ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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バレット無双です。
アイツやっぱおかしいってところを見せつける回です。


第122話〝リハビリ祭り〟

 〝鬼の跡目〟が再び表舞台に立って早一週間余り。

 元ロジャー海賊団である上にロジャーを継ぐ強さを持つとされた伝説級の凄腕バレットが客分として関わることになり、テゾーロの部下達は絶句。タタラやハヤトを筆頭とした常識人組はさすがに抗議したが、テゾーロの「色んな所に喧嘩売ってんだ、今更何を慌てる」というある意味での正論を返されてしまい撃沈。客分として迎えることに諦めムードを醸しつつも了承した。

 そんなある日のこと、バレットはテゾーロにある申し出をした。 

「リハビリ?」

「今時の(つえ)ェ奴らの実力とインペルダウンでも鍛えたおれの力が通用するか試してェ。おめェがこの島で一番(つえ)ェのはわかってんだ、客分の頼みは聞くんだよな?」

 インペルダウンの囚人服を捨て、かつて所属していた軍隊「ガルツフォース」の襟章と腕章をはじめとした褒章まみれの黒い軍服に着替え、サプレッサーイヤーマフを着用したバレットが、それはそれは怖い笑顔でテゾーロに迫った。

 ロジャーを超えるべく己をひたすら鍛え続けるバレットだが、十五年以上もの監獄生活のせいで世情に少し疎くなった。ロジャーの死後の海の情勢自体はテゾーロとシードから聞いたが、今の海のレベル(・・・・・・・)をよく知らないのだ。

 海賊達の数は圧倒的に増えたが、その強さはどれ程なのか。それを取り締まる海軍はどれ程強化されたのか。それがバレットの疑問であり、確かめたい事実なのだ。

「いや、おれ実業家だし政治の世界に入ってんだよ? そりゃ衰えないよう自己鍛錬はしてるっちゃしてるけど、いくら何でも戦闘は御免だ。国家元首たる者、心身共に健康を保ってナンボなんだけど?」

「成程、道理ではあるな。どんな奴でも死んじまったら等しく敗北者だ」

 この海は戦場だ――それがバレットがよく言うある種の「口癖」であり、どんなに永い時の中でも一度も朽ちなかった信条だ。

 かつてバレットが所属していた軍隊・ガルツフォースを所有していた(・・・・・・)軍事国家「ガルツバーグ」は、内乱と裏切りばかりの内戦続きの国家でもあった。ゆえにガルツバーグで生きるには敵は勿論のこと味方すら信じてはならず、命令に従いながら自分の力で生き抜かねばならなかった。それを貫けずに死んでいった戦友を腐る程バレットは見てきた。

 だからこそ、戦場同然のこの世界の海で死んだ者は、海兵であれ海賊であれ、善悪問わず「敗北者」となる。死の淵や未来を変える権利が皆平等であるように、戦場で死んだ者はどんなに強くとも敗北者のレッテルを貼られるのだ。それが、バレットが血生臭い戦場で生きてきたゆえに辿り着いた「答え」でもあったのだ。

「……で? どうなんだ」

「おれは嫌だけど、おれの部下なら誰でもいいよ。大体覇気使いだし、最近事務仕事ばっかでイラついているのも数名いるし」

「……そうか」

 バレットは満足そうに笑みを深めたが、テゾーロは真逆の引きつった笑みを浮かべた。

 自分の部下達を心から信用し頼っているのに、バレットに総がかりでも勝てないのではないかと察してしまったのだ。

 

 

 30分後、バーデンフォードの未開拓地にそうそうたるメンバーが集っていた。

 裏社会では〝ボルトアクション・ハンター〟とも呼称される元賞金稼ぎの狙撃手(スナイパー)・メロヌス。

 骨を生み出し自由自在に形を変えて操る〝ホネホネの実〟の能力者にして若き日のバレットを知る元海軍本部准将・シード。

 〝海の掃除屋〟と呼ばれ新世界の海賊からも恐れられていた元賞金稼ぎの剣士・ハヤト。

 居合の達人である地下闘技場歴代最強の選手だった三つ目族・タタラ。

 白ひげやビッグ・マムと肩を並べる四皇〝百獣のカイドウ〟からも一目置かれる豪剣「阿修羅一刀流」の使い手・ジン。

 〝ビムビムの実〟の「ビーム人間」である極めて高い戦闘力の持ち主・アオハル。

 裏世界一危険と言われたデスマッチショーで無敗を誇るチャンピオンだった巨漢・ダイス。

 皆テゾーロの部下で異色の経歴を持つ強者達だ。

 そんな彼らと対峙するのは、伝説のロジャー海賊団の元船員(クルー)である〝鬼の跡目〟ダグラス・バレット。ルーキー時代の時点であの〝冥王〟レイリーに匹敵する実力を持っているとされた豪傑の中の豪傑。

