ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~ 作:悪魔さん
一度目はライブのシーンや戦闘シーンに圧倒されましたが、二度目は泣きそうになりました。(本当です)
クライマックスの戦闘シーンのBGMは最高でした。「新時代」の曲調に「ウィーアー!」のメロディが交ってるの二度目で気づいて……!
個人的には、赤髪海賊団バージョンの「ビンクスの酒」とか聞きたかったなァ……なんて。
ちなみにアニメ映画で泣きそうになったのは、作者は人生初です。無限列車でも泣かなかったのに……。
世界が慌ただしくなりつつある中、グラン・テゾーロでは。
「そうか……クリューソス聖が……わかった、どうもありがとう」
ガチャリと自室の電伝虫の受話器を下ろし、テゾーロはソファに座り込む。
その顔には、哀しみの表情が浮かんでいた。
先日、天竜人のクリューソス聖が病で逝去したと、同じ天竜人で親交のあるミョスガルド聖から電話があった。
クリューソス聖は、天竜人でありながらテゾーロに力を貸し、世界的大物に昇り詰めて大きな影響力をもたらすきっかけとなった人物。彼がいなければ今のテゾーロはなく、恩人の一人でもあった。
そんな彼が死んだのだ。最後にあった日は若干病気がちであったので、体調に気を付けるよう連絡を取り合ってはいたが、ついに再び会うことなくこの世を去った。
盟友であるスタンダード・スライスも、彼と親交があった。もしかすれば、彼も今頃哀しんでいるのだろう。
「……献杯」
テーブルに置いてあったグラスに酒を注ぎ、一気に飲み干す。
彼の意志を継ぎ、時代を変え、革命をもたらすため、テゾーロは決意を新たにした。
*
翌日、テゾーロは国王としての執務をしている最中に電話をもらった。
電話の主は、エレジアでウタと暮らすゴードンだった。
「直接会って話をしたい?」
《烏滸がましいだろうか?》
「こちらとしては問題ないですが……現職の国王という立場ゆえ、そちらに使者の船を送ります。国王が度々国を飛び出すと面倒ですので……よろしいでしょうか?」
《それはありがたい……! エレジアの元国王だった私も、その気持ちはわかる》
ゴードンは明るい口調で答えた。
今のウタの育ての親である彼は、エレジアが
それに、テゾーロは慈善事業に精力的に取り組んでいることでも有名で、最近ではアラバスタの復興支援でもその名を轟かせている。やり方は違えど方向性の近さから、ウタにとってもいい刺激となり、外の世界をほとんど知らない彼女の良き友人になってくれるだろうという期待もあった。
「実は……この件にはシャンクスにも手伝ってもらってましてね」
《シャンクスが……!?》
「ええ。ウチの外交官はサイファーポール兼務でしてね、エレジアの事件の真相も〝トットムジカ〟の件も存じてます」
《…………》
言葉を失うゴードン。
エレジアが滅んだあの運命の夜の真相を、テゾーロはなぜか知っている。
表向きには赤髪海賊団によってエレジアは壊滅させられ、ゴードンは「
それはつまり、テゾーロはシャンクス本人の口から真相を知ったことになる。
(ギルド・テゾーロ氏は、今や世界で最も影響力のある人物の一人……可能性は十分にあり得るが……)
「ともかく、時期を見計らってシャンクスと合同で会談しようと思ってます。ただ、今は止めときましょう」
《……ウタの為か?》
「いやァ、ちょっと今大変な事態でしてね……シャンクスは白ひげと会談する予定なんです」
テゾーロの言葉に、ゴードンは驚愕した。
白ひげと言えば、かつてあの海賊王ゴールド・ロジャーと
一体どんな理由で……? ゴードンは尋ねたくなったが、今はウタのことが一番だとして改めてテゾーロに尋ねた。
《事情はわかった……なら私もウタに伝えて準備をするから、いつでも来るといい》
「よろしくお願いいたします。お二方を来賓として、
テゾーロはそう言って受話器を下ろした。
「……だ、そうだ。聞こえたか、
《ああ》
テゾーロは傍に置いてあったもう一つの電伝虫に言葉を掛けた。
その相手は、エレジアの事件の当事者の一人――〝赤髪のシャンクス〟だった。
「一応、センゴクには穏健派同士だから大ごとにはならないとは伝えてはあるが……」
《なァに、それでも艦隊差し向けられたら、こっちは
「……あまり事を荒立てるなよ」
《だはははは! そりゃ無理だな》
大笑いシャンクスに、テゾーロは溜め息を吐く。
四皇の中でも際立って穏健なシャンクスだが、大きく動く時は別。艦隊を差し向けようが海軍大将がやってこようがお構いなしで、邪魔したら容赦なく叩き潰される。
そのような事態を避けるべく、テゾーロは根回しをしていたのだが……。
「こっちはこっちで大変な――」
《そうだテゾーロ! ルフィの活躍知ってるか!?》
「話を聞け!! ――ああ、クロコダイルを倒したのはルフィだ……ってか、これ前回も話したな、さては酔っ払ってるな!?」
《バーロー! 酔っちゃいねェよ! ヒック》
――酔ってるじゃないか!!
