ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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シャンクスがついに劇場版登場か……超楽しみ!
しかし、敵キャラはバレットを超えるのだろうか……。


第154話〝理想論と力〟

 ニコ・ロビンによって海楼石の手錠をかけられたテゾーロ。

 といっても、片手だけ嵌められたのであって両手は利く。ただし思うように力が出ないが。

 そうとなれば、あとは知恵を振り絞るしかない。

(この頃のロビンは()()()敵のはず。だが賭けるしかないな)

 ニコ・ロビンとクロコダイルは、ビジネスパートナーの関係だ。

 最終的にはクロコダイルはロビンを切り捨てたし、ロビンもロビンで最後までクロコダイルの味方についてはいなかった上、考古学者特有の歴史への探求心は失ってないままのはず。

 テゾーロにとって、その関係こそが突破口のカギとなる。テゾーロには多くの手札があり、ロビン本人も喉から手が出る程の代物ばかり。それをチラつかせるだけでも大分違う。

 いや、そもそも裏のルートで存在自体は知ってるかもしれないが、この際どうだっていい。今はロビンを信じる他にない。

「クハハハ……割とあっけないな。ギルド・テゾーロ」

「あんまり余裕ぶってると足を掬われるぞ」

「負け犬の遠吠えだな。お前とて海楼石の手錠には敵うまい。脇が甘かったな」

 テゾーロの動きを封じることに成功し、勝利を確信した笑みを浮かべるクロコダイル。

 一方のテゾーロは、内心焦ってもいた。

(コーザが来ない……やはり()()()()()()()!?)

 そう、「この場面」は本来、反乱軍のリーダーであるコーザが乗り込んでくるはずなのだ。

 原作においてコーザは、戦いが王宮内に及ぶ前に国王(コブラ)を説得しようと、子どもの頃よく使った〝抜け穴〟を通って王宮内に侵入した。そこで国を裏切ったはずの国王が流血で拘束され、チャカが国の英雄クロコダイルに殺されかけている場面を目にし、真実を知る――というものだ。

 それがいつまで経っても来ない。テゾーロの読みは、反乱軍に真実を伝えることに成功したため、もう少し早く来るのではと踏んでいた。ということはつまり……。

(おれの知らないところで、足止めを食らったか……!)

 バロックワークスの兵力は、両軍に大勢のスパイを入れられる程。そして今回、ジェルマ王国の介入も発覚している。

 もしかすれば、原作より厳しい状況に置かれているのかもしれないのだ。

「くっ……」

「逃げなさい!! ビビ!! その男から逃げるんだ!!!」

 焦るテゾーロが次の手を考える中、コブラは父として娘に撤退の指示を出した。

 万が一のことがあれば――ビビまで失うことになれば、それこそアラバスタが終わる。クロコダイルの天下になるのだけは、王としても避けねばならないからだ。

 だが、ビビは引かない。

「まだ15分ある!! それまでに砲撃を止めれば犠牲者は減らせるわ!!!」

「目ェ醒ませお姫様……見苦しくて敵わねェぜ、お前の理想論は」

 クロコダイルが呆れたように口を挟んだ、その時。

「――理想とは、実力の伴う者のみ口にできる〝現実〟だ」

『!!』

 その言葉に、一同は一斉にテゾーロを見る。

「おれはおれなりに全部救おうとした。地下闘技場もフレバンスも……命続く者は平等に救けようとした」

 テゾーロは――テゾーロに成り代わった〝彼〟は、あらゆる手段と知識で困難を乗り越えた。

 テキーラウルフも地下闘技場も何もかも、原作で起きた悲劇に介入し、それをよりよい未来へ向けられるように全力を尽くした。ゆえに彼は天竜人と同等の富と権力と名声を得た。

 だが、犠牲を一切払わずに済んだかと言えば、それは否だ。

 駆けつけた時には少年少女の亡骸を見た。支援事業の最中に事切れた病人は多かった。莫大な富も強大な権力も有してなお、その手で救えなかった者達がいる。誰かが幸せになれば、その裏で必ず誰かが不幸になるように、テゾーロの成功の陰にはそれに見合った代償があるのだ。