 そしてそれを遠くから眺めているのが、巨万の富と強大な権力を手に入れた〝新世界の怪物〟ギルド・テゾーロ。彼の隣には〝最強の熱狂(スタンピード)〟を巻き起こすことに人生を懸ける〝祭り屋〟ブエナ・フェスタがワインを飲み干している。

《――ということで、君達には有給と引き換えにバレット氏のリハビリに付き合ってもらいます。頑張ってー》

「殺す気ですか!?」

 スピーカーでバレットと対峙する部下達を励ますテゾーロに対し、シードは若干涙目で悲痛な声を上げた。

「アレが客分のダグラス・バレットか……成程、ヤバイな」

「隙が無い……一筋縄ではいかないようですね」

 ジンとタタラは冷や汗を流す。

 それぞれ鎖国国家と地下闘技場という閉鎖空間で生きた二人は、ダグラス・バレットという男をよく知らないが、その雰囲気だけで彼がどれ程の強者がすぐに理解できた。

「〝鬼の跡目〟……元ロジャー海賊団にしてガルツフォースの英雄。ありゃ強いなんて言葉じゃ済まないなァ」

「……」

 情報屋も兼ねているアオハルも、バレットの壮絶な過去と数々の逸話をよく知っているため、いつも通りのぬらりくらりとした態度であるが警戒心を最大限に高めている。

 ハヤトも例外ではなく、背中に担いだ大太刀の柄を握り臨戦態勢のまま攻撃のチャンスを伺っている。

「……シード、勝ち方は?」

「持ちうる力全てをぶつけるしかありませんよ」

 メロヌスの問いにシードは答え、拳を構える。

「フッ……行くぞチビ」

 

 ドンッ!

 

 バレットは地面を蹴り、爆発的な加速でシードに迫った。

 シードは即応。〝武装色〟で黒く硬化した右腕を振るう。黒化した拳が衝突するが、バレットはさらに拳を押し込んでシードを地面に減り込ませた。

「うわあああ!」

 土煙が上がり瓦礫が飛び散る。バレットは腕を振るってそれらを払い、次の獲物――タタラを狙った。

「っ!」

 咄嗟の判断で仕込み杖に覇気を纏わせ、衝撃に備える。その読みは的中し、バレットは〝武装色〟で強化したラリアットを仕掛けてきた。

 

 ズドォン!

 

「ぐあっ!?」

 ラリアットが直撃。全てを直接破壊するバレットのパワーを殺すことはできず、物凄い速さで岩盤目掛けて弾き飛ばされた。

「!」

 バレット目掛けて突進してくる人影。逆手の居合の構えを取ったジンだ。

 覇気を纏った刃が襲うが、バレットは全身に覇気を纏わせてガード。一撃目を受け止められたことにジンは顔をしかめつつも二撃目の鞘での攻撃に切り替える。しかしバレットはそれすら見抜いており、ジンよりも早く腕を振るって強烈な一撃を見舞い彼を沈めた。

 するとバレットの背後から殺気の塊が襲い掛かった。

 

 ガッ!

 

「くっ!」

 ダイスだ。全身を武装色で黒く染めて渾身のタックルを見舞ったのだ。

 しかしバレットは驚異的な反射神経で即応。自らと引けを取らない体格の巨漢の強烈なパワーを受け止め、そのままパイルドライバーで返り討ちにした。

「これならどうだ!」

「あァ?」

 バレットは振り返る。それを皮切りにハヤトが大太刀を振るって無数の飛ぶ斬撃を放ち、集中攻撃を浴びせた。

 

 ギン! ギィン! ガギィン!

