ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~ 作:悪魔さん
世界政府に〝誓い〟をして早4ヶ月。
テゾーロの元に、財団時代から共に時代を駆け上がってきた盟友である石油王・スライスと腹心のコルトが現れた。
「大した奴だよ、本当に一国の主とはな」
「それを言うならお互い様だ、スライス。聞いてるぞ、〝新世界の黒幕〟と呼ばれてるらしいな」
石油王のスライスは、テゾーロと違って名門一族スタンダード家の当主である。若くして先代の事業である油田の開発や石油関連の商取引を継いで大成功している彼は、さらに海楼石の鉱床を発見したことで鉱山業にも着手している。それを世界各国に輸出することで新世界において盤石の地位を築き、それをさらに世界的企業にも流し、今では〝新世界の黒幕〟としてテゾーロと共に世界の勢力図に大きな影響を与える存在となっているのだ。
「怪物と黒幕……まさかこんなケツの青い金持ちとは誰も思わねェよな」
「それは同感だ」
互いにあくどい笑みを浮かべ、シャンパンを口に流し込む。
「……で、おれを呼んだ理由を聞こうか」
「コレ。アラバスタ王国からの書状」
「!」
瞠目するスライス。
「読み上げるぞ……」
――拝啓 ギルド・テゾーロ様
私はアラバスタ王国王女ネフェルタリ・ビビです。あなたにお願いがあって、この手紙を書きました。
今のアラバスタ王国の現状をご存じかと思います。今、祖国ではお父様……現国王ネフェルタリ・コブラが「ダンスパウダー」を使用して国中の雨を奪っているという疑惑が広まっています。当然父は身に覚えがないのですが、最近になって各町でダンスパウダーの袋が発見され、それが首都アルバーナに送られているという情報も回っているのです。
ダンスパウダーは世界政府が使用を禁じている代物。私はある男が黒幕であることを突き止め、その証拠をどうにか得ようとしている最中なので、今ここで疑惑を掛けられるわけにはいきません。
どんな些細なことでも構いません。お力添えいただけるでしょうか。
手紙を読み上げたテゾーロは、スライスとコルトに目を配る。
「……どう思う?」
「……コルト、お前は?」
「ダンスパウダーの原材料は銀です。特定の地域とはいえ、一国の首都に国中の雨を降らせるとなるとそれなりの量が必要でしょう」
「――となると、ダンスパウダーを造ってる連中は相当な資金を持ってるってことになる。多分ブラックマネーだろうな。だがコブラ王がそんなマネするとは思えねェ」
スライスは持ち前の頭脳で推測する。
アラバスタ王国は
「今のアラバスタが崩壊することで一番おいしい思いをする者――それが黒幕と言える」
「考えられるとすりゃあ……」
「「クロコダイル」」
二人の大富豪の声が揃う。
あの謀略家である切れ者海賊のクロコダイルならば、国盗りを仕掛けて自分の思い通りに事を上手く運ばせることができるだろう。目的はともかく、クロコダイルを放置するわけにはいかない。
「……今度この島で
「情報?」
「クロコダイルの拠点は大よそわかっているが、資金をどう得ているかを調べてほしいってこと。ルートがわかればそこを封じりゃあ、作戦も並行させて誘導ができる」
テゾーロの作戦は、
価格を高騰させれば、従来の資金獲得活動では必要な量を買いにくくなる。そうなれば、自ずと「黒い商売」に手を染めやすくなる。相手はクロコダイルゆえにそう簡単にはボロを出さないだろうが、彼の計画を狂わせるには悪くない手だろう。
「……水だって立派な資源だ。ましてや降水量の少ない地域なら時として金銀財宝以上の価値がつく。だからこそ、ここで
テゾーロの揺るがぬ決意に、スライス達は息を呑んだ。
*
シャボンディ諸島13番
ぼったくりバーの店主であるシャクヤクは、同棲中の生ける伝説シルバーズ・レイリーと共にある人物を迎えていた。
「おれ達も随分なジジイになっちまったな」
「ロジャーが生きてたら、どんな面になってんだろうな」
レイリーと団欒するのは、同じく元ロジャー海賊団の
そこへ店のドアを開け、古びた小さな宝箱を片手に軍服姿の男が足を踏み入れた。
「君は……」
「元海軍本部准将、現グラン・テゾーロ国防軍「ガルツフォース」の将軍・シードです」
「シード……テゾーロの?」
訪ねてきたのは、テゾーロの部下であるシードだった。
財団解体後は、ほぼ初となる邂逅だ。ましてやギャバンはテゾーロ財団設立期に関わったが仕事の都合上ほとんど顔を合わせることが無いため、とても新鮮な出会いだ。
「テゾーロの奴は元気か?」
「おかげさまで」
「……何やら聞きたいことがありそうだな」
レイリーの鋭い指摘に「さすが〝冥王〟」と苦笑しつつ、シードは告げた。
「これは〝祭り屋〟ブエナ・フェスタが見つけたモノです」
「ブエナ・フェスタ……またその名を聞くとは」
レイリーは顎に手を当てる。
フェスタは世代的にはレイリーや白ひげと同じであり、興行師としての一面が有名な大物海賊だ。覇王色や悪魔の実の能力などは持ち合わせていなかったが、持ち前の頭脳や口の上手さ、裏社会の
確か、彼はテゾーロとインペルダウンから解き放たれたバレットと行動を共にしているという話だ。
「この中身が本物か知りたいのです」
シードは宝箱を開け、中に入っているモノを見せる。
「……!」
「……おいおい、マジか……!?」
それは、レイリーとギャバンが見覚えのある代物だった。
遠い昔……ロジャー海賊団が歴史上初の〝
「何の冗談だ!!
