ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~ 作:悪魔さん
そろそろアラバスタ編も終盤へ……!
明朝、アルバーナ郊外。
200万の反乱軍が、馬やラクダを疾走させ、地響きと共に首都へと押し寄せていた。
その先頭には、反乱は全て仕組まれたものだったという事実を知った指導者・コーザが。
(すまなかった、ビビ……この反乱が仕組まれたものだというのに……!)
自責の念が支配する。
コーザはつい先日まで、国王が雨を奪い国を裏切ったと思っていた。だが真実は、英雄として国中から讃えられている王下七武海のクロコダイルが黒幕で、彼こそがアラバスタを滅ぼす国盗りを仕掛けた張本人と知った。
この衝撃の真相を伝えたのは、一代で国を樹立させた世界一の大富豪ギルド・テゾーロとその忠臣達。彼らが外交目的でアラバスタに来訪し、この一連の反乱に首を突っ込まなければ、今頃多くの血が流れ、クロコダイルの完全勝利だった。
アラバスタの為にと今までしてきたことの全てが、無意味で愚かなことだった。ビビや王国側は必死にクロコダイルの周囲を嗅ぎ回っていたのに、コーザはクロコダイルの片棒を担いで国を滅ぼすコマとなった。
そんな自分が許せず、情けなかった。
(だが真相は知った。おれが蒔いた種だ、おれが摘まなきゃならない!)
敵は知れた。
倒すべきは真の国賊――海賊サー・クロコダイル。アラバスタを助けてくれていた英雄ではなく、アラバスタを滅ぼさんとする無法の野心家。
ここまでの事態になった以上、何の犠牲もなく終結を見せる戦いではなくなった。
(クロコダイルのことだ、すでに王宮に向かっているはず……! おれが止めなきゃ筋が通らねェ!)
コーザは今度こそ国の為に、王宮へ向かった。
時同じくして。
「ハァ、ハァ……」
「ちっ……」
「くっ……さすがに〝海の掃除屋〟は手強い……」
イチジとニジ、そしてハヤトの戦いは、終盤を迎えていた。
最新の科学力と堅牢な肉体で幾戦もの戦場をくぐり抜けた戦争屋と、海を荒らし回る海賊達を相手に単身渡り合ってきた元賞金稼ぎ。両者の戦いは熾烈を極め、互いに消耗しきっていた。
コブラはそれを、猿ぐつわをされたまま見守るしかない。
すると、ハヤトの眼前で砂煙が上がった。それは渦を巻いて砂の塊となり、人のカタチとなる。
「――クハハハハ……ここまで嗅ぎつけるとはな、テゾーロの狗」
「クロコダイル……!!」
顔の横一文字の傷に、鋭い鉤爪。
この内乱の黒幕である男、クロコダイルだ。
(クロコダイル……貴様……!!)
「随分と憔悴しきってるな……まあ、くたばってねェあたりはさすがだ」
言葉では称えつつも、その顔は嘲りに満ちている。
その笑みに、ハヤトは昔を思い出し、血走った目で睨んだ。
「お前のような奴がいるから……海は……!!」
歯を噛み締めながら、凄まじい怒りを露わにする。
海賊に両親を殺されたハヤトは、テゾーロの部下の中で最も海賊という存在を憎んでいる。上司であるテゾーロの立場や秘めたる野望を尊重しているのであって、幼少期から魂に刻まれた海賊への怒りと憎悪は一度も薄れていない。
正義感が強く、海賊狩りに情熱を注いだ海兵の父。常に温かく成長を見守ってくれた母。ハヤトにとってかけがえのない存在は、海賊によって殺された。父は剣でズタズタにされ、母に至っては殺された後に遺体を奪われた。
クロコダイルの嘲笑は、嫌でもあの悲劇を思い浮かべる。
「海賊の旗で……海が汚れる……! 海賊の自由は、海の敵だ……!!」
「……下らねェ妄執だ」
呆れるクロコダイルは、コブラを自分の肩に背負い担ぎ上げた。
「ご苦労だったな。報酬はきっちり払うぜ」
「――ああ。行くぞニジ」
「ちっ……わかったよ」
成すことが終わったと、イチジとニジも撤退を決めた。
ハヤトは疲弊した身体に鞭を打ち、剣を構えた。
「逃がすか……!! 海を穢すお前達を、ここで殺して……!!」
「クハハハ……負け犬の遠吠えだな。〝
掌から小さな旋風を起こして砂嵐を巻き起こし、全てを吹き飛ばす。
ハヤトはすかさず扇を取り出し、覇気を纏った突風で弾き返すが、その時にはすでに四人は姿を消していた。
「クソッ……取り逃がした……!」
己の未熟さを恥じ、悔しがるハヤト。
疲弊した今では、クロコダイルを追撃できない。出来るとすれば残りの面々だ。
(すまない……あとは頼む……)
ハヤトは日陰まで移動し、岩に背を預けて休んだ。
*
そして、首都アルバーナの王宮。
「どうやら、
反乱軍のものであろう巨大な砂煙を目にし、テゾーロは小声で呟く。
自らの介入で原作とは展開が大きく異なり、優秀な部下達のおかげで被害も犠牲も最小限に済んでいる。反乱軍も真実は知っているので、あとはクロコダイル達を打ち倒せば全て終わる。
