ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~ 作:悪魔さん
クロコダイルの反逆と失墜のニュースが、全世界に衝撃を与え続ける中。
海軍本部の元帥室では、センゴクがある人物と会話していた。
《あのクロコダイルが……!?》
「ああ、つい先日だ」
好物のおかきを頬張りながら、センゴクは極秘任務中の部下――ロシナンテと会話する。
かつてロシナンテは、ドンキホーテファミリーの幹部として潜入していたが、ヴェルゴの内通や自らの失態によって壊滅作戦を失敗してしまった。しかしテゾーロの部下のアオハルによって命を救われ、センゴクはその後もドンキホーテファミリーを追うように指示している。
そしてロシナンテは、10年も前から新世界の政府加盟国「ドレスローザ」の外れにある無人島・グリーンビットに潜伏し、実兄の監視を続けているのだ。
「ロシナンテ、そっちの様子はどうだ?」
《グリーンビットはファミリーも近寄らないので、いい隠れ家です。協力者も大勢いますので、今のところ大事には至ってません》
「そうか……」
センゴクは目を細めた。
ロシナンテの極秘任務は、センゴク自身も成功確率がかなり低いと考えている。頭の切れる海賊であるドフラミンゴを失墜させる計画だ、長い時間と綿密な内容でないと打倒は困難を極める。
《……センゴクさん、おれ達は今、ドフィを止める作戦を練ってます。ただ、それを成就させるにはまだ時間がかかります》
「兵が足りんか?」
《兵力と言えば兵力ですが……ファミリーを倒すには、いくつかの段階を踏まなければならないんです。それを満たせる人材が来ないと……》
「そうか……私としても、お前の負担は軽くしたいのだが……」
センゴクはもどかしさを覚えた。
ドンキホーテファミリーを今度こそ壊滅させるべく動いたが、七武海に加盟した以上おいそれと手を出せなくなった。その上、ドフラミンゴ自身の出自が出自であるため、天竜人が絡んできてしまう。
海軍元帥は海軍の総大将だが、同時に世界政府の中間管理職でもある。五老星はともかく、同期ですらゴミクズ呼ばわりする天竜人の命令まで受けなければならないため、元と言えど天竜人のドフラミンゴは簡単に潰せない。
「やはり、海軍では無理なのか……」
《こんなこと言うのは海兵として失格かもしれませんが……海賊か革命軍が関わってくれると、センゴクさんも動きやすいかもしれません。捕縛を口実にできますから》
「……ガープなら、そう言うだろうな……」
センゴクは呆れたように笑うと、ロシナンテに指示した。
「私もテゾーロを通じて揺さぶりをかけてみよう。今のあいつは政府中枢にも影響を与える。テゾーロが何らかのアクションを起こす動きがあれば、こちらからまた連絡する」
《センゴクさん、ありがとうございます》
「うむ。通話は切るぞ、盗聴されては敵わんからな」
今も息子のように可愛がっている部下との秘密のやり取りを終え、センゴクは新聞に再び目を通す。
(テゾーロ……こいつは昔から常識や固定観念に縛られぬ男だった。この男ならば、ロシナンテの助けになれるやもしれん)
智将と称される男は、絶対的正義の名の下に「奇策」に打って出ようとした。
*
聖地マリージョア、パンゲア城。
城内にある「権力の間」にて、世界政府最高権力の五老星が海軍の使者から報告を聞いていた。
「何、〝赤髪〟が?」
「ええ……不穏な動きを」
海兵曰く、使者を使った間接的なものではあるが〝白ひげ〟と〝赤髪のシャンクス〟が接触したという。
両者は共に四皇として新世界に君臨する海の皇帝。彼らの動向は海軍や世界政府にとって最重要事項の一つで、万が一武力衝突となると戦闘どころか
だが、シャンクスは自分から世界を混沌にさせようとする男ではないため、政府上層部もある種の信頼を置く者もいる。五老星も例外ではない。
「別に自ら動いたわけではあるまい。下手に動かず様子を見ればよい」
「うむ。それに赤髪と白ひげであれば、テゾーロが接触していると聞く。いざという時は奴を仲介させれば穏便に事が済むだろう」
「テゾーロは世界政府にとって利のある
後ろで手を組む長いひげを蓄えた五老星の一声に、四人は頷いた。
テゾーロの実績は、はっきり言って勲章や昇格というレベルではない。政府が抱える諸問題を次々と解決し、民衆からの信頼を損なわずに事を済ませてきたのだ。もみ消しや抹殺は世界政府の得意分野だが、テゾーロのやり方は回りくどかったり肝を冷やすようなことあるが非常に重宝している。
