ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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今年最後の投稿です。
どうにか間に合いました……。


第126話〝有為転変〟

「え~っと、()は大体この辺か……」

 グラン・テゾーロにそびえ立つ「THE() REORO(レオーロ)」の最上部。天竜人や各国の王侯貴族、グラン・テゾーロの関係者などの一部の者しか入れないエリアにあるテゾーロの自室では、部屋の主がノートに様々な情報を記入していた。

 それはテゾーロプレゼンスとはまた別の、テゾーロ本人の機密情報――彼が転生者であるこの世界の唯一無二の物的証拠だ。なぜならその内容は「ONE PIECE(このせかい)」の年表だからだ。

 ノートにはテゾーロがただの一般人だった前世で憶えた「ONE PIECE(このせかい)」の展開に関する重大な情報が記されており、これを万が一にも盗まれたら取り返しのつかない事態になる。ノートには1ページごとに〝原作ルート〟と〝今回のルート〟で区別されており、テゾーロの介入によって大きく「修正」されている。特に近年は過密と言っても過言ではない程の修正がなされている。

(知らねェ間に随分変わってるんだよな……)

 天竜人に買われ、奴隷として自由の無い地獄の生活を強制されて死んだステラの生存。

 700年も島と島をつなぐ巨大な橋を建設していたテキーラウルフの開通。

 滅亡の運命であったフレバンス王国の復興。

 コラソン生存と、ローの人生の変化。

 伝説の造船技師トムの生存と、スパンダムによる司法船襲撃計画失敗。

 オトヒメ王妃の暗殺阻止と、魚人・人魚族の地上移住計画の前進。

 元ロジャー海賊団〝鬼の跡目〟ダグラス・バレットの仮釈放。

 バーデンフォードでの海軍演習の容認によって回避された、演習艦襲撃事件とゼファーの豹変。

 挙げられるものでも十分影響力がある修正点に、テゾーロは内心頭を抱えるような思いだった。今後の展開が読めないのだ。現実世界との差だけがテゾーロを苦しませているのではない。

(原作通りに行ってほしいもんだが……そううまく行かないんだよなァ、こういうのに限って)

 これから何を成すべきか。誰に手を差し伸べ、誰と戦うべきか。

 テゾーロに迷いが生じる。

(……おれは何をするべきなんだ、神様よう)

 未来を変える権利は皆平等にある。過去から学び、未来をイメージして、今を行動することで現状を打破できる。

 それはテゾーロ自身百も承知だ。だがイメージした未来が現実になるとは限らない。これは転生前、最初で最後であろう邂逅で神が与えた試練なのだろうか。

 複雑な想いが、テゾーロの中で渦巻く。

「……まァ、どうにかなるよな」

 テゾーロは考えるのをやめた。

 とどのつまり、これは天任せも同然だ。出会いがあれば別れがあるように、何かが変わればそれに付随して今までなかった事件が起こるのだ……それも帳尻を合わせるかのごとく。

 だからこそ、人生であるのだ。人の人生には無数の生き方があり、一本道ではないのだ。裕福で恵まれた家庭に生まれても、その後の人生の道順を間違って不幸に泣く人はたくさんいる。当然その逆もあり、貧しい家に生まれた子が、将来大成したり幸せになることもある。

 道に迷ってナンボなのだ。大事なのは今まで歩んだ道を疑い否定せず、自分の足で一歩一歩前へ進んでいくことだ。

 テゾーロは頭を切り替え、ノートと向き合う。

(時期的には原作開始からおおよそ4年以上は前……そろそろカリーナが来る時期だが……)

 本編でテゾーロのステージパートナーを務め、グラン・テゾーロを船ごと奪うという離れ業を成し遂げた怪盗カリーナ。〝新世界の怪物〟すらも出し抜いた彼女が本格的にテゾーロと接触するようになるのは、ちょうどこのあたりだ。

