ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~ 作:悪魔さん
あとがきに感謝のコメントを載せてます。
ベガパンクの強制配信後、世界はたった1年の間に様変わりした。
まず何と言っても、世界政府が倒れた事だろう。
先のエッグヘッドの件と海兵狩りを推奨するクロスギルド、本気を出した革命軍など、様々な要因が重なって海軍とサイファーポールだけでは到底抑えきれなくなり、さらに巨人族をはじめとしたあらゆる種族が世界政府を敵と見なして決起。四皇〝麦わらのルフィ〟を筆頭とした大海賊との大抗争も重なり、各地での反乱と加盟国の止まらぬ脱退が対処困難となり、ついに世界政府は崩壊。
この世界規模の混乱により、天竜人達は五老星とその
世界政府崩壊後は、この事態を予測した〝黄金帝〟ギルド・テゾーロ主導の下、世界政府に代わる新たな国際統治機構として「国際ユニオン」が設立された。これまでの世界政府加盟国の他、非加盟国だった国々も多数参加し、世界の大半が加盟する巨大な組織として再出発を図った。
国際ユニオン発足後は、世界政府が定めた「世界法」を「国際法」に改め、黙認されていた奴隷をはじめとした人身売買を明確に禁止し、天上金制度を完全撤廃。世界中の国々の自由な交易を認め、侵略戦争を禁じた。また、国家間の問題には一新されたエニエス・ロビーが国際裁判所として機能し、世界政府の時とは比べ物にならない中立性と公平性を持った法による裁きが実現されることとなった。
海軍本部とサイファーポールは従来の組織である事に加え、国際ユニオンの指示で国際紛争への介入と仲介が許され、紛争勃発時の迅速な解決策として機能。世界が新体制に移行したが、社会秩序が安定するのは思いの外早かった。
さらに、加盟国の中から5つの国を「主要国」として定めた。アラバスタ王国・サクラ王国・ドレスローザ王国・バリウッド王国・ロシュワン王国がそれに当たり、世界規模の重大案件はそれぞれの国王を主導に議論されるようになる。
世界は、偉大な夜明けを迎えたのだ。
*
聖地マリージョアのパンゲア城を再利用した国際ユニオン本部の大会議室では、議長のネフェルタリ・コブラが会議の進行を務めていた。
かつては世界政府の禁忌を知って命の危機に扮したものの、崩壊した今は善政を敷いた権威を生かして国際政治で活躍する王は、この場でも強いカリスマ性を見せつけていた。
「では、ゴールド・ロジャーに続いて〝
「先の大戦で海賊達も大勢が犠牲となり、その数を大きく減らした。生き残っている海賊達は確かに強大な大海賊だが、彼らも兵力を多く損耗し、我々と敵対しないと宣言してくれた」
コブラ王の言葉に、王達は唸る。
先日、史上二人目の海賊王に上り詰めた海賊〝麦わらのルフィ〟。彼に救われた国も少なくなく、彼とその一味が世界政府と戦ってくれなければ今はないと言っても過言ではない。
それだけでなく、海軍本部もサイファーポールも先の大戦の後始末を最優先しており、あくまでも自由な冒険を志す〝麦わらの一味〟への対処を後回しにしているのが現状である。
つまり、必要以上に敵対せず政治的空白を埋める事を専念しろという考えであるのだ。
「では、ルフィ君……〝麦わらのルフィ〟の対処は監視としよう。異論はあるかね?」
「私は賛同します」
「では私も…」
続々と王達の賛同が集まり、〝麦わらのルフィ〟の当面の方針が決定する。
「では続いて、かのハラルド王で有名なエルバフが国際ユニオンに加盟したいという打診についてだが……」
5時間後。
円卓での白熱した議論がついに終わり、王達は続々と退席していく中。
加盟国でありながら中立国のスタンスを貫くグラン・テゾーロの国王――ギルド・テゾーロは、一足早く退席してニューマリンフォードの海軍元帥の執務室へ訪れていた。
「フゥ…やっと全部の書類を見通せましたよ。元帥の仕事量ってこんなに大変なんですね」
「ぶわっはっはっは!!! それぐらいでへこたれちゃあこの先元帥やっていけんぞ!!!」
「そう言わないでやってください、軍も新体制に入って間もないんでしょう?」
テゾーロの言葉に、〝伝説の英雄〟ガープは大爆笑し、その弟子にあたるコビーは苦笑いを浮かべる。
数ヶ月前までは「徹底的正義」を掲げるサカズキ体制だった海軍も、世界政府の崩壊を機に刷新。サカズキは国際ユニオン全軍総帥という地位に就く形で海軍を辞め、その後釜にはまさかのコビーが選ばれたのだ。
