ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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第31話〝仕事ですから〟

 ウォーターセブンにて。

 テゾーロ財団の事業によって少しずつ活気を取り戻したウォーターセブンで、テゾーロは久しぶりに廃船島へ赴き休憩中のトムの元を訪ねた。

ちなみにテゾーロの今回の服装は星がプリントされた長袖Tシャツと赤いつなぎを着ている。

「いい船造ってますね、相変わらず」

「おお、テゾーロか。海軍とはうまくいったのか?」

「圧迫面接みたいな空気でしたが、何とか」

 近くの丸太に座り、買ってきたシェリー酒をグビグビと飲むテゾーロ。

「ギャバンはどうした? お前の社員じゃろ、非正規とはいえ」

「もうレイリーと一緒に遊び惚けてるんで、クビとそんな変わんない状況です」

「たっはっは!! そりゃあいかんな!!」

 豪快に笑い飛ばしたトムは造り終えた船を海へ向かって放り投げ、さらにマスト3本を投げつけて突き刺して完成させる。

 船は水しぶきをあげて轟音と共に着水する。

「進水式完了!! たっはっは、今日もいい仕事したわい!!」

 笑いながら工具を箱にしまうトム。

「トムさん、実は大事な話がありまして。少しいいですか?」

「大事な話?」

 ドカッとテゾーロの隣に座るトム。

「明日、政府の裁判官がこのウォーターセブンに来ます」

「!! ……オーロ・ジャクソンの件か」

 オーロ・ジャクソン……それは、前人未到の世界一周を成し遂げた〝海賊王〟ゴール・D・ロジャーの旗艦であり、何が起きても倒れないと言われる最強の巨大樹「宝樹アダム」 を使って造られた伝説の海賊船だ。

 〝偉大なる航路(グランドライン)〟を制覇した海賊船を造ったトムのその造船技術は称賛に値するが、それと共に海賊王という世界的凶悪犯へ加担したとも見なされるのだ。

「実は先日、海列車の案件を海軍を通じて政府へ伝えときました。だから形だけの裁判で、実際は海列車について説明するだけみたいな感じですよ」

「何じゃと……!? もうそこまで手を回しとるのか?」

「これで万が一トムさんが処刑でもされたら、おれとの契約が事実上破棄されて金取れませんからね」

 「政府も海軍も現金な連中だこと」と苦笑しながらシェリー酒を飲むテゾーロ。それに対しトムは「ドンと胸を張りゃあ、そんなこたァどうでもええわい!」と笑い飛ばす。

「一応裁判です、おれが弁護人として進めときますからトムさんは空気読んで発言して下さい」

「たっはっは!! まるで「無罪ありき」の裁判じゃな!!」

 

 

           *

 

 

 翌日。

 ウォーターセブンに、一隻の船が来航していた。

 その船は、世界政府が所有する「司法船」……つまり、裁判所が設けられた船だ。

 政府加盟国および非加盟国はれっきとした国家であるため、司法機関が存在する。しかし、ウォーターセブンのように国家に属さぬ都市は世界中にある。そこで起きた大事件は政府の有する司法船という「移動する裁判所」が代わりに裁くのだ。

「では、これより造船技師トムの裁判を始める!!」

 裁判長の宣言と共に、トムの裁判が始まる。

 トムは証言台の前に立ち、その隣に例のピンクのスーツを着たテゾーロが立っている。

「〝海賊王〟の船を造った罪だったよな」

「ついに来たか…」

「世界中が迷惑してんだ、仕方ねェだろ」

 法廷内では、傍聴席にいた市民が言葉を連ねる。

 全ての海賊達の頂点に立ち、自らの死と引き換えに大海賊時代という新時代を開いたゴール・D・ロジャー。彼は大海賊時代の幕を開いたことや様々な大事件を起こしたがために鬼のように恐れられ、世界中の人間から憎まれ悪態をつかれている。その関係者となれば、「ロジャーの海賊行為に肩入れした」として危険人物と見なされるのは仕方の無いことだった。