「真実を知った者達が、祖国を脅かす悪党共を討とうと決意を固めた。あの切れ者は甘くないが、彼さえ倒せれば残りの面々は烏合の衆。おれが介入するまでもない」
テゾーロはチョイ役で、彼らが主役。それ以外の何物でもない。
ゆえに、テゾーロは介入はすれど
「――そうだろう? Mr.スパンダイン」
芝居がかった様子で振り返ると、そこには黄金に囚われた親子が。
かつてテゾーロによって世界政府から追放された、スパンダインとスパンダムだ。
「ギルド・テゾーロ……!」
「テゾーロ、てめェ! こんなことしてタダで済むと思うなよ!!」
「強がりは大歓迎だ、あとが面白い」
怨嗟の声を浴びても、絶対的優勢は変わらず。
二人は忌々しげに睨みつけるが、テゾーロは悠然と笑う。
「それにしても、こうして顔を合わせると感慨深いな……」
地位と権力を傘にやりたい放題してきた、俗物スパンダインとその息子のスパンダム。
ド底辺から天上まで一気に駆け上がり、名実共に世界一の大富豪となったテゾーロ。
今この場で、権力者ながらも全く正反対に位置する者達が、因縁と共に対峙しているのだ。
「まあ、今はどうだっていい。単刀直入に言う……お前達は終わりだ」
慈悲など無用と言わんばかりに、絶望を叩き込む。
すでに政府内では、悪代官の粛正が始まっている。サイファーポールでは部下のサイが介入し現長官のラスキーが主導して行い、船大工トムの一件で露見した腐敗ぶりを機に
世界政府の体制の改善は、テゾーロの革命という野望の一部だ。それは成就寸前まで進んでおり、もう数年経てば世界政府は生まれ変わる。虎の威を借りる狐が蔓延る旧時代の政府高官は、生き場所を失ったということだ。
「「……!?」」
「イッツ・ア・エンターテインメント! 間抜けの君達には感謝するよ、あんなバカをやらかしてくれたおかげだ!」
テゾーロは呆然とする二人に拍手喝采。
そうだ。もしスパンダムがもう少し狡猾で警戒心の強い性格だったら、もしスパンダインが勘が鋭く洞察力も高かったら、テゾーロの野望が成就するのはもっと先……最悪実現不可能だったかもしれない。
この親子が無能だったからこそ、成り立つシナリオだったのだ。
そうと理解し、顔を真っ赤にして怒りを露にする。ハメられたのだから当然だが、残念ながら二人を擁護する者もテゾーロを非難する者もいない。自業自得なのだ。
「テゾーロ! てめェが何をしても無駄なんだよォ!」
「無駄かどうかは
「はん! てめェをよく思わねェ連中は、この海には腐る程いんだよ!! ドフラミンゴも!! CP-0も!! 世界中に喧嘩売ってんだ、お前のことを五老星と
「……今何つった?」
スパンダムの聞き捨てならない発言に、テゾーロは訊き返した。
それと共に、スパンダムもスパンダインも顔を真っ青にしていく。どうやら
「フフ……ハッハッハッハ!! そうでしたか、まさかもっと繋がっている面々がいるとは……ぜひ詳しく聞かせてほしい」
「な……い、今のはウソだ!! はは……どうだ、ビビったか!?」
(いや、結構心配にはなったよ? そっちの身の安全)
本音は隠しつつも、テゾーロは彼の言葉にウソは混じってないという確信を持った。
ウソが下手というか、交渉術がズブの素人なのだろうが……〝見聞色〟の覇気は相手の気配をより強く感じたり動きを先読みするだけでなく、生物の発する心の声や感情を聞いたりすることができる。それを交渉術に応用すれば、相手の言葉の真実味を確かめることができる。
テゾーロは〝見聞色〟を使用しながらスパンダム――父親の方はそこまで間抜けじゃないらしい――から情報を引き出すことにし、見事吐かせることに成功した。それも一片のウソも無い情報だ。
(しかし、ドフラミンゴは想定できたがCP-0もか……)
自分の部下であるサイは、現在のサイファーポールの高官だ。
だがCP-0は、サイファーポールとは別の存在と言っていい。何しろ天竜人直属の組織だ、任務内容は全て超法規的措置な上に海軍元帥すら超越する権限もある。サイが彼らの裏事情を知ることができるわけもない。
それよりも気になったのは「五老星と
だがその上となれば話は変わる。テゾーロは長年政府と付き合ってる分、そういう存在がいるのは勘づいてはいたので驚きはしない。だが表立って敵対すれば、身内も大変な目に遭う。それだけは避けねばらない。
「……まあ、この戦いが終われば好きなだけ尋問できる。幸い、そういうのに詳しい部下が一人いるからな」
「ひっ……!」
「せいぜい楽しんで待ってくれたまえ」
怪物の嘲笑に、欲深い親子は戦慄したのだった。
今思ったんですけど、スパンダムやスパンダインは政府機関の重役。
原作でサカズキ元帥は「五老星の上」がいること自体は知っていたので、あの親子もイム様の存在は薄々知っていたのではないかなと思ってます。いるかいないかのレベルですけど。
本作では、名前とかは知らないけど実は五老星の上がいるんですよ的なノリで描写しています。