額に青筋を浮かべ、わなわなと震えるテゾーロ。
無性に今度会ったらぶん殴りたくなった。
「……ベックマンに代わってくれ。今のあなたじゃダメだ、手がかかる」
《ハァ!? なんでベックに代わんなきゃいけねェんだよ!! あと手がかかるってなんだ、ガキじゃねェぞおれァ!!》
《お頭、代わるぞ》
《ちょ、ベック!!》
電話の向こうでゴタゴタが起きている中、副船長のベックマンが出てきた。
一番真面な相手が来たことに安堵しつつ、テゾーロは言葉を紡ぐ。
「どうも、テゾーロです」
《すまんな、ウチのお頭が……》
「心中お察しします」
軽く挨拶を済ませ、本題に入る。
「……そっちはこれから白ひげ海賊団の本船へ?」
《いや、もう向かってる》
「! 結構早いですね……」
どうやら赤髪海賊団は、すでに白ひげの元へ向かっているらしい。
鉄壁の海賊団と世界最強の海賊団の接触は、どうやら想像以上に早い時期に行われるらしい。
《……そっちには悪いな、色々手を回してくれたようだな》
「海軍も七武海の後任で躍起なんですよ。あまり揉め事を起こされるとたまらない」
《……まァ、善処する》
ちょっぴり哀愁の漂う返事をするベックマン。
シャンクスに振り回されてるのだろうか。
《それより、お前は大丈夫か?》
「?」
《これ、盗聴されたりしてないのか?》
「ああ、御心配なく。プライベートな案件は〝白電伝虫〟を繋げてやってるんですよ」
テゾーロはグラスのシャンパンを飲み干しながら笑った。
白電伝虫は、通常の電伝虫に接続することで、黒電伝虫による盗聴を妨害する念波を飛ばす希少種だ。四皇や革命軍と言った、世界政府及び海軍が動向を注視する勢力は所有しており、情報保護には欠かせないアイテムだ。言い方を変えれば、盗聴妨害の念波を飛ばす白電伝虫に接続せず連絡を取ることは、挑発行為や政府にとって不都合な情報を大々的に報じ、揺さぶりをかけようとしているということである。
もっとも、シャンクス達も持ってはいるが、
「一応こっちでも、政府の動きを把握しておく。新しい七武海が何しでかすか見当もつかない。ただでさえ、こっちは七武海制度を潰そうと画策してるってのに……」
《……正気か? 三大勢力の均衡を破壊するつもりか》
「正気ですよ。時代を変えるにはそれぐらいのことをしなきゃならない」
テゾーロの覚悟に、ベックマンは電伝虫越しで息を呑んだ。
海賊王ロジャーが、自らの死をもって大海賊時代という〝新時代〟を到来させたように。世界を巻き込む程のことを起こさなければ、世界は変わらない。
「それよりも、今は〝黒ひげ〟ですよ。一応白ひげ側は追討命令を下してるようですけど……あの男はおれ達をも出し抜いた切れ者。何か妙な考えがあるかもしれない」
《……ああ、お頭はその件で話があるそうだ》
「……こっちも政府には黒ひげを信用するなと念は押してますが、おれも敵が多い立場。すんなりとはいかない可能性が高い。でも
《……そうか》
そのようなやり取りをしていると、ふらりとサイが部屋に入ってきた。
「おや、お取込み中でしたか」
「別に大丈夫さ、赤髪海賊団だ」
「ほう、四皇シャンクスの……白ひげとの接触の噂は本当でしたか」
サイは目を細めて呟く。
政府内部でも、今回のシャンクスの動向は注目の的のようだ。
《……お前の言う、サイファーポールのか?》
「信頼のおける部下です、ご安心を。……では、お互いこれから多忙でしょうし、一度切ります。終わり次第、そちらから連絡をしてくれるようお願いできますか? できればあなたがやってほしいんです、ベックマン」
《お頭はうっかり忘れるかもしれないからか?》
「明晰な方と能天気な方、どっちがいいかという選択肢でいい方を選んだだけですよ」
テゾーロがバッサリ切り捨てると、電伝虫越しで大爆笑の声が相次いだ。
赤髪海賊団の幹部格はほとんど一緒にいるようで、シャンクスへの毒がウケているようだ。
さすがは赤髪海賊団、お気楽である。
《……ウタのことを、おれ達の娘をよろしく頼む》
「ええ。彼女はこれからの〝新時代〟に必要ですからね。――では、失礼」
ガチャリと受話器を下ろし、テゾーロはサイに命じた。
「サイ。エレジアへ使者を送り、ゴードンとウタを
「白ひげとの接触の後で?」
「ああ。今動くのはキツいからな。タイミングは一任するよ」
テゾーロの命令に、サイは「委細承知」と微笑みながら頭を下げたのだった。