ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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ロックス、とんでもなくヤバイ奴だった。
10月最初の更新です。

感想で王下七武海に関するご指摘がありましたので、一部修正しました。


第120話〝ダグラス・バレット〟

 聖地マリージョア。

 その廊下で仮釈放の身となったある囚人が、海楼石の枷で両手を封じられたまま大量の衛兵・海兵達に連行されていた。

「気を抜くな! 十年以上監獄にいたとはいえ、暴れたら一巻の終わりだぞ!」

 マリージョア駐在の将校が同行する者達に警告する。なぜなら連行している囚人はLEVEL6に幽閉されている一世一代の悪名を轟かせた最悪の囚人達の中でも断トツにヤバイ囚人だからだ。

 千切れ耳と長い金髪、囚人服の下から見える大きな火傷の痕が特徴の筋骨隆々の大男。ロジャー海賊団の元船員であった怪物――〝鬼の跡目〟ダグラス・バレットは、柄にもなく大人しく十秒もあれば始末できる兵士達に従っていた。

「……」

 バレットは悪魔の実の能力を封じられても、自分を連行している兵士達なら容易く皆殺しにできるが、それよりも政府の意図が気になっていた。

 十数年も前――ロジャーが処刑されて一年程経ったある日、自分はセンゴクとガープが指揮するバスターコールによって捕縛されて投獄された。無差別殲滅攻撃(バスターコール)を仕掛けてまで穴倉へブチ込もうとしたのは、当然見境なく暴れ回っていたのもあるが一番は海賊王と祀られたロジャーの痕跡を消したかったからだ。旅には最後まで同行しなかったとはいえ、〝鬼の跡目〟の伝説は政府にとって不都合なのは言うまでもない。

 しかしそんな世界政府がここへ来て仮釈放ときた。仮ということは政府側が何らかの条件を突きつけるのは明白だが、あれ程躍起になって抹消しようとしたロジャーの痕跡を今更蒸し返すのは不自然だ。何かしらの思惑があるに違いない……その思惑を知る必要がある。

 そんなことを考えている内に、目的の部屋に着いた。

「失礼します! ダグラス・バレットを連れて来ました!」

「――ああ、ご苦労」

 バレットの目の前に、一本の鍵を弄ぶ男が笑みを浮かべていた。

 その前のテーブルにはインペルダウンでの獄中生活には一度も出なかった豪勢な食事が並べられており、まるで歓迎会のようだ。それこそ、かつてロジャーの船に乗ることになった時の新人歓迎のような。

「……誰だ」

 野太い声でサングラスをかけた目の前の男を質すと、男は怯むことなく自己紹介した。

「私はギルド・テゾーロと申します、以後お見知りおきを」

「……お前がおれをシャバへ出すよう手を回したのか?」

「いかにも。五老星は中々首を縦に振ってくれませんでしたがね」

 笑いながら言葉を並べるテゾーロを、バレットは誰もが恐れた碧眼で見据えた。

 白いラインが入ったマゼンタのダブルスーツ、オールバックの髪、身に付けている数々の黄金の装飾品――見た目は多くの事業で成功を収めている敏腕の実業家といったところだろう。しかしゴージャスなサングラスで視線を隠してはいるが、そこから覗かせる眼光は歴戦の大海賊を彷彿させる鋭さを有していた。

 只者ではない。バレットの直感は、そう訴えていた。ならばその直感が真実か確かめる必要がある。

 

 ヴォッ!! ヴォッ!!

 

 バレットは不意打ちで持ち前の〝覇王色〟を放ち威圧した。それに応じるかのように、数秒遅れて男も覇王色を放った。

 二人の覇気で護衛としてその場にいた衛兵と海兵達が意識を失って倒れていく。万が一の為にと陰で待機していたサイファーポールの諜報員達も倒れ、バレットとテゾーロだけが立っていた。