「全てを救おうという考えは素晴らしいことさ。でもその為にはその考えに相応しい代償を払わなきゃならない」

「……クハハハ! さすが〝新世界の怪物〟と言ったところだな。この国のバカな人間達と違って「世の中」を理解してる」

 現実主義的(リアリズム)な言葉を口にしたテゾーロを、クロコダイルは好感を抱いたのか微笑んだ。

「まあ、おれは権力者としても一人の人間としても、ビビ王女のような言葉が好きだ」

「テゾーロさん……」

 フッとビビに微笑み、テゾーロは見聞色の覇気を発動して限界まで精度を高める。

 その圏内に、急速に王宮へ向かってくる気配が二つ。

 ようやく来たか――テゾーロは不敵に笑い、クロコダイルに問いかけた。

「……さて。サー・クロコダイル、脇が甘いのはお前もさ」

「何……?」

「おれだって考えなしに首は突っ込まない。お前の用意周到さと狡猾さは百も承知だ……だから〝保険〟を用意しておいた。それもとっておきのな」

 そう言ってテゾーロは天を仰ぐ。

 釣られてクロコダイルも顔を向けると……。

「――っ!? バカな……!!」

 その姿を捉え、顔色が一気に変わる。

 太陽の光の中から一直線に落下してくる黒い影。それは、レインベースで仕留めたはずの……!

 

「クロコダイル~~~~~~~~~~!!!」

 

 怒りの雄叫びを上げるのは、クロコダイルに敗れ、復活を果たした海賊〝麦わらのルフィ〟だった。

「ルフィさん!!」

「麦わらァ……どうやってあの流砂から……!!」

(それ、すぐそばのロビンだろ……)

 歓喜するビビに対し、怒りと困惑を露にするクロコダイル。

 事の顛末はテゾーロの思った通りである。

「ルフィさん……!! 広場の砲撃まで時間がないの!! だから……」

「心配すんな。お前の声ならおれ達に聞こえてる!!」

 ビビにそう返し、麦わら帽子を被り直す。

(わり)ィな、金ピカのおっさん。おれ、あいつにいっぺん負けちまったんだ」

「金ピカのおっさんって……いや、もう四十手前だからおっさんは否定しないけどさ……」

 ルフィのあだ名に思わずジト目になる。

 が、ここは彼に譲ることにしているのは心に決めており、テゾーロは手錠をどう解除しようか考え始める。

 すると――

 

 ガシャン!

 

「!?」

「!! ……何のマネだ、ミス・オールサンデー」

 その音を聞き、クロコダイルは激怒した。

 何とテゾーロに手錠をかけたロビンが、自らテゾーロの手錠を外したのだ。

「ニコ・ロビン……!?」

「あなたが私を切り捨てるつもりなのは薄々わかってたのよ。裏切るタイミングを伺ってただけに過ぎないわ」

「貴様……」

 クロコダイルはパートナーのロビンが自分と早々に縁を切る腹積もりだったと知り、殺す勢いで睨みつけた。

 しかし裏社会で長く身を置いたロビンに、大物海賊の殺気は効かない。一切怯まずに微笑んだ。

「私の夢を続けるためよ。ゴメンなさい、Mr.クロコダイル」

「そうか……残念だ」

 刹那、クロコダイルの姿が一瞬で消えた。

「――しまった!」

 テゾーロはハッとなり、能力を発動してロビンの背後を護るように黄金を飛ばしたが……。

 

 ドシュッ!

 

「その通りだ、ニコ・ロビン。おれは最初(ハナ)から誰一人として信用しちゃいねェのさ……!」

 間に合わなかった。

 鉤爪で胸を貫かれ、吐血と共に倒れ伏すロビンを、クロコダイルは嘲笑った。

「プルトンの存在はコブラの反応で予想はついた。お前がいなくとも自力で探すさ。〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟が読めなくとも、この国を手に入れりゃあ時間の問題だ……!!」