これに驚いたのは、何と言ってもコビー本人。あのサカズキの後任と言われれば誰であっても圧倒される。しかし「ロッキーポート事件の英雄」として市民に称えられた心優しき青年が新たな元帥となるのは、世間的な受けもいい――ちなみにガープを抑えられるのも愛弟子であるコビーだという意見も一定数いた――ので、親友のヘルメッポを補佐官とする形で就任したのだ。
ちなみに加盟国の国王からはコビー新元帥を歓迎しており、各国から祝辞が送られたのは言うまでもない。
「それで……サカズキ氏は、海軍に直接関与しないと?」
「はい……海軍は僕に任せるとの事で……」
「まァ、新たな海賊王の誕生を防げなかったっちゅーサカズキなりのケジメじゃな」
テゾーロの問いに、コビーが歯切れ悪く答え、ガープは煎茶を啜る。
サカズキにとって次代の海賊王を出してしまった事は、海兵として恥ずべき事だと捉え、その責任を取る形で辞任したのは意外だった。しかし同時にコング総帥が職を辞して隠居する事となった為、海軍やサイファーポールを統括する最高責任者の「全軍総帥」になったのだが、本人がどう思っているのかは与り知らないところだ。
「僕としては、あの〝黒ひげ〟の夢が本当に現実になったのが受け入れきれませんよ……そのおかげで新世界の海賊被害が減りつつあるのも、複雑です……」
「その点で言うと、クロスギルドが前半の海に拠点を移してくれたのは僥倖だな」
溜め息交じりにコビーは言い、テゾーロも頷く。
四皇と呼ばれる海賊の中で、成り上がりである〝黒ひげ〟マーシャル・D・ティーチは、新世界の海賊の取り締まりを条件に海賊島ハチノスを「海賊王国」として国際ユニオンに加盟する事に成功。自身の領海を利用して関税を払う代わりに護衛を付けたり近道させるなどのビジネスを展開し、莫大な利益を得ている。
〝千両道化のバギー〟が率いるクロスギルドも、国際平和維持活動として兵力を貸す事を条件に所属する海賊達を恩赦とし、クロコダイル念願の軍事国家が成立した。とはいえ、実態で言えば王下七武海と差して変わらない為、クロコダイルだけは不満を漏らしていたらしいが。
「テゾーロこそ、あいつから連絡来とらんのか?」
「ドラゴンさんですか? あの人は今忙しいんですよ、世界中の戦地の復興で」
テゾーロの言葉に、ガープは「そうか…」と静かに呟く。
先の大戦を勝利に導いたのは間違いなく革命軍であるが、当然その爪痕は深く、今は革命軍のメンバーと共に被害に遭った地域の支援を行っている。
テゾーロも経済支援として世界各地に寄付金を送ったりはしているが、自国の件もあって派遣が難しく、ドラゴン達に一任する形になったのだ。
「それにしても……〝黒ひげ〟やクロコダイルに国王の地位を与えてよかったんでしょうか?」
「黒ひげ海賊団は今更になって世界征服を仕掛ける気はないとは言っていたし、クロスギルドは難民キャンプ状態で手一杯と聞く。生き残ってる連中はシャンクスが目を光らせてる。……新体制になった海軍にとって、これはありがたい状況じゃないのかね」
「それは…そう、ですけど…」
テゾーロの言葉に、コビーは言い淀む。
確かに今の世界情勢は不安要素が多いものの、以前と比べて海賊の被害は減りつつある。
思えば、大海賊時代は世界中に溢れる無法者達によって法の統制・秩序が大いに乱れていた。
それ以前に世界政府は加盟国以外の国の人に人権を認めず、天竜人による庶民に対しての暴虐行為や天竜人への上納金で多大な負担を強いられ、海賊による支配・影響が抑止力になる世の中。
しかしそれも、ようやく昔の話だと、過去の話だと公言できるようになり、新しい世界が築かれようとしていた。
これも全て、「若い〝新緑〟達」のおかげと言えよう。
もっとも、その筆頭格たる二代目の海賊王は「気に入らない奴をぶっ飛ばしただけ」と言うだろうが。
「ともあれ、私はこれで失礼する。サカズキ総帥によろしく言っておいてくれ、コビー元帥」
「は、はいっ!! ご苦労様です!!」
敬礼をするコビーに軽く会釈をして、テゾーロは執務室を後にした。
「……ふぅ。これから忙しくなりそうです」
「ぶわっはっはっは!! 大将どころか元帥になってしもうたからにゃあ、きっちり働いてもらわんとな!!!」
「いや、ガープ中将もご意見番とかでいいんでコビーを支えてやってくださいよ……」
ヘルメッポの切実な願いに、ガープは大笑いするのだった。
*
新世界、グラン・テゾーロ。
自分の国に帰還したテゾーロは、景気づけにショーにサプライズ登場してダンスを披露。国中を熱狂させた。