「ほう……悪くねェな」

「――フッ……ハハハハ! こんな成り上がりの若造を〝鬼の跡目〟が………いや、未来の〝世界最強〟が評価してくれるとは恐悦至極」

「……!」

 テゾーロは世界最強という言葉を強調して言うと、バレットに近づいて彼の両手を拘束していた海楼石の枷を何の躊躇も無く外した。

 いきなり自由の身になったバレットは、戸惑いつつもテゾーロを質す。

「……なぜ外した」

「あなたの野望は丸腰の相手をボコボコにするという卑劣なマネをして貫く安いモノではないはずだ」

 バレットは呆気に取られた。

 世界中から恐れられた男を、そんな希望的観測で圧倒的な力を抑える枷を外すことを決断するとは。戦場で生きてきたバレットから見れば、兵士だったら真っ先に野垂れ死ぬタイプにしか見えない。それでも生き残り時代に名を馳せるのならば、時代そのものが腐っているか目の前の男の運が強いかのいずれか、あるいは両方だ。

 しかしテゾーロが自分を仮釈放させるよう手を回したのならば、別の分野で絶大な力を行使できる立場なのだろう。それに先程放った覇気を踏まえれば、純粋な実力という面でも強者であることは間違いない。

「さァ、座ってくれ。放免祝いをしよう」

 テゾーロは席を戻り、それに続くようにバレットも肩をいからせながら足を運び、ドカッとイスに腰掛けた。そして目の前に並べられた料理を一瞥すると、一番近くに置いてあった串焼き肉を手に取り豪快に食らいつく。

 強さを追求し続けるバレットは、強くなるためには身体を作らなくてはならないことをよく知っている。身体を作るために食って、それを糧に大きくなって強さに変え、いつか必ず亡きロジャーを超える。自分を穴倉から出した男を信用できなくとも、強さを得るために背に腹は代えられない。

「美味いだろう? この日の為に私の家内が……ステラが作ってくれたんだ」

 テゾーロはシーフードピラフをかき込みながら笑みを浮かべる。しかしテゾーロの家庭事情に興味など示すわけも無く、バレットはただ食い続けるだけだ。

 そんな中だった。

「テゾーロさん! 今の覇気は何事ですか!?」

 ドアを豪快に開けて飛び出てきたのは、シードだった。

 それに気づいたテゾーロとバレットは目を向ける。

「ああ、気にしなくていい、ちょっとした挨拶だ。…………シード?」

 テゾーロはシードの様子が変であるのに気づいた。

 彼の視線の先はバレットの姿であり、目を大きく見開いて体を硬直させ、明らかに動揺している表情を浮かべている。

「ダグラス・バレット……何でここに……」

「お前は……あの時のチビ海兵か」

 バレットに睨まれたシードは、複雑な表情で目を逸らす。

「少しは成長したか?」

「……変わらないよ。僕はずっと僕のままだ」

「カハハハ……! 相変わらず救いがてェバカだ、軍人として致命的な欠点を直さねェとはな」

「別に構わないよ……あの後色々あって軍は辞めたからね」

 嘲笑うバレットに、シードは自嘲気味に笑みを溢す。

 どうやら二人はは顔見知りであるようだ。

「え? 何、知り合い?」

「僕がまだ海兵だった頃に、センゴクさんとガープさんが主導するバレット討伐の為のバスターコールに参加したんです。僕は当時本部大佐の地位でした」

「そうか、そうだっ――」

 そうだったのか、と言葉を続けようとした途端、テゾーロはハッとなってシードに詰め寄った。

「んんんん!? 待て待て待て待て、お前ってその時何歳だ!?」

「えっと……僕が軍を辞めたのが16歳だったので……多分14歳かと」

「14歳!? 14歳でバスターコール参加すんのか!?」

「バレットなんか14歳で祖国滅ぼしましたよ」

「それ青春時代に送っていい日々じゃねェよな!? そんな思春期おかしいと思わねェの!?」

 青春時代とは何なのか、思春期とは何なのか――テゾーロは思わず頭を抱える。

「……まァいい。今日は大事な話があるんだ、シードも座ったらどうだ? 牛乳やるよ」

「……!! そうやって人をバカにして!!」

 テゾーロの身長イジリに顔を真っ赤にし、ズカズカと肩をいからせるシード。身長のせいか、それとも童顔のせいか――迫力がバレットと比べると雲泥の差であるのは言うまでもない。

