も全盛期のセンゴクとガープに追い込まれた上に今まで倒してきた海賊達にも急襲された。海軍も海賊も恐れた強さ……それが〝鬼の跡目〟なのだ。

 逆に見方を変えれば、投獄生活で衰えていなければ海の皇帝達「四皇」に匹敵する強さを秘めているのだ。四皇の中でも凶悪な部類であるカイドウとビッグ・マムを牽制でき、さらに裏社会の帝王達や王下七武海すら手出しできない、絶対的な力の持ち主ならばいかなる脅威からもラフテルの永久指針(エターナルポース)を死守できる。

 政府の内部事情や裏社会の情勢はテゾーロが把握し、宝を手にしようと挑んでくる全ての者をバレットが叩き潰す。それがテゾーロの考えだった。

「フム……お前の考えは一理なくもないな」

「ラフテルの永久指針(エターナルポース)……それを死守しなければならないのは我々も同意だ」

「そう考えると、誰の〝仲間〟にもならないバレットが適任となるか……」

 五老星はテゾーロの考えには賛同した。手に入れたら二代目海賊王確定という代物を放っておくなんてバカなマネなどするはずもないだろう。

「この件は一度我々が預かる。返事はこちらから寄越そう」

「ありがとうございます。では、私達はここで失礼します」

「待ってるぜ、あんたらの熱狂を!」

 テゾーロとフェスタは「権力の間」から退出する。

 その場に残された五老星は、苦々しい口調で呟いた。

「ラフテルの永久指針(エターナルポース)……とんでもない代物を遺してくれたものだ、ロジャーめ」

「本物であれ偽物であれ、アレは絶対に海賊共に渡してはならん」

「アレを手にすれば〝ロード歴史の本文(ポーネグリフ)〟の解読など不要だ。オハラを消した時はそういう意味では安堵していたのだが……」

 五老星も世界の秘密を知る者達だ。

 ロジャーがどうやってラフテルに辿り着いたのか、オハラが何を知ろうとしていたのかも把握している。だからこそ、あの海賊王の遺産は死守しなければならないのだ。

 あの大秘宝を手にする人間が二度と現れないように。

「だとすればバレットの件は止むを得ないか」

「海軍やサイファーポールではアレを狙いに来た四皇を抑えきれるかどうか……怪しいな」

「問題は今の政府の戦力でバレットを再び倒せるかだな」

 

 

           *

 

 

 五老星はバレットの対応について語り合った。

 親・戦友・護るべき国に裏切られたバレットは、己の祖国(ガルツバーグ)を滅ぼし、ロジャーに挑み続け、後に彼の後継者と目されるようになった。ロジャー海賊団を離れた後も暴れ続けた怪物をどうするか。テゾーロを信じるか、それとも――

 白熱した議論の末、全世界に衝撃のニュースが駆け巡った。

 

 ――〝鬼の跡目〟ダグラス・バレット、インペルダウンから仮釈放される!


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