ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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第17話〝血塗れのサミュエル〟

 ここはジャヤの酒場。

 利用者のほぼ100%が無法者のこの酒場には、無名の小物もいれば高額の賞金が懸けられた大物もいる。その大物こそ、サミュエルだ。

 懸賞金1億ベリーのサミュエルは〝カマカマの実〟の能力者で、手を鎌にして鎌鼬を起こしたりできる超人(パラミシア)系悪魔の実の能力者。かなり手強い輩である。

「今日も大漁だぜ!! 廃れた町に荷物運ぶ船なんざ、正気じゃねェからな!!」

『ギャハハハハ!!』

 サミュエルが笑うと、周りの海賊達も笑う。

 実はサミュエルは傘下勢力を保有している。貨物船一隻だけでも売れば高額なモノも多いので、それで得た金を海賊達に渡して手中に収める…一種のビジネス契約と言えばいいだろう。

 そのおかげで、たとえ海軍に見つかったとしても囮にして逃げられるという魂胆なのだが。

「そういやあ、今日はヤケに静かじゃねェか」

 サミュエルの言葉に、酒場にいた者全員が目を見開く。

 この町は基本、どこかで必ず喧嘩や殺し合いが起こる。それは毎日のようにあり、少なくとも「喧騒が無い」という概念は存在しないのだ。

しかし、今日は少し不気味だ。つい先程までは賑やかだった外が、酷く静かで気味が悪いのだ。

「ま、まさか……誰かが通りにいた奴らを仕留めたのか……!?」

「そ、そんなバカな! 多少賑やかだったのは確かだが、いくら何でも……!」

「だ、だがこの静けさをどう説明するんだよ……!?」

 狼狽える海賊達。

 そんな中、一人の男が酒場に飛び込んできた。

「サミュエル!! サミュエルいるか!?」

「あァん?」

「あ、あんた早く逃げろ!! 殺されるぞ!!」

「おれが……殺される?」

 爆弾発言とも言える言葉に、全員がどよめく。

 不機嫌そうなサミュエルに睨まれてるが、そんな事すら忘れて男は叫ぶ。

「巷を騒がす賞金稼ぎの船があったんだ!! あんたを狙ってるぞ!!」

 男はテゾーロについて教えた。

 つい最近台頭し始めた、高額賞金首を中心に狙う謎の賞金稼ぎがギルド・テゾーロであり、何らかの悪魔の実の能力者の能力者であることをサミュエルに伝えるが……。

「ハハハハハ!! そんなガキにおれがやられると?」

「でも今までにトリカブトが潰されてるんだ、ヤベ――」

「どいてくれ」

「は?」

 

 ドゴォッ!

 

「ホベェ!!」

『!!?』

 男は何者かに殴り飛ばされ、カウンターに減り込んだ。

 突然の事に、放心状態になる一同。

「失礼……〝血塗れのサミュエル〟氏を探しているのだが」

 酒場に入って来た、赤いパーカーと指にはめた金の指輪が特徴の少年。

 あまりにも場違いなその少年に、海賊達は釘付けになる。

「……てめェは何者だ。何しに来た?」

「申し遅れました……私はあなたの首を狙っているギルド・テゾーロと申します」

 テゾーロはそう挨拶する。

 そう、先程海賊達が噂してたテゾーロである。しかし……。

『ギャハハハハ!!』

(だと思った……)

 嘲りを含んだ爆笑が、酒場に響く。

 それもそうだろう、巷を騒がす賞金稼ぎが20歳にも満たぬ若者なのだから。

「テゾーロ……」

「大丈夫、これくらいは想定内だ。寧ろ警戒された方がやりにくい」

 この島の海賊達は、どういう訳か無名の輩や若者をよく侮蔑する。

 昔からの島の風習なのか一種のサブカルチャーなのかはともかく、とにかく人を第一印象で判断しがちだ。

 だからこそテゾーロにとって有利なのである。たとえ悪魔の実の能力者であろうと、自らの方が実力は相手(テゾーロ)より上だと過信するからだ。

「おれを捕まえてェらしいな、ガキ。おれが誰だかわかってんのか?」

「そこが問題なんですよ。あなたが1億ベリーの賞金首であるのとウォーターセブンへ向かう貨物船を襲撃しているという事実はわかりましたが、あなたの戦闘力をはじめとした肝心の所は一切不明。だから……」

「……だから?」

「わからないからこそ……こうして正々堂々、真っ向勝負に出たんですよ」

「……面白(おもしれ)ェ、表ェ出な!」

 サミュエルがそう言うと、酒場の海賊達が盛り上がる。

 彼らはきっと、これから行われるのは公開処刑だろうと思っていた。能力者の海賊に勝てるはずが無いと。

 しかし、それは大きな間違いであると気づくのは、勝負が決する時であるのを知る由もない。

 