「お前……仲間じゃなかったのか!?」

「仲間? クハハハ……くだらねェことを訊くもんだな〝麦わらのルフィ〟。おれとコイツは互いの利害の一致で結託していたに過ぎねェ。そんな関係のどこが仲間だ?」

 仲間であったはずの相手に手をかけたことに怒るルフィ。

 だがクロコダイルは「信頼はこの世で最も不要」と豪語する男であり、冷酷なエゴイストだ。仲間に対する情は皆無だった。

 一方のテゾーロはロビンの元へ向かい、能力を発動して黄金の指輪を融かした。

「……今死ぬと困るんだよ、ニコ・ロビン」

 液状化した黄金はベチャッという音を立て、ロビンの胸に落ちた。

 ピキピキと音を立てて固まり、まるでカサブタのように傷口に被さった。

「何の……つもり……?」

「安静にしていれば命は助かるかもな。包帯や傷薬が無いのでね、おれ流の応急処置だ」

 テゾーロは傷口に自らの支配が及ぶ黄金が入り込み、止血状態にさせたのだ。

 ただし、これは本当にその場しのぎ。適切な処置をしなければ命の保証は無い。

「理解に苦しむぜ。そいつ一人死んでも世の中大して変わりゃしねェだろうに」

「過去は変えられないが、未来は変えられるものだ。それにおれはあくまで止血しただけ……あとは彼女の〝自由〟だ」

 テゾーロは人生の終幕はその者が決めることだと語る。

 ここで死ぬと、今後のルフィの冒険に大きな影響が出るだろうが、個人の意思を尊重するとはそういうものだ。彼女がこの王宮を死に場所と決め、それを覆す気が無いのならそれまでである。

「……麦わらのルフィ。この場は任せるぞ」

「? おう」

「テゾーロさん、どこへ……」

「砲撃を止めに行く。大方の予想はついているからな」

 テゾーロはクロコダイルの相手をルフィに任せ、特製の爆弾の砲撃を止めに向かうという。

 その言葉に偽りがないと判断したクロコダイルは、一瞬で距離を詰めて鉤爪を振るったが……。

 

 ドォン!

 

「!?」

 ルフィは一直線にクロコダイルに向かって行き、鉤爪を蹴り上げた。

 その直後、()()()()()()()()()()

 殴ることもできなかったはずのルフィの拳と蹴りは、クロコダイルに確実に衝撃を与え、クロコダイルは口から血を流して地面に倒れた。

「貴様……!」

「あの時、お前の手にかかった〝ユバ〟の水が教えてくれたんだ」

 ルフィはホースで背負った樽の水を手に浴びせる。

 スナスナの実の弱点は、物理攻撃が通じない自然(ロギア)系だが、覇気のほかにもう一つ存在する。水などの水分で濡れると本体が砂化できなくなるのだ。

 アラバスタから雨を奪うのは、反乱を起こして国盗りを成功させるだけでなく、自らの弱点となる手段を封じるためでもある。

「これでお前をブッ飛ばせる。これからがケンカだぞ!!!」

「……ククク……!」

 そして、〝麦わら〟と〝砂漠の王〟の第二ラウンドが始まった。

 

 

 王宮から離れたテゾーロは、ロビンの手当てをするべくある建物にいた。

「――ああ。至急来てほしい。適切な治療が必要だ。……場所? 見聞色で察知できるだろ。あと五分後なら、こっちから出向く。頼むぞ」

 子電伝虫で通話を終え、ベッドに横たわるロビンを見下ろす。

「……私に、何の用……?」

「お前に一つ、問いたいことがある」

 テゾーロは真剣な眼差しで問い掛けた。

「お前は〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟で、何を得るつもりだ」

「どういう、つもり……?」

「おれは……この世界に革命をもたらす。武力ではない方法でな。だがそれを阻む者がいるのなら、おれは一歩も引かず立ち向かう」

 それが、覚悟というものである。

 夢や野望を叶えるということは、それを阻む全ての存在を蹴散らさねばならない。その覚悟を持つ人間が、この世界で成り上がるというものだ。

「……人を傷つけるものに、必ずしも悪意があるとは限らない。興味本位や好奇心で破滅を招くことなどザラとある。お前は、どうなんだと聞いている」

 世界政府にとって不都合な歴史が刻まれているのが、〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟という碑石。ロビンはそれを読み解くことができる、世界で唯一の存在。世界政府はおろか四皇にも狙われる立場だ。

 そして〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟の中には、世界を滅ぼす三つの「古代兵器」の在処を示す文がある。その在処を知ったとしてもロビンは手に入れるつもりはないだろうが、何らかの形で情報が漏洩した場合、古代兵器の争奪戦が勃発する。

 それが海賊、あるいは悪意ある誰かの手に渡れば、間違いなく世界は滅びる。そうなってはテゾーロの野望は二度と成就することは無い。

 己の為、世界の為に、テゾーロは改めて問い質した。

「お前の興味は……好奇心は世界をどうするつもりだ」

 その言葉に、ロビンは静かにある一言を告げた。




次の話で今年度最後になるかもしれません。
来年あたりに作者から重大発表もあるので、お楽しみに。

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