「本来、船大工が誰に船を売ろうとそれは罪ではない。だが海賊王の場合は特例だ、奴の海賊行為に肩入れした者は危険人物と見なされる」

 裁判長の言葉が、裁判所内に響く。

 一連の流れをその目で見ていたトムの弟子二人…フランキーとアイスバーグは、とても落ち込んでいた。それもそうだろう、師として慕い続けた男が罪人として処刑されるのかもしれないのだから。

「……だが、本来ならば極刑であるトムの罪は、減刑することにする」

『!?』

 裁判長の言葉に、驚愕する市民。

 それは、護衛として来ていた海兵達も同様だった。

「造船技師トムよ、お前は〝海列車〟なる外輪船(パドルシップ)を考案していると弁護人から聞いた。詳しく説明せよ」

「ああ…」

 裁判長の命令にトムは従い、海列車について語りだす。

「海列車は、島から島へ煙を上げて海の線路を走る船だ」

 トム曰く、海列車が完成すれば、客も物資も船も運び天候に左右されることも無く誰でも自由に海を渡れるという。

 海に線路を敷けば波に壊されてしまうと思われるが、すでにトムは線路を固定せず波に逆らわないために、線路を水面の少し下に浮かばせる設計を考案している。列車はロープを手繰るように、線路を道標(みちしるべ)にするだけなので、「記録指針(ログポース)」も不要だ。

 さらにトムは線路と外車(パドル)の間に魚達の嫌がる不協和音を発生させる仕組みを考えている。これは海王類にも効果があり、海王類が海列車とその線路を襲うことは無いという。

「現在のウォーターセブンは、弁護人が率いとる財団が積極的にやっとる運輸業のおかげで物流の流れは多少よくなっとるが、天候に左右される以上は物流の停止はいつでも起こる」

「フム……弁護人、それは事実かね?」

「現時点では大きな支障はありませんが、毎年発生する〝アクア・ラグナ〟によって一時的に交易をストップしたケースはありますよ」

 テゾーロ財団は、アクア・ラグナの時期になると船の転覆をはじめとした海難事故の発生率が異常なまでに上昇することから、時期が終わるまで運輸業を停止している。その間は物資の供給が停止するのでそれなりの損失というモノはある。

「我々テゾーロ財団はセント・ポプラ、プッチ、サン・ファルドを結んで交易を盛んにし、産業を発展させようと考えており、ジャヤという島にも結んで新たな町づくりを興そうとも考えているところです。海列車はそれに大きく貢献することができる」

 テゾーロの言葉に、裁判長は目を見開く。

 それに畳み掛けるかのごとく、トムが口を開く。

「直に設計図は完成するが、そこいらの船大工に造れる程単純じゃねェ」

「その線路をエニエス・ロビーへと繋ぐことは?」

「勿論可能だ!!!」

 トムのその言葉に、裁判長も海兵達も町の人々も呆然と聞き込み、辺りは水を打ったように静かだった。

 もし海列車の技術が完成し、やがて海を越えれば世界中の島々の交流が変わるだろう……それを察した裁判長は、トムに問う。

「完成まで、何年かかる?」

「10年もありゃあ完成できる」

裁判長の小槌が、判決の音頭をとった。

「では造ってみせよ!! 造船技師トムに〝海列車〟開発期間として10年の執行猶予を言い渡す!!」

 こうしてトムに、海列車建造の為の10年の猶予期間が与えられた。

 人々は先程まで冷たかったが、その判決が下った後に激励の言葉を口にし始める。

「たっはっはっ……!! 手間をかけさせたな、テゾーロ」

「礼はいりません……仕事ですから」

 テゾーロは不敵な笑みを浮かべ、スカーフを整えるのだった。




前回言ったお知らせをします。
まず、第2回アンケートを今月中に終了することにします。諸事情で…申し訳ありません。
そして、近いうちに第3回アンケートを実施します。内容はオリキャラについてです。

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