交渉人や調停役としても、多くの大物を相手取った彼ならば五老星も一任できるのだ。
「それより今は七武海だ。クロコダイルの後任を急がねば……穴一つとて甘く見るな、三大勢力の陣営崩壊は世界に直接ヒビを入れる」
刀を抱える白い着物姿の五老星は、七武海の件を口にした。
新聞ではテゾーロの活躍となってるが、〝D〟の名を持つ海賊によってクロコダイルが倒されたことは政府にとって不都合だ。真の討伐者の情報が出回る前に後任を決めねばならないのが彼らの本音でもあるのだ。
「七武海の招集はかけてはいるが、期待はできんな」
「それにしても、厄介な男が現れたものだ」
五老星は溜め息を吐きながら、クロコダイルを倒した海賊〝麦わらのルフィ〟の手配書を眺めるのだった。
*
世界政府を直接倒そうと活動している組織「革命軍」の総本部にて、総司令官ドラゴンはクロコダイル討伐の報せを聞いていた。
「クロコダイルが倒れたか……」
「これで七武海に空席ができたので、政府は穴埋めに躍起になるでしょう」
「――ジェルマの件はどうなった?」
「いえ、クロコダイルの身柄拘束の前から撤退していたようで、アラバスタ周辺の海域には影も形も……」
部下の報告に、ドラゴンは静かに「そうか」と呟いた。
アラバスタの内乱の一件で、ジェルマ王国が絡んでるという情報があり、実際に潜入調査に当たった部下達も彼らと思われるいくつかの証拠を回収できた。
が、肝心のジェルマ
「それにしても、ギルド・テゾーロは時の人ですね」
「ああ、世界政府もいい広告塔を持ったものだ。おそらく政府側の人間では一番真面な感性を持っているだろう。ダグラス・バレットとブエナ・フェスタが関与した時は一時はどうなるかと思ったがな」
ドラゴンは天を仰ぐ。
テゾーロの思想は、おそらく革命軍に寄っていて、やり方は違えど方向性は同じ。
彼とうまい具合に付き合えば、革命軍側の犠牲も抑えることができる。それこそ、世界政府を内側からも変えられる。
ドラゴンとしては、ギルド・テゾーロという男との武力衝突は避けたいのが本音なのだ。
「……とすれば、次はドンキホーテファミリーを狙うかもしれんな」
「ドンキホーテファミリーを……!?」
ドラゴンの一言に、その場にいた構成員達は一斉に顔を向けた。
ドンキホーテ・ドフラミンゴが率いるドンキホーテファミリーは、闇取引を主に活動としているため、海賊団というよりも犯罪組織という方が正しい。彼らは七武海の特権も利用して世界中の戦争地帯への武器の密輸をしたり、世界各地での人身売買といったヤバい犯罪に手を染めている。
これをテゾーロが快く思わないのは、火を見るよりも明らか。近い内に〝新世界の怪物〟と〝天夜叉〟の抗争が起こり得るのかもしれない。
「これからはテゾーロの動向にも注視しろと、世界中に散ってる幹部達にも周知させろ。今後の展開次第で、革命軍の指針を変更する必要も出てくるかもしれん」
『はっ!!』
*
シャボンディ諸島では、かつてテゾーロに覇気を教えたシルバーズ・レイリーが新聞を読んでいた。
「フフ……随分と活躍してるじゃないか」
「レイさん、何だか嬉しそうね」
ぼったくりバーの店主である、シャッキーことシャクヤクは煙草を吹かしながら笑う。
62歳となる美魔女である彼女も、テゾーロの活躍は面白いそうだ。
「まさか、あのガキがこうも化けるとはな。レイリーもビックリしたろ?」
「……そうだな」
隣に座るかつての仲間――スコッパー・ギャバンが酒を片手に語る。
元ロジャー海賊団である二人がテゾーロと邂逅したのは、数十年近く前。テゾーロ財団がまだあった頃だ。当時は一介の青年実業家にすぎず、まだ青臭さも残っていた。〝黄金帝〟という異名には程遠いものだった。
それが今となっては、世界の勢力図すら書き換えかねない程の大物となった。人間とはよくわからないモノだ。
「なァ、レイリー。今度暇ができたらおれ達であいつんトコに顔出さねェか? カジノで賭け事やりたい放題だ、シャッキーも飽きねェだろうし」
「久しぶりに会ってみたいのはあるわね」
「それもいいな。手配書を破棄するように言っておくか。そうすれば伸びやかに隠居できる」
旧世代の元海賊達は、顔見知りの富豪をどう強請ろうか語り合うのだった。
「FILM RED」が楽しみで仕方ない!
ウタちゃんもタイミング見計らって本作でも出そうと思います。