破天荒極まりないが人一倍仲間想いな船長は、珍しく船員をキツく睨んだ。
その船員の手には、
「万が一の為です! もしまた必要になったら……!!」
「万が一? ならねェよ。おれ達の冒険は終わったんだ」
ロジャーは強引に
「こんなモンに頼る奴に手に入れられる宝じゃねェ。そうだろう?」
そう言い放ち、ロジャーは
「あー!! 船長~!! もう行けねェ……!」
「おれ達は……
船員が頭を抱える中、レイリーは未来に思いを馳せた。
「〝
「そりゃ、おれの息子だな!」
「……いねェだろう」
「これからできるってんだよォ!」
「まさか、あの時の
「こいつァ驚いたな……」
レイリーとギャバンは度肝を抜かれた。
二人はこの目で、ロジャーがラフテルの座標を記録した
「これはブエナ・フェスタが海難事故で海王類に飲み込まれた際、その腹の中で見つけたそうです。――あなた方の反応を見ると、本物のようだ」
シードの目的は、ブエナ・フェスタが見つけ出したラフテルの
というのも、バレットがロジャーの船に乗っていたのは大よそ三年程で、ラフテル到達の前――ロジャー海賊団と金獅子海賊団が激突した「エッド・ウォーの海戦」が勃発した辺り――に船を降りている。バレットはその後〝一人海賊〟として海を暴れ回り、海軍に捕まってテゾーロの目に留まり今に至っている。つまりバレットはラフテルに行っていないのだ。
ラフテルの
よって頼みの綱であるかつての
「とんでもない代物を手に入れたんですね、やっぱり……これが公表されたら世界がひっくり返る。下手をすれば世界規模の争いの火種になりかねない」
この宝の存在を、あらゆる勢力が無視できないだろう。ラフテルの
世間では〝
そうしないのは、テゾーロが海賊ではないことやそれ以上の叶えるべき野望があるからだ。しかし彼の手元には
「だからこそ、テゾーロさんはバレットを……」
「「そこを詳しく」」
ギャバンとレイリーは、かつての
シードは一呼吸置いて、二人にバレットの現状を伝えた。
「――知っての通りでしょうが、〝鬼の跡目〟ダグラス・バレットは、テゾーロさんと手を組んでます」
「……新聞で知ったが、本当だったんだな」
レイリーは驚愕する。
バレットはオーロ・ジャクソンに乗っていた三年間、常に一人であることが多かった。過去の経験から仲間は不要と考えており、己自身の為に生きてきたからだ。そんな孤高主義な彼を動かせたのは、一味では
あの一匹狼を動かせたのは、ロジャー以外ではテゾーロが初めてなのかもしれない。二人の出会いに何があったのかは直接聞くしかないが、仲間という扱いではないようだ。
「……ここから先は、僕の個人的な用事です。ラフテルの
「君の用事とは?」
「バレットの三年間を詳しく知りたい。僕はバスターコールを発令された時が初めてでした。それ以前のロジャー海賊団時代のバレットを教えてほしいんです」
同じ元軍人ながら、まるっきり正反対なバレットとシード。
シードは大まかにしか知っておらず、一番大事な時期を詳しく知らない。迷いなく突き進むバレットが人生で最初で最後の「寄り道」である、ロジャーの〝挑戦者〟であった時期……そこを知ることで、強さの求道者と良好な関係を築きたいと思ってもいる。
――この海を一人で生きてる人間はいないと、気づいてほしかった。
「いいだろう。我々がバレットと初めて出会ったのは――」
〝鬼の跡目〟の伝説が開幕した瞬間を、レイリーはシードに語り始めるのだった。
そろそろ世界会議に入ります。
ちょうど原作開始から二年前なので、エースやサボもどこかで首突っ込むと思います。
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