 

「は!?」

「ハッ、足りねェな」

 バレットは涼しい顔で何十発という飛ぶ斬撃を黒化した両腕で弾き返した。

 刹那、黒い巨体が急接近して眼前に迫っていた。バレットは勢いに任せショルダータックルを見舞った。ハヤトは驚異的な反射能力で刀身を盾にして防いだが、成す術も無く吹き飛ばされ頭から岩に激突した。

 ふいに、バレットの頭部に衝撃が走った。暴れている内に生じた一瞬の隙を突いて間合いを詰めたメロヌスが覇気を纏った脚で蹴り上げ、バレットの顎を捉えたのだ。

「おれ達を甘く見るなよ!」

 メロヌスは愛銃を構え、多くの海賊達を一撃で葬ってきた銃口を向ける。

 その瞬間、ガシッと太い腕がメロヌスの脚を掴んだ。

「うおわァ!?」

 バレットはたじろぎさえしていなかった。そのままメロヌスを振り回し、地面が陥没する程の勢いで叩きつけた。

 それでもメロヌスは衝撃に耐え、一矢報いるべく覇気を込めて引き金を引こうとしたが、引き金に指を掛ける前にバレットが右足のキックで追撃。まるでサッカーボールのように蹴飛ばされて岩に減り込んだ。

 

 ブゥン!

 

「……!? 何の実だ?」

「〝ビムビムの実〟だよ」

 バレットの側方に赤い閃光が空へと伸び、凄まじい熱量と共に襲い掛かる。

 これにはさすがのバレットも度肝を抜いたが、全身を武装色硬化させて防いだ。――が、高熱と〝武装色〟の覇気を兼ね備えた一太刀を無効化することはできず、自らの強さのアイデンティティである軍服を裂かれてしまう。

 それでも、バレットは笑みを溢す。いや、さらに口角を上げた。

「カハハハ……お前は骨がありそうだな。簡単に死ぬなよ……!!」

 バレットは本気を解放し、鍛え抜いた強さで拳を握り締め襲い掛かった。

 

 

           *

 

 

 バレットのリハビリという名の戦闘は苛烈を極め、シード達はすぐには回復できぬ程の大ダメージを受け、ことごとく倒されていた。

「カハハハ……!! 残ったのは三人か」

 戦場に残ったのは過去のバスターコールでバレットと面識があるシード、テゾーロの部下の中では最強と目されるアオハル、カイドウが部下にしたがった程の実力者であるジンの三人だ。しかし三人共かなりの手負いであり、肩で息をする程に疲弊していた。

 一方のバレットは、ボロボロになった軍服を破り捨てて刀傷と銃創だらけの肉体を露わにしている。さすがに熟練した覇気使いを複数相手取ったせいか、所々で血を流しているが、目立ったダメージや疲弊を見せていない。

《〝新世界の怪物〟ギルド・テゾーロの優秀な子分達をことごとく返り討ちにするのは、〝鬼の跡目〟ダグラス・バレット~~~!! これが海賊王を継ぎ、超える男の強さだァ~~~!!! バレットのケンカ祭り……いや、〝リハビリ祭り〟はまだまだ続くぞォ~~~!!!》

 スピーカーが割れそうな程の興奮した声を上げるフェスタ。

 リハビリ祭りの主役は、若き力を睨み下ろし笑う。

「カハハハ……仲間だの家族だの盃だのほざいてる連中は気に食わねェが、(つえ)ェ奴は嫌いじゃねェ。そいつをぶっ倒すのはもっと好きだ」

 叩きのめし、相手を潰す。

 それがバレットという男の行動理念だ。

「ねェ、ギブしていい?」

「ダメだ、お前はあのチビと同じくらい潰し甲斐がある。白旗を勝手に揚げるのはおれが許さねェ! この海は戦場だ!」

「それって事実上の殺害宣言だよね? おれそう聞こえたんだけど。ああ、短い人生だったなァ」

「冗談でも言うなアオハル!! おれ達言わないでおこうと思ったのに!!」

 戦闘の意志の放棄すら拒むバレットに、アオハルは絶望的な表情を浮かべて不吉な言葉を並べ始める。ジンはボロボロになりながらもアオハルを叱り、バレットを睨む。

 ジンもアオハルも、皆バレットに対して一切油断しなかった。監獄生活という空白期間(ブランク)があるとはいえ、あの海賊王の一味の中でも恐ろしいまでの強さを誇った伝説級の凄腕だ。戦闘力という点ではテゾーロを凌ぐだろう。ゆえに一切の隙を見せず立ち向かった。