その後、スタッフやバンドマン達との打ち上げに参加した。
「今夜も素晴らしい歌声だったよ…ステラ、カリーナ」
「ふふ……テゾーロ様のパフォーマンスには敵いません」
「謙遜するわね、カリーナちゃん」
ついていくのがやっとだったと、正妻と歌姫は国王を称える。
「……世界政府の時代が終わり、新しい時代が始まった」
「天竜人の支配から自由になった世界各国や民衆が、先の大戦の復興を進めてますね」
「カリーナ……これは序章に過ぎないんだよ」
黄金帝はシャンパングラスをゆらりと回し、息をつく。
1年前の乱世と違って戦争は起きないだろうが、世界政府という絶対的存在が無くなった事で、国家規模の群雄割拠とさえ言える混沌が待ち受けているかもしれない。
世界政府が消滅した事で多くの人々に希望が生まれた一方、それに乗じて野心を持つ権力者が台頭してくる可能性もある。大国と小国、先進国と未開発地域の間で新たな緊張が高まる事が容易に想像できる。いわば国家間の覇権争いである。
現在は国際ユニオンを創設し、世界中のほとんどの国が登録されているが、世界政府加盟国の頃から他所としょっちゅう揉めていた国家は要注意だろう。だからこそ、中立国の王であるテゾーロが仲裁・仲介に動かねばならない。
「これから忙しくなる。名残惜しいが…エンターテインメントも、今日が最後になるかもしれない」
「テゾーロ…」
テゾーロの一言が、その場を静寂が支配する。
「……まァ、落ち着いたらすぐステージに戻るつもりだがな!!!」
そう言って大袈裟に笑うと、ドッと笑いが支配する。
すると、タナカさんがいつもの特徴的な笑い声と共に現れた。
「するるるるる~……テゾーロ様、お客様です」
「ほう?」
「海賊王がお越しになりましたよ」
その言葉に、一瞬で緊張が走る。
伝説の海賊ゴール・D・ロジャーに続いて、史上二人目となる海賊王の称号を手に入れた若き大海賊が、この夢の国に来たのだ。
これは自分の新たな門出を祝っているのか――テゾーロはそう思えてならなかった。
「行こう。海の王者がわざわざ会いに来てくれたのだからな」
高価なサングラスを掛け、笑みを深めてその場を後にする。
そのまま大階段を降り、自らの足で〝
「イッツ・ア・エンターテインメンツ!!! ようこそ、麦わらの一味諸君!!! まずは2代目海賊王に御挨拶を……」
ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~ 完
というわけで、9年に及ぶ大長編『ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~』はこれで完結となります。
思えば、随分と長い作品になりました。
自分が執筆する作品は短いと1年未満、長いと4年以上続くんですが、本作は2017年からなのでぶっちぎりの長期連載になりました。
記念すべき一話目、作者まだ現役大学生だったんすよ……。
さて、最終話でいくつかの事実が判明しましたね。
まず世界政府が倒れたのは、まぁ原作もいつかそうなるでしょうし、予定調和で。
コビーは海軍大将を飛ばして海軍元帥に就任。まぁ、執務は得意そうなのと人望は絶大な気がするので、違和感はないかと。ヘルメッポは秘書みたいな立ち位置で、それ以外は特に海軍に変化はないです。サカズキがコングの役職に就いたくらいでしょうか。
ルフィはとうとう海賊王に。原作がどうなるか不明ですが、本作では海賊王になってからも冒険を続けているスタンスにします。
四皇は新世界で各々のナワバリを維持し、他の海賊や政府の残党の抑止力となってます。バギーやティーチは諦める時はスパッと諦める質だと思うので、ルフィが海賊王である事は認めてる模様。
クロスギルドは、クロちゃん念願の国家樹立が実現しましたが、バギーのノリで戦時下の難民受け入れとかやりまくってるので、出費はかなり多い様子。(笑)
他のキャラで言うと、コブラ王は世界政府に代わる国際統治機関「国際ユニオン」のトップになったりしてますし、ドラゴンは革命軍の面々と各地の復興に尽力してます。
世界政府と戦争すれば、それぐらいの事態にはなるでしょう。
テゾーロの物語は、あえて後日譚は投稿しません。ご想像にお任せします。
ただ一つ言えるのは、彼なりの幸せを掴んだという事です。一言で言えば「テゾステ万歳」です。
作者は今年で三十路を迎えるいい年した大人ですが、まだまだハーメルンで活動しますので、今後ともよろしくお願いいたします。