 そしてテゾーロの隣に座ると、迷いなく牛乳に手を伸ばして一気飲みをする。能力としてもコンプレックスの克服としても、やはり牛乳は欠かせないようだ。

「さて、本題に入るとしましょうかね」

 テゾーロはシーフードピラフを平らげると、一枚の紙を取り出した。

 紙には「(かく)(しょう)契約書」と書かれていた。

「何だそりゃあ?」

「今回あなたを仮釈放させた要因の一つです。実は私は国家運営に携わってまして……防衛力が欲しいのです」

「おれを仲間として迎える気か?」

「いや、客分の軍人として指導していただきたい。わかりやすく言えば力を貸してほしいということですね」

 テゾーロは怪訝な表情のバレットと交渉を進める。

 バレットはロジャーの船に乗る前は軍事国家ガルツバーグの軍隊「ガルツフォース」に所属しており、かつては戦争の英雄として称えられた最強の少年兵だ。随分若い頃であるとはいえ軍人として生きてきたため、戦闘力は勿論、戦略と戦術学にも精通しているはずだ。そこに目を付けたテゾーロは、バレットを客分の軍人として迎えることで自国の軍隊を設立・防衛力を確固たるものにしようと考えたのだ。

 一番大事なのは、バレットは客分の軍人として扱うことだ。〝鬼の跡目〟と呼ばれた男は孤高主義で知られ、他者をほとんど信頼せず仲間に頼ることを「弱さ」と切り捨てている。しかし客分として扱えば他人と関わるとはいえ仲間や部下にはならず、協力者という一定の距離を置いた立場になる。それならばバレットは不服に思えど妥協するだろうとテゾーロは読んだのだ。

「……まァ、そんな理由で最強最悪の囚人をシャバへ出すとなると後が面倒なので、表向きは膨れ上がった海賊達と強大化が止まらない四皇への抑止力、そして王下七武海の不正防止を名目とした超法規的措置です」

「四皇……」

「! そうか、今のご時世のことを説明しないといけないね」

 シードはロジャー亡き後の世界情勢について語った。

 大海賊時代は三大勢力による均衡で世界の平穏を保っている。海賊の最高峰にして最も海賊王に近い四人の大海賊「四皇」に対し、それを食い止めるための正義の軍隊「海軍本部」に世界政府公認の7人の大海賊「王下七武海」が加担する形でパワーバランスを維持しているのだ。

 四皇はロジャーを相手に海の覇権を競った〝白ひげ〟と〝ビッグ・マム〟、バレットと同じロジャー海賊団出身である〝赤髪のシャンクス〟、世界最強の生物と謳われる〝百獣のカイドウ〟の四人であり、それぞれ牽制し合っている。電話で会話するだけで海軍が動き出し、接触しようものならバスターコール級の艦隊を差し向けて止めようとすることから、四皇がいかに強大すぎる存在かが伺える。

 それを止めるのが海軍本部であるが、膨れ上がる海賊達の取り締まりを海軍だけでは対処しきれなくなり、政府は王下七武海を設立した。政府公認の海賊達は圧倒的な強さと知名度を持ち、海賊達からは「政府の狗」と蔑まれつつも恐れられている。その上海軍のスポンサーと言えるテゾーロと関係がある面々が多く、〝海賊女帝〟ボア・ハンコックのように良好な関係を築いている者もいれば〝天夜叉〟ドンキホーテ・ドフラミンゴのように因縁のある者もおり、世界屈指の曲者で構成されている。

「ほう、あのガキが世界最高峰の海賊達の一人か」

「ああ、シャンクスは同じ船に乗ってたから顔馴染みでしたね」

 バレットがロジャー海賊団に在籍していたのは三年間だけだが、その中でシャンクスと共に戦っていた時もあった。あの時はバレットが圧倒的に強かったが、今ではロジャー亡き後の世界で最高峰の存在に位置付けられている。十数年でそこまで成り上がれたのは、バレットのように相当の修羅場をくぐり抜けたからだろう。