 だがバレットは彼らの想像を遥かに凌駕していた。たった一人で次々と薙ぎ倒し、新世界でも名を上げる程の実力者ばかりである財団幹部を壊滅状態に追い込んだのだ。

「お~い、大丈夫か?」

 一連の戦闘を見ていたテゾーロはさすがに心配になったか、仰向けに倒れるハヤトの元へと駆けつけ声を掛けた。

 するとハヤトはゆっくりと起き上がり、大太刀を手にし――

「おかしいだろォ!!!」

「うおっ!?」

 いきなりキレて得物を投げ捨てるハヤトに、テゾーロはギョッとする。

「何なんだあの筋肉ダルマ、あの覇気は反則だろ!! 飛ぶ斬撃を何十発も放っといて全部両腕で弾くって、どんだけバカにしてんだ!! 今までの努力が無駄になった気分だ!! 勝てるわけねェに決まってるだろうがァ!!!」

「あ~……何か、お疲れ」

 満身創痍で激昂する部下に、テゾーロは困ったような笑みを浮かべるしかない。

 そんなテゾーロに、悪魔の声が響いた。

「テゾーロ、お前も来い。お前の強さを見せてみろ」

 

 ギクッ

 

「……な、何を言うんですかね~? おれはあなたの期待に応える程の腕っ節は持っちゃいませんて」

 テゾーロはそう笑い飛ばすが、次第に嫌な汗を掻いていく。

 バレット以外の視線をたくさん感じるのだ。それも若干の悪意を込めた視線を。

「おれはお前をぶっ潰してェんだ。お前が戦う意志を見せねェなら、おれはこの島を破壊し尽くすだけだ」

「どこの悪魔!? いやいや、お断り!!」

 テゾーロはその場から脱走。しかしそれを追う者達が。

「おい、あのバカ上司を捕らえろ!!」

「ボッコボコにしてからバレットと戦わせるぞ!!」

「挟み撃ちだ! 挟み撃ちで包囲しろ!」

 何と疲弊しきってダメージを負っていたシード達がテゾーロを総出で追跡。

 リハビリ相手というバレットへの生贄として差し出した上司の哀れな姿を見るべく、一致団結して捕らえることにしたのだ。

「……」

「いやァ、さすが〝鬼の跡目〟。白ひげが死んだら世界最強の男はあなたで確定ですね」

「!?」

 突然の背後からの声に、バレットは目を見開いて臨戦態勢に入る。

 しかし声の主――サイ・メッツァーノは両手を挙げて戦闘の意思が無いことを示す。

「待ってください、私はあなたと戦う気は無いんですよ。事務仕事もありますし」

「……政府の狗か?」

「今はテゾーロさんの狗です。あんな吹き溜まりの組織よりずっといい飼い主ですよ、彼は」

 サイはコートの内ポケットから酒瓶を取り出し、バレットへ渡す。

 ラム酒だ。ロジャー海賊団に属していた頃、よくロジャーに飲まされたものだと呆れながらもコルクを開けて飲む。

「……面白い人でしょう? 私と同じ世代なのに一世代上の豪傑のように老成していて、それでいて大胆かつ柔軟。指導者としてなら彼は天下一品です」

「……」

「もし海賊や反政府組織、非加盟国の軍人だったらと思うと、ゾッとします」

 ケラケラと笑うサイ。

 黄金を操る能力、大物達との人脈とコネ、指導者としてのクオリティの高さ。これが政府と敵対する者達の手に渡ったら、世界の平穏と秩序は大きく様変わりするだろう。戦争でも資金と統率に優れた指揮官は戦局を大きく左右する。サイは軽い調子で言っているが、バレットはその言葉の真の意味――重みをすぐ理解できた。

「まあ、彼と戦うのなら今日はお預けですよ。それでは失礼」

 サイは「ビンクスの酒」の鼻歌を歌いながらその場を後にした。その背中を見つめ続けたバレットは、瓶に残った酒を全て飲み干して握り割った。

 

 

 その後、2時間に及ぶ鬼ごっこはテゾーロの勝ち逃げで終了。バレットは「疲弊しきった奴を潰すのは趣味じゃない」と言い放ち、ボロボロのシード達との戦闘を自ら中断。

 こうして悪夢の〝リハビリ祭り〟はバレットの完勝で終わりを告げた。


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