 

           *

 

 

 テゾーロ対サミュエル。

 二人は向き合い、その周りにはたくさんの野次馬が囲むようにその様子を見ている。

(テゾーロ……)

「さァ、ショーの開幕と行こうじゃないか」

「上等だ、死んで来い!!」

 サミュエルは手を鎌にすると、(かま)(いたち)を放った。

 テゾーロは身体を伏せて躱し、放たれた鎌鼬はそのまま建物を真っ二つにする。

(鎌鼬か……市街戦じゃあ少しキツイか)

 「ハハハハハ…どうだ小僧、これがおれの能力だ!! お前も能力者だろう? 見せろ!!」

 高笑いしながらテゾーロを挑発するサミュエル。

 しかし、悪魔の実の能力は使い手次第だ。使い手がその能力(チカラ)に溺れたり制御できなかったりすれば、同じ系統でも雲泥の差だ。

 テゾーロのように日々悪魔の実の訓練をしてたりしてれば、ハイレベルの戦いとなるのだが……。

「生憎、ストリートで生きてきた身でね。能力を使わずとも勝てる手段はあるのさ」

「っ……ナメやがって!」

 テゾーロは基本的には喧嘩が強いし、うまい。〝女狩りのトリカブト〟率いるトリカブト海賊団との市街戦においては、能力よりも町にある物を駆使して圧倒したのだから。

「それじゃあ、アクロバットショーと行こうか!」

 テゾーロはそう言い、軽快に建物の屋根へ移る。

 それを追ってサミュエルは鎌鼬を放つが、その全てが紙一重で躱される。

「クソ、ちょこまか逃げやがって……!!」

 その後も攻撃するが、テゾーロは躱し続ける。

 まるで鎌鼬を放つタイミングを読まれているかのような動きをするテゾーロに、サミュエルは焦り始める。

(当たりさえ……当たりさえすりゃあ……!)

 ここで、テゾーロは動いた。

(今だ!)

 テゾーロは指にはめていた金の指輪を二つ外し、サミュエルに投げつけた。

 サミュエルに届く寸前で指輪は金の糸に解けてサミュエルを二重に絡めとり、完全に拘束した。

 これで実質、技の発動ができなくなり、誰から見てもサミュエルの敗北であるということが容易にわかる。

「て、てめェ……何の能力だ!?」

「〝金〟だよ。おれは〝ゴルゴルの実〟の能力者……金を生み出し、一度触れた金を自在に操る男なんだよ。しかし、ここまでうまく行くとは思わなかったよ……おれの作戦勝ちだ」

「て、てめェ……」

 焦りは正常な判断力を奪っていく。その焦りを、テゾーロは狙っていたのだ。

 戦闘中に焦れば、確実に敵を倒せるであろう技も発動するタイミングを逃してしまうこともある。鎌鼬を放つだけがサミュエルの能力とは限らないため、テゾーロは焦らせることで万が一の可能性を封じたのだ。

「チェックメイトだ、サミュエル……この勝負、おれの勝ちだ(イッツ・ア・エンターテインメンツ)!」

 テゾーロは自らの勝利を高らかに宣言した。

 その時だった。

「動くな!!」

「お前の女がどうなってもいいのか?」

「っ!?」

 テゾーロが声のする方に振り向くと、海賊達がステラを人質にしていた。

「イイ女だな!!」

「上質だぜ、おい!!」

「……」

 テゾーロは不機嫌そうな顔をし、左手を握り締めた。

 すると、左手の指にはめられた金の指輪から火花が散り……。

 

 バチバチ……シュバッ!!

 

『!?』

 

 サミュエルを拘束していた金から、金色に輝く触手が現れ、まるで意志を持っているかのように海賊達を襲った。

 高速で移動する黄金の触手は急速に伸び、ステラを傷つけないように海賊を蹴散らしていった。

「……おれのステラに手をかけようとしなければ、痛い目に遭わずに済んだものを………!!」

 怒りを露にしつつも、テゾーロはステラの元へ駆け寄り、彼女を抱き寄せた。

「テゾーロ…?」

「すまない、おれの不注意で君が危険に晒されるところだった……」

「いえ……気にしないで」

 謝るテゾーロにそう告げるステラ。

「次は気をつけるよ……じゃあステラ、海軍を呼ぼうか」

「そうね…」

 テゾーロはこうして、〝血塗れのサミュエル〟をはじめとしたモックタウンの海賊達を全員捕縛することに成功した。

 そしてこれが、後々大きな意味を持つことになるのはテゾーロ自身すら知る由もない。


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