 それでも――

「だが奴はおれには勝てん。己のみを信じ、一人で生き抜く断固たる覚悟が無いからな」

 バレットは断言する。

 この海は戦場だ。真の強さとは完全な孤独で培わなければならない。そこに他者が関与すれば、偽物の強さとなってしまう。命と生涯を懸けた修練に、たとえ仲間であっても介入してはならない。

 それがバレットの信念であり、彼が戦場を生きたことで辿り着いた「答え」なのだ。

「……どんな形であれ、力が必要であるのは同感です」

「!」

「おれとあなたとでは戦場が違う。あなたは砲煙弾雨の武の世界であり、おれは金と権力の臭いに満ちた世界だ。でも勝ち残るには力がどうしても必要であるのは共通だ」

「ほう……わかってるじゃねェか」

 武を生業にしていたバレットと、金を動かして利益を上げる経済活動・慈善事業を生業とするテゾーロとでは、生きている世界が違う。だが手元にあるのが金であれ銃であれ、戦場である以上は生き残りを懸けている。

 テゾーロはバレットの孤高主義には賛同せずとも、力が無ければ全てを失い敗北者として無様を晒すという考えには共感を示したのだ。バレットの信念を全て否定せず、一部分には共感と好意を示す――それがテゾーロの孤高主義者(バレット)対策でもあるのだ。

 現にバレットはテゾーロに少し感心したような言葉を送っている。

「さてと、話を元に戻します――あなたを仮釈放させた最大の理由は、この宝箱の中にあります」

 テゾーロはフェスタから預かった例の宝箱をバレットに渡した。眉をひそめながら中身を確認すると、一瞬だけ碧眼を大きく見開いた。箱の中身――ラフテルへの永久指針(エターナルポース)は、さすがのバレットも驚かせたようだ。

「………そういうことか」

「わかってくれて何よりです」

 テゾーロの心意をバレットはすぐさま悟った。自らの圧倒的な強さで、このロジャーが遺したとんでもない代物(たから)を護ってほしいということを。

「契約書にサインをしてくれるのなら、あなたの要望にできる限り応えましょう。持ちつ持たれつでよろしくお願いしますね」

 サングラスを額に上げ、不敵な笑みを浮かべるテゾーロはバレットにペンを渡す。

 バレットはそれを無言で手に取り、署名欄に「Douglas Bullet」と記入した。

「……意外ですね。結構渋るかと」

「カハハハ……仁義だの掟だの貸し借りなど、わずらわしいだけだ。だがお膳立てしてくれたからには立たねェとな」

 バレットにとって他者との繋がりは、己の信念を貫く上では排除せねばならないものだ。しかし久しぶりに表舞台(ステージ)に立てるよう手を打ったのは紛れもなくテゾーロであり、彼が〝鬼の跡目〟の伝説の再来を準備してくれた興行主(プロデューサー)だ。

 バレットの野望――世界最強の称号を得るための物語(ドラマ)の脚本家がテゾーロとすれば、バレット自身は物語の主人公である。全ての準備を整えてくれた相手を裏切るのは、かつて自分を迫害した戦友や裏切ったダグラス・グレイと同類になってしまう。それだけはバレットとしても一人の軍人としても許せなかった。

「交渉成立……これからよろしく頼みますよ。グラン・テゾーロの客将、〝鬼の跡目〟ダグラス・バレット殿」

 テゾーロが笑みを深めると、バレットもまた口角を少し上げた。

「おい、テゾーロ……一つだけ答えろ」

「? 何ですかな?」

「今の海で(つえ)ェ奴はどれくらいいる? お前の仲間はどうだ?」

「質問が二つになってますけど」

「揚げ足取りはいいからさっさと答えろ」

 

 〝鬼の跡目〟ダグラス・バレットの復活。

 そのニュースはあっという間に全世界に伝わり、「海賊王の後継者」と呼ばれた豪傑が再び表舞台に立ったことで世界は大きく動くこととなる。




ちなみにテゾーロとバレットでは、バレットの方が強い扱いです。
アレです、るろ剣の比古清十郎みたいなポジションです。

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