 厳密に言えばマッド・トレジャー率いるトレジャー海賊団から接触を果たすのだが、テゾーロとの縁は今頃が全ての始まりといえよう。

「彼女もまた有能だ、どう仲間に迎え入れるか……」

 カリーナをどうやって仲間にするかを考え始めた、その時だった。

 

 プルプルプル……

 

 電伝虫が鳴った。

 受話器を取ると、サイの声が響いた。

《テゾーロさん、今いいですか?》

「何事だ」

《世界政府……五老星から直筆の書状が届きました》

「え? あのじいさん達から?」

 

 

 報告を聞いたテゾーロは、自室からプライベートエントランスへと向かっていた。

 グラン・テゾーロの「プライベートエリア」は広大で、テゾーロだけでなく財団時代から彼を支え続けた部下達の私室や専用の浴場などがある。その入口とも言えるプライベートエントランスは、政府の使者やテゾーロと親交の深い人物が唯一()()()訪れていい空間である。

「……さすがに大事になってるようだな」

 テゾーロの眼前で、バレットとフェスタを除いたテゾーロ関係者がざわついている。

 何せ世界政府の頂点の直筆の手紙だ、驚かないわけが無い。

「……待たせたな」

『テゾーロさん!』

「いきなりだが、中身を確認させてくれ」

「これが例の書状です」

 サイから封筒を受け取ったテゾーロは中身の手紙を確認すると、その内容に声を失いかけた。

「次回の世界会議(レヴェリー)の会場をグラン・テゾーロにしたい……!?」

 世界会議(レヴェリー)

 それは4年に一度、世界政府加盟国の代表や政府の要人らが聖地マリージョアに集い一週間行われる大会議。政府加盟国の中から50の国の王達が一堂に会し、様々な案件を言及・討議して今後の「指針」を決定する、現実世界でいうサミットだ。ただし各国の首脳はどれも癖が強いせいでやり取りはうまく進まないことが多く、些細な争い事も戦争のきっかけとなるため油断できない国際会議だ。

 会議の会場はマリージョアなのだが、今回は何とグラン・テゾーロで行うことになったという。これは世界政府の歴史上初の試みで、ましてや王侯貴族の出でもない男が造り上げた国で世界の動きを左右する一大イベントを実施するなど前代未聞であった。

「こいつァ……おれらも随分と出世したもんだな」

 ジンは顎に手をやる。

 王侯貴族の出の者が一人としていないテゾーロ達。身分階層が下の部類に入る者達が階層の頂点に一目置かれるのは名誉と言える。

 しかし一同が浮かれる中で、タタラは別の見方を口にした。

「政治はパフォーマンスも大事です。ならば今までの体面や支配維持、王族や貴族だけの利益に執着する体制を良い意味で壊す〝新しい国〟で行うことで、民衆からの信用を確固たるものにしようと企んでるのでは?」

「……まあ話の流れから推測すると、そう考えるのが妥当だな」

 タタラの意見にメロヌスは同意する。

 テゾーロの活躍と出世の裏で、世界政府は民衆から冷たい目で見られることが多かった。特にフレバンス王国で起こった珀鉛病とその杜撰かつ非情な対応は世経(マスコミ)を通じて民衆の怒りを煽り、その上テゾーロに全責任を負わせる形で尻拭いをさせたことに政府加盟国からも非難が相次いだ。五老星が重い腰を上げる事態となり、テゾーロがいなければ世界政府から加盟国脱退を申し出る国も出たことだろう。

 そんな世界政府の中枢が、自分達の信用の回復と保身のためにテゾーロに泣きついた。おそらくそういうことだろう。

「……どうするの?」

「決まっているさ、ぜひ受けさせて頂く。……ちょっと先の話だが、オトヒメ王妃の約束を叶えるいい機会だ」

 ステラが投げかけた言葉に即答する。

 テゾーロにとって、この申し出は受け入れた方がメリットが多い。いつ国際問題が起こるかわからない世界会議(レヴェリー)を成功させれば、グラン・テゾーロは政府加盟国としてだけでなく世界政府公認の中立国としての名声を得られる。それに50もの国の要人が集まれば娯楽・観光事業に興味を示し、うまくいけば金が流れることとなり、莫大な金を手中に収め確かな評判も得られるかもしれない。

 何よりも人間との共存を目指して魚人差別撤廃に尽力するオトヒメ王妃の悲願の達成に直接つながる。何百年にも及ぶ負の連鎖を断ち切り、魚人達と人間達が仲良く暮らすという夢物語を現実のものとすることができれば、世界の在り方をより良い方向へ向けることも可能だろう。

「……問題なのはドフラミンゴぐらいだな」

 テゾーロが口にした名に、緊張が走る。

 そう、すでにドフラミンゴはドレスローザの国盗りに成功しているのだ。新聞の記事には必ず国家間の戦争が記されており、常に賑わせている。地域は様々だが、裏社会で闇取引を盛んに行うドンキホーテファミリーの影響は間違いなく受けている。

 ちなみに殺される運命であったリク王軍軍隊長キュロスの妻・スカーレットの消息は娘・レベッカと共に不明となっているが、何らかの手引きで生存してる可能性はあり得るだろう。

「……そいつも国王である以上、ここに乗り込んでくるってことになるのか」

「厄介なんだよなァ……相性最悪だし」

 転生者(テゾーロ)とドフラミンゴの相性は、本人が言っている通り最悪だ。

 ()()()()()()()()()()()であれば、ドフラミンゴと持ちつ持たれつの協力関係(ショービジネス)を築いていたのだが、今は、いやこの世界では違う。はっきりと対立し、その生き方も正反対だ。

 いつの日か、全面的な衝突が起こるだろう。

「……ドフラミンゴが本当に来るなら揺さぶりをかけてみたい所だが、壁に耳あり障子に目ありだ。誰が聞いてるかわかったもんじゃない」

「〝CP-0〟ですか……」

 ドフラミンゴはその出自ゆえ、政府内部でも相応の権力を行使できる。特に厄介なのは天竜人直属の世界最強の諜報機関である「サイファーポール〝イージス〟ゼロ」だ。天竜人の繁栄を維持するための超法規的措置がとられる活動を行うのだが、元天竜人のドフラミンゴも動かせるのだ。

 テゾーロも天竜人のクリューソス聖とコネクションがあるため、彼を動かすこともできるのだが、天竜人同士の内部争いが表沙汰になることを面倒に考えてもいる。ゆえにテゾーロも権力があっても今までやってのけた大胆な奇策をいきなり実行するわけにはいかないのだ。

「政治闘争は面倒だから、事を荒立てたくないってところがおれの本音だ」

「保身という点だけなら世界政府は行動早いですからね……」

 ドンキホーテ・ドフラミンゴか、ギルド・テゾーロか――

 いざという時、世界政府はどちらに与するのか。それが今後の世界にも大きく影響を及ぼす。経営者であり一国の主であるという点では同じだが、思想も目的も真逆な二人に五老星を筆頭とした政府中枢はどちらを切り捨てるのか。

 それは当事者すらわからぬ、各々の思惑が入り乱れる混沌の領域と言えた。

「おう! どうした揃いも揃って」

 そこへフェスタが登場。完全に余生を謳歌している陽気な老人と化した祭り屋は、緊張した空気を切り裂くように揚々と割って入った。

「祭囃子の予感がしたが、何かあったか」

「それがな――」

 テゾーロはフェスタに話を伝えた。

 すると一連の話を全て聞いたフェスタは、口角を最大限に上げて笑った。

「要はそのドフラミンゴの動きを抑えりゃいいんだろ?」

「あわよくば、ね……」

「だったら、このブエナ・フェスタ様を信じなっ! ()()()()()()ことだが、きっと役立つぜ」

「姑息な奸計は火に油ですよ?」

 釘を刺すテゾーロだが、フェスタは「まァそのへんも信じろ」と告げた。

「舞台を整えるのは興行師(おれさま)の仕事よ」

 祭り屋はニィッとあくどい笑みを浮かべたのだった。


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